『心霊喫茶「エクストラ」の秘密-The Real Exorcist-』番外編@つくば

 5月21日木曜日段階で未だに自身の存在意義とミッションを忘れた馬鹿げた映画館ばかりの1都3県では全く映画が観られないのでつくばに足を伸ばしました。この後、一週間で1都3県で映画がどの程度観られるようになるか分からないので、一気に二本を見る組み合わせを考えて、早朝からTXに乗って向かいました。9時台最初の電車に秋葉原でギリギリで間に合って、つくばの駅に10時少々前に到着。20歳の頃に一度着たことがあるはずのつくば万博以来の、この界隈です。駅からは取り敢えずタクシーで15分のイオンモールに向かいました。

 この作品を観ることにしたのは、2本を観る前提で一応本命と位置付けている『一度死んでみた』の前に一本を片付けようとすると、選択肢が実質2、3しかない中でこれになってしまったものです。
 
 5月15日の封切から約1週間。この映画館では1日2回の上映。平日午前10時50分からの回でした。なぜかクレジット・カードの支払いの選択肢がない非常に珍しい券売機で見ると、隔席対応で選べる座席は3分の1近く埋まっていました。封切からの日の浅さはあるものの、この世の中の空騒ぎの真只中で、この埋まり方は尋常ではないと思いました。しかし、シアターに入ってみて、元々知っていた事実が理由であると分かりました。

 この作品は或る宗教団体制作の作品なのです。シアターに、手を振りあい、挨拶しあいながら集合する女性信者は皆高齢で20人以上いました。男性は高齢者1名。最後列の端の方に陣取った私を見つけて団体関係者と思い、会釈をする女性信者らしき人物も数人いました。

 時間の都合上、選べる作品の選択肢は一応他に数本ありましたが、それでも敢えてこの宗教団体制作映画を選んだのには、微かな理由が一つ二つ存在します。一つは、私はこういう素性の作品を観たことがないので、(つくばまで来てわざわざ観る状況の中で)試しにどんなものか観て見てみるのも悪くないと思ったことです。そして、もう一つの理由は主演女優です。

 主演女優は千眼美子とクレジットされていますが、その著書に『全部、言っちゃうね。~本名・清水富美加、今日、出家しまする。~』というものがあるように、以前は、清水富美加という女優でした。AV女優でも在籍プロダクションを変わると名前が変わるケースがよくありますが、この千眼美子も出家と同時にプロダクションを移ったようです。私が彼女に関心を少々持てた理由は、彼女がDVDで観た『東京喰種 トーキョーグール』のヒロイン役で、かなりハマリ役だったのに、なぜ第二作では降板したのかを訝っていたからです。ただ、訝りつつも調べもしていませんでしたが、今回、この作品を観ることにして事前にちょっとネット情報を見ていて初めてその理由を知りました。

 私はリアルタイムでそのような事実を全く知りませんでしたが、出家に伴い、ラジオ番組などのレギュラー番組を唐突に降板することになったり、映画作品のプレミアにも姿を出さないことになったりするなど、色々な騒動になった挙句に、芸能界内の不倫も発覚したようです。仮面ライダー・シリーズのヒロイン役やNHKの連続テレビ小説のヒロインを務めたりしている、注目女優だったでしょうから、騒ぎが大きくなったのはむべなるかなと思えなくはありません。

 TokyoWalkerでは「清水富美加」の名前からリンクさえ切られている扱いになっており、清水富美加で検索すると出演作品のリストは出ますが、文中にある彼女の名前からのリンクがなく、他の出演作の情報をワン・クリックで出すことができません。

 私はこのような扱いをあまり支持しません。単に芸能人の思想信条はどうでも良いことだと思っているからです。一方で芸能人が自分のブランド力を用いて政治的な活動を行なうのも好きではありません。背景に金を積んでいる誰かが存在しているのかもしれませんが、或る意味、悪質なステマのように見えます。特に昨今国会でも中身の薄い議論が続いている検察庁法改正案などへの芸能人の大挙してのSNS上のコメントは、ホリエモンなども指摘していますが、全く勉強不足の表層的な感情論が多く辟易させられます。寧ろ三権分立の均衡を蹂躙することさえできる検察の強大な権力を抑制する方向の良い施策であるように私は思っていますが、芸能人の感情論はそれに完全に逆行しています。

 芸能人はそのまま芸で評価されるべきだと思っていますので、その研鑽とその結果を誇示していただきたいものと思います。暇潰し芸能ニュースで不倫が再三バッシング・ネタになり、その不倫俳優の出演作が振り回される結果になっていますが、私はそのような配慮が全く必要ないものと思っています。麻薬などの犯罪に手を染めた芸能人なども、その罪の罰さえきちんと受ければ、別になんだということはないものと思っています。

 芸術に生きている人間は、或る意味、異常な価値観を持っていることが多いですし、そうであらねば日常の中に凡人では見いだせない切り口や解釈を見出すことが困難であることが多いのではないかと思います。多くの近代文学の作家にとって、不倫など飯のネタぐらいにしか思われてなかったフシがあります。女性と入水した作家が自分だけ生還したら、かなり殺人の嫌疑が発生するように思えます。借金を踏み倒したりする者もかなりいたはずです。

