552 電子的若者

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経営コラム SOLID AS FAITH 第552号
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 ご愛読ありがとうございます。第552話をお届けします。

 全世界的な景気後退が迫っているとの報道が大分増えてきました。海外に
比べてその深刻度合いはそれほどでもないように思えますが、日本でも物価
はそれなりに上昇しているのに、賃金はそれをカバーするほどに上がってい
ないという状況が続いていますから、消費が冷え込んでくるという認識は、
総体的に誤っていないでしょう。これも海外ほどではないものの金利もジワ
リと上昇しています。全体的に経済の沈滞の雰囲気を感じないではありませ
ん。

 ただ、多くの中小零細企業の経営にとって、事業の先行きの不透明感をも
っと濃くしているのは、寧ろ廃業や倒産件数の急増ではないかと思います。
通称武漢ウイルス禍の経営支援策が消失していくことも大きな原因ですが、
通称武漢ウイルス禍で企業や消費者の行動が変容して回復できないぐらいの
大きなダメージを受けた事業者が撤退していくことも大きな要因に思われま
す。さらに、地方部のみならず、大都市圏でも高齢経営者の割合は嘗てない
ぐらいの高止まり状態で、ここ数年の経営環境の激変がそういった経営者に
とって事業を諦める大きなきっかけとなっていることも見逃せません。
 
 経営環境の激変は単に通称武漢ウイルス禍のみならず、グローバル経済の
大きな揺り戻しであるブロック経済化や、度重なる最低賃金引上げ、インボ
イス制や電子帳簿保存法の適用開始、ICTによる生産性引上げ圧力の増大な
どなど、色々な要因が折り重なって、中小零細企業の経営の難易度をどんど
ん引き上げています。そこへ来て、採用難もかなり深刻になっています。時
代の変化が読めなくなってきた高齢経営者には十分すぎるぐらいの気が滅入
る要因のオンパレードです。
 
 本来、変化はチャンスを生むはずですが、そのチャンスに気づけない、気
づいても行動を起こせない事業者は、変化の波に飲み込まれるだけになると
いうことであるかもしれません。変化を半歩先取りするのが理想と言われま
すが、せめて半歩遅れでもついていくことができるようにしたいものです。
 
 前回の『陸奥(みちのく)の惨状』は東北が舞台でしたが、今号『電子的
若者』はやや南下して北関東が舞台です。どうも「欧米型の経営論では差別
化があまり重要視されていない」というのは、調べれば調べるほど尤もらし
く見えてきます。日本の市場における事業者の差別化とはどのようなことな
のかを北関東の地方都市を訪れた際に考えてみた内容です。ご意見・ご感想
をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業
日!!

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その552:電子的若者

「“ブルー・オーシャン戦略”っていうのは、結局“差別化”して自分用に
市場を細分化して作ってしまえってことですか。レッド・オーシャンなんて
日本では当たり前ですから」。 
 勉強会を終えた後、クライアントの幹部が私に尋ねる。商品開発部の面々
を集めて市場分析について議論する勉強会は、新商品開発のための発想を研
ぎ澄まさせるためのもの。

「ん~。どうなんでしょうね。海外の経営の話を読むと“差別化”って殆ど
出てこないんですよ。独り占めできるブルー・オーシャンは、例えば、主だ
った競合他社を追い詰めて廃業させたり、買収してしまったりしても作れる
訳ですよね。あとは、例えば、iPODとか、流行っているイノベーションとか
で、丸ごと新しい市場を作っちゃうというケースもありそうですが。何にせ
よ、レッド・オーシャンは悪という発想が根強いようですから」。
 私が言うと、その幹部は「けど、レッド・オーシャンはデフォルトですよ
ね」と笑う。

 古典的な経営理論の一つSCP理論に始まり、差別化などしなくても、独占
や寡占で儲けろと説く経営論は多い。独占市場の構造(Structure)で価格
を吊り上げる企業行動(Conduct)をとって、大幅に業績(Performance)を
引き上げる。こんなことを真剣に考えている中小零細企業の経営者にはあま
りお目にかかったことがない。

 茨城県のミニFM局を見学に行くことになって、可聴エリアの人々の暮らし
ぶりもFM局訪問の前に見て回ることにした。寂れた駅前商店街や大きな箱モ
ノの図書館などを訪れたが、人が寄り集まった様子が見当たらない。FM局の
部長に尋ねると、国道沿いの大型スーパーに行くように奨められた。

 全国展開している大型スーパーの筋向いに大規模なローカル・スーパー。
コンビニ、ドラッグ・ストア、ホームセンターも見える。ローカル・スーパ
ーの駐車場に車を入れると、敷地の奥には子供服や家電の量販店など様々な
店が軒を連ねている。ふと、駐車場に隣接する一戸建て群を見ると生協のト
ラックが配達をしていた。

 ローカル・スーパーに歩み入り、フード・コートでおにぎりを食べながら
人々を見ていると、BGMで往年のヒット曲『Electric Youth』がなぜか大音
量でかかった。直訳すると「電気的若者達」。ネットも普及していない80年
代に次世代の若者の生き方を謡った曲。

 こんな地方都市にもUber Eatsはいるらしい。ありとあらゆる店もあれば、
通販もあれば、飲食店からの宅配もある。電子的な時代には若者達どころか
老人までスマホを持ち歩く。経営の理想とされた独占・寡占とは程遠い消費
生活は極東の島国に実現している。
 
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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

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■『新人漫画家、風俗嬢になる』 エバラユカ、ふてね 共著
■『警視庁捜査一課長の「人を見抜く」極意』 久保正行 著
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 MSIグループ 市川正人
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次号予告:
 第553話 『文字表現』 (2月10日発行) 
 文字を手で書く機会は急速に失われています。噂の「GIGAスクール構想」
でさえ、手書きの機会を減ずる一助となるでしょう。手書き文字の意義を
少々考えてみました。

(完)