『BLEACH』

 7月20日の封切から3週間ぐらいの木曜日。新宿ピカデリーの午後6時50分の回を観て来ました。ロビーに着くと学生にとっては夏休み、社会人にとっても盆休み後半がかぶっている時期なので、ぶらぶらと立っているべき位置さえ探さなくてはならないほど混雑していました。

 ネットなどで見ると、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』ほどではないにせよ、『週刊少年ジャンプ』の原作コミック群の実写映画化作品群の中で見ると、下から数えて何番目かというぐらいの不人気なのだそうです。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』の時は、化け物級の異例のヒットとなった『銀魂』が比較対象にあって、存在自体が霞んでしまっていました。今回の『BLEACH』は『銀魂』は続編があちこちでありとあらゆるパターンのPVが流れている状況でしたが、本編の封切は翌日からです。むしろ、一週間遅れで封切られた『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』の初の映画化作品の方が、これまた化け物級のヒットとなっていて、存在が霞んでいる気がしました。

 いずれにせよ、原作人気から考えるとかなりのハズレ作品の評価が固定化している状態でした。観に行った段階でも、バルト9は上映回数が早い段階で激減を始め、既に1日1回の上映になっていました。ピカデリーでさえ1日2回しかない状態です。かなり厳しい状態と言えます。

 コミックの実写化作品に対しては「基本的にハズレ」という認識が一般に流布しているように感じます。『NO MORE 劣化実写化』という歌まであり、歌詞を見ると、実写化作品に対する不満や疑問がストレートに表現されていると感じます。私は世の中的な好不評に関わらず、快作と思える作品群が一応存在します。ですので、何でもハズレとは思っていません。ただ『進撃の巨人』シリーズや『黒執事』、『無限の住人』などの多数の作品のように、どちらかと言えば、元々原作を知らない状態で観た作品に好評が偏っていることは否めません。原作が好きで実写化作品も良いと思えたのは、『寄生獣』の完結編とか『デスノート』の初期二作とか数えるほどしかありません。

 コミックの実写化や携帯小説の実写化、人気推理小説の実写化などの作品は、単純に映画の原作のネタが不足しているということのみならず、映画の原作になり得る既存ファンができている作品を求めた結果、生まれてくるものだと思いますが、少なくともコミックの実写化の場合、作り手の思惑とは異なり、原作コミックのファンは基本的に動員に寄与しにくいと考えるべきなのだと思います。

 観てみると、本当に酷い映画でした。何がどう酷いかとまとめることができないほどに、観ていて辛い作品です。

 私がこの作品を観に行った動機は、主に二つあり、その一つ目は、長澤まさみです。『散歩する侵略者』であの大きな瞳でじっと見つめるアップの圧力が気に入って、その後、『嘘を愛する女』を観、DVDで『グッドモーニングショー』と『銀魂』を観ました。『銀魂』の方の彼女が吹っ切れていてなかなか楽しかったので画像を壁紙にしてみたりしましたが、『銀魂2』では出番が少なさそうだったので、敢えてコミック実写化別作品の『BLEACH』に振ってみたという感じの判断です。

 長澤まさみは主人公一護を虚から庇って死んだクインシーの血を引く母の役ですが、原作での重さに比べて、物語上の存在感が増大しています。映画の冒頭でもいきなり登場しますし、家の中にでかでかと(モノクロになっていない)遺影的な写真が貼られていて家族の中に今も存在感を残している感じになっています。さらに、その虚(グランドフィッシャー)が対一護戦では母の幻影を繰り出してくるのですが、当然、それも長澤まさみです。例の真ん丸瞳のガッツリ凝視が劇中で何度も炸裂する点は非常に満足できました。

 ただ、私が評価できるこの作品の良い所はそれだけで、他のほぼ良いとこナシです。もう一つの観に行った動機であるのは、一応、それなりにこの原作コミックのファンであることです。登場人物を語れるほどのファンではありませんが、全74巻に及ぶ全編の大枠の筋を話せるぐらいには理解があります。ちなみに私が一番好きな『BLEACH』の登場人物は四楓院夜一です。そんな私から見て、登場人物のイメージが全く原作からずれている感じがすることばかりでした。私から見て許せる範囲に収まっているのは、伊藤梨沙子というらしい女優が演じている空手娘の有沢竜貴ぐらいで、敢えて言うと一護がぎりぎり許せるぐらいという感じです。

 一護を演じる福士蒼汰は、『無限の住人』、『曇天に笑う』、『BLEACH』と彼が刀を振るうと大コケ映画になると言うジンクスさえ成立したようですが、役にはまり込む努力をかなりしたとか言う噂の本作では、言われるほどの大コケ感もハズレ感も持てませんでした。ただ私にとってのこの男優は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』という優れた物語設定に救われた作品での役柄が印象的過ぎて、それ以前に彼を一躍有名にした『ストロボ・エッジ』も全く観る気がしません。そんな私の中の彼の印象を塗り替えるほどのインパクトはありませんでした。登場人物のイメージの原作への忠実度で、一護とほぼ同じぐらいに許せるのは、私は全く見覚えのない男優が演じる石田雨竜ぐらいだと思います。

