『劇場版・打姫オバカミーコ』

 この映画のタイトルは「うたひめオバカミーコ」と読むことを、ウィキで原作について調べてみるまで知りませんでした。それは劇場に出掛ける数日前のことで、それまでは何と呼んでいたかというと、何とも呼んでいませんでした。テキトーに「オバカミーコ」とだけアバウトに認識していただけです。逆に言えば、それぐらいにきちんと知ろうという意欲が湧かないままに、観に行こうと思い至っていた作品と言うことでもあります。

 2月5日の封切から1週間少々経って、この映画を観に行こうと考え至った動機は、私の商売のクライアントさんに雀荘チェーンが存在していることがほぼ総てです。その雀荘チェーンは女性スタッフが一緒に麻雀を打ってくれるというビジネス・モデルで、どちらかというと、メイド喫茶などの業態の方が通常の雀荘よりも似ています。ですので、その女性スタッフたちも、中にはプロの雀士もいますが、ほとんどが素人から少々打てるようになったレベルのスタッフばかりです。当然、麻雀の基礎を勤務を始めてから教えることになりますが、その際に麻雀に関心を持たせるため、アニメや漫画の作品を入りたてのスタッフに見せたりしています。その作品の一つが、この映画の原作なのです。

 私はパチンコに全く興味がないのに、或る有名パチンコ店チェーンが8年ほどクライアントでいたことがあり、深夜の釘調整まで基本的な技術をマスターするなどしました。パチンコで全く遊ばないのに、釘調整ができるという極端にアンバランスな関わり方になった訳です。子供の頃から本は身銭を切って買って読むものだと、親からも教わりましたし、自分もそう考えてブレなかったので、図書館に行くことはほとんどなく、まして借りることなど全くない状態で過ごしてきましたが、現在は主要クライアントの一つが図書館で司書が用いる索引事典を作ることに特化した出版社なので、今尚全く図書館に関心が湧きませんが、図書館司書の「生態」を真剣にシミュレーションすることが非常に多くなっています。このように、私は特に関心もない業種業態のクライアントばかり、仕事上おつきあいして来ていますが、雀荘さんもまさにそのパターンです。

 私は麻雀のルールどころか牌の呼称もよく分かりません。18で電電公社職員になった時、現場の先輩社員たちは夜に飲み会の延長でよく麻雀を打ち始めました。付き合わされて、周りで酒を作ったり灰皿を変えたりなどをしていましたが、時折、打ち手四人の一人がトイレなどに席を立つことになると、代わりに打つように言いつけられました。雀荘業界でいう所の「代走」です。それで牌の名称も分からず、ポンだのチーだのもよく分からない中で、同じ模様・同じ文字・連続する数字の牌を揃えるよう努力するだけで代走を果たしていたように記憶します。

 その後、娘が幼稚園ぐらいになった頃、クリスマス・プレゼントだったように思いますが、ドラえもんのドンジャラを買ってきたら、娘がドハマりし(、その後、将棋やチェスも教えてみましたが、全然不発でしたが)、ドンジャラを毎週末数時間やるという時期がありました。ドンジャラが麻雀かと言えば、勿論大分違いますが、それでも捨て牌から相手の手を読むなどの原理そのものは一応同じです。そう思っている私が、クライアントのスタッフたちから「麻雀できますか」と聞かれ、「ドンジャラぐらいなら」と答えると、かなり白けたり、引かれたりしますので、彼女達の認識上、原理の類似さえ認めたくないということなのだろうと思っています。

 そんな私ですので、この映画を観に行くことにしたのは、ほぼ純粋に仕事上の参考にするためです。他にも一応観たい映画があるのに、全国でたった1館でしか上映していず、おまけに1日たった1回の上映しかされていません。なかなか観に行く機会ができないままに、日が過ぎて行きました。おまけに上映館は池袋西口の古いマイナー映画館です。昨年9月に『はぐれアイドル 地獄変』と『それはまるで人間のように』を連続で同館内映画梯子をしたあの映画館です。

