12月21日の封切から1ヶ月少々の1月末日の木曜日。既に新宿ピカデリーでは1日1回だけの上映になったこの作品を午後7時から観て来ました。バルト9でも上映はされていましたが、かなり前から早朝のたった1回だけの上映で時間が合わず行くことができないでいました。
シアターに入って見ると、50人以上は観客が居たように思います。多くは若い女性で性別構成比で行くと6割以上が女性であったと思います。男性とのカップルもいれば、女性の二人連れもいました。この原作コミックのファン層が女性に偏っているということなのか、主人公の楽をジャニーズの人間が演じているらしいのでそのファンと言うことなのか、よく分かりませんでしたが、取り敢えず、トレーラー上映の際にもペチャクチャと本編上映開始ギリギリまで喋くっている人々が多々いる状態でした。
私がこの映画を観に行くことにしたのは、中条あやみ観たさです。以前観た『3D彼女 リアルガール』の感想でも…
「ネットで見ると、中条あやみが美人なのかどうかで多少の議論が見つかりますが、取り澄ましている感じに見えるのに、話をすると嫌みがない、白人と日本人のハーフのモデル系の女子に共通する一種の透明感がウリの女優なのだと私は思っています。次に彼女を私が発見したのはDVDで見た『セトウツミ』でした。こちらでも、本作と同じように、かなりオタク系の強い池松壮亮演じる高校生に強い好意を抱いてしまった寺が実家の美人で、樫村一期(かしむら・いちご)と言う変わった名前の女子高生を演じています。『3D彼女…』とは異なり、この作品での恋心は成就することがありませんでした。演技としてやたらに優れた様子はありませんが、一定の範囲のキャラに収まっている役柄を演じさせたらピカ一だと私は思います。(中略)
追記:
ここまでうまく一定範疇のキャラを演じることに長けた中条あやみを知ってしまうと、近日公開予定の『ニセコイ』も観なくてはならないかと、少々悩んでしまいます。原作も読んで知っていますが、トレーラーで観る限り、コメディ・アクション・ロマンスなどなどをぐちゃぐちゃに盛り込んだ迷走作品であるように思えるからです」
と書いている通り、この作品を観るべきかどうかずっと迷っていました。最後に「観よう」と重い腰を上げることができたのは、この作品の監督が同じく中条あやみの好演が光る『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』の監督でもあることを発見したからです。
私は『3D彼女 リアルガール』の感想にも書いている通り、『ニセコイ』の原作を『週刊少年ジャンプ』で読んでいました。映画のチラシやパンフに拠ると、ジャンプ史上最長の連載期間を誇るラブ・コメなのだとありましたが、その事実を知ることもなく過ごせる程度に、特段のファンと言うほどでもなく、だからといっても嫌いでもないというようなレベルの関心しかありませんでした。
コミックは25巻にも及ぶようですが、登場人物たちのエピソードはかなり深掘りされていて、それほどの長さなのに、主要登場人物がそれほど増えないままに終わることができています。『週刊少年ジャンプ』のラブ・コメで好きなものを一作挙げろと言われたら、間違いなく『いちご100%』ですが、そちらの方はかなり登場人物が限られた濃密な世界でしたが、19巻で完結していることを今回初めてウィキで見て知りました。『いちご100%』に比べれば、主要登場人物の数は多く、主人公の楽に好意を抱いてしまう女性の数もやや多い状態になっていますが、ぶっ飛んだ設定の中でそれなりに重たいメッセージを織り込んだ快作だと思っています。
しかし、『ニセコイ』が好きと言うほどに思えなかった最大の理由は、主人公が物語の最後に下した決断結果です。主人公はヤクザ「集英組」組長の一人息子の楽とギャング「ビーハイブ」のボスの娘の千棘と端っから分かっているので、まあ仕方ないと言えば仕方なのですが、ここに至るまでに楽は結果だけで見ると、設定を踏みにじりまくってしまうのです。
劇中でも描かれている通り、10年前(多分、6歳ぐらいの時)に楽が結婚しようと約束したのは小咲で、その相手と互いに知らないにもかかわらず、楽と小咲は互いに告白できないまま「好き」の想いを募らせています。そこに組長とギャングのボスの都合で楽は千棘と偽装交際せざるを得なくなり、ツンデレ系の千棘を最終的に選ぶことになるのです。エヴァでもツンデレ系のアスカが大嫌いな私には、千棘がおっとり型の小咲より魅力的に見えることがありません。まして、元々の互いにこだわっていた10年前の約束の相手であって、千棘が現れてからも物語が中盤に差し掛かる頃までは、互いに想いを募らせてきた相手なのです。最終的に千棘を選ぶ楽に全く共感ができません。
