『バイオレンスアクション』

 8月19日の封切から約3週間。新宿ではマルチプレックス系の全館3館が上映していますが、各々が1日1回の上映状況になっています。上映予定表の先がなくなっている館も見当たるので、慌てて観に行くことにしました。

 観客はシアターが暗くなってからも三々五々現れて、最終的に15人ぐらいになっていました。やや過半数が女性で、男性はやや少数派であるように見えました。男性は単独客ばかりでしたが、女性客は女性同士の二人連れも、2、3組いたように感じます。年齢層は男女共に二極化しているように見え、概ね20代から30代ぐらいの層と私を含む50代後半以上の層に分かれているように思えました。各々の層がこの作品を観に来たいと感じる動機が今一つ分かりません。

 いずれにせよ、贔屓目でも売れていないと見るべきでしょう。『映画.com』での評価の平均は2.8で悪くはありませんが良くもありません。私にとっても、そのような感じの作品でした。

 私がこの作品を観に行くことにした理由は、自分でもそれほど明確ではありません。敢えて言うと、橋本環奈のアクション映画というぐらいが着目ポイントで、あとは、トレーラーで見た限り、邦画の中でかなりド派手なアクション的な感じだったので、たまにこういう映画も観てみるかと考え至ったというぐらいです。9月1日封切の『ブレット・トレイン』はかなり有名でしたので、(ウルヴァリンが暴れ回るおかしな日本の新幹線描写から、どれぐらいハリウッド映画はまともに新幹線を描写できるようになったのかに興味があったこともあり、)こちらも観てみるかと思っていましたが、人気作でまだ上映がもちそうだったので、同じアクションなら女子のアクションを観るかと思い至ったという経緯もあります。

(そうこうしているうちに、9月中旬から10月にかけて観てみたい映画が目白押しになってきたため、もしかすると『ブレット・トレイン』はDVDでの鑑賞に回されるかもしれませんが…。)

 原作は人気のコミックとのことでしたが、私は全くその存在を知りませんでした。特に予習もしていないので、どの程度この映画が原作に忠実であるのか分かりません。パンフで紹介される原作のイメージを見る限り、それなりには意識されて作られているということなのかなとは思いました。

 観てみて思うのは、ウリのアクション以外は、結構既視感が湧くことです。ヤクザの組織内の描写は結構多く、DVDで観た『アウトレイジ』シリーズとか、トレーラーでしか観ていないですが、シリアスな所では『孤狼の血』やドタバタな所では『土竜の唄』などに登場するヤクザ世界観に似ているような気がします。

 ストーリー展開上、ヤクザ集団やらヒットマンやら人間凶器のようなキャラやらが追いかけてくる中、辛うじて撃退しながら逃避行を続ける展開も、これまた私が結構好きなコミックの『BE FREE!』などにもありますし、結構よくあるパターンかと思いました。

 コミック原作で、モブはバタバタと殺され、主人公と敵対するヤクザ組織などはジワジワと見せ場を作りながら落命していき、主人公達はなぜか飛び交う銃弾もほぼ当たらず、まあまあ無傷で生き残るというパターンも、名作の『ファブル』など結構あります。不倫騒動から復帰したベッキーの怪演が光る『初恋』(私は宮崎あおいが出演した『初恋』の方がかなり好きですが…)も、バタバタと染谷ナンチャラを始めとする名脇役が死んでいきます。

 女性の暗殺者の事例なら枚挙に暇がありません。海外の女性スパイもの、たとえば、どうして家でそんな格好の自撮りをしたがるのか分かりませんが、AVさながらの画像が流出して大問題になったジェニファー・ローレンス主演の『レッド・スパロー』やアンジェリーナ・ジョリーが他にもアクション系の自身出演大ヒット作があるのにわざわざ作った感じのする『ソルト』など、大御所系の大予算作品にも結構な数、この類の映画は存在します。SF系を加えるとさらに増えます。たとえば、マーベルの私の好きなキャラのブラック・ウィドウなどはまさにその典型でしょう。まして、多少マイナーなレベルの作品まで含めると、或る意味、メジャーなカテゴリーなのではないかと思えるほど、殺人女史はスクリーン上に有り触れています。

