512 アンチ・ミスディレクション

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経営コラム SOLID AS FAITH 第512号
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 ご愛読ありがとうございます。第512話をお届けします。

 一昨年前ぐらいから時間を作って、行ける展示会には行って、各種の経営
に係る動きを見て回っています。取り分けICTの経営への活用は、テーマに
拠らず盛んで、自分の耳目を疑うようなデモンストレーションが登場するこ
ともあります。

 ただそれらの新技術を中小零細企業に導入する上で大きな障害となるのは、
第一にコストで、第二に運用面の知識インフラです。後者は今号のコラム
『萬屋日和』で奥田が自社社員の育成を説いていますが、あくまでも応急措
置ならアウトソースでも対応できなくはありません。それに対して前者はか
なり難問です。イニシャル・コストだけなら、助成金・補助金などの活用な
どの手もありますが、ランニング・コストの面はどうしようもありません。
 
 世の中では、中小零細企業の生産性改善がやたらに騒がれ、日本企業全体
の生産性を引きずり下げているのは中小零細企業と断じる中小零細企業悪玉
論も跋扈しています。それであれば、さっさとこれらの技術の中小零細企業
への適用の道を誰かが大きく開けばよいだけのように見えます。しかし、同
様の技術によるソリューションを販売している事業者が多数出展しているの
に、価格はどこも殆ど変わらないということもよくあって、中小零細企業で
も手が伸ばせる価格まで“こなれる”には非常に長い時間を要するのが常で
す。

 今回の『アンチ・ミスディレクション』は、比較的こなれた価格で提供さ
れているアイトラッキング技術が中小零細企業経営にもたらす可能性につい
て考えてみたものです。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご
感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その512:アンチ・ミスディレクション

 知り合いのコンサルタントからウェブのヒートマップの話を聞いていて、
閲覧者の視線の話がさらに脱線して『黒子のバスケ』の話が盛り上がる。
『黒子のバスケ』はその本編が『週刊少年ジャンプ』に2009年から2014年ま
で連載されたマンガ。主人公の黒子テツヤは、バスケットボール選手で強豪
校出身。彼の身体能力は低く、部活の中でも影の薄い存在。彼はその影の薄
さを逆手にとり、手品でも用いられる「視線誘導」の技術を加え、パス回し
どころか彼自身の存在にまで相手選手が気付かないという技を繰り出す。
 
 バスケットボールのコートでは「視線誘導」などしなくても、色々なもの
が見えなくなる。1999年にハーバード大学で発表された有名な「見えないゴ
リラの実験」で、ゴール下でボールをパスし合う人々の短い動画を被験者は
見せられた。動画の中の人々は白シャツのグループと黒シャツのグループに
分かれており、被験者は白シャツの人々のパス回数を数えるように指示され
る。かなりアップでゴール下を捉えたほんの数分の動画の中で、着ぐるみの
ゴリラがコートを横断し、ゴール直下では胸まで叩いて存在をアピールして
いるのに、42%の被験者はゴリラに気づいていなかった。「人間は見えると
予想しているもの以外は見えにくい」という驚くべき結果は「非注意性盲
目」として知られることとなった。
 
 緊急事態宣言下。お台場の青海展示棟に「ロボデックス」という展示会を
観に行った。中小零細企業の製造やサービスの現場での生産性改善の手法で
まず思いつくのは、5Sやムダ取り。地道で継続的なそれらの取り組みは重要
だが、補助金や融資で設備投資ができるなら、自社の強みを活かしたメカト
ロ的な課題解決も手札に欲しい。そんな期待で現地に行くと、居並ぶロボッ
トアーム群の脇に多数のアイトラッキング技術を展示するブースが並んでい
た。「熟練者の目の付け所が明らかに!」とチラシに書かれている。
 
 本来の目的は余所に、アイトラッキングによる熟練者のノウハウの分解と
移転がこれほど主要な技術となっていることを学んだ。デモ動画では同じ作
業でも初心者の視線の動きは散漫でモニタ中を右往左往する。熟練者の視線
は点から点へと直線的で無駄がない。視線の動きから熟練者の行動をマニュ
アル化することもできると説明される。熟練者が無意識に「見えて当然」と
認識しているものが、素人にも見えるようになる。