 そこでの上映状況を調べてみると、その日曜日から4日後には上映が終了することが分かったのです。こうなると、行かざるを得なく思えます。とうとう重い腰を上げ、18時丁度の回に赴きました。(ただ、現状全国でもたった1館というのは本当ですが、4月中旬から名古屋と大阪の各1ヶ所で上映が始まるようですので、池袋での上映終了でいきなりDVD化!という訳でもないようです。)

 映画館に着くと、つい2日前に新宿で観たばかりの『イルミナティ…』がこの映画館でも上映されていました。ここでも消される被害者が続出することでしょう。シアターの中は、一応盛況と言える状態に見えました。と言っても、ウェブによると、193も座席があり、例の通称「武漢ウイルス」の空騒ぎの隔席対応で半分にしても、100近くの席が有効であることになります。それに対して、来場者はざっくり数えて30人弱だったように思います。実質的な稼働率で3割ぐらいです。

 男性客は多く20人以上いました。かなり年齢層が若い方にシフトしていて、20代も非常に多かったように思えます。私も含めて50代以上は3人程度しかいなかったように思います。女性の方も5、6人全員が20代のように見えました。女性同士の二人連れもいましたし、カップルも一組いました。雀荘さんでも若いお客が新規で来店することが結構多いと聞いていますが、単独や2、3人で来る若い女性客も多いようです。劇中でもそうですが、所謂女流プロでも若い人々が増えているようです。

 この映画のパンフは厚紙を三つ折りにしただけの簡素な構造でA4サイズ6ページに写真がふんだんに盛り込まれた昔風のものですが、そこには準主役級でミーコの師匠を演じる萩原聖人が実はプロ雀士の資格を持っていることが明かされていて驚かされました。後で読み返してみると、映画紹介サイトの説明文でもその点は言及されているのですが、ここでもまた、真剣に読み込んでいなかったのです。

 主人公のミーコはSKEのアイドルが演じています。SKEではセンターも務めたことがあるとパンフにはあり、麻雀の試合であるMリーグの番組でアシスタントを務めているようです。AKB出身でテレビをほとんど観ない私でも、そこそこの頻度で観る指原莉乃も、少なくとも私には全く美人顔に見えませんし、所謂キャラ売りの人なのであろうと思っていますが、このミーコ役の須田亜香里という女性もどうも(指原莉乃より愛嬌が勝っているように思いますが)美人顔には見えません。ウィキに拠れば「2010年4月から金城学院大学に入学したが、童顔のためたびたび中学生に間違えられた」とのことですが、現在29歳らしく、私には(先述の通り愛嬌がある顔であるとは思うものの)年相応に見えます。

 ところが、この「愛嬌」が劇中では炸裂しています。原作を読んでいないので、原作のミーコがどんな性格であるのか分かりませんが、多分、性格面ではかなり原作に忠実なのではないかと思えます。

(なぜかというと、劇中のミーコは不自然なぐらいに街角のポストに抱き付いて泣き喚いたり駄々をこねたりするシーンが多いのです。60年代のギャグ番組でもなければ、こんなベタな演技を元ネタもなく設定するとは思えません。多分、原作のミーコもこういう行動をとるのではないかと勝手に想像しています。)

 ただ、性格面では多分ベタに原作寄せなのだと思われますが、キャラの外見はかなり異なります。須田亜香里の方は(ネット上では「割れた腹筋」の画像も見つかるものの)どうも着太りする感じに見えていることが多く、何かデブであるようなシルエットの服装をしていることも多く見えます。それに対して、原作のミーコはやたらに線の細いキャラで変な髪型もやたら大きな目も須田亜香里からかけ離れています。