 その中でも若い女子もそれなりにいます。洋画で言うなら、『キック・アス』のヒット・ガールが、私が一番イメージできるキャラです。邦画の方はそれこそ枚挙に暇がありません。比較的最近江口のり子見たさにDVDで観た『羊とオオカミの恋と殺人』などは典型のように見えます。幾らでも簡単に見つかる感じです。

 つまり、そういうことなのです。観てみて、この作品の持つ魅力は何かと問われれば、殺人集団の物理的な集合場所は不思議な「会員制ラーメン屋」であることや、何がどう凄いのか結局判明しませんでしたが、どうも凄い能力を隠してそうな女性店長の凄みとか、その「会員制ラーメン屋」で電話で受けているのは「ぷるるん天然娘特急便」というデリヘルの注文だったりするような点です。

 デリヘルとはいうものの、殺人者を電話で手配している場面がたくさん出てきますので、裏業界のデリヘル風にしている殺人請負サービスという風に理解したほうが良いようには思います。大体にして、このデリヘルを装った組織にいる殺人者は取り敢えず橋本環奈ともう一人、太田夢莉という私の知らない女優が演じているスナイパー女子しかいません。白兵戦で敵をなぎ倒せるのは橋本環奈のみなのです。

 橋本環奈はヤクザの事務所などに普通の女子のような足取りで普通の女子のような出で立ちで現れます。行き先が建物でドアホンがあると、「こんにちは。ぷるるん天然娘特急便」と名乗ってから突入を開始します。デリヘルをカモフラージュに使っていることに殆ど意味を見出せません。それ以前に、橋本環奈がデリヘル嬢として全く華がないのも、余計にこの設定の難を大きくしています。

 大量のチンピラに取り囲まれても穏便にそこを去ろうとした際に、チンピラの一人が後ろから彼女に組み付いて胸を揉みしだく場面がありますが、そのほんの一瞬のシーンでさえ、エロスが感じられません。

 概ね女性の暗殺者は失敗すると、仮に殺されることになったとしても、まずはレイプされるのが定石の展開です。また、女性暗殺者の方もセックスアピールのみならず、セックスそのものを武器に使っているケースがザラにあります。たとえば、Vシネの『XX』シリーズなどは有名ですし、コミックなら私が高校時代から大ファンだった(実写映画化作品は全くの駄作でしたが)石森章太郎(当時)作『009ノ1』もそうです。

 それが、暗殺を試みる限りなく一般人に近い女性の場合は、余計のことセックスを手段として使う比重が高まりますから、名作『夜がまた来る』のような展開も多数観られるようになります。

 このように考える時に、今回の作品は橋本環奈にエロさがほぼ皆無であるために、かなり砂を噛むような味わいの作品になっています。

 さらに辛いのは、脇役陣がまたもおかしな役を演じている佐藤二朗や、『SPEC』シリーズと余りキャラが違わないように感じる、ガーシー砲の攻撃に曝されている城田優。さらに高橋克典や岡村隆史などです。岡村隆史は嘗て「コロナ明けたら可愛い人が風俗嬢やります」と現実感あふれるコメントをしていましたが、もしかしたら、その発言でこの作品の出演が決まったのかと思えるぐらいで、橋本環奈をお客先に届けるドライバーをやっています。

 それらに囲まれて演じることになる主役級の幾つかの役を演じているのが、かなり無名の人々なのです。単純に私には無名であるだけなのかもしれませんが、ネーム・バリューとしてかなり苦しい状態で、主役の橋本環奈以外で私が名前を認識できているのは、先日も『恋は光』で観たばかりの馬場ふみかが先述のラーメン屋店長を演じているぐらいです。

 学芸会レベルとは言いませんが、アクション・シーンも多い中で、ストーリー展開を支える比重が非常に高まるはずの、時間量として小さいセリフのやり取りの場面の多くは、これらの比較的ネーム・バリューの低い人々の演技力に依存しているのです。正直言って、もたつきや空回り、さらに脇役陣が主役陣を喰っている状態が連発しているように見えます。

