『ハプニング』

何か、予告で見た光景が気になって、結局、新宿バルト9の夜中の回で見てきました。

気になった光景と言うのは、無造作に、まるで手を離したものが落下を普通に始めるかのように、人々がばたばたと死んで行く光景です。予告の中で一番気になるのは、やはり、ビルの上から人々がバラバラと飛び降りて来る状況を地上のそのビルの脇から(つまり、屋上が一切窺えないアングルから)見上げている場面でしょう。

あの日常の風景の中の非日常の極みの乾いた怖さと言うか、違和感は格別です。映画を見ると、バンバンそういう光景が出てきます。それも、予告と異なり、そこに至る経緯付きです。例えば、先の屋上から人がどんどん「落ちてくる」予告のシーンは、実際には、工事現場の作業員達が地上で馬鹿話をしている場面から始まります。そして、ドンと言う衝撃音とともに、少し離れたところに同僚が落ちてきます。慌てふためいて、作業員達が集まり、「救急車を…」などと言っていると、再び至近距離の違う場所に「ドン」と来ます。事故だと思っていた状況が何か違うと気づくとともに、混乱をきたし始めたところで、「ドン」、「ドン」ととめどなく人が降って来るようになり、見上げると、例の予告のシーンと言う風になるのです。

劇中でも断定はされないのですが、原因は植物が周囲の動物を威嚇し攻撃するために空気中に放出するガスと言う話です。そのわけの分からない理由とあいまって、(ビデオカメラこそ持っていないものの)最近流行の登場人物目線ですので、いつぞや見た『クローバーフィールド』同様に、いえ、多分、それ以上に、登場人物達が怯え逃げ惑う姿がそれなりにリアルです。

映画館のポスターには、「人類は滅びたいのか」とか書かれていますが、映画の内容や、監督の意図などとは全く符合していないおかしなキャッチだと思えます。

いつも、名前がシャマランだかシャラマンだか分からなくなってしまうこの監督の作品はまあまあ見ているのですが、劇中の風景が日常の街並みに収まっている分、(つまり、宇宙人やら幽霊やらの登場がない分)荒唐無稽さは少なく、好きな部類です。テレビ番組で見た監督は、家族愛を中心にすえた人間ドラマを作ったといっていました。まあ、彼の他の作品群と比較すれば相対的にはそうでしょうが、この映画の最大の見るべきポイントは、頭を犯された人々が、考え付く独創的な自殺方法、そして、その結果の異様な光景でしょう。

普通の走行から一旦停止して、猛スピードで木に突っ込むジープ。集団で樹木から首吊り状態でぶら下がった人々。簪で自分の首を刺す人。地面に座り込んでふと拾ったガラス片で手首を切る人。今眼前で自殺に使われた銃を拾い上げて行なわれる自殺の連鎖。ガラス窓に顔を突っ込む老婆。ライオンに自らを食べさせようとする動物園の飼育員。極めつけは、わざわざ、辺りを見渡して見つけた大型芝刈り機のエンジンをかけて、自走させてからその進む先に寝転ぶ人でしょう。そこまで思考する能力が残っているのに自殺に及ぶのが、コミカルにさえ思えます。(私だったら、エンジンのかけかたが分からなくてもたもたしているうちに、もっと自殺したくなるのでしょうから、きっとイライラして芝刈り機のハンドルに頭でもぶつけ始めることでしょう。)

このような光景をこれでもかと言うほどに1時間半の間見続けるのは、なかなかできない体験です。しかし、一回で十分かなと思えるので、多分DVDは買いません。この監督の他の作品同様、テレビからの録画をDVDに焼く感じで十分と言う気がします。