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経営コラム SOLID AS FAITH 9周年記念特別号
『市川正人を探して』
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目次
1 ご挨拶
2 「市川正人を探して」について
3 「市川正人を探して」(1)
ウェブ関連会社 経営者 M様
4 「市川正人を探して」(2)
有限会社ムーンライト 代表取締役 尾崎正紀 様
5 「市川正人を探して」(3)
株式会社ハラサワ 取締役専務 原澤勝義様
6 「市川正人を探して」(4)
アウトソーシング業 代表取締役社長 H様
7 「市川正人を探して」(5)
合資会社MSIグループ 代表 市川正人
8 市川正人を見つけて
9 あとがき 「市場真理子に探されて」
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウトの上
お読みになることを、心よりお勧め申し上げます。
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1 ご挨拶
みなさまこんにちは。市場真理子と申します。
このたび『経営コラム SOLID AS FAITH』が9周年を迎えるにあたり、文章構
成を担当することとなりました。先に発行されました200話記念号でも自己
紹介を致しましたが、私は市川の下で修業を行ない、現在は提携事業者として
仕事をしております。
私は今年1月まで会社員として仕事をしており、組織を飛び出してみて、初め
て見えてきたものがたくさんありました。その中でも、個人事業主として働く
上で必要不可欠だと痛感しつつ、なかなか習得できずに苦戦している「顧客と
の信頼関係」について、今回特集してみます。最後までぜひお付き合い下さい。
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2 「市川正人を探して」について
私が独立後に行なった修行生活で、何に一番苦労したかと言えば、信頼関係の
構築でした。学習事項は時間をかけ、質問を重ねていけばなんとか対応できる。
勉強会の企画進行は練習をして経験を積んでいくことで何かしら身につくもの
がある。私に営業経験がなかったこともあるかもしれませんが、修行中という
文句ではごまかしがきかず、油断すると大きな信頼を失ってしまい、どこまで
どうすれば良いのかわからなかったのが「信頼関係を築く」ということでした。
それは師匠の市川が何より重視したことでもありました。取り分け顧客との信
頼関係には心を砕きます。例えば、メールを送る際は誰宛てに送り、CCとB
CCは誰宛てにして関係を円滑にするのか、受け答えの文言の気配りなど。こ
の難問に、修行中私は何度も悩みました。どうすれば良いのかわからずに、悩
むほどに空回りして自分に嫌気がさしました。
今回、その顧客との信頼関係を、周りの方が一体、“どのように”“どこまで”
“何に気をつけて”築いていらっしゃるのかを、インタビュー形式で追うこと
にしました。この形式に至った元ネタは、女性の仕事と家庭の両立についての
考えを、34人の映画女優に次々とインタビューしていく映画『デブラ・ウィ
ンガーを探して』です。仕事を必死に続けたり、子育てに悩んだり、上手く調
和させたりした女優達の意見を聞き続ける中で、映画の鑑賞者は自問自答を繰
り返すことになるドキュメンタリー映画です。監督・主演を務めるロザンナ・
アークエットが様々な意見に邂逅しながら映画は展開し、結婚を機に引退した
女優、デブラ・ウィンガーが登場します。非常に落ち着いた表情で彼女が自分
の人生の選択を振り返り、映画は終焉を迎えます。
不可解なタイトル『市川正人を探して』は、『デブラ・ウィンガーを探して』
のように、或るテーマを掘り下げて、市川の考え方に至ってみようと思います。
それは勿論、私に求められていた信頼関係構築のあり方です。皆様に意見を伺
いながら、その答えを探してみました。どうぞ、お楽しみください。
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3 「市川正人を探して」(1)
ウェブ関連会社 経営者 M様
M様は、人のつながりがめぐりめぐって、市川が顧問を勤めることになったウ
