『22年目の告白―私が殺人犯です―』

 まず、最初に書いておかねばならないことが一点あります。このブログ『脱兎見!東京キネマ』はバリバリにネタバレ記事満載です。理由は書き手の私がネタバレを全く気にしない人間だからです。良いと思える映画は何度でも楽しめますし、仮に展開を知っていても、その理由によって映画を観る観ないを決めることが全くないからです。私にはネタが割れていようがいまいが良い映画は良く、ダメな映画はダメです。他の記事にも共通していることなのですが、特にこの作品では何らかの支障を発生させる可能性があるかと思い、書いておきます。

 6月10日の封切から約1ヶ月マイナス1週間経った7月上旬の火曜日の晩の回をバルト9に観に来ました。1日に5回もやっていますし、新宿エリア内でも他館が上映している人気ぶりです。スタートは21時55分。上映終了は24時丁度で、台風が東京地区に接近しているその晩、終電時間にかかっている上映時間枠に、15人ぐらいの観客が来ていました。3分の2が男性と言う感じで、年齢は若い方に極端に偏っていて、平均をとっても、多分20代後半になるかと思われました。如何にも遊び人風、ないしはどこかのクラブのトランス・イベントからの帰りに寄ったのかと思えるような出で立ちの若者が多数派でした。

 トレーラーを何度も見させられて関心を持ったというのがこの映画を観に行こうと思った最大の理由です。関心はどのように湧いたかと言うと、ネットの映画評で何度も書かれている「クズ人間」藤原竜也の様相です。記事には、「借金を作ったり、目で人の動きを止めたり、ノートに名前を書いて人を死なせてしまったり、いろいろありました。そのどれとも違う、最もクズな藤原竜也をお見せしたいです」と本人がインタビューで語ったと書かれていますが、私はそのどれもについて、それほど凄いと思っていません。上手いとは思っていますし、安心して見ていられる犯罪者役の常連さんぐらいに感じています。これぐらいの安心度を醸し出せる犯罪者役の演じては他にも掃いて捨てるほどに存在するように思いますが、その中でも外見の良さとのギャップがあるが故に、犯罪者役がこの人に集中するんだろうなとしか思っていません。

 本人が言うように『デスノート』シリーズ4作は、物語として非常に楽しめましたが、外観までイメージを作り込んでいるLに比べて、丸顔の月(らいと)はちょっとないだろうとか、感じていました。他にも、『パレード』はラストのそこそこの急展開で犯人役と露呈する役がまあまあで、私の中ではかなり評価の高い方ですが、『MONSTERZ』や『藁の楯』は、力み過ぎで作り込み過ぎな感じがし、及第点少々上。『パレード』のような変化球ではない、剛速球系の悪役でこの人が演じた中で私が一番好感を持てるのは、『るろうに剣心』シリーズの志々雄真実かと思います。そんな中で、本人が「最もクズ」と称するのはどんな奴なのか観てみたくなったというのが、トレーラー見て湧いた気持ちです。

 時効後の殺人犯が時の人として世間に姿を現すというのは、非常にセンセーショナルで、その厚かましさとそれを周囲が許してしまいかねない流麗さを備えたキャラが今回の藤原竜也です。厚顔無恥と言う観点から見れば、確かにクズではありますが、ネット評では「王子っぷりが凄い」と言われる調子に乗った様が、或る意味、普通の藤原竜也なので、私には何か肩すかし感がありました。寧ろ、藤原竜也クズ男の書いた告白本のサイン会に人が並び、握手を求めるどころか、壇上に現れただけで芸能人並みの黄色い歓声が湧き起る様は、流石に、ここまで一般大衆がアホな設定ってどうよとしらける感じがしたと同時に、クズと言うなら、これらの劇中の熱狂的ファンの方が余程クズ度が高そうに思えます。仮に現実にこう言うファンが出てきたら、(面倒なので実際にはやらないと思いますが)「別の殺人犯に自分の家族が殺されてもその告白本にサインをもらいたいですか」と問い詰めたい気持ちが湧くことでしょう。

 パンフレットには記述がありませんが、この作品は元々韓国の作品をリメイクしたものだと聞いています。こんなクズ大衆がやたらにいる、少々無理なストーリー設定は、多分日本由来ではないのだろうと感じられてなりません。確か、セウォル号の沈没事件の際にも、その死者数について賭ける違法賭博サイトができた国であり、起源や背景はどうあれ身体障害者の様子をまねして踊る悪名高い病身舞が大衆娯楽化することさえある国です。殺人事件の犯人をヒーロー扱いする輩が仮に大量に登場したとしても不思議はないということなのかもしれません。

 2008年から書き始めた『脱兎見!東京キネマ』で300本以上の映画評を書きましたが、その中に一本も韓国作品が含まれていないのは、私が「嫌韓流」寄りの考え方をやや支持しているからです。韓国人一人々々を差別したいと思っていませんし、ヘイトスピーチをして回るほど関心もありません。韓国人の知り合いも何人もいます。しかし、事実は事実として踏まえた上で、適切な行動をとるべきだとは思っています。何らかの必要性が十分にない限り、韓国製品の個人的不買を心掛けています。ですので、LINEも絶対に使うことはありません。韓国映画で関心が湧いた映画も、見ないようにしているので、『あやしい彼女』も多部未華子主演のものを楽しみました。

 そんな感じで、最強クズ男の藤原竜也は肩すかしでしたし、クズ大衆の姿にはそれ以上に辟易しましたし、おまけに、映画のかなり早い段階からかなりネタが割れるので、どんでん返し感もあまりありません。劇中のテレビ番組のニュースキャスターが「この連続殺人事件5件は、時効が日本に存在した最後の日に行なわれているが故に、時効が成立してしまっている今、犯人は逮捕できないのです」などと説明しています。「なるほど。認知されているのは5件でも、実はシリアル・キラーの隠れた犯罪がその後に見つかって、やっぱり逮捕できる…と言う話になるな」と思っていたら、やはりその通りでした。それ以外にも、藤原竜也が犯人では辻褄が合わない事実なども中盤で指摘され、真犯人が別にいるという話になってきますが、その真犯人もかなり簡単に分かります。

 冒頭に書いた通り、私はネタバレがほとんど気にならない観客なので、「あ、犯人、こいつだな」と分かっても、そこに失望はほとんど湧きません。展開そのものや、22年間が流れる時間経過の描写などには、面白さを感じました。さらに、刑事役の男優伊藤英明は、パワー全開で暴走列車の如くで、おまけに、有り余る執念で刑事の立場を大きく逸脱した犯人逮捕の罠を仕掛けてきます。その狡猾さは犯人以上に悪役臭いことに笑いさえ湧きます。この映画を『悪の経典』の悪役vs時効切れの新悪役と捉えて、まるで『フレディVSジェイソン』のように見る楽しみ方も存在するように思えます。そして、どうも『悪の経典』の方が(そのようなシリアルキラーでは勿論ないのですが)迫力勝ちしているように見えます。

 前述のような肩すかしや辟易感は色々とありますが、楽しめる部分はそれなりに存在します。『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』や『予告犯』などの謎解きモノには劣りますが、『脳男』などぐらいの興奮はあります。ギリギリ、DVDは買いと言う感じかと思います。