553 文字表現

==================================
経営コラム SOLID AS FAITH 第553号
==================================

 ご愛読ありがとうございます。第553話をお届けします。

 新年が始まってもう1ヶ月が過ぎました。暦上は春が訪れていて、札幌で
は雪祭りが盛況ですが、東京ではじわじわと寒さが緩んできています。昨年
の年末が過ぎ、今度は昨年からの年度末の到来です。「ゾンビ企業」という
言葉がニュースのネタにさえなるようになりましたが、打開策がないままに
借入返済の見込みが立たない企業群や社員・経営者の代わりが見つからない
企業群は、一斉に姿を消してしまう可能性があります。その衝戟に備えなく
てはなりません。

 既存事業の行き詰まりを打開すべく、新規事業の立上げなどのご相談も増
える傾向にあります。事業の展開を考える時、マイケル・ポーターの戦略論
などは思考のフレームワークになりますし、名著『戦略サファリ』にずらり
と並べられているようなそれ以外の各種の戦略論も学ぶに値します。しかし、
経営資源が限られている中小零細企業が、前号の『電子的若者』の冒頭にも
書いたようなブルー・オーシャンの市場を創造することは、生易しくありま
せん。

 なぜか日本にはやたらに多いドラッカーの信奉者の人々は、決まって「イ
ノベーションが必要だ」と宣いますが、変革したものが確実に受け容れられ
た結果を、普通は「イノベーション」と持て囃すもので、ただ何でも破壊し
て創造し直せば、改善・改良が実現する訳ではありません。多様なニーズが
ゴロゴロと転がっているVUCAの時代。以前以上に、素早く眼前のニーズを深
く理解する能力が、機動性が元々ウリの中小零細組織だからこそ求められて
いるように思えてなりません。

 今号は『文字表現』と題して、手書き文字の意義や効用について考えてみ
た内容です。読めるけれども書けない漢字は、日々どんどん増えて行ってい
るように感じます。それだけ、日常の中で文字を手書きして、そのフォルム
やバランスを意識することが減っているということなのではないかと思われ
ます。日常生活において、それでも特に支障がないのなら、それはそれで単
なる時代の変化ですが、どうもそうではないようです。その支障の有無の可
能性について考えてみた結果をまとめてみました。ご意見・ご感想をお待ち
しております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

==================================

その553:文字表現

「市川さんがホワイトボードに書いたり、自分のノートに書いたりする字っ
て、なんか独特ですよね。マンガ字ですか。四角い字がコロコロ並んでいる
ような。何て言うか、年を取った人の書いている字に見えませんよ。それ、
前から若い感じの字なんですか」。
 或る勉強会で私が参加者の議論を聞きながらノートをとっていると、斜め
前の20代前半の女性スタッフが私のノートを指差して、彼女の同僚に見てみ
るように促しながら言う。

 急いで書く殴り書きのメモなどの私の字はグチャグチャで弟子からもよく
「ここはなんて書いたのですか」と真顔で聞かれる。きちんと書こうとする
と、文字が隷書に近づく。高校時代、美術か書道の選択科目で美術に気が向
かなかった私は書道を取った。そして隷書を発見してなぜかやたらにハマっ
た。先生の授業はかなり自由放任で、各自が発見した好きな書体を掘り下げ
て習得しようとしている限り、文句は言われなかった。

 隷書には何か不思議な魅力があるらしい。社会人になってから数人、それ
もクリエイティブ系の仕事をしている男性で隷書にハマっている人を見つけ
た。彼らがきちんと書こうとした際の文字は私のものに酷似していて、互い
に違いが分からないほどだった。

 中小企業の4大新卒者の採用の場面で履歴書をよく見る。就職課の指導の
結果なのか、以前よりもワープロ打ちの履歴書が減って、手書きのものを目
にする機会が増えた。丁寧に書こうとした努力の跡は見られるものの、私か
ら見て「きれいな字」と思えるものは20枚に1枚もない。押印も掠れたり曲
がったりしていることがある。「字には性格が表れるというけど、字の上手
い下手で選んだら、誰も採用できなくなってしまう」と社長は言う。
 
「また普段気をつけていただきたいのが、字を雑に書かないことです。これ
は空間認知能を低下させる習慣になります。字の線の長さやアキの幅などを
意識して、丁寧に書こうとするだけでも、空間認知能を鍛えられます」。
 偶然読んだ『図解脳に悪い12の習慣』の一説。脳神経外科の権威である著
者は空間認知能について「物事の認識、判断、思考、記憶といった脳の機能
には、空間認知能の働きが必要なため、空間認知能が低いと認識が十分でき
ず、思考が深まりません」と説明する。

 筆跡学の有用性を私は知らず、少なくとも私は文字から性格を占うことが
できない。文字の丁寧さや美しさは、脳の処理能力の高さに一定の相関があ
るようだ。文章はスマホ入力全盛の時代でも書道やペン字には習得の価値が
間違いなくありそうだ。「コロコロした若い字」の評価・解釈が気になって、
書類を色々引っ張り出してみると、私の弟子の女性の手書き文字は、見つか
った限りで、大人びて丁寧だった。
 
==================================
☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
==================================

【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『安いニッポン 「価格」が示す停滞』 中藤玲 著
■『科学的な適職 …最高の職業の選び方』 鈴木祐 著
■『九条の大罪 1』 真鍋昌平 著
==================================
発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 MSIグループ 市川正人
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
(http://www.mag2.com/ ) 

毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け24年。

マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★弊社代表のコラムが色々満載。
 ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める弊社ブログ。
 http://tales.msi-group.org/?cat=2
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
 http://msi-group.org/msi-profile/saf-index/
==================================
※ ご注意!!
 サーバのエラーなどで読者登録が解除されてしまった方がいらっしゃる様
子です。当メルマガは毎月10日・25日に休まず発行しております。発行状況
のご確認は上述の弊社ブログにて行なってください。
 また、まぐまぐからの連絡によると、一部フリーメール運営企業でサーバ
の受信量規制を行なっているケースがあり、その場合は大幅にメールマガジ
ンの到着が遅れるとのことです。
「届かない」、「再送希望」などの連絡は、まぐまぐの窓口である
「magpost@mag2.com」に、メルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営
コラム SOLID AS FAITH』)、購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、
メールにてご連絡下さい。
==================================
次号予告:
 第554話 『無機的変異』 (2月25日発行) 
 現場力向上のための小集団活動はとても盛んでしたが、今はその概念も知
らない人が増えているように思います。その背景について少々考えてみまし
た。

(完)