ェブ関連会社の経営者で、お互いに認めつつも、迎合はせずに、意見を交換し
合う仲と聞いていました。随分前に経歴だけ伺ったことがあります。育った環
境や、企画とマーケティングを軸にしながらも、時代の変遷などに応じて職種
を変えてきた経歴。また、どの仕事でも結果を出し、会社員から独立して経営
者になられたということから、どのような女性なのか楽しみにしておりました。
今回のインタビューに際し、まず、私はメールでアポイントを取ったのですが、
すぐに依頼内容を細かく教えて下さいと返信が届きました。確かにと思い、依
頼文章を添付してメールを送ったところ、間髪入れずに長い返信を頂きました。
「このメールのやり取りだけでも信頼関係の構築そのもの。市場さんのやりと
りを振り返ってみてください」という丁寧なご指摘の文章に、気分を害された
のではとすっかり動転してしまい、お会いする前から緊張が期待を上回る始末。
とにかくお会いしてみようと腹をくくり、待ち合わせ場所の喫茶店に向かった
のでした。
実際にお会いして、開口一番、私はメールのやり取りの件を謝罪しました。す
ると、「怒っていないのよ」とやさしくおっしゃり、「信頼関係とは、相手の
求めている答えを相手の立場や状況によって変えなくては伝わらない。相手が
受け取ってどう思うかを考えてほしかったんです」とお話してくださいました。
M様にとって顧客とは企業であり、さらにその先の消費者です。その場合、信
頼関係を築くには、「取引先の企業も消費者も喜ばせる必要があり、そのため
に実際の消費者を見て、生の情報をデータとして蓄えておくことが企業の担当
者との人間関係構築に役立ちます」と分かりやすく解説して下さいました。
「実際のお客様が本当は何を考え、どんな行動をするのかということが重要と
考えているので、企業様からのご要望だけで企画を実施したり、理論上のマー
ケティングだけに頼ったりせずに、現実を直視します。そうやって情報の精度
を高めて、企業にも消費者にも喜ばれることを実施したい」とおっしゃいます。
直接現場に見に行く。電車の中でも服装や持ち物を見て、行動を観察して、他
の同じタイプの人と照らし合わせてその指向性などを類推する。具体的な消費
者像がイメージされるデータが取引先にとっても戦略を考える上で必要不可欠
となるのだと。
M様のお話を伺っていると、物事の捉え方や考え方に枠がないことに驚きます。
例えば、顧客との信頼関係の築き方についても、他社にはないデータを持ち、
支持されるという方法。これは、かつてジュエリー&ファッションメーカーの
広告・販促企画に携わっていた際に「当時の役員から、実際に現場を見てこい
と叱責されて」養われたとのことですが、机上の空論で企画を立てるのではな
く、多方面から物事を見て、実際に見て設定した仮説・想定した事柄を自分自
身のデータベースにして行くということです。
小学校でも「数学の公式を丸覚えするよりは、なぜそうなるのかを考えて問題
を解いていった方が、応用が利き、いつでも使える」と考えていたというM様。
このような考え方は、もともと「父親を見て学びましたね」というお答え。
「親が技術屋だったんです。技術屋って、数字を追うように見えますが、実は
イメージから入るんです。そこにロジックを当てはめ、できあがったものが他
の使い方や別の方法がないか、再度イメージする」。後に経営者となったお父
様から「具体的なイメージがロジックを超える。ロジックだけでは先人を越え
られない。新たなものは生まれない」と聞き、後にマーケティングもデータだ
けでとらえてはいけない」と思い当たったそうです。
社会人になり、大手企業の社員時代も社内の他のセクションから直接仕事が舞
い込み、女性なのに特例で深夜勤務が認められ、常に関わった商品企画などに
よる売上貢献度1位を記録していたと言います。女性という立場で大変だった
のではないですか。つい凡庸な質問をした私に、「依頼者の望んでいること、
その先の消費者のことを考えて、小さな結果を積み重ねれば次第に認められて
いきます。さらに結果を出せば、仕事が来ます」と、強い眼差しでお話される
M様。同じ女性として、また独立して個人事業主として一人で仕事をしている
私にとっては、深く考えさせられるお言葉でした。
【イチバの学び】
顧客との信頼関係構築において、企業とその先の消費者の両方を同時に喜ばせ