 それでも面白く観ていられるのは、先述の通りの炸裂する須田亜香里の愛らしさだと思います。初めての雀士役を務めるプロ雀士である萩原聖人も、安定の演技で、離婚を経て暗く物憂げな人間になっていたのが、徐々に抜けるように明るく子供くさいミーコと時を過ごすうちに、麻雀の面白さを再発見している様子がきっちり表現されています。私も師匠だの元師匠だのとありがたいことに呼ばれることが一応ありますが、「ああ、こういう風に絡みついてくる女性弟子は可愛いだろうなぁ」と萩原聖人のありように深く頷けるのです。特に、二人のうちどちらかが卓についている状態でもう一人が後ろからそれを注視している状態がかなり頻繁に劇中に登場しますが、その際の二人の間のテレパシーのような心の声の会話は、普通に考えればただの妄想のようなものですが、ちゃんと通じ合っているように何となく受け止めてしまうのも、この二人の高い演技力か高いなりきり度合いによるものであるように思えてなりません。

 麻雀の手や役もかなり細かく踏み込んで(図入りで)説明し、ミーコへの教えのレベルを師匠は徐々に上げて行っています。先述のような麻雀理解度の私でも、ギリギリ意味が何となく分かる程度の親切な解説までついています。もう少々私の共感度が高ければ、麻雀をきちんと覚えようとし始めるぐらいに、麻雀の魅力を素人に対して発信することに成功している作品だと思います。多分、麻雀が分かる人なら、ミーコの上達度合いを正しく把握できることで、より物語が楽しめたのだろうと思います。

 劇中で紹介される萩原聖人の教えは、「目先の牌を追うな」のような、或る意味、色々な勝負ごとに共通する考え方だと思われます。たとえば、株でも中長期的には必ず得をするメソッドが存在していて、そのメソッドに本当に忠実であれば、間違いなく儲けられるのだと聞いたことがあります。それでも儲けられない人間が多数派であるのは、目先の状況に一喜一憂し振り回され、メソッド通りの対処が感情的にできなくなってしまうからなのだというのです。

 劇中のミーコを見ていると、多くの女流プロとの勝ち抜き戦の中で、ミーコより余程利発そうな顔をした女流プロも、ミーコより余程落ち着いた風の女流プロもゴロゴロ存在します。その中で、「師匠の言ったことをその通りにやる」とブレないで勝負できる…というのだけが、敢えて言うと唯一の「強み」であるミーコがここまで勝てるのは何でなのかという、素人的な疑問が湧きます。先述の株のように、師匠の言うことが或る意味当たり前の鉄則であるならば、他の女流プロがそれを知らない訳はないですし、ほぼほぼブレずに勝負に臨むこともできそうな気がするのです。(現実にミーコは師匠が出し渋っているかの如く、シンプルな表現で教える勝つための秘訣を、「簡単すぎる」とか「当たり前のこと」と何度も評しています。)その辺が、どうも物語の作りに説得力が欠けている部分であるようにも思えました。

 しかし、面白い作品だと思います。麻雀が分からなくても娯楽ものとして、元々短い尺の94分が観る者を飽きさせずにどんどん過ぎて行くように感じられます。頻繁に拗ねたり、駄々をこねたりするミーコは、ややウザく感じる面も否定できませんが、それを感じさせないぐらいに、師匠はミーコに真剣に向き合っていると解釈できます。

 DVDは一応買いです。しかし、買えば、劇中に登場する手を一々分かる人間に解説してもらいながら見直したくなる誘惑に駆られることと思います。

追記:
 ミーコの本当の名前は丘葉未唯子(おかばみいこ)で「オバカミーコ」は本人もふてくされた時に自称する渾名です。なぜいつからそう呼ばれるようになったのかは、劇中でほとんど触れられていなかったように記憶します。原作でもどうであるのか分かりませんが、少々説明してくれても良かったように思います。

追記2:
 師匠のライバルでいけ好かないプロ雀士の男を波岡一喜という俳優が演じています。この俳優は、比較的最近よく観ていた『SPECサーガ完結篇SICK’S~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』の主要悪役の一人で、どうもそちらの印象が強過ぎて、この作品では、マンガ的演出とセリフ回しが(キャラ設定的には正しいのだろうと想像しますが)やけにわざとらしくて少々鼻につきます。