 ギリギリ許せる範囲からやや逸脱したぐらいの位置づけに居るのが先述の長澤まさみです。長澤まさみ演じる母親はきちんと役割ができている感じがするのですが、原作に登場する母はもっと体型イメージで言うと線が細く、不幸を背負っても抜けるように明るい性格だったように思います。長澤まさみのどっしり魅力的な口数の少ない大人のお母さん的なイメージではないのです。ちなみに、一護を庇って遺体が横たわっているシーンがありますが、横たわった体の骨太感は物凄く、線の細い女性キャラばかりの『BLEACH』ワールドにフィットしていないことが明らかです。

 性格的には一護の父一心をうまく江口洋介が演じていますが、外観にごついオヤジ感がなく、かなり無理があります。さらに、人間ヒロインとして『BLEACH』の中で最も目立つのが後に一護の妻になる井上織姫ですが、こちらは長澤まさみと真逆で、もう少々大柄で肉感的な体型のはずなのですが、全然そのイメージがなく、おまけに劇中で存在感もあまりありません。真野恵里菜という女優が演じていますが、既にウィキで見ると27歳で主演高校生陣の中でチャド役の男優に次いでかなり上です。チャドは元々原作でも年齢不詳の巨人ですが、織姫の方は、ブレザー姿とは言え高校生の制服姿には非常に無理が出ています。遠景のショットでは、顔の作りが似ていて、衣装としてのブレザー姿が多かった初期のAKBの板野友美のように見えます。アップのシーンを何回か見ているうちに、ちょっと見覚えがあると感じ始め、パンフで調べてみたら、『不能犯』の風俗嬢でした。

 それ以外の役者は、無理が祟って観るに堪えないレベルになっています。現実の世界に暮らしているにしては、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』の登場人物レベルに違和感がある浦原喜助は原作よりも丸顔過ぎますし、ルキアを始めとする死神三人は完全にイメージがずれ過ぎています。ルキアの方は髪型からして全く異なり、顔の作りも全く異なり、ギリギリ背が低いイメージだけが原作から持ち出されたという感じです。この女優、杉咲花は私には『無限の住人』の準主役級の方が余程好演に見えました。これは、彼女の演技の問題よりも、脚本のルキアの設定の粗雑さゆえのことかもしれません。少なくとも、『無限の住人』の方では、キャラが一貫していてすんなり入ってくるものであったと思います。

 他の二人は最悪で、女形の演技の印象ばかりが残っている早乙女太一が演じる卵にヒビを入れたような顔をしている阿散井恋次は、秀才学生が一生懸命不良を演じているような気持ち悪さばかり浮き出ていました。朽木白哉に至っては、コスプレに失敗したイタいオッサンのようで、辛いものがありました。世界的に有名な日本人ギタリストで、アンジェリーナ・ジョリーとお知り合いなのだそうで、私がDVDで比較的最近見た『キングコング: 髑髏島の巨神』にも出ているのだそうですが、全く記憶していませんでした。朽木白哉は死神の隊長の中でもかなり人気の高いキャラだと思いますが、この敬意のない扱いを原作ファンが見たら、激怒しても当たり前のように感じられてなりません。外見では思い出せませんでしたが、妙なアルファベット名前に記憶があると思ったら、最近観てその職業観がとても印象に残った『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』に登場する“刻まれたアーティスト”の一人でした。今秋には私の好きなコミック作品『ギャングース』の実写化作品にも登場する予定のようですが、取り敢えず、有名ギタリストとして刻まれたままになっていていただければとは思いました。

 こんな風に、一部の役柄は長澤まさみや江口洋介など比較的名優が固めていて、まあまあ手堅く物語は進んで行くのですが、如何せん、原作に物語を忠実にさせようと努力している割には、キャラへの敬意が全く感じられないぐらいに、イメージのずれた役者にイメージと違うことを言わせる設定になっていて、空いた口が塞がりません。

 監督は『GANTZ』シリーズの実写作品を撮った監督で、私の好きな『県庁の星』や『万能鑑定士Q モナ・リザの瞳』を撮ってもいる監督ですが、クライマックスのシーンは、駅前商店街を破壊しまくる大迫力になっていました。この現実世界に大きな被害が出る仮想の物語の世界観は、まさに『GANTZ』そのままになっているように感じましたが、どうも、『BLEACH』の多くの原作中の戦闘シーンのイメージとは異なっていますので、設定上、市中の戦いがあっているのだとしても、どうも『BLEACH』の代表シーンと言われると違和感が湧きます。

 いずれにせよ、辛い作品でしたので、DVDは必要ありません。シアターには60人ぐらいは観客がいて、女性が7割を占めていそうに見えました。かなり若い女性ばかりですカップル客はほとんどいず、女性は単独か二人連れかのどちらかが多いように見えました。普通に考えて原作コミックのファンである可能性は低そうに思えますので、やはり、コミック実写化についての前述の仮説はあっているのではないかと思えてきます。

追記:
 映画上映前、さらにトレーラー上映枠よりも前のCM枠の中の方で、映画『旅猫レポート』と『パーフェクトワールド 君といる奇跡』のCMを長時間かけて流していますが、そこには当然、福士蒼汰と杉咲花が延々と登場します。『BLEACH』を観ると、逆にこれらの映画の彼らの方がかなりしっくり来ているのではないかとの期待が僅かに湧いてきます。その心境の惹起を狙ったCMだとしたらかなりあざといマーケティング戦略です。