474 労働の熱意

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経営コラム SOLID AS FAITH 第474号
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 ご愛読ありがとうございます。第474話をお届けします。

 当コラムも創刊からまる20年に至ろうとしています。1999年の10月末日に
第一話『反復の自由』を発行してからあと1週間でまる20年です。その間も中
小零細企業の経営環境は激変し、書くネタに困ることは全くありませんでし
た。

 10周年記念特別号は、それまでの号を振り返りつつ、また読者企業のオー
ナー経営者に寄稿をお願いしたりしつつ、「オーナー経営者」の“生態”を
描く内容でした。10進法の世界観では意味深く感じられる20年の節目でも振
り返れば色々とまとめられるネタはありましたが、先述のような迫りくるさ
らなる経営環境の激変を予想する内容の方が、読み物としても面白く、且つ、
有用であろうと考え、そのような未来予測型の内容に致しました。題して
『消えていく社員/小さくなっていく会社』です。PR欄に最終決定した章立
てなどを紹介しておりますので、ご高覧ください。
 
 今号の『労働の熱意』は、変わりゆく「労働の意義」について考えてみた
ものです。すぐに訪れる訳ではありませんが、世の中は徐々に「人間が働か
なくても良い世界」に移行し続けています。直近の「働き方改革」も向きだ
けで言うなら、間違いなく「人間が働かなくても良い世界」を指向していま
す。そして、以前より多くの人が話題にするようになった「ベーシック・イ
ンカム」の世界観はまさに「人間が働かなくて良い世界」が成立した状態と
見ることができるでしょう。
 
 緩やかに、しかし確実に、そのように世の中が変わる現在、労働はどのよ
うな人々にどのような「快」をもたらすものと認識されるのか。そんなこと
を「働き方改革」が引き起こす状況を鑑みつつ紹介してみた内容です。ご一
考賜れれば幸いです。ご意見・ご感想お待ちしております。頂戴したご感想
などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その474:労働の熱意

 被雇用者の残業時間の上限が決まった。副業可能も就業規則のデフォルト
だから、本業と副業の労働時間を通算して上限に達しないようにする必要が
あるという。カラダが衰えた老人も元気溌剌の若手も、どれだけ働きたくて
も上限以上に働くなとオカミが決めた。今度はオカミが最低賃金を引き上げ
る。最低賃金を引き上げたところで、企業の側では突如粗利が増えて人件費
総額が増やせる訳もない。最低賃金が上がれば雇える人数が減るだけだ。多
くの人が職を失う可能性があっても、「安く働くな」とオカミは繰り返す。
 
 労働はどんどん不自由になっていく。高い値段で短い時間働く人々と安い
値段で働けなくなって職を失う人々。総所得を合計したら、多分、働き方改
革以前に比べて大幅減になるのではないか。個々人の所得額の統計的分散は
より大きくなるのかもしれない。

 認知不協和の研究で知られるアメリカの心理学者レオン・フェスティンガ
ーは、実験台の学生達に、単調で面白くない仕事をさせて報酬を支払った。
そして、次に同じ作業をする学生にその作業の楽しさを伝えさせた。20ドル
渡すと、学生達は次の学生達に、単調な仕事のほぼありのままの評価を伝え
た。ところが1ドルしか渡されなかった学生達は、良い仕事だったと自分で
も思っていて、次の学生にもそのように伝えたのだった。

 1ドルしか貰えなかった学生達だって、本当は面白くない仕事だと感じて
いる。けれども、面白くない仕事をさせられて、安いカネしか貰えないので
は割に合わない。すると、無意識的に学生達は「あの仕事は面白かった。だ
から安いカネでもやる価値がある」と自分自身を偽った認識に従わせる。本
人達は負け惜しみとさえ思っていない。すべては無意識の中でほぼ自動的に
決定されている。認知不協和を解消するニーズはそれほどに強力だ。
 
 世の中には面白い仕事などあまりない。ただでさえ「自分に合っていない」、
「社会貢献していない」などと、青い鳥を追って退職する人は多い。フェス
ティンガーの説によれば、面白くない仕事をさせておくなら、激安の報酬し
か払わないようにした方が良い。そうでなければ、「あの仕事は面白かった。
やりがいがある」などと思ってくれない。

 たくさん働いてもいけない。安く働いてもいけない。面白くない仕事をさ
せて高いカネを払えば、仕事をありのままに面白くないものとして受け容れ
てしまう。労働時間の上限規制で、従来より仕事の習得も遅くなるだろう。
企業にとって高人件費・低意欲・低スキルの三拍子揃った被雇用者が、オカ
ミの音頭取りで増えていくのかもしれない。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

1999年10月末日の創刊からとうとう20年が経ちます。
今年も例年通り10月末日に発行する周年記念特別号は
『経営コラム SOLID AS FAITH 20周年記念特別号』です。

とは言っても、特に過去の歩みを振り返るのでもなく、
急激に変わり始めた経営環境について
かなり簡潔に6つの切り口からまとめてみることにしました。

ドラフトから推敲を重ね、
最終的なテーマと章立てが決定しました!

テーマは…
『消えていく社員/小さくなっていく会社』。

 第1章:小規模化するマーケット・セグメント
 第2章:生き残りの難しい中堅企業 あるあるチェックリスト
 第3章:雇用から遁走する中小零細企業
 第4章:消えていく組織マネジメント
 第5章:機械化・自動化で様変わりする現場
 第6章:色褪せる中小零細企業の“事業規模拡大”

※第1章と第4章は、来年独立予定のおくだみゆきが担当しています。

クライアント企業の現場を訪問してパッと見れば、
まるで毎日が同じように過ぎていくかのようです。
しかし、そうしている間にも、
大きな経営環境の変化は徐々に速度を上げています。

何がどんな風に変わるのかがまあまあ分かる20周年記念特別号。
是非、ご期待ください。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『これからおもしろくなる世界経済』 増田悦佐 著
■『未来年表 人口減少危機論のウソ』 髙橋洋一 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第475話 『万一の備え』 (11月10日発行) 
 高度に自動化が進んだ職場が増えた未来。そこでは不測の事態やエラーは
たまにしか発生しなくなります。人間の仕事の多くは、そのあまり起きない
事象への対応ばかりになるのかもしれません。

(完)