6月下旬の封切からまる1ヵ月と1日。月曜日の夜9時35分の回を新宿ピカデリーで観て来ました。新宿ピカデリーが連続していますが、上映館が非常に限られていて、新宿では新宿ピカデリーしか選択肢がありません。ただ、相応の人気で、上映館が限られているためか、封切1ヵ月の段階でもまだ1日4回も上映しています。
ロビーはまあまあ空いていましたが、シアターに入ると、40人以上は観客がいたように感じます。皆、原作コミックのファンと言うことではないように思いますが、30代前半までの若い男女の二人連れが非常に目立っていたように思います。同性も比較的二人連れが多く、結果的に男女構成比はほぼ半々という感じでした。
私がこの映画を観に行きたいと感じたのは、単にトレーラーが面白そうだったからということが大きいと思います。凄腕の殺し屋が普通の人々の生活に紛れ込むという話では、続編までできている、ブルース・ウィリス主演の『隣のヒットマン』が連想されます。私は結構好きな作品です。その日常的な生活を送るヒットマンの違和感をさらに増幅した感じを期待できるのなら良いものと思って観ることにしたのです。
原作のコミックは全く知りませんでしたが、最近のコミックからの映画化作品はどちらかと言うと、ラブコメやら青春モノが多いように感じていたので、そういった分野ではない、自分の知らないコミックを知る機会を敢えて作るのも良いだろうと考えたこともあります。
ヒットマンの違和感の面白さは、観てみると期待以上でした。ブルース・ウィリスのような世の中の常識を普通に備えている人物設定ではなく、プロの殺し屋として子供時代から育てられたため、日常生活の常識に欠けるところがあるという所が、笑いのツボとなっています。山中でサバイバル経験をさせられたことから、虫などでも平気で丸ごと食べることが常態化していて、鶏の手羽先なども骨まで全部バリバリと食べてしまったりします。笑う映画ではありませんでしたが、『フリージア』の主人公が邦画ではむしろ似たタイプであるように見えます。その普通人離れをした状態を、ほんのり恋心が芽生えて来る相手の山本美月がいちいち驚いて見せてくれるので、その違和感が非常に引き立っていて楽しめました。
この作品のアクション・シーンへのこだわりは凄いようです。パンフでもかなりその点が強調されています。しかし、アクション評価眼がほぼ全くない私には、最大の見せ場になっている後半の大混戦もイマイチでした。寧ろ、冒頭の、まだ「普通の人として一年間暮らせ」とボスに言い渡される前の、能力全開の大殺戮劇の方が面白かったです。料亭で宴会を開くヤクザ組織を丸ごと皆殺しにするシーンで、代表的な所では『キル・ビル』とか、アニメなら『いぬやしき』にも登場しますし、それ以前に、昭和の多くのヤクザ系映画に登場する定番のように思えますが、楽しめます。
アニメの『いぬやしき』の時にも多少似ている表現が使われていますが、主人公の無意識的な瞬時の殺人判断をAR技術を使ったように、画像化して見せているのです。『いぬやしき』の際にも、全員視覚を奪うように目を潰しつつ無力化していくような場面だったと思います。まるで『コブラ』のサイコガンのような曲折する光線を水芸のように噴出し、周囲にワラワラいるヤクザの男たちの目を潰していくのです。目を潰す過程で、脳もやられてしまった場合にはそのまま死に至っていたようです。その際に、多数に標的の存在を認識する過程を次々とAR様の画像表現で見せて行きます。この作品ではさらに何歩も踏み込んでいて、殺す優先順位や弾をヒットさせる場所の候補まで、AR表示のように描写します。主人公は弾丸を節約しつつ、効率的に殺人を犯すために、脳・心臓・頸動脈のいずれかを一発で打ち抜き、次々と対象者を死に至らしめます。場合によっては一発で複数を撃ち抜いてさらなる効率化を図っていることさえあるのだと言います。その効率的な殺人が瞬時にどのように判断されているかが視覚的に分かる、非常に斬新な表現でした。
ウィキに拠ると「歴史と格闘技オタク」と自称しているらしい岡田准一は、殺陣や銃撃戦のアクションでも殆どスタント無しで行なうと聞いたことがありましたし、母が観たいと言っていたのでついでにDVDで観た『散り椿』でも、独特の殺陣を自分で創案したと言ったようなエピソードを読んだ記憶があります。今回もそのような感じのアクション・シーンへの貢献がかなり大きかったらしいことが、パンフを読むと分かります。出演している佐藤二朗は「岡田くんの甲冑も特攻服も来ていないラフなTシャツ姿の違和感(笑)」とパンフで述べています。確かにその通りです。
私がぱっと思い出せる中でも、甲冑に武士の着物姿を加え、特攻服は拡大解釈をして軍服まで含めて考えると、例外は『海賊とよばれた男』の袢纏姿とこれからDVDで観てみようかと思っている『来る』のフリーライターのラフな服装ぐらいしか思い当たりません。それでも、流石ウィキにも「ジャニーズ屈指の演技派」とあるだけあって、落ち着いてみていられますし、甲冑や軍服にぴったりのようなむっつりした態度でおかしなことを繰り広げてくれる数々の場面は楽しめます。
