『崖の上のポニョ』

『ぴあ』の映画紹介欄にも載っていないので正確に分かりませんが、どう考えても、封切後20週以上は間違いない状況で、バルト9の深夜過ぎの回で見てきました。考えてみると、凄い映画です。封切後5ヶ月以上を経て尚、あちこちの映画館でまだ見ることができる状況であることに驚かされます。それよりかなり後に封切られた映画でさえ、例えば『ダークナイト』のように、既にDVD化されているものがあることなどを考え合わせると、異常なほどの人気映画だと思います。

そんな時期に見に行った理由は、元弟子の女性が彼女の友人達から「ポニョ(それも多分半魚人モードのポニョ)に似ている」と言われると聞いたことも一つあるのですが、決定的だったのは、雑誌『サイゾー』のポニョ論争に関する記事を読んだことです。

どんな映画も好きな人も嫌いな人も或る程度発生するものだとは思います。(勿論、万人が悪く言う映画と言うのもあるような気はしますが…)『サイゾー』を読むと、どうもこの論争はかなりのものです。私の周囲にも数人のジブリマニアのような人々が居て、「ナウシカのセリフを声色まで変えて全部再現できる…」などと言っています。これらの人々もほぼ例外なく、「ポニョはあまり好きになれない」といいます。

曰く、「ポニョのバケツに水道水を注ぎ込むのはおかしい」とか、「主人公の少年が親にタメ口なのはおかしい」とか、「主人公の母親は、人間として破綻している」などのミクロレベルのものから、「魚人の女の子のわがままで人間の町が事実上破壊されてしまうストーリーはどうよ」とか、「ポニョと主人公の男の子が大人たちが待つ場所に辿り着くプロセスが、子供の成長を伴う「クエスト」として全然機能していない」などのストーリー性の評価のようなものまで、種々さまざまな「駄作サイド」の意見があるようです。

で、ポニョをみて見た私には、『もののけ姫』ぐらいからの作品とのテイストの違いが特に感じられませんでした。単に私が鈍感なのかもしれませんし、大体にして宮崎アニメが特段好きと言うこともありませんので、その程度の関心のレベルでは感知できない「どうよ!」のレベルなのかもしれません。

私が好きな(正確に言うと「非常に好きだった」かもしれない)物書きの宮台真司が宮崎駿にインタビューをしたことがあり、その際に宮崎駿に「女性というものを理解していない」と言って激怒させたと言うような話が『サイゾー』に載っています。その前後にも色々な人が書いている話ですが、宮崎アニメの素晴らしいところは、そのデザイン性と言うか美術性にあるものだと私は思っていて、ストーリーとか中に含まれる教訓とかに価値を見出すものではないように思っています。その観点でみると、ポニョも美しい映画ですし、特に本編の中の数々の波の描写は比べるものがなかなか見つからない優れものだと思います。冒頭とエンドロール(全然ロールしないのですが)の背景に出てくるパステル画の様な絵に描かれた海や波の描写も秀逸だと思っています。

その他の宮崎アニメによく出てくる包容力があって活発な女の子も、妙に仰々しいメカも、空を自由自在に駆け回るようなイメージも、基本は男の子が幼い頃に見る夢の集大成のようにも感じます。『千と千尋の…』などは親の罪を背負って風俗に落ちる女の子の話にも読み取れそうです。非常に単純な見方、或る意味偏見だと思いますので異論は多々あることでしょうが、私に見える(多分だいたい、特に『もののけ姫』以降の)宮崎アニメは、そのようなモチーフ群を一まとめにして圧倒的画力で描写することで成立している作品です。

その意味で、ポニョも何がどう問題なのかがよく分りませんでした。
「ポニョは淡水でも大丈夫ってことか…」とか、「あんだけ乱暴な運転が平気でできるようじゃないと、後々のストーリー展開に支障が出るわな」とか、「洪水って言っても、あんまりモノが破壊されずにただ水没しているだけだし、まあ、人間感覚じゃない一途な思いの結果はこう言うことよと言う話なのかな…」、「タメ口って言っても、おれも、一応「さん」付けだけど、親を名前で呼ぶし…」とか、一応頭をかすめましたが、あんまり考え込むこともなく、美しい絵巻物を見ている感じで終わりまで行けました。

それでも、私がDVDを買うことはないだろうと思う理由は、単純に歴代宮崎アニメヒロインの中で、ポニョの顔立ちや声質が好きになれない方だという単純なものです。つまり、キャラクターのエヅラや聞こえに対する純粋な好みの問題でしかありません。

ポニョのお母さんが、主人公の少年に、ポニョが魚だった時の姿や半魚人の時の姿を知っていても尚、ポニョを好きで居られるかと問う部分がありますが、私なら、「ちょっとへちゃむくれ風の人間化したポニョよりも、敢えて選ぶなら、(例えば、縫いぐるみ化して持つとか言う選択なら特に)人面魚時点とか半魚人時点のポニョのほうが比較論ながらまだよっぽど好感が持てる」とお母さんに向かって真顔で答えてしまうことでしょう。