『デッドプール2』

 6月1日の封切からまる1ヶ月以上たった水曜日の午後。バルト9の1時50分からの回を観て来ました。大好評だった前作を受けて、この続編も大人気との噂で、多くの映画館で1日に5、6回ぐらいは上映しているような状態でした。封切1ヶ月を過ぎて、動員状況に敏いバルト9では1日3回に上映回数が減っていました。

 ロビーに着くと、ロビーの来場者スペースの3分の1は占めているように感じられる巨大な薄茶色のビニール製空気入りオブジェがありました。巨大な岩塊に見えるそれが何かとマジマジと見てみたら、公開間近の『BLEACH』の虚の生首のようでした。どうもアニメのイメージと実写のイメージが既に異なっている所へ、実写のCGを浮き輪のような素材で3次元化した所に、かなり無理があり、相応な時間長で頭を働かせないと、それが何であるのか判明しませんでした。

 その虚の生首があってさえ混雑感が出ないほど、平日の昼間のこの時間帯にロビーは空いていました。シアターに入ると観客は私も含めて20人程度でした。年齢層は大分若い方に偏っていて、平均年齢を算出したら30代前半ぐらいに落ち着きそうに見えました。性別構成は男性がやや多いぐらいだったかと思います。女性は単独や二人連れが少なく、基本的にカップル客の片割が殆どだったように記憶します。

 この映画シリーズの第一作は、色々細部で首を傾げる部分が多かったものの、異色の人気SFヒーロー作品として、(DVDで持つ価値は感じないものの)一応観る価値はあったと思っています。その二作目が、「今度はボッチじゃない」とのキャッチの下、Xフォースと言うミュータント(+一般人一名)のグループで強大な敵に臨む…と言う構図になったとのことでした。強大な敵(手下は幹部やら雑魚やら色々いるもののほぼ一名)に対して、グダグダなチームワークの大勢のヒーローが立ち向かうという意味では、マーベルはマーベルでも私が急激に関心を失ったMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の方のアベンジャーズのように感じられ、「まあ、ダラダラ話を引っ張るMCUでもないので、観に行くか…」と思い立った、通称「デップー2」です。

 スクリーンを超えて観客に話しかけてくる「第四の壁を超えている」特徴や、マニアックな他SF作品などをネタにしたギャグの応酬、そして、間の抜けた短絡的な性格などの前作で列挙されていた魅力は、それなりに健在です。「膝に悪いスーパーヒーロー着地」のネタまで今回も再利用されています。ただ、何か拍子抜けなのです。より味気ない方向に偏った気がします。

 その理由は幾つかあると思われますが、一番大きいのはパンフに制作者の言葉としても述べられているように、「前作が恋愛映画であったのに対して、本作はファミリー映画」になっていることです。前作で大好きな娼婦の彼女に見せられる顔を用意すべく奔走しまくった主人公ですが、私は映画の前半から予想していた通り、全くそんな努力も必要なく、彼女のは醜く変わり果てた顔の主人公をあっさり受け入れます。そんな恋愛成就の物語であったのですが、その彼女は今回比較的冒頭に近い所であっさり主人公とチンピラの諍いに巻き込まれて命を落とします。

 そこで、死後の世界で彼女に会い、「あなたにはまだ現世でやるべきことがある。人の役に立てる人間なのだ」的な託宣を貰い、何と未来から来たターミネーター的な感じの(と言っても、完全機械化されているのは片腕だけのようなので、劇中で主人公も評しているように、寧ろ、ウィンター・ソルジャーの方がぴったりです。)強面の、元々ズタボロだったアベンジャーズを完全にズタボロにしたサノスと同じ役者が演じるオッサンから命を狙われている肥満児を助けることとするのです。この肥満児は両手から高熱の炎を発生させるミュータントで、ミュータントの子供養護施設のような所で虐待されてグレてしまい、大量殺人者に将来変わることが見えていて、オッサンの妻と娘もこの肥満児の半グレなれの果てに焼き殺されているのでした。

 オッサンが執拗に追ってくるのを辛うじて止め、さらに肥満児がXメンの敵側に今まで何度か現れている猪突猛進バカのジャガーノートを味方につけると、それも何とかしながら、主人公のデップーは、肥満児を更生させて悲劇の未来の発生を根本から変えようとします。その目的のために、何と自分の命まで投げ出すのです。結果的にこのイカレ肥満児の更生に成功していますし、事実上の父親代わりぐらいの立場を勝ち得ています。そして、それを見届けて亡き彼女の元に行けると自死しようとまでするのです。