る提案をすることを前提に、自分の持つ情報の質と量を高めると、自ずと自分
自身の価値が高まる。そして、結果的に顧客から支持され続けるという方法が
ある。
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4 「市川正人を探して」(2)
有限会社ムーンライト 代表取締役 尾崎正紀 様
尾崎社長に初めてお会いしたのは、全国のリーガルシューズの店長が集う会議
にお招き戴いた際のことでした。尾崎社長はご自身が経営するリーガルシュー
ズ岡崎店のメールマガジンにソリアズを転載し、感想を綴っていらっしゃいま
す。尾崎社長の読み込みの鋭さを、参考にするようにと市川が私にメールマガ
ジンを転送してきたほどです。また店舗では優れたマーケティングを展開し、
お会いした日もフランチャイズ優秀店賞(2007年度銀賞)を2年連続で受
賞されていました。
尾崎社長にとって、顧客とは店舗に来店されるお客様です。店舗があるのは客
足が遠のきつつある愛知県岡崎市の古い商店街。その環境下で顧客のリピート
率がFC全140店舗中1位という圧倒的な支持を得ている秘訣はいったい何
だろうと考えていると、「顧客との信頼関係とは・・・共感、価値観の共有で
すね」という尾崎社長のお言葉。具体的に行なっているのは「メールマガジン、
ホームページ、ニュースレター『クツコミ情報』、クリスマスのミニプレゼン
ト、ブログなどで、じわじわと靴以外の情報発信を増やしていきました」「お
客様にお友達のように思ってもらうこと。この領域に達すれば、どんな商品も
受け入れて戴けると思っています」とお話は続きます。
継続した情報発信をしていながら、一方的にならずに支持を得るには、常にお
客様のニーズに応える努力をされている筈。やはり、お客様のニーズにこたえ
るのは大変ですよね、と切り出すと、すかさず「ニーズに徹底して応えると言
うことはありませんよ。要望があればお話は勿論伺いますが、それへの対応の
仕方の判断基準は、自店の価値観に合うかどうか、と言うことになりますね」
とのお返事。安心して靴を買って戴くためにアフターサービスは他店にないぐ
らい徹底して行なっていらっしゃるのですが、「こっちで勝手に商品を用意し
て、売れそうなら続けるし、売れなければ販売中止にせざるを得ないですね」
と、まるで顧客満足の流儀に反しているようなことをすらすらとおっしゃいま
す。
市川によると、今でこそ圧倒的な支持を得ているものの、引退するオーナーか
ら引き継いで、店舗をリニューアルオープンした当時、顧客は殆ど未開拓の状
態。それならばと、モデル的な顧客像をこちらで決めて、そのニーズを現実的
に想像してみたのだそうです。そして、開始された想像上のモデル顧客が喜ぶ
数々のサービス。そのブレのないニーズを原点とするサービスに、同様のニー
ズを抱えるお客様が気づき、そして店の価値観に染まり集まって来て戴く状態
になったのではないかとのことでした。さらに尾崎社長は続けます。
「或る程度こちらの方で価値観の絞り込みをしているので、それに合致しない
人は離れて行くことになってしまうでしょうね」。
尾崎社長の顧客との関係の築き方の背景には、取締役市川正人の存在や、曰く
“抽象的で分かり易くない”ソリアズの内容を咀嚼し、自分の店舗の現実に落
とし込んで実行することで、影響を受けてきたことが多々あるとのこと。言わ
れてみれば、「モデリング」などとモデル顧客像作りを指して呼ぶ市川の中小
零細企業向けのマーケティングが具現化したお店なのでした。
インタビューが終盤にさしかかった頃、「好き勝手やらせて戴いている分、こ
の会社は僕以外の人間がどれだけ共感してくれているのかわかりません」、
「会社を大きくすることを考えるよりは、共感してくれるお友達(お客様)を
増やして生き残れれば」と、今後の会社について淡々と語る尾崎社長。社長が
考えたモデル像のニーズを、社長が考えたサービスで満たすことで、現実のお
客様と信頼関係を築いてきたリーガルシューズ岡崎店。今後の社長の好き勝手
な取り組みのご連絡が楽しみだと思いつつ、信頼関係に対する考え方の共有の
難しさも垣間見えたインタビューでした。
【イチバの学び】
個々の顧客のニーズに対応し、感動を与えるような店舗サービスを考えること
は重要。しかし、不特定多数に近い数の来店客を対象に、個別の斬新なサービ