トレーラーでも気づいていなかった注目ポイントが一つあることに、映画を観始めてから気付きました。木村文乃の存在です。注目の理由は当然最近ドラマで嵌っている『SICK’S 恕乃抄 ~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』シリーズの主人公のスペック・ホルダー(=超能力者)御厨静琉です。ただ、元々ファンだった『SPEC 警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿』シリーズに比して、何かマンネリ感や冗長感があり、嫌いではありませんが、パワーダウン感が否めません。それは多分御厨静琉のキャラが立っていないことにあるような気がしています。女優としての木村文乃の力量の問題ではなく、台本上の設定の問題であるように思えますが、いずれにせよ、私は『SICK’S 恕乃抄 ~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』シリーズで木村文乃を注視している状態でした。
最近DVDで観た『体操しようよ』でも父を見捨てる娘という名脇役で登場します。私が彼女を明確に認識できるようになったのは、DVDで観た『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』で、その後、これまたDVDで観た『伊藤くん A to E』で完全に全身イメージ的に記憶することができ、そこへ、『羊の木』の名演と『体操しようよ』の好演で、はっきりと記憶に残るようになりました。(ただし、私は画像記憶ができないので、あくまでも比喩的な表現として書いています。)しかし、これらの出演作に比べても、この作品での方が、木村文乃は光っているように感じました。主人公の岡田准一程ではありませんが、かなり際立ったおかしなキャラを違和感なくスクリーン上に描きだすことに成功しているように思えます。
想像通り、イマイチパッとしないのは、やはり山本美月です。劇場で観た『黒執事』、『東京難民』、『女子ーズ』、『Mr.マックスマン』、さらに、これら4作よりも早い段階の作品でDVDで観た『桐島、部活やめるってよ』と比べてみると、どんどん精彩を欠くようになっているように感じられてなりません。メイド姿の近接銃撃戦に挑んだ『黒執事』が、キャラも立っていて一番観やすかったかもしれません。
しかし、私が認識できる役者さんの中では、山本美月を除いて、基本的に芸達者な名優が多く、どちらかと言うと端役に近いフロント企業のチンピラ専務に向井理、さらに、その会社の使えなさそうな会長に光石研。さらに、ガッツリヤクザ系の社長には安田顕。おまけに、岡田准一の殺し屋組織の怖い大ボスには佐藤浩市です。安心して観ていられる人がかなり贅沢に使われていて、楽しめます。同じ安心して観ていられる人々が盛りだくさんで裏社会の人々を演じる作品に『アウトレイジ』シリーズがありますが、あちらには笑いがなく、肩が凝ります。
冒頭の独創的で見事な大量殺人シーンは今一度観たくなるでしょうし、むっつりしつつギャグをかますヒットマンは結構笑えたので、DVDは買いです。
追記:
主人公の岡田准一は普段家の中では全裸と言うのも、少々注目ポイントです。基本的に男の裸には微かな嫌悪感が湧くので相撲も見なければ、公衆浴場にも行く気が湧かない私ですが、あまり気にせず見ていられました。世話係になっているフロント企業社長の安田顕が訪ねてきても、全裸でそのまま対応していたりしますし、全裸でトレーニング・マシンに座り筋トレをしていたりする可笑しさ故であろうと思います。
私も東京の寝泊まりするマンションで一人で過ごしている時は、ほとんど、Tシャツにパンツ一丁のような出で立ちで、すぐ玄関口に出られるような恰好をしていません。遥か以前、女性誌で自宅で普段レオタード姿でいるとスタイルを意識するので痩せるというダイエット方法が紹介されているのを見たことがありますが、全裸ならその効果は絶大かなとか考え至りました。それ以前に、洗濯物が増えないというメリットがあるかもしれません。
追記2:
英単語の「ファブル」の意味さえ知らないで観に行きました。辞書で見ると基本語彙なのに知らないのはまずかったなと反省していますが、この作品のおかげで忘れることがない状態にできたように思います。ただ、同時に発音が「ファブル」ではなく、(無理矢理カタカナ表記で近似すると)「フェイブル」であることも覚えましたが…。
追記3:
私がこの作品を見たのは上の方の階でしたが、上映終了後、トイレなどによってからエスカレータを降り始めると、真ん中の階から大量の女性が溢れ出て来て、エレベータが大混雑になりました。私が自分が入ったシアターで見たこともないレベルの女性に偏った観客層で、見渡す限り、中層階合流組に男性は一人もいませんでした。女性は、概ね20代後半から40代前半に見えました。絵に描いたような地味な腐女子はいませんでしたが、オタサーの姫的な感じの女性の単独客、二人連れ客の集団でした。皆、口々に感想を止め処なく語っていて、エレベータを折り返しつつ降りていく間、何かのアニメ作品の感想をセンサラウンド方式で聞かされ続けました。調べてみると、彼女たちが観た作品は、私の朧気な記憶を手繰って、上映終了時間と上映フロアから判断すると、私が全く知らない『劇場版 Free!-Road to the World-夢』と言う作品だったようです。(もしかすると、『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』であったかもしれませんが…。)