 ギャグをどれだけ言おうと、第四の壁をどれだけ超えようと、これでは前作の本質的なキャラの魅力が完全に放棄されていると言わざるを得ません。良い子過ぎます。良い子になっても考え足らずの行き当たりばったりのキャラは変わっていませんので、きれいごとを言っては失敗を重ねるただのバカに成り下がっているように見える場面だらけなのです。これが私には面白くなさの最大要因に思えます。

 また、Xフォースに集ったミュータントのたった一名の例外以外は、何等の活躍もせずに無意味な空挺団の真似事で着地に悉く失敗し落命します。全く意味を為していません。これも敢えて言うなら拍子抜けの要因です。この他にも微妙に存在する細かな「面白くない因子」を複合的に包含してしまっているが故に、前作の大ヒットで稼いだ金をふんだんに入れ、(ふんだんに入れ過ぎて、世界観が変わり過ぎないように、寧ろ、少々セーブしたとパンフに書かれていますが)前作とは異なり一瞬ながらXメンの猛者を大量投入して、いつもの上半身ランニングシャツ一枚のウルヴァリンまで動員するような贅沢をしても尚、不発感が漂うのだろうと思われます。

 それでも、一応仲間が色々増えて、ボッチじゃないのはギリギリ嘘ではありません。唯一命を落とさなかったミュータントは、能力が「ラッキー」なだけのアフロの小柄な有色ネーチャンです。役者本人もインタビューで答えている通り、本当は黒人なのだそうですが、どちらかと言うとヒスパニック系か少々日に焼けた黄色人種のように見えます。彼女が落下傘で輸送機から飛び降りれば、テキトーに落ちても、そこには幸運にもクッションになるものが存在します。敵と戦えば、何かの事故やら何かの手落ちが重なって、敵が自滅してくれます。マーベルの原作コミックに彼女が登場した方が多分先なのでしょうが、遥か以前、『週刊少年ジャンプ』に登場していたラッキーマンそのものです。それが黒のボンデージファッションで登場するのですから、なかなか見応えがあります。名前もドミノで、砂漠の真ん中でセックスを始める美人傭兵映画の主人公や、キッスの名曲『ドミノ』に登場する妖艶な魅力で男を誑し込む女やら、いずれにせよ、エロ系の連想をさせる名前です。

 その他にも、結局更生した肥満児も仲間になりますし、ターミネーター型のウィンター・ソルジャーの元サノスのオッサンも、前作から連投のメタルオヤジのコロッサスやら背の低いネガソニック・ナンチャラとかいうネーチャンさえも、デップーの献身に心を動かされ連帯を強めている様子です。さらに、ネット上では隠し子を妊娠しただの出産していただのと噂の絶えない忽那汐里演じる新キャラまでデップーに積極的に協力するようになりました。ボッチじゃないから勝てたのは一応本当ですが、勝てた上に命を投げ出そうとしたから、心理的にもボッチじゃなくなったというのが寧ろ本質的な描写であろうと思います。

 エンドロール中のティーザーでは未来のオッサンが持っていたタイムトラベル装置をデップーが借りて、彼女を死なせないようにしたり、私が気に入っている『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』の最強・最悪キャラとしてのデッドプールを殺害し続けたり(殺してもすぐ再生するので殺し続けなくてはならないようです。亜人どころの再生スピードではありません)、自分を演じる役者が勝手に黒歴史と認定している『グリーン・ランタン』に出演しようとしているのを阻止したりして、都合の悪い過去を修正しまくっています。

 結局、「なんだかんだ言って、恋愛路線に戻すのかい」とか、「イカレたサンタクロースのようなデップーよりも、ウルヴァリンの悪役の方がいいじゃん」とか、「『グリーン・ランタン』はそれなりに面白くて、ギャグやらなんやらがない想定をしたデップーに比較したら、余程すぐれているぞ」とか、色々私が考え至ってしまうような余計なことをし回っていました。

 マーベル作品のみならず、悪役としてDCの方の「ジャスティス・リーグ」系の作品にも出てくる気配が、向こうの最新作『ジャスティス・リーグ』のティーザーの中にありましたので、また、「第四の壁」どころか「出版社の壁」さえ乗り越えるデップーをあちこちで見ざるを得ないのかもしれません。ドミノの魅力で辛うじてDVDは再見の値があるかどうかという微妙な評価の続作です。「続作比べ」をしたら、まあ五十歩百歩ながら、何とか『キック・アス』に辛勝するかなと言うぐらいだと思います。