453 自縄自縛

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経営コラム SOLID AS FAITH 第453号
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 ご愛読ありがとうございます。第453話をお届けします。

 週末に時間が少々まとまってできたので、ネタ帳を広げて当コラムの原稿
をまとめて作成しました。常に7~10話ほど本文部分の原稿を完成した形で
用意しておきますが、一気に4話も書けて、在庫が11話になりました。久々
のシリーズものを出そうと思います。4話が2話シリーズ2本となっています。
連続して異なるシリーズを出すのは2012年以来二度目ですが、前回は記念号
絡みでした。通常号のシリーズが二つ連続するという意味では初めてのこと
です。

 11月に入ってから当コラムは足掛け20年目に突入しました。ネタ帳を広
げるとまだまだ原稿化されていないネタが多々あり、そのネタ帳にまとめら
れていない断片的なメモもテキスト・ファイルなどで色々と蓄積されていま
す。当分はネタが尽きそうにないので、今後ともお付き合いのほどお願い申
し上げます。
 
 今回の号は、マーケティングでいうところの「創客」について考えてみま
した。海外のマーケティングの本で「創客」の概念を見ると、単に今まで接
触したことのない新規顧客の取り込みといった程度の事柄となっています。
しかし、付加価値の高い商売が前提の日本の(特に中小零細企業の)商売で
は、単に自社の商品やサービスを初めてのお客様に知らしめるだけでは全く
お話にならず、その世界観や価値の在り様まで伝えて初めて創客が成り立ち
ます。この世界観などを教えるプロセスは宛ら「啓蒙」です。
 
 お客様を啓蒙し自社の商品・サービスの世界観の中に取り込む。そんな創
客の考え方は私にとってはずっと当たり前のことでしたが、ベースとなる
「記号消費」の考え方までまるまる説明して理解を迫る機会がありましたの
で、ついでに一話にまとめてみたものです。ご意見・ご感想お待ちしており
ます。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その453:自縄自縛

「そんなの、縄じゃないよ。縄ってのはそんなもんじゃないんだ」。
 窮屈な居酒屋のテーブルで、酩酊になりかけた50過ぎの彼女は声を荒げて
私に言った。

 クライアントのAVメーカーの仕事の関係で参加したエロ系業界の情報交
換会。スポーツ新聞の風俗欄記者やアダルト・グッズ店経営者などがごった
返す中、私の正面の席には、和服に傘の井出達で舞と自縛の余興を終えた女
流縄師が座っていた。「中小企業のナニシ…、だったっけ。で、AV作る指導
してんの?じゃあ、縄師も指導してよ。全然食っていけなくてさ。皆、縄の
良さが分かんないんだよね」と集客の相談が始まった。以前映画館で観た
『R-18文学賞vol.1 自縄自縛の私』と言う、自分を縛る趣味に嵌る若い女性
を描いた映画の話を持ち出し、「若い人でもこの道に嵌る人はいるんじゃな
いですか。小さくてもよいならブームは作れますよね」と私が言ったら、彼
女は憤慨して“縄道”を語り始めた。

 米国留学時代に、体育の授業で牛に縄をかける「縄投げ」を取っていた私
は、彼女の撚りが現れやすい縄の扱いの難しさが分かる。けれども、私は彼
女の自縛作業に美を感じることがなかったし、よく言えばふくよかな彼女の
体型を縛りあげた図は、私にボンレスハムを連想させるだけだった。分かる
人には分かる世界。逆に言えば分からない人には分からない世界。縄を鑑賞
できるようにならねば、縄の良さを分かることはない。
 
 秋葉原にあるパチンコ業界関係の会社での打ち合わせで、遊技人口の減少
に話題が移った。「やはり楽しみ方を学ぶことが好きな国民性なんだから、
パチンコのやり方や掘り下げ方を教える仕組みがないとダメなんだと思いま
す。楽しみ方と楽しみそのものを教えて、お客を新たに創るという考え方で
すね。そういう取り組みが、パチンコ業界ではほとんど聞いたことがないで
すから」というと、相手の担当者は、「日本人は楽しみ方を学ぶのが好きな
んですか。いつの時代の話ですか」と呆れ返ったように私に言った。
 
 ガンプラの雑誌を見ても、ボカロの楽曲の書籍を見ても、釣り雑誌にもゴ
ルフ雑誌にも、柔道や合気道以上の深遠な、分かる人には分かる世界観が横
たわっている。日本人は意味と深みを構造的に付加するのが得意な民族であ
る。コスプレをするレイヤーも鉄オタもAKBの追っかけも、様々な関連知
識を学ばねば楽しむことができない。
 
 私の好きな記号論を用いて消費社会を紐解いたボードリヤールを驚愕させ
た全世界最先端の記号消費社会の日本。記号は学んで読み解けねば楽しむど
ころか使いこなすこともできない。オタクの世界的メッカに事務所を構えて
いて、その構造が認識できない認知構造に、この会社の業績不振の一端が見
えたような気がした。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

「頭の体操」目的ではなく、
商売に活かすフェルミ推定を教えます!

フェルミ推定をご存知ですか。

ウィキに拠れば…
「実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を、
 いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、
 短時間で概算することを指す」
とのことです。

たとえば、同じページに例として
「東京都内にあるマンホールの総数はいくらか?」
「地球上に蟻は何匹いるか?」などが挙げられています。

こんなことを何のために社員に教えるのか。
もちろん、ちょっとした計画を自分で考えさせるためです。
たとえば、
「来月出展する展示会にチラシは何枚用意すべきか」とか
「今度作った新商品は群馬県ではどれだけ売れる可能性があるか」とか。

厳密にはフェルミ推定の典型的な問題よりも
かなり具体性が高いことも多いですし、
総務省統計局のサイトや業界誌の記事に
バッチリ答えが載っていることも結構あります。

けれども、多くの既存データはマクロ過ぎて、
中小零細企業が果敢に身の丈の商売のヨミを通そうとするとき、
そういったデータをさらに経験則から
妥当に分解する必要が出ます。

フェルミ推定っぽい日常の業務にかかわる問題を出すと、
「そんなこと言ったって分からない数字は分からない」
という中小零細企業の社員がよくいます。
むしろ、「フェルミ推定勉強会」初回の定番の風景です。

PDCAは面倒くさ過ぎて回せない中小零細企業の社員の皆様に
せめて「仮説と検証」の往復だけはバンバンしてもらいたい。
その仮説立ての有力な武器がフェルミ推定です。

身の丈の日常的計画づくり、日常的ヨミ。
それをフェルミ推定で社員ができるようにしましょう。

ご関心を賜れましたら、
メールにてご一報を。
 bizcom@msi-group.org

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『陰翳礼讃』 谷崎潤一郎 著
■『新・日本の階級社会』 橋本健二 著
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 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第454話 『ダオイズム』 (12月25日発行) 
 ブロックチェーンの話が色々な雑誌や書籍で登場するようになりました。
中小零細企業への応用をちょっとだけ考えてみた内容です。ご期待ください。

(完)