569 オリエンタル・マインド

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経営コラム SOLID AS FAITH 第569号
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 ご愛読ありがとうございます。第569話をお届けします。

 2回連続でお届けした今時のダイバーシティを考えるシリーズ『閉じた群
像』が前回で終了しました。シリーズはかなり久しぶりで、2021年の後半に
延々続いた最長記録の10回シリーズ『南国の史実』以来です。

 ダイバーシティの話はかなり胡散臭いように感じられます。性別によらず、
障害の有無によらず、事業に貢献する人材を重用するべきなのであって、人
の属性などが偏らないようにすることに何らの経営上のメリットはありませ
ん。よく女性ならではの発想が商品開発に役立つとかいう意見を聞きますが、
男女の性差は勿論認めるものの、単純にきちんとマーケティングを行えば良
いだけのことです。
 
 また女性役員がいないと企業は誤った方向に行きがちだというのも、或る
種のトンデモ論でしょう。中小零細企業で女性の経営者はたくさんいますが、
それらの企業が必ずしもどんどん成長するとか、利益性が秀でて高いとかと
いったことはありません。経営者が誰であっても、幾つかのそれほど難しく
ない経営の鉄則を徹底すれば、中小零細企業は好い状態であり続けられます。
ポリコレがブームになって「ダイバーシティ」が殊更に叫ばれるのを見聞き
しますが、全く中小零細企業の実態から乖離している議論のように思われま
す。
 
 ネットでは先日、日本マクドナルドの夫婦と幼い娘と見える三人が単にお
いしそうにマクドナルド商品を食べるアニメCMが多くの先進国からの反響
を呼んだと騒がれていました。
 
 人種の構成に配慮し、性差による固定的な役割に配慮し、ルッキズムを意
識して美人美男に偏らず、LGBTに配慮して男女カップルに偏らず…といった
無理のある登場人物構成のCMしか事実上制作できなくなった多くの先進国
からの賞賛や嘆息の反応であったと言います。ダイバーシティの不自然さや
胡散臭さもこの延長線上にあるように思えます。余りに面白い事象に思えた
ので、半年後ぐらいのお届けになりますが、当コラムの新作のネタに採用し
ようかと考えております。
 
 前回までの2回シリーズで、久々にシリーズモノの面白さを少々感じたの
で、また3回シリーズを用意しました。第575話からお届けになります。ご
期待ください。
 
 今号は『オリエンタル・マインド』と題して中小零細企業における意思決
定のサイクルについて考えてみます。中小零細企業の現場でも「PDCAを回せ」
などとよく言われます。しかし、当コラムを長くお読みの方はご存じかと思
いますが、経営計画の有用性はかなり疑わしいもののように思えてなりませ
ん。大手企業に対する中小零細企業の主要な強みの一つは機動性で、ゆるゆ
る計画を立ててはそれに従って実行し、結果を振り返って検証するなど、到
底落ち着いて片付けることができないように思えます。

 その違和感を払拭し、あるべき意思決定のありかたが OODA LOOP
(「ウーダ・ループ」)としてまとめられました。その究極の状態は、日本
で綿々と続いた「道」の考え方に似ていますし、日本の組織経営学の大家で
ある野中郁次郎が研究した暗黙知の世界に近いように思えます。

 組織においてこの手法の実践には膨大な仕込みが必要ですが、それに見合
う圧倒的な強みを中小零細企業に齎すことでしょう。一緒にご一考戴ければ
幸いです。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへの
お返事の目標納期は5営業日!!

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その569:オリエンタル・マインド

「あなたは、自然の中には、理解されないにもかかわらず、現実にある一致、
まるで別様ではあり得ないように、そういったことがあることに慣れてしま
っている一致が、すでに存在するということを忘れないで下さい。しばしば、
私が関心を持っている一つの例を挙げましょう。蜘蛛は、舞いながら巣を張
りますが、その巣にかかる蠅が存在するということを知りません。蠅は陽射
しの中で何も考えずに舞うように飛んでいて、蜘蛛の巣に捕えられますが、
自分に何が生じるのか知りません。しかし、この両者を通じて『それ』が舞
っているのです。そして、内的なことと外的なものは、この舞いにおいて一
つなのです」。

 大正時代にドイツの哲学者ヘリゲルが、日本文化を学ぶために来日した際、
弓術の大家の阿波研造から指導された際の言葉が、彼の著書『弓と禅』に書
かれている。弓を引き絞れるようになると、師は矢が射手の意思の制御の外
で、勝手に手元から放れるようになるのだと教える。驚くヘリゲルに、師は
意志ではなく「それ」が矢を放ち、結果的に的に当たるようになる。意図し
て矢を放つのでもなければ、狙って的に中てるのでもないと言った。本来あ
るべき形と結果はそこに既にあり、その中に自分が居られるようにすれば良
いという、西洋哲学者が論理的に考えても全く理解できないこの話が、私は
とても好きだ。

「なるほど。“orient a satellite dish” で、『衛星放送のアンテナを正
しい方向に置く』か。『~を適応させる』と覚えると分かりにくいorient
のニュアンスだわなぁ」。
 或る日私はPCのモニタに表示された『英辞郎』の解説に目を凝らして呟
いた。最近私はOODAループに嵌っている。「観察(Observe)」、「情勢へ
の適応(Orient)」、「意思決定(Decide)」、「行動(Act)」。元々米
空軍のボイド大佐が、空中戦を行なう戦闘機パイロットの意思決定プロセス
をモデル化したもので、この四段階を高速で回すと言われている。
 
 実際、入門書では最終的に「暗黙の誘導・統制」が発生し、「意思決定」
の段階を飛ばすと説明されている。ウィキではこれを「多くの場合、明示的
な意思決定の必要はなく、情勢判断が直接に行動を統制する。ビジネスス
クールで典型的に教えられるタイプのフォーマルな意思決定は、経験が浅い
ときにのみ必要とされるにすぎない」とまとめている。
 
 大好きなミンツバーグの『Rise and Fall of Strategic Planning』を読
む遥か以前から、私は計画立案を胡散臭く思ってきた。その本のタイトルの
直訳は「戦略的計画の勃興と凋落」。この本が書かれた段階で計画立案の意
義はとっくに疑われていた。PDCAも何やら眠い。機動性を追求する中小零細
企業の現場に計画だのチェックだのは悠長過ぎる。「それ」が支配する場に
「でき上っている者」が踏み入れば、やるべきことは自ずと決まる。そこで
は、蜘蛛と蠅の如く、思考や意思決定は要らない。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

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次号予告:
 第570話 『痩せた畑』 (10月25日発行)
 自己分析や業界研究・企業研究などから始まる就活は、実は「大都市圏・
大手企業・上位校」の三条件が揃わなければ成立しないものでした。今、そ
の従来の就活スタイルが崩れてきています。中小零細企業の新卒採用につい
て考えてみました。

(完)