『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

 5月最終日の封切からまる1ヵ月半。7月中旬の土曜日の午前11時10分からの回をピカデリーで観てきました。当然、値上げされた1900円の値段です。その前の週までは、まだ1日数回の上映がされていたはずですが、当日の段階で、ピカデリーもバルト9も1日1回の上映となっており、時間の合う方を選ぶとピカデリーと言うことになりました。

 三連休初日の昼少し前。久々の休日日中のピカデリーのロビーは、歩くのも儘ならないほどに人がいました。目玉的な新作は色々あったものと思いますが、1日1回のこの段階に至っても、この作品の観客もそれなりに存在しました。概ね50人ぐらいはシアター内にいたように思われる観客は、30代から40代にかけての男女が中心層のように見えました。服装や言動からどういうライフスタイルの人々なのか今一つよく分かりませんが、取り敢えず、私が思っていたよりも年齢が高いように思います。性別構成はやや男性が多いように思いましたが、ほぼ半々と言った感じでした。

 先週、バルト9の近くを歩いていたら、20代後半ぐらいに見える外国人(白人)男女3人連れとすれ違いました。その中の女性が延々と、“That was intense!”などと繰り返し大声で言っているので、何の話かと思ったら、この作品の鑑賞後感想と言うことのようでした。残り二人は男性で、ほぼ聞き役に徹していたので、彼女のみの感想しかわかりませんでしたが、“intense”とは具体的にどういう映画なのだろうかと、当時から観に行くつもりではいたので、少々気になっていました。

 大分上映回数も減ってきたので、慌てて観に行ってみて、その意味がすぐに分かりました。詰まる所、息をつく暇がないという感じで、爆発粉砕や銃撃戦や怪獣の騒乱などが次々と起こるのです。次々と起こり過ぎて、全部で14体ほどいるとか言われている怪獣群もその一部しか描写されないほどに余裕がないのです。

 怪獣群がきちんと描写されないことには、もう一つの原因があります。この映画は基本的に、人間同士で繰り広げられる怪獣操作装置争奪戦として全編が成立しているため、人間同士の小競り合いにかなりの尺が充てられているのです。これでは、怪獣たちが活躍する場が限られてしまうのは必然です。

 また、ゴジラ一体だけを見ても、劇中で世界中を移動して回っています。ですので、新たな場所に行けば、新たな場所を最初に一定情報量描写しなくてはならなくなりますので、そこでもまた細かく尺が削られることになっています。

 たとえば、私の好きな平成ゴジラ・シリーズ全作と一部のミレニアム・ゴジラ・シリーズ作品でも、人間ドラマがかなり深掘りされていますが、そのノリがこの作品でもかなり活かされています。軍(日本の作品では自衛隊などですが)の強硬策を巡る議論と奮戦、逃げ惑う人々などなどと言った構図も非常に似ていますが、日本の作品よりも人間側の登場人物が多く、一人ひとりの立場や限られた言動などをトラックするだけでも、かなりの労力が必要で、徒に話が複雑化させられているようにも思えます。

 このシリーズの前作ではゴジラ映画なのに、ゴジラが登場するのは非常に短い時間だけで、それまでの間、MUTOと呼ばれる別の怪獣二体が延々と描写され続けていて、(ゴジラではありませんが)怪獣がガッツリ描かれる中、それに翻弄される何人かの人々が集中的に描かれている感じでした。それが、人間も怪獣もロケーションも増えてしまって、そこに怪獣同士の戦いだの人間同士の戦いだの爆発だの銃撃戦だのをどんどん盛り込むと、こういったせわしない映画になるのだろうなぁと感じました。

 見飽きない映画ではありますし、出来映えは悪くありません。しかし、鑑賞後にぽつんと思うのは、映画が作られる理由というか意義というか、そう言ったものです。私は、リメイクものがあまり好きではありません。もちろん、『恐怖の報酬』など優れた作品も多々あることを知ってはいます。しかし、同じ構図で同じ話を描くのに、なぜリメイクされなくてはいけないのかが分からないように感じることが多いのです。

 今回のゴジラは前作以上に平成ゴジラ・シリーズや一部のミレニアム・ゴジラ・シリーズに作風が寄っています。ド派手なアクションはハリウッド系そのものではありますし、妙に怪獣に近いカメラワークも迫力を増しています。しかし、平成ゴジラ・シリーズ以降、CG技術はほぼ出揃っている感じはありますし、特段、この作品になって大きく何かが進展したイメージを私は持つことができません。日本のオリジナル・ゴジラのシリーズに大きく作品を添わせてしまったことで、逆に、この作品がわざわざ作られる意義が薄れてしまったように感じられるのです。

 英語のセリフの中でも「ゴジラ」とカタカナ発音する渡辺謙は、実生活での不倫やらスキャンダルが響いたのか今回で爆死させられ、ゴジラとキング・コングとの戦いになるらしい次回作には登場しないことになったようです。それ以外にもかなりそれなりに印象の強かった人々が死にましたので、次回作はもう少々落ち着いた話になるのかもしれません。

 見所が多数あることは嘘ではないどころか、トレーラーで再三見せられた迫力ある映像は、まさにテンコ盛りに含まれていて、かなりお得感があります。しかし、ハリネズミのようなボディ・シルエットの小顔リメイク・ゴジラの、ほとんど平成ゴジラ・シリーズの焼き直し的な話を、見直す価値があまり感じられないので、DVDは不要です。

追記:
 この作品とつい先日第三作で話が完結したアニメのゴジラ・シリーズを比べる時、やはり、未来の地球を舞台にしたアニメ版の方にストーリーの翻案の妙が強烈に際立っているように感じます。壮大な世界観の設定、全く発想を新たにしたゴジラに対抗する怪獣(ともいえないような存在に変えられていますが…)達の設定、そこでの人間(含む宇宙人)のドラマなどなど、ゴジラ作品として独自のポジションで屹立しています。
 そのように考える時、やはり、ハリウッド映画一般論で見る構想の貧弱さが、バイアスとしてどうも強化されてしまうのです。アニメ版の異次元から攻撃してくるキング・ギドラの美しさは、そう簡単に想像/創造できるものではありません。