473 約束の融解

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経営コラム SOLID AS FAITH 第473号
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 ご愛読ありがとうございます。第473話をお届けします。

 取り急ぎ国内社会を全人口が参加するゲームだと考えるとき、そこには三
種類の参加者が存在すると弊社代表の市川はよく言います。大多数はゲーム
のルールを知らずにただ参加している人々。それなりに存在するゲームのル
ールを熟知して勝ち越している少数派の人々。そして、自分達の必要に応じ
てゲームのルールを変更することができる一握りの数の人々です。ルール変
更ができるようになるには、権力などの何かの強いパワーを持つ必要があり
ます。それはなかなか大変なので、せめて、ゲームのルールを熟知したプレ
イヤーになるべきであるのは自明です。

 先日、数年後に老舗の店舗を承継する若夫婦のお話を伺う機会がありまし
た。驚くべきことに、マーケティングの基礎知識や、有名なランチェスター
戦略の超初歩的知識による差別化の考え方どころか、資金繰りも何も分かっ
ていない状態でした。VUCAの時代、ゲームはどんどん複雑で読めない展開ば
かりになるのに、ルール一つ満足に知らずに参加しようというのは、豪胆な
のか非常識なのか判別がつきません。
 
 独立支援を行なうコンサルタントやコーチによると、このような状態で起
業しようとする人々は毎月毎年夥しい数に上るとのことでした。そのような
人を「動機づけ」たりしつつ、「注意を喚起し」たりするだけの仕事をして
いる様子でした。早晩絶望的に負けが込んで強制退場させられそうなプレイ
ヤーを量産するだけが彼らの商売です。そして、こうした反倫理的な商売を
他所に、ゲームのルールや構造をきちんと教えるビジネスには、潜在的な需
要が以前以上に膨らんでいるように思えてなりません。
 
 今回の号は『約束の融解』と題して近未来の契約の形を考えてみることに
してみました。就活と婚活は以前、社会のお膳立てによってその必要性がか
なり低く抑制されていました。お膳立ての枠組みが徐々に消失して自由化さ
れた途端に、成果が自己責任とみなされるようになり、就活や婚活から遁走
する人々が大量に発生することになったのが現状、と見ることができなくあ
りません。そこで、近未来の結婚の形を議論する中から、近未来の雇用の形
も考えてみるという、大胆な構成のお話になっています。お楽しみください。
ご意見・ご感想お待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標
納期は5営業日!!

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その473:約束の融解

「こうした中で、現行の法律婚を「チェックリスト方式」に分解した方がい
い、という提案も出ている。結婚した場合、法律で定められている様々な義
務(夫婦同姓、同居・扶助義務、婚姻費用分担義務、日常家事債務の連帯責
任、貞操義務、未成年の子の監護義務)と権利(財産分与請求権、相続権)
をすべて自動的に負うことになる。そこに選択の余地はない。
 しかし、これらの義務を全て選択可能なチェックリスト方式にして、婚姻
届を提出する際、パートナーとの話し合いの元に、自分たちが望む義務と権
利だけを選べるようにする」。

 坂爪真吾氏の『未来のセックス年表』の中の2050年頃に起こり得る変化に
ついての記述。同じ章の冒頭には、2014年に世界初、2018年に日本初が行な
われたブロックチェーン婚も紹介されている。曰く「ブロックチェーン上に
は宗教的・文化的な規範が存在しないため、同性婚や一夫多妻・一妻多夫な
どの多夫多妻(複数婚)、ペットの犬猫やロボットとの結婚も可能になるだ
ろう」。これにチェックリスト方式の婚姻が重ね合せられるとき、現在メデ
ィアを騒がせる不倫の概念も消し飛んでしまうだろうと予測されている。

 2019年4月から施行された高度プロフェッショナル制度は世の中に広がっ
ていないと報道されていた。労働時間に規制がなく、そこに就業規則上デフ
ォルトになった正社員の副業を加えれば、実質的にその人物の働きぶりは個
人事業主に近づいていく。高度な能力を持つプロフェッショナルであるのだ
から、引く手も数多あるだろう。その人物には高度プロフェッショナル社員
になる必要があるのか。個人事業主は健康情報も家族構成も職場に告げる必
要がない。何でどう稼ぎ、どう生きようとすべて自分次第で、プライバシー
は完全に職場と分離される。
 
 企業の側も雇用がいい加減疎ましいものになってきた。人を雇用で抱える
ことのリスクもコストも上昇する一方で、それに見合うのは一握りの人材し
かいない。それ以外の人間を排除して問題ない事業形態を採れば、多くの場
合、先端技術の大量活用をおこなうことになる。すると、雇用され続ける人
材は、それらを使いこなせる優れた人材に限られてしまう。それなら雇用さ
れ続ける人材も多くは早晩個人事業主化してしまいそうだ。高くなり続ける
人件費に見合わない人は元々雇われず、見合うほどの能力があれば独立しや
すい。どちらのケースも雇用は成立しにくい。
 
 犬とでさえ結婚できるようになるらしい2050年。人を縛る約束に背景もな
ければ文化もなく、ただ無機的に本質だけが追求されるようになるらしい。
永く人と会社を縛ってきた関係性も、結婚よりもっと早く解け始めて、形を
成さなくなる可能性がありそうだ。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

今年も例年通り10月末日に発行する周年記念特別号。
今年はとうとう20周年です。

20周年とは言っても、特に過去の歩みを振り返るのでもなく、
急激に変わり始めた経営環境について考えてみることにしました。
テーマは…
『小さくなっていく会社/消えて行く社員』。

■第一章:中規模企業の受難
■第二章:組織マネジメントの消失
■第三章:小規模化するサブ・マーケット
■第四章:会社組織規模拡大欲求の喪失
■第五章:雇用の負担増
■第六章:現場の機械化の進展

既に過去の号でシリーズなどにして紹介したテーマを
再録したり、まとめなおしたりする部分も含まれていますが、
昨今の経営環境・労働環境の変化と中小零細企業の経営を
うまくつなぎ合わせて描ければ良いと思っています。

全体テーマや各章タイトルの表現に、
まだ変更の余地がありますし、
章の順番にも入替の余地がありますが、
ラフドラフト段階までは原稿作成も進みました。
第二章・第三章は、合資会社MSIグループとほぼ同じドメインで、
近く独立して事業を開始する予定のおくだみゆきが担当します。

会社の現場を見ていたら、
毎日が同じように過ぎていくかのようです。
しかし、そうしている間にも、
大きな変化の動きは徐々に速度を上げています。

何がどんな風に変わるのかがまあまあ分かる20周年記念特別号。
是非、ご期待ください。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『「ポスト真実」時代のネットニュースの読み方』 松林薫 著
■『もっと言ってはいけない』 橘玲 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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 bizcom@msi-group.org
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
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毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け20年。

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 また、まぐまぐからの連絡によると、一部フリーメール運営企業でサー
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ガジンの到着が遅れるとのことです。
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次号予告:
 第474話 『労働の熱意』 (10月25日発行) 
 職場の日常に浸透し始めた「働き方改革」。その行く末にある労働につい
ての認識の在り様を少々考えてみました。

(完)