2月21日の封切から3日目の、3連休最後の祝日の月曜日。池袋西口の老舗ミニシアターにて、午後1時50分の回を観て来ました。この作品は全国でもたった1館、この館でしかやっていません。おまけに1日1回の上映ですから、全国でもたった1館で1日1回しか上映されない超レアな上映機会ということになります。
私にはあまり魅力が感じられない大ヒットロングラン映画『侍タイムスリッパ―』も当初はこの館1館のみの上映から怒涛の大進撃へと成長した訳ですし、この館はコンスタントにそうしたマイナー映画に短期間上映の機会を提供することで知られています。(今回の上映の際のトレーラーでも、この館独自のマイナー映画の映画祭のような催しの告知が為されていました。)
私はマイナーな映画なら何でも観ると言うほどに好きではありませんし、やはり、マイナーな作品は予算が乏し過ぎて、余程上手くそうした制約をすり抜けた物語設定や演出方法を考えない限り、貧相でチープ極まりない作品になることが殆どで、それが気にならないほどに何かの魅力がない限り私も敢えてマイナー映画を観に行きたいと思い立つことはありません。
それでも、この館には時たま来ることがあるのは、相応にマイナー映画を観ることがあるからです。やはりそれは、東京の立地を考えた時、他所では観る機会が限られていて、おまけにDVD化されたり配信で垂れ流されたりしそうにない作品は、(まるでビデオも生まれていない遥か以前の社会での話のように)劇場で観るしかないからです。この館に以前来たのは、多分2024年10月の『怪人の偽証…』であっただろうと思われます。これもたった63分の映画でした。それから約1年半が過ぎています。
この作品を観ようと思い立った最大の理由は、観たい映画作品の夏枯れ状態です。(実際には冬か早春といった季節感ですが、言葉上「夏枯れ」と呼んでいるだけです。)単に観たい映画が少ないだけではなく、主要な大作がない中で、細かな映画作品は簡単に上映が打ち切られたり、元々1週間の上映期間を設定されていたりなど、非常に鑑賞が困難な状態なのです。例えば1月23日封切の『愛のごとく』は、私の好みの顔をしている山崎真実が珍しく映画出演している作品なので、マストと思っていましたが、映画サイトになぜか上映館が表示されない期間があり、その後、「2月13日より吉祥寺アップリンクにて上映」と出たので、それから1週間後に観ようかと上映スケジュールを調べたら、その日が最後の上映日で時間的に間に合わず、それ以降上映は打ち切られたままでした。山崎真実の出演作ながら、あとはDVD発売を願うばかりとなりました。
また2月14日『ヴァリドマン』はインディーズ作品の中で傑作の(低予算)SFとの評価をネットの何処かで読んだので、是非観たいと思っていたのですが、なぜか「1週間限定公開」という情報を見逃していて、封切から約10日後にチェックしたら既に全国どこにも上映館が無くなっていました。こうして、観てみたいと仄かに思っていた作品群が掌の一握の砂のように、指の隙間から漏れ出て消えてしまう状況が続いていたのでした。
既に2月は2本の劇場鑑賞のノルマをこなしていますので、必要性はないにせよ、先月1月もたった2本の劇場鑑賞しかできていないことから、夏枯れの中でも鑑賞本数を伸ばそうと目論んで、たった10分という異常に短い尺の作品を観に行くことにしたのでした。勿論、短い尺の映画もマイナーな映画も夏枯れの中でも他に存在しますが、敢えてこの作品したのは、一応AIに絡む内容であるとのことだったからです。映画.comの説明には、このようにあります。
[以下引用↓]
ミュージカルや舞台を中心に俳優として活動しながら映像制作も手がける香月彩里が、2023年に発表した初監督作となる短編作品。AIによって人生を翻弄されながらも、AIに救われるひとりの男の姿を描く。
2025年、AIを使用した本人そっくりのAI音声詐欺が流行していた。43歳の飯田昭彦は、妹を装ったAI音声詐欺に遭ってしまう。二度と被害に遭わないよう、妹と相談して、AIには絶対にわからない合言葉を考えるが……。
出演は、お笑い芸人を経て俳優として活動している大重わたると、俳優・振付師として活躍するエリザベス・マリー。2025年5月には、多彩なクリエイターによる短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」の第7弾「MIRRORLIAR FILMS Season7」の中で劇場公開された。2026年2月、香月監督の「なりすま師」との同時上映作品として劇場公開。