スを常に提供し続けることは極めて困難。そこで、選択と集中の発想で、架空
のお客様を想定し、その望むことを忠実に満たすように努力を重ねると、現実
に同様のニーズを抱えるお客様の間に店舗に対する信頼感が生まれる。
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5 「市川正人を探して」(3)
株式会社ハラサワ 取締役専務 原澤勝義様
昨年、会社員生活を送りながら、終業後毎週のように勉強会を見学させて戴き、
現在は或るテーマの勉強会の企画運営を担当させて下さっているのが、株式会
社ハラサワの原澤専務です。お爺様の代から50年続く町工場で毎日機械を動
かしつつ、取引先とのやりとりも一手に行なっていらっしゃいます。
開口一番「顧客」像を伺ってみると、原澤専務にとっては、「お金を頂いてい
る会社の、担当の人」です。株式会社ハラサワは、顧客とBtoBの関係を築い
ていらっしゃると思っていたのですが、「相手の会社の規模や役職に関係なく、
こっちを慮って下さる“人”ですね」とおっしゃる専務。
「お客様としゃべっていると相手の性格が分かりますよね。だから喜ぶことを
先にやってあげるとか、困っていることを助けてあげる、少し先の行動を心が
けることに尽きます」。その「少し先」を早速詳しく伺ってみることにしまし
た。
指定の納期より常に早めに納品してみせる。わざわざ機械の作業音が鳴り響く
工場内で顧客の電話に応じる。ファクスを送るときはタイマー機能を使って、
深夜に送ってみせる。この様な専務の努力は、間違いなく大手の業者選択の資
料には残りません。資料に残るのではなく、担当者一人一人の心に印象付けら
れるための演出です。原澤専務の信頼関係の築き方は、確かに人対人という印
象を受けます。「一所懸命お客様のために仕事をしていますという演出をして、
相手がどれだけ気付く人かを見る、気付いて戴けなければ、もしかして気付い
て戴けるかと言うレベルに演出を変えることさえあります」。その結果は90
%を超える業界シェアの数字に現れています。
株式会社ハラサワは今年で創業50年。お爺様の代から現社長のお父様まで、
原澤専務は会社の業績の浮沈を間近で見てきました。だからこその危機感を専
務は間違いなくお持ちです。それにしても、人対人の関係で考える専務の顧客
満足のあり方には、何か一種独特のものがあります。すると、「父である社長
は、祖父である先代への意地とか、借金返済とか、お客様に対して見っとも無
いことをしない、と言ったこだわりがありました。でも自分は、50年の伝統
をあまり意識していませんし、結果、伝統の継続に対する意気込みも特にあり
ません。常にお客様が当社を選び、お客様が当社を必要だと言ってくれたら十
分だと思うのです」と明るく説明して下さいました。
「確かに社長の背中を見て危機感や取引先様との関係を学びました。その学ん
だことに、市川さんと出会って裏付けができ、実践と理論が絡み合って今のや
り方がある感じです」。
専務流の顧客満足手法はつきません。クレーム対応のため、早起きして新幹線
で駆けつけ、取引先の担当者を驚かせたという話。業界では稀な4年制大学新
卒採用の女子社員に営業をさせて、驚いた大手取引先の専務が逆に会社見学に
来たという話。本当にこんなことでお客様は喜び、付き合う価値を見出すのか
と、違和感さえ伴う疑問が湧きます。説明する専務の表情は、むしろ、最近専
務がハマり始めたと言うギターのレパートリーを語っているかのように、活き
活きとしています。
そこを突き詰めようと尋ねかけると、ちょうど居合わせた市川が、「優れてい
る経営者は常に自らの慢心が経営危機を招くと意識しているのさ。こちらの社
長は意地と自分の美学のようなことが、その意識を支えているけど、負けず嫌
いの専務はそれをゲームに置き換えて、相手を驚かす“してやったり感”を楽
しんでいるってことでしょ」と言い放ちます。その“楽しみ”を、「合理的な
経営論に当て嵌めて、お客様を喜ばせる顧客満足だと説明しているだけのこと」
とまで言い出すのでした。
6年間付き合ってきた市川の暴論を横で聞いていた原澤専務は、最初のうち、
少し驚いた表情を浮かべていらっしゃいましたが、次第に面白そうに頷き始め、
納得の相槌を打っています。その表情は、いつもの“してやったり感”全開の
笑顔なのでした。
【イチバの学び】