私以外にもそう思っているファンも多いようで、人気投票でも小咲が一位になったことが何度もあります。また、本編に対してパラレルワールド的な物語となっている番外編『マジカルパティシエ小咲ちゃん!!』では、ガッツリ主役を果たし、アニメ化までされる人気ぶりです。魔法少女となる主人公達ですが、小咲がマジカルパティシエ小咲ちゃんになるのに対して、千棘はマジカルゴリラ千棘ちゃんで、ここでもまた人気ぶりにあからさまな違いがあります。さらに、最終的には楽と相思相愛の恋人同士になる展開まで用意されているのです。私からするとあるべき姿の物語です。
この映画では小咲は池間夏海という16歳の女優が演じていますが、ウィキで見る限り現時点で私が知っている他の映画に出演していることがないので、全く知らない女優でした。中条あやみは21歳でかなり同級生には無理がある感じですが、中条あやみの千棘以上に池間夏海の小咲はイメージがぴったりでキャスティングの妙が感じられます。
元々お目当ての中条あやみの方は、今までの「透明感のある嫌みのない美人役」のイメージを或る程度壊すことに成功しています。ただ、ハチャメチャ・ギャグにハマり切っていないのと、小咲をはじめとする現役高校生に比して、21の歳になっていて、さらに西欧人独特のよく言えば大人びた、悪く言えば老けた印象が、浮き上がり過ぎているように思えました。
原作の『ニセコイ』でも、楽の後ろのヤクザ組織、千棘の後ろのギャング組織、万里花の後ろの警察組織が三つ巴で争うシーンは多々あり、確かに発砲もたくさん登場しますし、コンバット・シーンもそれなりに登場します。それらは二次元のあの絵のタッチだから読み飛ばすことができました。しかし、実際に三次元の実写にして見ると、とんでもなく無理があります。その無理をちょっとだけ非現実的な舞台設定にするなど、何とかギリギリの線で纏め上げている所がこの作品の優れている所です。
少なくとも、楽、千棘、小咲、万里花の辺りまでは、かなり原作に忠実なキャラ設定の上で、かなり原作に忠実な関係性を重ねて、ここでもまた腹立たしいことに楽は小咲への想いを振り切り千棘を選んで終わります。よくできています。変にスタイリッシュな街並みを求めて忠実に再現したコスプレ俳優たちをスペインの街に配置して違和感満載になった『ジョジョの奇妙な冒険』よりは、原作の世界観のド派手さを辛うじて三次元の実写の世界に押し込んだ『銀魂』や『鋼の錬金術師』と言った感じにまとめられているように思えます。
千棘が基本的に好きではないため、メインストリームの話よりも、私にとっての『ニセコイ』の原作の魅力は、周辺の人々の掘り込んだエピソード群でした。たとえば、映画では、ただのチャライ馬鹿でしかない集(楽の親友)も、深い洞察眼をベースとした人間観察力を持っていて、実は非常に繊細です。そして担任の女性教師に恋い焦がれる気持ちをずっと秘め続けていて、彼女の寿退職のその日に告白するシーンは最高です。また、劇中で、ただ小咲の周りでウロウロしているだけの親友るりも、田舎の曽祖父への想いやそれを気遣う集の存在に気づく件など、秀逸なエピソードが満載です。
ドタバタしているだけの勘違い女に見える万里花でさえ、余命が幾ばくもなく実は死を見つめて生きていることが発覚しますし、その実家でのしきたりに縛られている葛藤の物語は色々と考えさせるものがあります。映画には登場しない楽のお姉さん的な立ち位置のチャイニーズマフィア「叉焼会」のドンである羽(ユイ)にも、楽への長きに渡る秘められた想いが溢れ出てしまい大きな葛藤を生み出す場面が多々存在します。
そう言った、優れたエピソードの数々を持つキャラクターたちが、羽のように登場しなかったりするのは致し方ないとして、登場していても、アホな役回りや単なるモブキャラ扱いに終わってしまっているのが非常に残念です。尺の関係上、どうしようもないのだとは諦めるしかないのだと思います。
地方都市のヤンキー女のような薄くなり過ぎた金髪で変顔を連発し、ワイヤー・アクションまでこなした中条あやみも一応一見の価値がありますが、二次元から抜け出してきたのかと思えるような三次元小咲も見返す価値があるのでDVDは一応買いです。