2024年製作/10分/日本
劇場公開日:2026年2月21日
[以上引用↑]
私は監督の香月彩里(ウィキで見ると「こうづき さおり」と読むようです。)という人物を全く知りませんが、AIによる詐欺という話だったので、以前観た『INTERFACE:』シリーズ3作のような大真面目な物語によるAI社会の問題描写…といったことを期待したのでした。劇場に着いて、チケットを買おうと、ガラス越しの狭い空間に陣取ったスタッフに話しかけようとして、ふと彼が見えるガラス窓の枠の上に掲げられた時間表を見ると、この作品が単独作品でもなければ、10分に見合う安値の作品でもないということに気づかされました。この作品は10分でも、同時上映の作品『なりすま師』という作品とセットで時間枠は1時間丁度となっていたのです。10分のつもりで来たのが、1時間になってしまうことにはやや困惑しましたが、通常映画2時間程度でなかっただけまだマシと思うことにして、2本両方の鑑賞を決断しました。60歳以上のシニア料金で2本で1200円でした。
シアターに入ると、かなりの混雑でした。座席数が193に対して、70人ぐらいは観客が居たように思えます。2人連れは3組居て、若目男女2人連れ1組、中年女性2人連れ1組、中年男女2人連れ1組といった所だったように見えました。その他は全員単独客で、男女構成比は2人連れ3組も含めて全体で、女性が半分を多少超えていて、残りが男性という感じに思えました。女性の単独客は30代ぐらいに見える層が全体の4割ぐらいいて、残りはそれより高齢の幅広い層に分散している感じに見えました。男性の方は女性よりも高齢に偏っており、40代以上から広く分散しているものの、多少60代ぐらいまでの人数が多いようには感じられました。
先述の館の冠の映画祭などの告知が終わって、本編が始まるのかと思いきや、『清める女』という作品の長めのトレーラーが始まりました。作家になることが夢の女性が新たな賃貸アパート(/住居?)に引っ越してくると、そこには成仏できないでいる女性の幽霊がポツンと居座っていて、太宰治の愛人だったと語り出します。世の中に知られる太宰の愛人3人に加えて隠された愛人として存在していて、記録されていない入水心中劇で、彼女だけが死に太宰は生き残ったというのです。太宰と一緒に死ねなかったこと以上に、太宰の愛人として他の3人と異なり後世に名を残していないことが悔いになって成仏できないようです。そして、新たな入居者の女性に、自分を主人公にして太宰との関係性を描く小説を書けと迫るという物語でした。トレーラーの中には、愛人幽霊が「ウィキに出たら、成仏する」などと言い放つシーンなどもあり、なかなか興味深そうな作品でした。(私は人物像としての太宰治に好感が持てないままでしたが、コミックの『ダズゲマイネ』を読んでほんの僅かな好感が抱けるようになっています。)
しかし、観ているうちに、この念入りなトレーラーの異常さが分かってきます。長いのです。おまけに、制作や配給に当たった会社のロゴが出るなどして明らかに作品が始まった様子があったのに、どう見ても事前に知っていた『ヒューマンエラー』の物語設定とは異なる話についてのトレーラー仕立ての映像なのです。なんと最後には、「実在の人物・団体とは関係ないし制作の予定もない」との表記が登場します。鬼面人を脅すというか、非常に斬新で捻りの効いた演出です。俄然面白く感じましたが、その面白さは(元々尺が10分しかないので、当たり前ですが、それよりも前までのタイミングまで)長くもちませんでした。
物語は上の映画.comの文章にある通りの大枠なのですが、詳細はそこそこ違っています。「2025年、AIを使用した本人そっくりのAI音声詐欺が流行していた。43歳の飯田昭彦は、妹を装ったAI音声詐欺に遭ってしまう。二度と被害に遭わないよう、妹と相談して、AIには絶対にわからない合言葉を考えるが……。」とありますが、ネタバレを避けようとしたのか、2、3のかなり重大な事実が描かれていません。以下のような事柄です。
■AI音声詐欺にあった主人公は、事件後すぐに妹と合言葉を決めていない。
主人公は詐欺にあった後に(父違いの)妹と会って初めて自分が詐欺に遭ったことを理解します。そして彼が無職であることに妹との会話の流れが至り、妹が自分の先輩という怪しい女性が従業員を募集していると彼に紹介するのです。