顧客企業の求めるニーズを考え、常に少し先のサービスを提供し続ける。お客
様の足りない部分を補い、先回りする。法人間の取引でも、人対人の細かな演
出を効果的に行ない、信頼関係を構築することができる。また、経営に当たっ
ての慢心に対する自戒を継続できないと、経営危機が訪れる。その緊張や覚悟
は、考え方や取り組み方によって、自分の楽しみに転化できる。
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6 「市川正人を探して」(4)
アウトソーシング業 代表取締役社長 H様
H社長については、元々市川から、以前大企業で営業として活躍され、中小企
業に役員として転職した珍しい経歴をお持ちだと聞いていました。また、ソリ
アズの創刊当時からの読者でいらっしゃり、読みこなし度合が最高レベルで、
時に市川も気付かなかったような素晴らしい解釈をされると伺っていたので、
隙のない只管頭の切れる人物と身構えていました。実際お会いしたH社長はと
ても物腰やわらかく丁寧に応対して下さり、ギャップにまず驚きました。
H社長にとって顧客とは取引先企業。中小企業のトップという立場で、社内の
部署を統括し、部下を通じて信頼関係を築いていらっしゃいます。社長ご自身
は営業時代、「自社のサービスを求める顧客に対して、徹底的にGiveをする」
という姿勢で信頼を築いてこられたそうです。
大手企業時代、最初に配属された成績が極めて不振な営業所を、トップの営業
所にひき上げたという実績は信頼関係構築の賜物だと思います。「120%期
待に応えていると、常に選ばれなくてはならない辛さがあります」「3年後に
は継続して取引を戴くことに対して出しきってしまい、インプットがなかなか
追いつかない状態になりました」当時の苦労を、それでも楽しげに語るH社長。
顧客へインプットし続けるという信頼関係の築き方は、実績を伴い、ご自身の
中で確立されていったのではないでしょうか。
「性格はきっちりしてない。でも、ストイックです」そう語るH社長が、「顧
客のためなら徹底的にGiveをする」姿勢を身につけたのは一体なぜなのか。背
景を伺ってみると、高校時代に勉強を差し置いてまで熱中した剣道部での出来
事を原点として挙げられました。「あまのじゃくなので、中途半端にはやりた
くない。おかげで成績は急降下しました。その時、一番強かったのは主将をし
ていた同期なのですが、彼が都内ではもっと強い輩がいる中で、周りから汚い
勝ち方と言われようが、優勝してインターハイに行きました」。
「容赦ない勝ち方なので、大会の講評でもほめ言葉が出ない。そんな主将の剣
道を、顧問の先生は褒めました。試合は、参加することに意義はなく、勝たな
ければ意味がない。「『礼に始まり、礼に終わる』といわれるが『礼に始まり、
乱に半ばし、礼に終わる』なんだ」と。この時受けた影響が人生を変え、「徹
底してやる!」という姿勢が身についたそうです。
「会社の運命に関わるような仕事は、命をかけてやります。高熱が出て苦しん
だ時、業務上の問題に対応する日になるとスッと熱が下がった」ほど。「やる
ときは徹底的にやる」という集中力と精神力を現す言葉は、そのまま社長の信
条になっています。
では、部下に気持ちを伝えているとおっしゃる現在は、その姿勢を受け継ぐ社
員が、H社長の代わりに顧客との信頼関係を築いていらっしゃるのでしょうか。
私の中で疑問が湧きあがっている間にも、H社長が続けます。
「中小企業に移って苦戦していることは、一般的に大企業で社員に1言えば1
0が理解できる人材が大勢いますが、中小企業の場合、10言って6分かるか
どうかというレベルの違いです」。
「見られているという緊張感とデータを使ったプレッシャーを与えること。心
技体というのはうそで、体心技。精神を鍛える。もっと言えば固定観念を変え
るには、精神論を話してもだめで、まずは肉体に覚えさせることが大切。最も
基本的な行動を繰りかえせさせることでマインドを刷り込む」と、現場に入っ
て自ら指揮をするH社長。そんな社長を、会長の「やり方がぬるい」というお
言葉が追いかけます。人を信じすぎていけない、人は弱いものだという“性弱
説”で物事を考えられる会長なのだと伺いました。
顧客との信頼関係を、部下を通して築く際の部下との信頼関係構築について質
問を重ねると、H社長は「難しい・・・」と考え込まれることが多かったよう
