『一度死んでみた』番外編@つくば

『心霊喫茶「エクストラ」の秘密-The Real Exorcist-』を観た後、1時間を置かず始まるので、慌てて上階のフードコートで軽食を済ませて映画館に戻ってきました。5月下旬に入った木曜日の午後、1時40分からの回です。

 3月下旬の封切作品で、いつもの広瀬すず問題で観ようか観まいか迷っていた作品です。封切から時間が大分経ちましたが、特に非常に人気だから続いているのではなく、(当然ですが)ウイルス対策の空騒ぎで休館前の状態の上映スケジュールがそのまま凍結されていた結果のこの時期の上映で、ずるずると今に至っているという感じだと考えられます。ですので、1日2回の上映も多いのか少ないのかがよく分かりません。

 先述の通り、私はこの映画を観るべきか否かかなり迷っていました。どうも好きになれないままの広瀬すずが主演していることが最も大きな原因です。一時期ネットで叩かれていた「照明さん発言」などの情報も、彼女の腫れぼったく見える顔が視界に入ると、「そういう性格なんだろうな」と不思議とフィットして感じられるのです。かなり無理のあるバイアスと分かっていても、条件反射的にそう思えるのは不思議です。各種の映画のパンフレットでは天才的に演技が上手との評価が為されているのを散見しますが、(下手とは全く思わないものの)特段上手とも私には思えません。避けられるのなら避ける要素だと思っています。

 ただ、今回避けられなくなった理由は、観る映画の選択肢が世界規模の洗脳による空騒ぎで非常に限られてしまったことと、脚本が『ジャッジ!』の脚本を担当した人物が作ったオリジナルのものであること、そして、主役級の位置に堤真一が存在していることです。堤真一も、すごく好きな役者というほどではありませんが、妙に役柄のバリエーションが広く、どれをやってもそれなりきちんとハマっているように見えて好感が持てます。その三つの理由で致し方なく、今回のつくば遠征で観るべき作品にしました。

 DVDで観た『ジャッジ!』はやたらに深い作品でした。単純にハチャメチャな面白さもたくさん含まれているのですが、それ以前に、欧米の主張文化や欧米人の人種偏見などに日本人がどう向き合うべきかという論点が秀逸ですし、さらに広告業界のウラのようなものも抉り出して見せる展開も楽しめます。家で一緒に『ジャッジ!』を観た娘が、テレビの比較的派手なつくりのCMを観るたびに、「『ジャッジ!』を思い出す。CMはあんな風に作られているのかと驚かされた」というようなことを言っていました。それほどに、『ジャッジ!』は、知名度が低いものの間違いなく物語が厚く作り上げられた名作です。

 それと、敢えて挙げると、この作品に多少の「借り」があると感じたこともあるように思います。最近手に入れたiPadに『ぴあ』のアプリを入れたのですが、その中の上映映画作品を自分の位置情報から「●●キロ先に上映館がある」と調べることができるのです。三島近くの商業施設サントムーンを4月の終わりに見出したのもこの方法でした。ただ、この方法を実行するには、特定の、それも広くあちこちで上映されていて不思議がないような作品をまず選択しておき、その上映館の中から、近いものを選び出し、その館の上映状態を改めて検索して調べると言った手続きを踏む必要があります。その上映館炙り出しに使っていたのが、この『一度死んでみた』なのです。東京から近距離にあるマルチプレックス・シアターではほぼどこでもこの作品が上映作品群に含まれており、検索に非常に便利でした。「それだけ検索に利用させてもらっているのに、観ないのもどうよ」と何か義理を感じたのでした。

 シアターに入ると、10人ほどの観客がいて男女半々ぐらいでした。若い男女ばかりで、多分、自分が一番高齢だと思います。観てみると、それなりに楽しめる映画ではありました。遅れてきた反抗期娘の立ち直り、若しくは、デスメタル・ヴォーカリスト版の積み木崩しコメディ仕上げ…と言った物語は、あまりに想定通りで、特筆すべきものは見当たらないように感じました。

 私にとっての最大の魅力は、デスメタルのライブシーンで、優れた出来映えでした。話の展開が雑で未整理な『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』よりは圧倒的にマシに感じられます。私の知っているメタル系の劇中ライブシーンとざっくり比較すると、『デトロイト・メタル・シティ』に少々劣り、『101回目のベッドイン』と同等ぐらいの感じに見えました。チョイ役で登場するHOUND DOGの大友康平も、パンフレットに拠れば、「売れないバンドの設定に無理があるぐらいカッコいい」と褒めたという話があります。先述の物語そのものの厚みに少々乏しい作品なので、妙にライブシーンで尺が埋められている感じがします。エンドロールなどでも、繰り返し繰り返しライブのヘッド・バンギングのシーンが挿入されていたりします。

