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経営コラム SOLID AS FAITH 第564号
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ご愛読ありがとうございます。第564話をお届けします。
20代後半に勤めていたシステム・コンサルティングの仕事で4ヶ月間香港
に出張していたことがあります。その際の香港人の同僚が来日したので、先
日25年ぶりぐらいで会って話をしました。詰まる所、移住先候補としての日
本を体感しに来たということのようでした。高齢の両親の介護を兄弟で分担
しているので、両親が他界するまで実行はできないが、情報を集めておきた
いようです。
“The world is collapsing.(世界は崩壊しつつある)”と何度か言ってい
たのが印象的でした。中国勢力下となった香港では、発言に気を付けないと
即逮捕されるような日常があります。しかし、元の統治国であるイギリスを
始め、米国などを移住先の候補としているものの、どこも情報技術を使った
国民統制の動きが深刻になりつつあると力説していました。
米国ではテロリストの疑いがある人物のデータベースが存在し、その中の
人物と偶然同姓同名だっただけで、無条件で飛行機の搭乗ができなくなって
います。堤未果の初期の著作に拠れば、そう言った人々は米国に数万人単位
で存在し、或る日、何かの用で飛行機を利用しようとして空港で拒否され、
その事実を知ることが殆どのようです。この指定解除は容易ではなく、裁判
を行なってもなかなか覆すことができないと言われています。
そのようなことは遥か以前から知られていましたが、元同僚によると、特
に通称武漢ウイルス禍をきっかけに、同様のことが多くの先進国で進められ
ていると、脱香港を目論む人々の間の情報交換で分かってきたと言っていま
した。そして、彼の評価に拠れば、「日本人はあまりそう思っていないよう
だが、日本は知的レベルで中間層が厚い。それが政府の国民統制に対する抑
止力になっているような気がする」とのことで、露骨な情報統制・価値観統
制が見当たらない数少ない先進国の一つだとのことでした。
世界でもトップクラスの読解力がある国民であることを教えると、「そう
した指標も意識するようにしよう」と喜んでいました。『経営コラム SOLID
AS FAITH』でも再三取り上げているように、社会人全般の読解力を支えて
いる有力な組織群は中小零細企業です。人を育てることの重要性をここでも
また痛感させられました。
今回の号は『市場の構造』と題して、今尚全く色褪せることのない古典的
なマーケティングの考え方についてまとめてみたものです。企業にとって雇
用が色々な意味で負担になるようになって、個々人は、嘗ての流行言葉SOHO
やノマド宜しく、小さな組織や個人で働く機会が増えていきます。つまり、
それは個々人がキャリア形成や生き方全般の面でさえ、マーケティングの考
え方を意識する必要が出てくると言うことでもあります。
それ以前に、零細企業でもマーケティングなど考えてみたこともない所が
山ほどある現在、その基本原理の価値は非常に大きくなっているように感じ
られます。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへの
お返事の目標納期は5営業日!!
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その564:市場の構造
資料を捲っていくと「標的顧客を絞る」、「標的顧客のニーズを知る」、
「自社の強みを活かす」との文字が目に飛び込んで来た。この資料は個人事
業主として起業するためのセミナーのテキストで、その内容チェックを依頼
されていた。取り敢えずバイト一人雇わず自身の身一つで行なうビジネスを
参加者は想定しているらしい。究極の零細事業者としてゼロからの出発だか
ら、ランチェスター戦略論で言う「弱者」の極みだろう。
ふと気づくと、三つのスローガンは「弱者の戦略」だと書かれている。慌
てて大学時代の教科書のマッカーシーのマーケティング論の原書に当たって
みる。これら三つは弱者の専売特許ではない。弱者だろうと強者だろうと、
誰しもが飽和しかかっている市場の中で採用しなければならない普遍的マー
ケティングの原理である。チェック結果として、この誤謬を指摘すると、
「高名なマーケターの意見だから間違いないはず」との答えだった。
マッカーシーの教科書を読んで、マーケティングの考え方の軸であるよう
に見えるのは、「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」の考え方の
対照だ。元々「市場にある特定のニーズ」と「自社の商品・サービス」の
マッチングのありかたの対照的な二つのアプローチだが、マーケティング以
外のどんなマッチングにも適用できる。
ただ自分を受け容れよと言って相手を探すのと、特定のタイプを絞り込ん
でから、それに合うような自分に変わることを前提に相手を探すのを比べた
時、普通の男女の婚活で成功確率が高いのはどちらか論を待たない。私の強
みはやり通す忍耐力ですと自己PRを繰り返すのと、行く先の会社の状況に合
わせて、相手が関心を抱きそうな自分の要素を選んで挙げるのを比べる時、
いずれが一般就活生の就活で成功確率が高いかも自明だろう。婚活も就活も
大多数対大多数のマッチングの中で、プロダクト・アウトは当たれば大当た
りだが、ハズレが多い。マーケット・インは、大当たりは稀だがハズレも引
きにくい。
マーケット・インは、自分の環境や向き合う相手の求めることに自分を合
わせる姿勢。それを内田樹は「労働主体」と表現し、修道女の渡辺和子は
『置かれた場所で咲きなさい』という本にまとめた。寧ろプロダクト・アウ
トの人生設計などあり得ないと、構造主義の偉大な哲人たちは宣っているよ
うにさえ思える。人は皆「構造」という潜在的な条件によってその思考や言
動を規定されているのだと。これではマーケット・インしか在り得ない。
以前、井上大輔の『マーケターのように生きろ…』を読んだことがある。
「『やりたいこと』なんてなくていい。『相手がしてほしいこと』をしよう。
ただし、とことん、徹底的に」とあった。マッカーシーがマーケティングを
唱えたのは1960年代。比類ない卓見と思う。
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】
■『あなたに聴かせたい歌があるんだ』 燃え殻 原作/おかざき真里 画
■『バフェットの教え 見るだけノート…』 濱本明 監修
■『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』 泉田良輔 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
MSIグループ 市川正人
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次号予告:
第565話 『反知性の日常』 (8月10日発行)
あまり知られていないことですが、人は読解力が低いと努力しなくなると
いう事実があります。最近巷間に流布する努力不要の考え方についてまとめ
てみました。
(完)