に思います。形のない想いを伝えること。伝承することの難しさが、そこには
滲み出ているように感じられました。
【イチバの学び】
手を抜かず、徹底的にGiveを重ねれば、顧客との信頼関係は築かれる。信頼関
係はそれぞれの背景から相手に合わせて築かれるもので、人により千差万別。
だから、顧客との信頼関係の築き方を部下に教え、自分の率いる組織に浸透さ
せるのは、非常に困難。
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7 「市川正人を探して」(5)
合資会社MSIグループ 代表 市川正人
市川はご存じ、本メールマガジンの発行人であり、私の元師匠です。彼にとっ
ての顧客との信頼関係を尋ねようとすると、いきなり先手を打って話し始めま
した。
「それを皆さんに尋ねて来たんでしょ。基本は尾崎社長や原澤専務の方法論と
して、教えてもらった筈だよね。ウチのも当然それと同じ」。
説明が割愛されないように、食い下がると、新規の顧客に対しては、ウェブの
会社情報を少々調べ、その上でアポ前に先方の会社の外観を観察したりして情
報収集をすると言います。私に新規のクライアントを任せてくれた際にも、事
前に集合ビルの先方オフィスの廊下に並ぶ傘立ての傘の数までチェックして来
ました。それでも市川は、「そんな情報はせいぜい使っても全体の3割程度。
あとは、もともと頭の中にある中小零細企業の組織形態や動き方のモデルをそ
のまま適用するだけのこと」と言い切ります。
「相手の社長に会うときは、ほとんど話の内容は関係ないよね。モデル企業の
経営者が話していると想定して、その場で提案を投げかけちゃう。それで内容
が心に刺さる相手なら一気に話が進むでしょ」と如何にも投げやりに語ります。
尾崎社長が説明して下さったモデリングの手法が、法人相手ではありますが、
確かにここに認められます。
既存顧客に対しては、今度は原澤専務と同じ手法です。「こちらの覚悟で驚い
て戴いてナンボでしょ。もともと、営業部門に属したこともないから、組織立
った営業活動と言う経験がないのでさ。だから、「まあ、やれるときにはやら
なきゃ」ぐらいに先方が捉えている課題を、その重要性を真剣に考えて、真剣
に対応して見せるだけ。その時の手を抜かない、妥協しないこちらの態度が、
相手との関係性を作るのだと思うけど」と説明します。
演出面まで、原澤専務と異口同音の説明が待っていました。顧客の店舗を普段
着で観て回ったり、深夜でも平然と顧客の事務所に現れたり。個人商売の強み
である機動性の高さで相手を驚かす市川にとっての「当たり前」の営業努力が、
色々と述べ立てられます。さらに市川は、相手の業界の業界団体を訪問し、業
界紙や専門書にまで手を伸ばし、留学時代などに鍛えた知識の吸収力まで存分
に発揮します。そして、相手の期待度に応じて、知り得た情報の「出し惜しみ」
めいたことまでするのです。
お客様との信頼関係構築を、「テクニック」として説明する市川。経営危機に
瀕した際の市川を、無条件で報酬額を上げて助けようとして下さるお客様がい
る(※)以上、信頼感を意識している筈です。次の質問を元師匠は私の表情で
察して、再び先手を打って口を開きます。
「信頼感は嫌いだね。お客様からの信頼は勿論ありがたいし、嬉しい。だけど
逆なら、信用も信頼もしない。自分自身が弱いから。クライアントが信頼して
くれていると考えれば、必ず自分は慢心する。お客さんは残酷なもんで、何も
告げずこちらを切ることができるんだから。お客さんとの信頼関係なんぞ、夢
物語ぐらいに思ってるけど」。
現在は提携事業者として同じクライアント先で仕事をすることもあるのですが、
私が見ていても市川の言動には、はらはらさせられることが多々あります。市
川は、営業的な配慮も何もなく、仕事を発注して下さっている社長に対し、真
っ向から反対意見を述べたりもします。しかし、見掛けとは裏腹に市川自身は、
「メールでそれに言及する時でさえ、自分の貯金通帳を見ながら覚悟を決める」
ほどに、実は懊悩しているようです。
それでも市川をそんな行動に駆り立てるものは何なのか。
「そういう言動を求めているのが、モデル企業のオーナー経営者。基本的にワ
ンマンだから、誰かから自社と自分を阿ることなく評価して欲しいと思ってい
る筈。ただ筈は筈に過ぎないので、リスクは物凄くある。けれどもそれを乗り
