565 反知性の日常

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経営コラム SOLID AS FAITH 第565号
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 ご愛読ありがとうございます。第565話をお届けします。

 暑い日が続いています。ニュースが「危険な暑さ」を報じている間に、世
界は急激に以前の価値観に揺り戻しているように見えます。グローバリズム
の終焉は既に昨年から言われていますが、色々な形で顕在化を始めています。

 5月にはウガンダでHIVウイルス感染者の同性と性的関係になることを「悪
質な同性愛」と定義して、死刑が適用されるとの法律が成立しました。欧米
諸国から強烈な非難を浴びていますが、その欧米でも反LGBTQの波はうねり
を以て拡大しています。反LGBTQ法案を通したハンガリーはEUと対立し、EU
離脱の可能性まで生まれていると報じられています。
 
 先月の総選挙では結果的に議席数を減らしましたが、スペインの極右政党
VOXはここ数年間拡大基調です。VOXは「LGBTQの権利拡大や移民受け容れ、
カタルーニャ州独立のすべてに反対」と明言している党です。米国でも6月
にLGBTQの人権団体の「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」が1980年の設
立以降初めて「緊急事態宣言」を行ない、全米各地で反LGBTQ法案が相次い
で成立していると報告しています。テキサス州、テネシー州、フロリダ州で
は、教育者にLGBTQの問題や黒人の歴史について話すことや教えることを州
法で禁止しています。
 
 反移民についてもブレグジット以降、欧州全体で国民生活を揺るがしてい
ると言われており、移民排斥の動きは顕著になりつつあります。通称武漢ウ
イルス禍で大量に死者が出た米国では中国人に対するヘイトが膨張し、それ
がアジア系の米国民にさえ拡大する勢いです。
 
 SDGsも宇露戦争の影響でEU全体でエネルギー枯渇が起きると、あっという
間に破綻してきました。米国でも昨年ぐらいまではESG投資が持て囃されて
いたようですが、今では株主総会で気候だの人権だのについての株主提案が
めっきり減ってしまったと言われています。今年5月にフロリダではESG投資
の活動を制限する「反ESG法」まで成立しています。
 
 日本には、すぐ「海外では」、「欧米では」と流行に乗り遅れるなと煽る
人々がいますが、日本がゆるゆる冷静に加熱するブームを吟味しているうち
に、世界のブームは終わりつつあるようです。ポリコレの流れには、「行き
過ぎた」という枕詞が付きがちでしたが、世界のトレンドを見るとポリコレ
全般への逆風は今後強まっていくのかもしれません。世の中の誰もが株主に
なれる大手企業はこうした流行に振り回されがちですが、株はオーナー経営
者に集中している中小零細企業では、合法・遵法の範囲なら流行と距離を置
いたままの経営だって問題なくできます。こうした所でも中小零細企業には
有利な世の中になったように思えてなりません。
 
 今回の号は『反知性の日常』と題して、「分からないことがなくなった
人々」の目に映っている世界について考えてみたものです。分からないこと
が存在しない人々は、求人力のある大手企業では雇用されることが少なく、
中小零細企業に職を求めるケースが多いことでしょう。自社の現場で働く従
業員の言動を思い返しながら読んでいただくと頷けるところがあるかもしれ
ません。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお
返事の目標納期は5営業日!!

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その565:反知性の日常

 YouTuberがなりたい職業ランキングに初めて登場してもう何年も経った。
遵法の枠を守りつつ、高頻度で人々の耳目を集める動画を効果的に創り上げ
続けるのは、大変な作業と想像する。毎日熟成された思考を美しい短文に練
り上げて一連の『天声人語』を書き続けた天才深代惇郎は、たった二年半珠
玉の名文を書き続けて46歳で夭逝した。
 
 書店に並ぶ書籍のタイトルを見ると努力の概念を軽視する人生論が目立つ
ように感じる。MENSA元会員の中野信子まで『努力不要論』を書いていて、
数秒の立ち読みで、「努力しても、ウサイン・ボルトのように走ることはで
きない」と努力の無駄を説く文章が見つかった。遺伝で何でも決まってしま
うとして、努力の余地を矮小化する書籍も目立つ。
 
 嘗て非行少年達がケーキを等分に切れないと指摘する本があった。それに
よれば、彼らの認知能力は低くて、彼らの認識する人間の表情には「ムカつ
く表情」と「そうではない表情」の二つしかない。ムカつく表情の相手には
攻撃的に行動するため、犯罪に至りやすくなる。世の中に二種類しか人間の
態度が存在しなければ、分類と認知は簡単だ。だから、彼らは全世界の人々
の感情が簡単に理解できる。感情が分からない相手はいない。
 
 相手の感情のみの話ではない。極端に言うと「全知全能」の「全知」の状
態だろう。分からないことが何もなければ、何かを学ぶ姿勢も努力も生まれ
るはずがない。現実には全く分かってもいず、努力もなく何でもやれば、失
敗を繰り返す。自己責任論に犯されていて失敗を認めたくないから、失敗の
原因を自分以外に求める。そんな人物が努力して上手く行っている誰かを見
ても、自分には努力する経験も概念さえもないので、裏で努力をしているな
どと思い至らない。単に「運がいい」とスピ系に走り、「親に恵まれている」
と遺伝に走り、「何か裏があるに違いない」と陰謀論に走って、ことを片付
ける。高知能の中野信子にまで努力は不要とお墨付きをもらって、我が意を
得たりと欣喜雀躍するだろう。
 
 人間の尽きぬ欲望で技術も社会も変化し続ける。社会に居続けるだけでも
学びや変化の努力が要請される。高卒で働き始めて、20年弱会社員生活をし
た。その間、電磁石のリレーの構造を覚えろと叱られ、英語で外人役員を説
得して来いと言われ、色々な学びと努力を強いられたが、ウサイン・ボルト
並みの世界記録を作れと迫られたことは一度も無い。
 
 幸田露伴は嘗て、努力とは、「結果がでそうか・でなさそうか」によって、
「するべきか・しないべきか」を判断するようなものではないと喝破してい
る。曰く。努力とは人間性の本質なのだと。遅刻をしないこと。無断欠勤し
ないこと。笑顔で挨拶すること。そんな組織の凡事にさえ努力は間違いなく
要る。なるほど努力は人生のデフォルトと再認識する。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『僕に方程式を教えてください 少年院の数学教室』 
 高橋一雄、瀬山士郎、村尾博司 共著
■『逃げ上手の若君 1』 松井優征 著
■『「すぐ決まる組織」のつくり方――OODAマネジメント』 入江仁之 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第566話 『普通の人々の仕事』 (8月25日発行) 
 従業員の多様性が求められると言われつつあります。障碍者雇用を大量に
行なう製菓会社のドキュメンタリー映画を観た感想をまとめてみました。

(完)