556 甦りの場所

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経営コラム SOLID AS FAITH 第556号
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 ご愛読ありがとうございます。第556話をお届けします。

 クライアント企業でも「今月一杯」や「今年度一杯」をよく耳にする時期
になりました。色々なものに終わりが訪れ、色々なものが始まる季節です。
組織においても、去っていく人々に依存していたノウハウや知識は消失して
いきます。維持すべき価値のあるものと喪失を機に変革すべきものを、見極
めるべきでしょう。

 日本に対する各種の悲観論もよく耳にするようになりました。しかし、人
口減少は、そのペースで見ると日本よりもっとひどい国が多々存在します。
「給料が上がらない」も最近よく言われますが、他の先進国のように格差の
激しい社会で給料を上げても、それ以上のペースで物価が上がり生活苦の
人々が続出と言った状態です。それに比べて、日本はかなりまともな生活を
かなり多くの人が送れる状態が続いています。
 
 ジョブ型雇用は結局のところ、人々が自分のスキル・セットやキャリアを
自己責任で管理するだけのことです。就活生の「自己分析」どころではない
自分の働き手としての価値の分析が行なえている人にしか有効に機能しない
ことでしょう。同様に「リスキリング」ブームも、近所の商店街ですれ違う
人々一人ひとりを見ながら、「リスキリング」の適切なカリキュラムを考え
てみると、単なるITだのDXだのの教育を施せば事足りそうには思えません。
 
 上滑りの議論や、一部の大手企業にしか適用できないような施策ばかりが
耳に入ってきますが、中小零細企業の現場の現実に即した生産性改善にも、
今年度からの事業方針づくりにも、あまり役に立ちそうにありません。しか
し、単に耳を背け、頑なに昨日と同じ今日を送るのではなく、虚実入り混じ
った上滑りの議論を注視しながらも、世の中の本質的な変化や、そこにいる
人々の根本的なニーズと行動原理を捉えては、自分の事業展開に活かして行
くべきです。全世界的な反知性主義の浸透が叫ばれていますが、読み込むと
興味深い世の中になりました。
 
 今回は『甦りの場所』と題して、最近流行の更生譚を話題に取り上げてみ
ました。中小零細企業の現場でも、本気の人材育成が求められる時代になり
ました。そのヒントになるような話が、これらの更生譚を扱った書籍群には
溢れているように思えます。そのような分野を考える上でのパス・ファイン
ダーとして、今号をお読みいただければ幸いです。ご意見・ご感想をお待ち
しております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その556:甦りの場所

「自分は入院して一~二ヶ月はとことん教官に反抗していたんです。自分を
少年院送りにした裁判官を後悔させてやろうと、入院時はすごく荒れていま
した。そんな中でも先生(担当法務教官)は常に寄り添ってくれて『何かや
りたいことはないのか?』と聞かれ、『自分は中卒だから無理だと諦めてい
る』と話すと、ここには高校卒業資格となる高認試験対策講座があるからそ
れを受けることを薦められ、騙されたと思って前回の講座を受けたんです。
(中略)一度とことん勉強してみようと思い数学や英語を勉強したら、英語
は英検二級レベルの問題が解けるようになり、それから勉強を続けたんです。
将来は、美容の仕事がしたいので、それを勉強できる学校に行きたいと考え
ています。」
 
「先生、俺たち能力はあるんだ。学力がないだけなんだよ。だから、教えて
くれよ」と目と心に突き刺さってくるような言葉が書かれた帯が気になって
仕方がなかったので、レジに持ち込むことにした『僕に方程式を教えてくだ
さい 少年院の数学教室』の中の一文。タイトルと帯だけからでも十分にそ
の内容の主旨が伝わってくるが、中にはこの美容の仕事がしたい少年のよう
な学びの興奮と重要性に気づいた人々の数々のエピソードが溢れていて心を
揺さぶられる。著者の一人は少年院を「育て直しと甦りの場所」と呼ぶ。

 宮口幸治の『ケーキの切れない非行少年たち』は売れてコミックにまでな
った。中身が薄めの続編『どうしても頑張れない人たち…』に続き、教育現
場のマニュアルと見紛うような第三弾『ケーキの切れない非行少年たちのカ
ルテ』も登場した。このシリーズの前に、反省に軸足を置いた更生プログラ
ムに疑問を呈した岡本茂樹の『反省させると犯罪者になります』も注目を浴
びた。最近読んだ出口保行の『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救
う言葉』は犯罪の道に進んだ少年少女達の心の道程が細かく描かれている。

 更生譚は持て囃されている。宮口幸治が非行少年達の認知能力向上のため
に案出し体系化した『コグトレ』は学校教育にも採用されるケースが出てき
ているらしい。それに対して「犯罪者向けの教育を我が子に使うな」との糾
弾の声もあるという。糾弾の前に“我が子”がケーキを三等分できるかテス
トするのが望ましいだろう。

 ネットでは「現在の教育現場は子供に服従を教えるだけ」と不登校の息子
がクラウド・ファンディングで四ヶ月に及ぶ全国放浪に旅立つことを支えた
父が情報発信をして話題となったようだ。行く先々の人々との交流から学ぶ
ものが多かったという。行く先々の人々はその地では市井のただの人であろ
う。それなら自分の家の町内にも溢れているのではないか。人は失うことで
初めてその価値を知ることが多い。甦らなくては心を震わす学びの悦びを知
らない人々が社会には増えたのかもしれない。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『誰も教えてくれなかった金持ちになるための濃ゆい理論』 上念司 著
■『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』 佐々木チワワ 著
■『性(セックス)と宗教』 島田裕巳 著
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次号予告:
 第557話 『ガチャの元凶』 (4月10日発行) 
 遺伝子の研究が進み、遺伝による要因で人生が殆ど決まるというような言
説をよく聞きます。自分を醜く生んだ両親は美容整形手術の費用を負担すべ
きだと主張するネット記事を見て考えたことなどをまとめてみました。

(完)