越えなければ、クライアントに必要と思われる存在価値ができない」と市川は、
真剣な顔で語り始めます。
「勉強会の各回の内容なんて、極論したら、どうだっていい。先方の経営者に
とって、自分と同レベルの真剣さで自社の経営を考える存在だと認められた上
で必要とされていたら、何があっても関係性は続く。だから、演出だろうとな
んだろうと、関係性だけが財産だと教えただろ。信頼や信用は測ることができ
ないけれども、必要とされる関係性なら、或る程度体感できる。けれど、それ
が朧気な体感である以上、慢心したらお終い。お客さんも含めて、最後の最後、
自分のことさえ全く分かっていないのが人間なんだからさ」。
社内の誰もが口にしたがらない会社の悲惨な将来像を平気な様子で指摘したり
する市川。それなのに仕事は続き、新しい仕事は紹介でやってきます。サービ
スの提供より、最も大切なものは、「クライアントからの体感できる依存」の
維持。「何をしようと相手が○と思って報酬をくれるなら、全く問題ない」と
市川は言います。
クライアントからの依存の維持。たとえ体感できる関係性にしても、その実現
を日々の活動に盛り込み、意識し続けることは並大抵のことではありません。
それは教え広めることができるような価値観なんでしょうか。
すると、市川は、「関係性構築の大切さを、仕事を一部お願いする提携業者と
か、所謂コンサルタントの先生方に話すことがあるけど、求めるレベルが実現
することなんか殆どない。だから社員は雇わない。提携事業者なら尚更のこと、
共感できないと協業なんて殆ど無理だと思っている。組織を率いて、共感が或
る程度まで鈍るのを許容するか、一人で価値観を鋭利に磨くか。自分は絶対に
後者を選ぶ。じゃないとストレスで潰れてしまう」と、またも徹頭徹尾、夢の
ない話を聞かせるのでした。
※第204話『互助の始まり』参照
http://tales.msi-group.org/?p=275&page=2
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8 市川正人を見つけて
弟子として修業をしていた時、関係性が何より大事だと何度も何度も言われて
いました。相手に失礼のないよう振る舞っているつもりでも、全然足りないと
言われる。考えて動けと怒られる。どこまでやったら良いのか、信頼関係って、
一体何なのか。混乱して分からなくなっていた私ですが、目指していたものが
全く違っていたと認識しました。
インタビューを進めるうちに気付いてきたのは、信頼関係を築くといっても、
それは相手の感情に合わせて、相手を喜ばせる感情論だけではないこと。仕事
をしていく上での信頼関係は、人対人の関係を機能させるための、「計測可能」
な行動から築かれるのだということです。
私は独立して半年間、まず自分の営業ツールを増やすことと、それを伝えるチ
ラシやホームページの作成、ご挨拶回りを優先し、振り返ってみると、自分を
売り込むことや、相手の感情に訴える手法に駆けずり回り、関係性を築くこと
に腐心するということが少なかったように思います。
今回のインタビューの傍ら、日々の活動の中でもお会いした、一事業に継続的
に携わっている方々にも共通しているのは、その経営の基本的な原理として、
顧客との関係性の構築から木が根をはるように仕事が生まれていっているとい
うことです。
相手にこちらの考える「形」を最初から押し付けてみても、心が伴っていなけ
れば支持されず、受け入れられない。受け入れられても、続かない。関係性を
築いていない状態では、自分自身も不安定でくじけやすい。
当たり前のことに気付かず、私は今まで過ごしてきたのかもしれません。相手
に合わせることばかりを追い求めて、自分自身の軸がぶれてしまい、心身とも
に疲弊してしまうこともありました。元師匠の市川と接点の或る方々の価値観
を伺って、事業を続けていくために、主体的にお客様との関係を構築してゆく
意欲と、悪戦苦闘する中でまた色々と発見をしてゆく意欲が湧きました。
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9 あとがき 「市場真理子に探されて」 (市川正人)
「市川さんは、ソリアズに出ているような口調で、クライアントさんの社長と
本当に話しているのですか」と、弟子候補の方と話している時に尋ねられたこ