 例えば海外の画家でも、カラバッジョは人殺しですし、ゴーギャンは未成年性愛の傾向が三度の結婚歴から感じ取れます。では、これらの人々の作品は一様に唾棄するべきものでしょうか。全くそんなことはありません。ですから、芸能人も芸術家の端くれなら、芸だけで自分の価値を打ち出せばよいものと思うのです。

 プライベートの宗教活動の扱いも同じであろうと思えます。宗教団体のプロパガンダ映画であるなら一般の映画館で一般に公開するのに問題があるでしょうが、単に特定の宗教を信仰しているという理由だけで、各種の番組から締め出したり、リンクを切ったりするのは子供じみています。トム・クルーズやジョン・トラボルタはサイエントロジストとして有名でしたし、マイケル・ジャクソンは除名されるまでエホバの証人であったように記憶します。大体にして、新興宗教はダメで信者数の多く歴史のある宗教の信仰は問題ないという基準自体が、全く意味を成していません。

 映画を観てみると、「スピリチュアル系(/オカルト系)SFヒロインもの」とでもいうような感じのジャンルの作品で、B級映画、ないしはVシネ作品ぐらいとしてみたら、十分楽しめるものでした。作品背景にある、神がいて、主人公ら修行を重ねた神の僕(しもべ)の様な退魔師(「真のエクソシスト」と呼ばれています)がいて、相手側には、人の悪しき執着から生まれた悪霊がいて、その悪霊とどのような関係か全くわかりませんが、強力な魔力を持つ悪魔もいるという世界観は、正直、各種の宗教や各種の同類映画の設定を寄せ集めた感がかなり否めませんでしたが、特撮もそれなりに凝っていますし、108分の短い尺の中で妙に細かいエピソードが次々と重なるので、主人公の大活躍が休みなく続き、飽きさせません。
 
 主人公のみならず演じる千眼美子も大活躍で、妙に説教臭い歌詞や妙に説明口調の歌詞の数々の主題歌・挿入歌のうちの一曲を歌っています。またこの宗教団体にとっての看板娘のようで、トレーラーが流れていたもう一本のこの団体の作品でも主役を務めていました。

 かなり高齢の女性信者たちがこの作品をどのように楽しんだのかはさっぱり分かりませんが、退魔を主題にしたヒロインもののテレビ番組だと思えば、少なくとも私は楽しめました。中に登場する輪廻観なども『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』などの六道の輪廻観に近いようで、特に違和感が湧くものではありません。

 製作総指揮のO総裁もエンディング近くで主人公がバイトをしている喫茶店のシーンでカメオ登場していましたが、(私はよく知りませんが)どうも一緒にテーブルを囲んでいた女性二人は親族二名のようでした。パンフレットが「この作品のものは明日からの販売」ということで入手ができず、詳細の情報をきちんと確認できませんが、この二人が脚本を書いていたり、主題歌を作って歌ったりしているようでした。この映画館は営業が再開されて3日ほど経っていますが、休館期間のバックヤード作業も滞っていたのか、パンフレットが現地に届いていないのは、少々問題ある物流体制だと思われます。

 教団の教えに従った、先述の様な正邪二元論の世界観がベースになっていますが、正の側の力の源泉は神様への感謝であり、日々人々の役に立つことが修行と言われています。神様と言ったりお釈迦様と言ったり表現が統一されていませんでしたが、人生に向き合う姿勢として打ち出している訓えそのものは的を射たものに思えました。登場人物が何かと言えば、手に持って参照する書籍は全部教団のもので、何気に挿入されている程度を大きく超えていますので、少々煩い感じはしますが、今どき、スポンサー商品の挿入は常識ですから、この作品だけがおかしいとは言えません。

 先述の通り、訓えそのものに如何わしさもなく、執拗な布教を行なうような姿勢もありません。以前観た『神は死んだのか』の方が、明らかに無宗教者や他宗教信者に対する悪質な偏見に満ちていて、非常に不愉快な「プロパガンダ」作品でした。

 エンドロールでは、多くの中小零細企業やクリニックなどが名を連ねていました。多分信者の経営している組織なのではないかと思えました。さらに制作協力という立場なのか、多数の大手書店群(紀伊国屋書店やブックファーストなど)も名前が制作側に近いところで掲げられています。宗教に走って出家した元「清水富美加」へのタブー感を考えるとき、これらの書店が名前を出すことになぜ誰も違和感を持たないのか非常に不思議でした。たくさん書籍を出してくれて、信者がたくさん書籍を買ってくれる有難い団体への協力活動なのかもしれませんが、ビジネスはビジネスと割り切っていいのなら、相応に演技力もある千眼美子に宗教団体制作の作品以外の活躍の場が、もっと広く用意されていてよいように思えてなりません。

 楽しめる作品ではありますが、Vシネのレベルを超えていないように私には感じられ、「モナコ国際映画祭で4冠達成」がどのような評価と仕掛けで為されたのか、私には分かりません。よくお菓子や食品にある「モンド・セレクション」のような仕組みであるのかもと訝りました。『東京喰種 トーキョーグール』ほどのアクションのキレもキャラの掘り下げも見当たりませんが、久々に見たSFモードの元「清水富美加」は楽しめました。DVDは辛うじて買いかなと思います。