『アメリカばんざい crazy as usual』

『おそい人』を観た東中野の映画館で見てきました。レイトショーで一日一回しかやらず、その日が最終週の最終日だったので、慌てて行ってみると、狭いロビーがごった返すほどに込んでいました。この映画のパンフレットはなく、チラシをゲットして、『取材レポート』と言うホチキス止めの冊子を買いました。

「あらら?」と言う場面や情報が結構含まれてはいます。例えば…
●ホームレスの三分の一は帰還兵であること。
●帰還兵の多くがPTSDを患っていること。
●劣化ウラン弾が使われ、汚染された地域に行かされた兵士が被爆するとどのような症状を呈するか。
●ベトナム帰還兵の(どのぐらいか分かりませんが)多くが、今尚ホームレスのままで社会復帰ができていないこと。
●ブートキャンプに入ってすぐの兵士達が、決まったセリフの練習をしてから電話を家族にかけること。
などなどです。

ただ、多くのシーンは、20年以上前のオレゴン留学中に日常のちょっと向こう側に垣間見られたことばかりではあったので、「ああ、そういうことだろうね」と言う程度で、それほど驚くに値しませんでした。放射性物質に犯された住宅街も、化学物質汚染の観点なら、かの国ではかなり報道されたりしています。森の中に住むホームレスの存在さえ、20年前の当時からいましたから、それほどの衝撃ではありません。当時、「カルフォルニアとほぼ同じ面積の日本の国土の7割は森林で人が住んでいない…」とか話し出すと、学友から「アメリカの森林には人が住んでいるぞ」と言われて、「それは、ビッグフットのことか」と聞き返したのが懐かしく思い出されました。

映画の種類からすると、『華氏911』が事実上同ジャンルで同テーマのはずなのですが、この映画を観ていて思い出されたのは、むしろ、『ダーウィンの悪夢』です。それは多分、この映画では、「貧しいが故に入った軍だが、正義の戦争と信じて、戦地に行ってみると、そこにあったのは人殺しを強いる場でしかなかった。そして、軍を抜けて真実の情報を調べるようになり、今はこうして戦争に反対している」と言うスタンスの人物の登場が核となっているからだと思われます。『ダーウィンの悪夢』の絶望的な状況から、抜け出られるきっかけがあるとすれば、ロシア人相手の娼婦の「欲しいものがあるとしたら、教育だ」と言うセリフにもある通り、現実についての知識によって、各々が自分を守ることだと思います。日々一瞬一瞬の自分の選択肢の先に何が横たわっているかについて学ぶこと。これが、軍や国家による、広くは他者による、支配の構造から自分を離して生きる力であろうだろうと再認識しました。

帰還兵で元ホームレスのドラッグ中毒者だった支援団体職員が、森の中に住む、自分の知人達が些細ないざこざから殺しあった現場に訪れて、自分が今はギリギリ抜け出た世界について延々とモノローグを後半で語りますが、その言葉の中にこの映画全体の主張が含まれているように思えます。

しかしながら、よく観ると、この映画に登場する人物が受けた「被害」も、反対する「対象」もまちまちであることが分かります。「戦争一般に反対の人」、「イラク戦争に対してのみ反対の人々」、「イラク戦争の戦地で起きている事柄に対して反対の人々」、「軍に対しては肯定的だが、退役軍人に対する福祉のあり方が不満である人々」と言った感じです。これらの人々は、イラク戦争が終了した暁には、互いに諍う人々になる可能性がかなりあるように思えます。

「戦争を行なう国の人々」を描いた映画とのことで、仕方ないのでしょうが、こんな寄せ集め感が、この映画の面白さを削いでいます(少なくとも私には)。いずれにせよ、『アメリカばんざい』と聞くと、漢字を使っていますが、ゴールディー・ホーンのコメディの秀作を思い出してしまうので、何か他のタイトルにして欲しかったです。この映画のDVDが出るのか否かは、全く分かりませんが、出れば買うとは思います。ただ、見るべきポイントは、ブートキャンプの洗脳型訓練風景と、先述の団体職員の血を吐くような独白ぐらいかもしれません。