『LOOK』

道玄坂付近の余り行ったことのない映画館のレイトショーに滑り込みで入って観て来ました。第5週目に入って、ずっとレイトショーだけの公開であったと思いますが、まだまだ結構人が入っていました。

地下道から映画館に近づいていくに連れて、この映画のポスターが散見されるようになり、人気の度合いが分かります。で、そのポスターには「全米3000万台のカメラが捉えた衝撃の映像」のようなことが書かれています。『ぴあ』にも、「全編が監視カメラの視点で構成された異色サスペンス」、「強盗・殺人・セクハラ・不倫…」などとあるので、監視カメラの映像をつないで犯罪社会の実態やリアルな人々の行動を描写する作品なのだろうと思っていました。

映画が始まると、如何にも偏差値が低そうな典型的アメリカのコギャルのショッピングモールのフィッティングルームでの着替えやらエロバカ話が展開されます。コギャルは二人いるのですが、そのうち一人は試着した下着を着たまま(万引きですが)去ることになります。

フィッテングルームの映像はマジックミラーと言うことと理解できるのですが、二人が出てきたところから、監視カメラが切り替わり、どんどん、彼女をたちを追いかけていきます。ここで、この映画が私が想像していたものとは違うということが分かって来ます。フィッティングルームでは、そういうこともあるかと思っていた音声の記録が、モールの天井ぐらいの高さからのカメラ映像でも、バンバン特定の人物の会話を拾っているのです。逃げ去る二人に対して、カメラは固定でも、ズームが入ったりします。つまり、「監視カメラの映像」ではなくて「監視カメラの映像のテイストにした映画」だったのです。

さらに、予想外だったのは、「監視カメラ風の映像」は、何人かの人物の日常生活の一部分ずつを交互に描写し始めます。そして、これらの人々の人生は主に犯罪などを通して交差して行くのです。このブログ『脱兎見!東京キネマ』にも書いた、『ヘイジャパ』のような展開です。しかし、そこには笑いも何もなく、(高度に集音はしつつも)「監視カメラ風」のピクセルがばっちり分かるほどに砂っぽい荒れた映像が延々続くのです。

犯罪社会や衝撃映像と言うからには、犯罪ばっかり描かれるのかと思いきや、その問題のショッピングモールのセックス狂いでヤク中のマネージャーが女子店員を勤務時間中に口説いては、倉庫でセックスを繰り返すシーンも執拗に反復されます。最後に彼は「セクハラで訴えますよ」と新人店員に口説きの最中に言われるという話なのですが、これなど、どこに衝撃があるのか全く分かりません。

そのように観ると、これは「笑いぬき風アメリカ版『ヘイジャパ』、『クローバーフィールド』的処理監視カメラ版」です。

しかし、映像はざらざら、ストーリーは驚きがなく、まともな役者も出ていなくて、監視カメラ風なので表情もよく読めず無駄な情報が画面の七割ぐらいを覆ったりです。交差する人間関係の構成も役者の設定の手抜きにさえ感じられてきます。どの切り口から見ても、中途半端な映画です。当然、ドッキリ映像集のような唐突感や不測の面白さも殆どありません。野心は感じますが、全く不発の映画に感じられます。ポスターにあったセリフは「(撮影班の我々が持っているカメラも含む)全米3000万台のカメラが捉えた衝撃(があるようにできるだけアレンジした後)の映像」と言う意味だったのだと思います。

この映画がもう一つ、私にとって面白くない理由があります。職業柄の話でしかないのですが、この映画には、まともに働かない人間がゴロゴロ出てきます。保険のコールセンターでしつこく同僚にくだらない嫌がらせをする社員(嫌がらせをされていたおとなし目の男の方は実は児童誘拐犯だったりするのですが)、コンビニで商品の山の上を飛び越えようとして、商品をぐずぐずに崩してしまうアルバイト店員の友人、その友人に店番を任せて昔の女とデートに行く当の店員、極めつけは、病的なまでに倉庫でセックスを繰り返すマネージャー。これらの行為がすべて賃金の対象となっている時間に繰り広げられているわけです。

もし、これらが監視カメラ映像だったら、経営者は速攻でこの人間達を解雇するどころか、賠償請求をすべきだと思われるほどの行為の連続です。一応、経営コンサル風の仕事(経営コンサルではありません)をしている人間として、不愉快極まりない映画です。

やるんだったら、勤務時間外にやれとか思いながら、モタモタしてから場外に出ると、私がレイトショー最後の観客で男女一名ずつの若い店員が、「ナントカだよね?」とかお互いに大声でしゃべっていて、女の子店員はキャスター付きの看板に乗って滑りまわって遊んでいました。これが「まともに働かない人々を描く映画」のリアルさを訴えるための演出だったら、なかなか高度なマーケティングテクニックです。インストアマーチャンダイジングの分野などで考えると、プロモーションミクスとしては、デモンストレーション販売の組み込み以上の構成です。

しかし、言うまでもありませんが、DVDが出ても買いません。