5月末日の封切からまだ僅か一週間余。新宿バルト9の20時15分からの回を観て来ました。動員状況に敏いバルト9では、1日6回の上映がされています。第一週目では確かもう少々上映回数が多かったように記憶します。二週間目に入った所で既に減速モードであるように感じられます。上映館はもともと少なくスタート段階から関東全体で15館しかありません。23区内では僅か3館です。5月中旬から封切られている『コンフィデンスマンJP』とどちらを先に観ようかと迷っていたのですが、現在、関東圏で108館、23区内でも21館で上映されている様子を見ると、どちらを優先すべきかは明らかでした。
映画紹介サイトのこの作品の紹介文の冒頭は「スタイリッシュかつハードボイルドなタッチで人気を博した小池健監督による『LUPIN THE IIIRD』シリーズの第3弾」と書かれています。私もまさにこの点が好きなので、この作品はマストという感じで観に行ける機会を待っていました。このシリーズの第一弾の『…次元大介の墓標』は観ようかどうしようかと逡巡している内に終映を迎えてしまいました。そのDVDを観る前に上映が開始された第二弾の『…血煙の石川五ェ門』を観るか否かも少々迷いましたが、趣味で始めた催眠技術の関係で、武道の修行や実践におけるフロー状態についても関心が湧いたので、観てみることにしました。大当たりでした。
それで、慌てて『…次元大介の墓標』もDVDで観ました。私にとっては『…血煙の石川五ェ門』よりはやや魅力に劣るものの、とても楽しめる作品でした。とても楽しめる理由は、やはり、先述の「スタイリッシュかつハードボイルドなタッチ」であるものと思います。
『機動戦士ガンダム』でも私は所謂「ファースト・ガンダム」以外は全く関心が持てませんが、アニメの『ルパン三世』もファースト・シリーズの大ファンです。テレビでアニメ『ルパン三世』の放送が始まったのは1971年で、私は8歳でしたが、インターネットどころか、ビデオ録画の技術もない時代、テレビにしがみ付くようにして観ていました。そんなアニメ作品も、(原作コミックに比べるともともとスタート段階からマイルドだったはずですが)その後、ターゲットを若年層に移し始め、私は一気に興味を失いました。所謂ジブリ・アニメの原点で、宮崎駿の映画初監督作品として名高い『ルパン三世 カリオストロの城』も、第一シリーズのテイストがガッツリ入り込んでいる私には、何か全く別の作品にしか見えず、関心が持てませんでした。
そんなファースト・ルパンの中で峰不二子は、或る意味最も私が好きなキャラです。ウィキでは「誰もが見とれるグラマーな美女だが、性格は外見に反して自分の欲望に忠実な悪女で、目的のためならためらいなく他人を裏切る」と書かれていますし、「メカについては自ら「男の次に得意」と語るほど」であり、「格闘能力についても非常に高く」とあります。それだけなら、(出で立ちもそうですが)マーベルのブラック・ウィドウの泥棒版という感じにしかなりません。ブラック・ウィドウもネットなどで見る限り、かなり人気の高いキャラですし、私もスカヨハのブラック・ウィドウがかなりお気に入りです。
しかし、峰不二子の真骨頂はセクシャルな魅力をそのまま自分の武器として平然と使えることであり、その延長上にセックスでさえも何の違和感もなく位置している点です。元々峰不二子の裏切も計算ずくでルパン一味が計画を立てているという部分も多いものの、彼女のその「スキル」故に何度裏切られ、何度次元や五ェ門に諭されようとも、ルパンは峰不二子を見放すことができないでいます。その後の多くの物語のクールなヒロイン像に強い影響を与えた峰不二子ですが、オリジナルを超えるほどのセクシャルなウリを誇ったヒロインは殆どいません。
子供の頃にテレビで観た峰不二子は私にとって許せない悪女でした。何度も騙されるルパン三世が愚かしく見えたものです。再放送を何度も観ましたが、中学高校に至って来て、男女の関係性から、漸く「これも一つのあり方」と受け止めることができるようになったように思います。私が当時なかなか完読することができなかった小説に『痴人の愛』があります。主人公を振り回すナオミに苛立ちが嵩じてしまい、何度チャレンジしても最後まで読むことができなかったのです。恩知らずなナオミへの愛に溺れ続け、いつまでも彼女に拘泥し執着する主人公にも全く共感できませんでした。寧ろ復讐心を抱いて殺害や心中などに打って出てもらった方が当時の私には納得が行ったと思います。
そんな私も加齢と共に、峰不二子の魅力がよく分かるようになりました。そして、そんな峰不二子は「スタイリッシュかつハードボイルドなタッチ」で描かれてこそ、真価を発揮しそうに思えます。それがこの作品を何の逡巡もなく観に行こうと決めることができた最大の理由です。
54分しかなかった『…血煙の石川五ェ門』同様、56分の短い作品です。ロビー階の小さなシアターに入ると、50人以上の観客でシアター内の座席は実質的な満席と言っていいような状態になっていました。不思議に思えたのは、女性客が多数派であったことです。6割から7割は女性であったように思います。それも若い層の比率が多く、女性の二人連れも目立ちました。男性の方は概ね一人客で、私と同じぐらいの年齢で、見た目、服装などに気もカネも使わない少々オタク第一世代気味の感じの人々が多かったように思います。
前述の通り、テレビにせよ映画にせよアニメの『ルパン三世』はまあまあよく観ている方だとは思います。そんな私にとっての初めての峰不二子主演の作品でしたが、とても楽しめました。峰不二子が本作の敵役の殺人マシーンの男の「呪い」と呼ばれる攻撃方法が空中に散布された毒だと見極めた上で、「毒なら私の方が一枚上手だった。既にあなたは私の毒に犯されている」と言ったことを告げます。その殺人マシーンの男はその目的専用に訓練され続けたのみならず、クローン的な技術で生み出された気配まで(劇中で語られていませんが)醸し出されています。彼は普段はその危険性故に暗闇に拘束されています。そんな彼が峰不二子に襲いかかって圧し掛かってきた時に、峰不二子は「私をモノにしたくないのか」と彼に問いかけるのでした。
今際(いまわ)の際に彼は「何の毒を使ったのか」と問い、峰不二子は「愛と言う名前かしら」と答えるのでした。セックス・シーンやセックスが存在したことが明白な関係性も登場しませんが、峰不二子のエロティックさやそれを武器にした非情な立ち回りが浮き出して見える秀逸なストーリー・ラインだと思います。峰不二子の隠れた才能であるコンバット技術もドライビング・テクニックも披露される場面がきちんと用意されています。ルパン一家(?)の中で、ルパンと多分唯一同等の知性を誇り、単独の能力ならルパンさえ凌駕するレベルの峰不二子の魅力がコンパクトにまとめられています。一方で、峰不二子が自分の普段の武器が通じず、手を焼き、初期の目論みも修正せざるをなくなる相手が、子供でした。6億ドルの在り処を知っている子供を懐柔することができず、苛立つ峰不二子がとても新鮮です。DVDは間違いなく買いです。
本作でルパン一味(?)の三人の個別の物語は描き終わり、(まさか銭形の人間ドラマを描くことはないものと一応思いますので、)このシリーズは完了かと思っていましたが、今回の作品の中に前二作とのつながりが出てきて、そこが未解決のままに物語は終了しています。考えてみると、ルパン本人の話もこのシリーズではエピソード化されていないということにも気づきました。続くのなら、それらの話もぜひ観たいと思います。