 さらにもう一つ、最もつらい点があります。それはエロくないだけではなく、橋本環奈がずっとイマイチであることです。私は橋本環奈が嫌いではなかったはずで、寧ろ、高評価をできる作品群がたとえば、DVDで観た『銀魂』シリーズや『暗殺教室』シリーズ、さらに『キングダム』、『斉木楠雄のΨ難』、『新解釈・三國志』などかなりたくさんあります。なぜこれらの作品の橋本環奈が魅力的なのかと今回改めて考え至りました。多分、それは、全編を通して普通の人ではないキャラ設定の役だからなのだろうと思えます。どの役もまともな人間ではありません。辛うじて『斉木楠雄のΨ難』は女子高生ですが、ずっと、オモテウラの違いが激しく自己中心的で猪突猛進の異常なキャラです。まして『暗殺教室』などは人間でさえありません。『キングダム』の彼女は性格や思考はまともですが、外観がミノムシです。

 このブログの『セーラー服と機関銃 卒業』の感想で、まだ役者デビューして間もない橋本環奈について…

「 泉を演じた福岡出身の「1000人に一人の逸材」と言われているアイドルの橋本環奈の表情は(薬師丸ひろ子に比べると過剰に明るすぎるぐらいに)生き生きしていて、意外なハスキーボイスも、魅力に感じられ、一応好感が持てます。」

と書いています。作品のオリジナル版に思い入れがあるため、かなり甘い評価になっているように感じますが、嘘ではありません。ただ、その後も橋本環奈は「奇跡の一枚」という写真で見出された外観や一瞬の表情が「1000人に一人の逸材」であり続けたということなのかもしれません。素材としてシンプルな美しさを持つ分、載せる役柄に明確なアピールポイントがあれば、それが活きる…というだけのままに留まっているように思えてなりません。だからこそ、なで肩のシルエットがガッツリ見えるファッションもピンクボブのヘアースタイルも、可愛らしさやセクシーさに殆ど貢献することが無く、彼女を一度倒して戦闘不能にまで追い込んだ城田優も彼女を連れ帰って拉致し、凌辱の限りを尽くそうなどとは全く思い至らなかったのでしょう。

 唯一、橋本環奈が「できるだけスタント無しで自分でやりたかった」(のような趣旨をパンフで語っていますが)と頑張ったアクション・シーンは最先端の「ボリュメトリックキャプチャ技術」とか言う技術が採用されているとのことで、パンフにある原理はさておき、相応の効果を挙げていて、見所があります。彼女のアクションだけが際立ってしまっているという、ややマイナスな効果もあるように思いますが、敵のネイルガンの釘どころか銃弾さえ避けて動ける主人公の超人的な能力は存分に描かれていたように思います。

 脇役陣の名演技と斬新なアクション・シーンで辛うじて観るべきものがあるアクション作品にはなっていると思いました。DVDは一応買いです。

追記:
 この作品のタイトルはなぜ『バイオレント・アクション』ではなかったのかが、ずっと引っかかっています。修飾語と非修飾語の関係で見ると、前の単語は形容詞の方が妥当でしょう。
 嘗て、コアなファンを多数抱える大ヒットドラマで『仮面ライダーアマゾンズ』という作品に嵌ったことがあります。劇場版もちゃんと劇場で観て、このブログに感想が書かれています。その中に登場する仮面ライダーのベルトから武器を出したり、腕や足に存在する鋸の歯状のカッターをより有効に相手に充てたりする際に、ベルトがその技の名前を低い男性の声で言います。
 ファンである私も当時かなりその呼称を(それなりに英語の発音は良いつもりなので)劇中の発音をまねて言って見ることがありました。それらは「バイオレントパニッシュ」、「バイオレントブレイク」、「バイオレントストライク」、「バイオレントスラッシュ」などで、それが口に馴染んでいたため、どうもこの作品のタイトルをみると、「バイオレント」ではないことに、余計に違和感が湧くのだと思われます。

追記2:
 この作品の監督の名前が全く読めなかったので、ウィキで調べて「瑠東東一郎(るとう・とういちろう)」だと分かりました。音読みまんまで素直に読めばよいだけでした。