「目は口ほどに物を言う」。「瞳は心の窓」。体の細部の動きのモーション
・キャプチャー技術での記録。脳波やMRI画像、脳内化学物質濃度の精密な
測定。さらに視線の動きまで加わって、本人も無自覚で説明不能な技術は
徐々に再現可能なものになりつつある。それは暗黙知の可視化・標準化を経
て、その量産可能性と共にエキスパートの存在価値が逓減する過程でもある
だろう。そうしてさらに人間の労働の価値と役割は先鋭化して行く。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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『萬屋日和』 「会社の萬屋 企画改善請負本舗」からのPR

「会社の萬屋 企画改善請負本舗」の奥田美幸です。
師匠・市川の知り合いの方から、給与制度を教えていただいています。
給与制度の基礎を学ぶ際に、オススメの書籍を2冊ご紹介いたします。

●『ビジネススクール・テキスト 人的資源マネジメント戦略』
 https://is.gd/vKU2aj
●『2021年版 賃金決定のための物価と生計費資料 (賃金資料シリーズ2)』
 https://is.gd/rtvmR8

ぜひご参考になさってくださいね。

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『萬屋のもっと深く愛してい』第9回「AI 関連技術」

第6回から第8回の3回にわたり、「AI」、「機械学習(マシン・ラーニン
グ)」、「深層学習(ディープ・ラーニング)」をテーマに、AI関連の技術
を紹介してきました。今回は、それらAI関連技術とその完成について考えて
みます。

AIの定義はさまざまありますが、一般的には「人間の思考プロセスと同じよ
うな形で操作するプログラム・技術全般」を意味します。AIの仕組みの一つ
である「機械学習」は、一定の計算方法(アルゴリズム)に基づき、入力さ
れたデータからコンピュータがパターンやルールを見出し、新たなデータに
関する識別や予測等を可能とする手法のことです。

さらにその中の一種が、「深層学習」です。これまでノウハウをもった人間
が指定してきた特徴の抽出も含めて、コンピュータ自身が見いだせるように
なった点が「機械学習」とは異なります。抽出すべき特徴の選択自体も人間
の手を介さず、コンピュータのみで完結するのです。

上述の「AI」、「機械学習」、「深層学習」の関係性をまとめた図を以下の
URLからご覧いただけます。
●『AI関連技術の関係性』
 https://kaisha-yorozuya.support/stockpile/

中小企業においてAI技術を活用したシステムを導入する際の課題として、使
いこなす人材がいないことが挙げられます。それは、システム導入後に使い
こなせる人材がいないことはもちろん、そもそも既存の業務をシステムに置
き換えられると判断できる人がいないことも含まれます。

人材が大きな問題とはなりますが、意識的に取り組むことで必要な人材を社
内で育成することが可能です。実際に、従業員10人ほどの荒川区の製造業企
業において、月1度の勉強会を実施し、ITに詳しい人材を社内で育成する体
制を整えています。時間はかかるとは思いますが、自社の経営資源を活用し、
他社との差別化を図るためにも有効な手段の一つです。導入の検討の前に、
必要な人材を自社で育成していくという覚悟が必要かもしれません。

このテーマについてさらに詳しいご説明が可能です。
ご希望の方は萬屋までご一報ください。
contact@kaisha-yorozuya.support

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『父が娘に伝える自由に生きるための30の投資…』 J.・コリンズ 著
■『老人の取扱説明書』 平松類 著
■『ナンパが最強のソリューションである』 零時レイ 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第513話 『街の野戦病院』 シリーズ『診察室の奥』 (6月10日発行) 
 昨年奥歯の直下深くが細菌に侵され骨まで腐りかけていたのを抜歯せずに
手術で治療することができました。大半の歯科医の常識に逆らった治療法で
した。そこに至るまでに体験したことを2回シリーズにまとめてみました。

(完)