とがあります。相手にもよりますが、大体本当です。市場真理子がこの特別記
念号の中で言及している通り、私のクライアントとの関係のあり方は、危うく
て無警戒に見えるようです。ソリアズの内容にも私のそういった危うい言動が
満載です。
ソリアズを創刊してから9年が経ち、私が独立してから約8年が過ぎました。
この間に、ソリアズはいつの間にやら、人呼んで「市川ワールドのアーカイブ」
と化したとのことです。確かに、ソリアズの各号が摘み出す私の生活と仕事の
断面は、組み合わせてみると、この特別記念号で私が長々と語っていることを
既に十分描き切っている筈です。私が仕事でよく使う喩え話や勉強会の展開パ
ターンなども、「ここまでノウハウを明かしていいのか」と実際に尋ねられる
ほどに包含されています。
独立直前の時期や独立当初は、食って行けることは何でもやろうと思っていて、
ドメインのキャッチフレーズを、“Communicatory Supports” としていまし
た。英語の翻訳やらも少々受けていて、現在でも売上の3%程度を占める状態
ですので、弊社サイトでも1ページだけを業務紹介に当てています。
一方で、アクション・ラーニングなどと手法的にはかなり共通することが多い、
勉強会や関連サービスなどの紹介ページは多数あります。ソリアズのバックナ
ンバーなどにもネタは豊富に存在します。ところが、弊社サイトの各所からも
ソリアズのバックナンバーへは比較的簡単に移動できるのにも関わらず、先般
初めて会ったコーチングのコーチの方から、「翻訳以外にも各種やっていらっ
しゃる業態展開に驚きました」などと言う、全く頓珍漢な内容のメールを貰っ
たりもします。
200話発行特別記念号でモチーフにした名著『下流志向』によれば、下流志
向の特徴の一つは、「自分が知らないことを見聞きしても、存在しないことに
できる能力」と言うことでした。少なくとも、外見上や伺った学歴上、私には
自分の方が余程下流志向に見えるような方でさえ、弊社サイトを読み込んだと
言って、事業の方向性を全く汲み取れないのは、非常に不思議なことです。
200話発行記念号の原稿作成をやっと終えた市場真理子に、「できれば、9
周年記念号もやってくれよ」と持ちかけた私は、顧客との関係性構築をテーマ
とする「市川正人を探して」の企画もセットで投げかけました。市場真理子の
彷徨は即ち、M様、尾崎社長、原澤専務、H様にご協力戴いて考えてみた顧客
との関係性構築のあり方の探求です。結果は、私にも違和感のあるものではな
く、幾つかのソリアズのエピソードに描かれるそれらと何ら矛盾はありません。
本文でも暴かれた通り、私はクライアントを知るためなら、躊躇なく、傘立て
の傘を数えます。タイムカードを抜き出して読み、駐輪場の自転車から社員の
住居の分布を調べます。廃材も手にとって見ます。ダンボール箱上の出荷伝票
もデジカメに収めます。そんな私から見ると、弊社は無防備なほどに把握しや
すい会社です。
「市川さん、PHSのストラップを見せてくださいよ。あ、あれはもう随分古
い号ですから、取り替えちゃいましたか」などと尋ねて下さる人がいます。そ
の時に私は欣喜雀躍します。それは、ソリアズを読み込んで下さる方の存在確
認の喜びだけではありません。自分が接する相手との関係性構築のために、私
と類似した行動を当たり前に取れる人を発見した喜びです。
「答えを探し出す必要がないと言う事実を探し出すためのロードムービー」。
これが、秀作『デブラ・ウィンガーを探して』を見た私の感想です。
市場真理子が探し出した、市川ワールド型の「顧客との関係性構築」。辿り着
いてみると、それは、探す必要など全くないほどに9年を費やして堆積したソ
リアズの中に満載に詰まっていて、それなりに多くの方々が、形に多少に違い
こそあれ、当たり前に実践していることなのでした。
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ンのご愛読を賜れますようお願い申し上げます。
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「企業から人へのコミュニケーションを考える」
合資会社MSIグループ 代表 市川正人
※9周年記念特別号文章構成 市場真理子
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