562 隠れた革新者

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経営コラム SOLID AS FAITH 第562号
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 ご愛読ありがとうございます。第562話をお届けします。

 キャズムは当の昔に軽々と超えて、スマホの市場成長が頭打ちになり、広
告出稿などによるメディア支配が従前ほどではなくなってきたのか、スマホ
が脳に悪いという指摘をする書籍が書店に目立つようになりました。ネット
上の記事群に比べて、より強調してスマホの害悪が述べられているように見
えます。

 主張内容には色々な側面の害悪が述べられています。スマホで文章を読ん
でも思考に繋がらず、インプットとして記憶されにくい。スマホを近くにお
いて何か作業をしていても、常にスマホの通知音を待ち受ける体制に脳があ
るため、集中ができなくなっている。子どもの脳の発達には刺激が偏って悪
影響がある。ゲイツもジョブズも自分の子供には自社製品を与えていない。
主張者の経歴からこれらは相応に科学的な主張であろうと考えられます。

 中小零細企業の生産性が低いとよく言われ、その改善のカギはICTの活用
であるとの主張はよく聞きます。ICTの活用にはそれに対するリテラシーが
最低限度必要になるはずですが、スマホに依存していると、そのリテラシー
さえも本質的には育ちにくいというのは皮肉と言うしかありません。

 最近、『スマホを捨てたい子どもたち』という元京都大学総長による書籍
を読みましたが、メリットもデメリットも明らかになってきたスマホの、差
し引きで最大効用が実現するような使い方が模索されるべきなのであろうと
思えます。中小零細企業の人の活用のありかたを考え、読解力教育の道を探
ってみることが増えましたが、その実現の上での一つの大きな論点としてス
マホの存在を考えるべきであるようです。

 今回の号は『隠れた革新者』と題してお届けします。一時期大流行りした
イノベーションによる市場創造。そのイノベーションを本場米国で最も支え
た要因は何であるのかはあまり知られていません。その革新者の正体から、
日本では誰がイノベーションによる市場創造をすべきなのかと言う、漠然と
した議論をしてみた内容です。海外に比して、経済に占める構成比が大きい
日本の中小零細企業においても、大手が直接的に手を出すことが市場規模の
小ささ故に難しいような分野で、数々のイノベーションが市場を創造してい
ます。こうした取り組みの背景の、合理的には判断できない冗長性や余裕、
ムダ、そして非営利性や長期的視野などについて一緒にご一考いただければ
幸いです。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへの
お返事の目標納期は5営業日!!

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その562:隠れた革新者

 社員数がギリギリ二桁というクライアント企業が、労務管理のシステムを
導入することになった。タイムカードが無くなって、社員はスマホやPCで始
業と終業を「打刻」し、社長は労働時間をいきなりデータとして扱えるよう
になった。「革新的」と皆が言う。
 
 導入にはやや時間がかかった。同様のクラウド上のシステムは幾つも存在
する。まずシステムの選択で難儀する。この会社では直行や直帰が殆ど存在
しない。だからスマホで「打刻」する必然性が殆どない。結局社内にほぼ専
用のPCを置くことになった。就業規則では残業時間をまとめた後の「まる
め」は認められているが、社長は社員に有利なように日々の段階で終業時間
を繰り下げて記録していた。そのような処理の可否もかなり重要である。
 
 中小零細企業にも生産性改善が迫られている。単なる風潮の圧力だけでは
ない。インフレと共に賃金も上がる。仕入高騰の価格転嫁はオカミさえ後押
ししてくれるが、人件費の高騰は生産性改善に自助努力せよと言う。しかし、
何をどうしたらどうできるのかが、すぐに閃く中小零細企業オーナー経営者
は多くない。その上、コストカットは早晩限界が来る。寧ろ投入リソースは
あまり増やさず、売上を大きく伸ばさなくてはジリ貧だろう。

 市場が飽和してレッド・オーシャンだらけの日本で、革新的な市場創造は
かなり難しい。多くの書籍が「実は…」と明かす所では、大手企業の子会社
や関連会社が、国内のリスクの高い新規事業を担っている。ダボハゼ的に手
広く色々始めて、上手く行ったものだけを残す。名称が頻繁に変わる大手関
連会社が多いのはそのせいだろう。

「確かに、鉄道、原子力発電、航空機、人工衛星、そして今日のインターネ
ット、ナノテクノロジー、医薬品、バイオテクノロジーといった画期的な技
術は、いずれも国家自身による研究開発や国家の支援によって生み出された
ものです。(中略)
 実際、アメリカは、軍事関連の技術開発や宇宙開発といった非営利目的の
ために、膨大な予算を投入し、営利企業ではとうてい不可能な画期的な技術
を生み出してきました。」
 中野剛志による『真説・企業論 ビジネススクールが教えない経営学』の
一節。この本は、ベンチャー企業がどんどん勃興し最先端の技術が生まれた
とされるシリコンバレーでさえ、1980年代には、ミサイル、衛星、軍事関連
及び宇宙関連の電子技術に関わる企業が多数立地していて、それらの企業群
が日本企業との競争で危機に陥ると、国防総省が国家機密保持の観点からシ
リコンバレー界隈の研究開発を強力に支えたと説明している。

 全世界的に見たら国民全体の平均的読解力がズバ抜けて高い日本で、7割
の人々が働くという中小零細企業群。多くの無名企業がその経営を如何に
「革新」すべきか考え入る。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』 永濱利廣 著
■『SDGsの大嘘』 池田清彦 著
■『欲望の資本主義』 丸山俊一・NHK「欲望の資本主義」制作班 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第563話 『続・池水浄化』 (7月10日発行) 
 20年ほど前に目立つようになった心理主義は、社会集団や組織の問題を個
人の問題にすり替えるものでした。その新たな潮流について考えてみました。

(完)