 主人公広瀬すずがわざとらしく「…です」という文尾を「…death」と表現するのは、調べてみるといつの間にか人数が減っていたベビーメタルの楽曲を思い出させますが、それがどうも板についていません。板についていないから、簡単に反抗期が終わるという設定なのでしょうが、それでも何か“取り敢えず分かりやすいそれっぽい記号を入れてみた”感じがやたらに匂うのでした。

 そのせいもあって、気にしていた広瀬すずはやはりあまり好きになれませんでした。 しかし、この映画全体へのまあまあの好感で底上げされ、さらに、劇中何度も彼女が「ネコタヌキ」呼ばわりされることで少々溜飲が下げられ、広瀬すず出演作の私のランキング中では、『ラプラスの魔女』、『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』、『ルパン三世 THE FIRST』に次ぐ、4位につけたように感じます。

 ヴォーカリストの役回りのためボイストレーニングにも励んだとのことですし、現実に『デトロイト・メタル・シティ』の松山ケンイチ張りに歌声が実際にサントラに収録されることになっていますが、どうもデス・メタルの雰囲気になり切れていない気がします。(ただし広瀬すず以外はかなりバリバリのメタル感があります。)これであれば、短い尺ながら、ハードロックの世界のヒロインに挑んだ『日々ロック』の二階堂ふみの方が数段上にいます。

 ただ、パンフによるとヒャダインによるもののようですが、映画全体で使われている数々の曲は印象に残るものが多く、『万能鑑定士Q モナ・リザの瞳』以来、久々にサントラを買ってみたくなりました。

 観てみて高評価なのはやはり堤真一の好演だと思います。DVDで最近観た『決算!忠臣蔵』よりだいぶ上で、キャラがガッツリ立っている『姑獲鳥の夏』と『魍魎の匣』のシリーズや『神様はバリにいる』、そしてTVドラマの『リスクの神様』に次ぐぐらいの曲者役を軽々と演じているように見えました。

 この映画の一つの見所は豪華キャストです。それも、先述の大友康平のようにチョイ役で色々な人物が登場します。チョイ役の常連感がある竹中直人はまだしも、たった数秒程度の出演を佐藤健が嬉々として演じているのには驚かされます。(パンフにも「楽しみにして、この撮影のために1年間髪を伸ばした」のように書かれています。『るろ剣』の新作の撮影の準備も兼ねていたのかもしれませんが…)ホテルの支配人の妻夫木聡も「どう爪痕を残そうか考えていて、プレッシャーがありました」とパンフでコメントしていますが、確かに、勿体ぶった口調で不必要なぐらいに登場し、最後にはライブに陶酔する様子は笑えます。さらに、30代半ばの松田翔太にどう考えても無理強いな“老人”の役も一見の価値があります。(先日DVDで観た『東京喰種 トーキョーグール【S】』は、文字通りの怪演でしたが、本作も或る意味ド級の怪演です。)

 他にもまともに日本語を使えない中華料理店主人(ちょっと差別感がある)でんでんや、掃除のおばさんの原日出子、死神のリリー・フランキーも味があります。先述の大友康平も登場時間は短いのにかなり目立っています。ロック・ミュージシャンの俳優商売というカテゴリーなら『九月の恋と出会うまで』のミッキー・カーチスの好演を超えています。(ミッキー・カーチスには『ロボジー』という俳優業の金字塔がありますが…。)

 流石にずっと被り物で正体が分からない烏丸せつこや田口トモロヲ、さらに“がまん汁”という前代未聞の奇役に中村獅童を配置した『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』には今一歩及んでいませんが、豪華キャストがチョイ役でも有効に機能しているという観点で見ると、本作の方が優れモノかもしれません。

 取り分け私がかなり気に入ったのは、木村多江です。落ち着いていて、寧ろ地味目の外観から真面目な女性や暗い女性、思いつめた女性の役が多いように感じますし、私の過去の木村多江のベスト三作は『ユリゴコロ』、『ゼロの焦点』、TVドラマ『ストロベリーナイト』の『悪しき実』というエピソードの準主役級の役どころでした。ところが、この作品では、コメディエンヌの部分を開花させた彼女を見ることができます。パンフでもその部分の撮影では「恥ずかしかった」とコメントしていますが、なかなか貴重なシーンではないかと思えます。

 ちょっと中身が薄い気がしますし、ライブ・シーンが穴埋め的に乱用されている感じがしますし、広瀬すずはスルー前提で観る必要があります。しかし、意味ある、癖あるチョイ役を嬉々として演じる豪華キャスト、そして好演が炸裂する堤真一と木村多江を観る価値があるので、DVDは買いです。

追記:
 つくばのショッピング・モールからの帰りはバスに乗ろうと考えて、行き先を確かめたら、全く聞いたことのない「ひたち野うしく」という常磐線の駅に行くことになり、各駅停車で日暮里に向かうことになりました。