その女性(監督の香月彩里が演じています。)は、彼女の事業を説明してくれるのですが、それはAI詐欺への対策で、AIが予想のつかないような合言葉を作っては、それを(多分会員制のようになっているようですが)クライアントの人々に提供するというおかしなものでした。具体的には、「1+1は」の答えを「和室」(これは私が適当に書いているもので、劇中で使われた回答ではありません。パンフもなく、元来突拍子もない単語選択であるので、記憶できず、適当に書いています。)のような答えを案出しては画用紙サイズの紙に書くというおかしな作業を従業員としてやり始めます。
紹介してくれた仕事の内容を妹に主人公は(そのような場面がありませんが)告げたようで、妹が自分達兄妹の間でもそうした合言葉を決めて主人公に提示したのでした。
ですので、紹介文にあるようなシンプルな流れの展開ではありません。
■妹が提示した合言葉が「ヒューマンエラー」でタイトル回収を行なっている。
妹は「口に出すのもダメなんでしょ」と言って、合言葉を書いた小さなカードを主人公に手渡します。そこには「1+1=」の下に「ヒューマンエラー」と書かれているのです。なぜこの単語が選ばれたかなどは一切説明が登場しません。そしてそれがこの作品のタイトルになっているのです。何か制作サイドには思惑や想い入れがあり、物語の何処かから「ヒューマンエラー」を感じさせる何かが発信されているのかもしれませんが、私には全くそれが分かりませんでした。
ただ少々「確かに」と思えた部分があります。最近、私の周りで「FB(Facebook)のタイムラインに登場する広告が、異常にこちらの話題に沿ったものになっている。それもどこにもテキストで打ちこんでいず、ただ会話上で話題にしただけということが出てくる。会話をFBがスマホのマイクから拾っているとしか思えない」という話はよく聞きます。ですので、妹が「合言葉を口に出すのもダメ」と言っているのは頷けます
■妹は他界して、主人公は意図的に詐欺電話を受けているように見える場面がある。
物語は「主人公の詐欺被害」⇒「おかしな事業者の求人案件の採用実地試験」⇒「合言葉の案出の苦労」⇒「妹からの出掛けの合言葉提示」と進んでいきますが、その後、唐突に主人公が妹と電話で会話している場面に移行します。しかし、その主人公の視線の先には、棚に置かれた小さな木製額に入れられた妹の写真があり、その脇に「ヒューマンエラー」と書かれたカードが置かれています。どうも妹が他界している描写のように見えます。
その上で主人公は延々と妹との会話を継続しています。そして最後に「あ。そうそう。1+1は?」と妹に電話越しに問うと、電話口から聞こえる妹の声は「そんなの、2に決まっているでしょ」と答えるのでした。それでも主人公は慌てる素振りも見せませんし、いきなり電話を切る訳でもありません。先の妹の他界の可能性と併せて考えると、主人公は妹の死後、敢えて詐欺電話を疑似的な妹との会話相手として受け続けている状態と推量されます。
AIが詐欺目的にかけてくる電話でさえも、人間は心の穴を埋めることに援用することができるという美しい話と解釈できる一方、AIと分かっていても、精神的な依存を止めることができない病んでいる人間の哀れな姿を描いた話とも受け止められます。
このように見てみると、たった10分の尺とは言え、一応、それなりに深い社会風刺的なメッセージを盛った作品と見ることができそうです。ただ「一応」と書いた通り、どうもAIに対する制作サイドの認識がおかしいように思える場面は多々存在していて、それが全体の興を削ぐ結果になっているように思えてなりません。
AI詐欺はどれほど世の中に蔓延しているのか分かりませんが、流石にコンビニのバイト店員の立場さえ追われて、無職になった人間から3万円を巻き上げるような小粒の回収まで行わなければならないAIの判断はどう見ても尋常ではありません。また、AIにばれないような合言葉作りという話も、原理的にはその通りですが、そんなものを人間がウンウン唸って作るということには多分ならないでしょう。それこそ生成AIに「国語辞典に登場する名詞の中で固有名詞ではないものを最初から当たって100個に1個ずつ合計20個抽出して」などと指示すれば、幾らでも脈絡のない単語は拾えそうです。
また、そのように簡単にできてしまうようなことを、(仮にAIに頼んで答えが出力される過程でハッキングされる可能性があるとしても)わざわざ何らかの業者に頼んで、有償で「ただ脈絡がなければ何でもいい言葉」を知りたいという市場ニーズがあるとは到底思えません。とても主人公が雇用されてこんなくだらない作業で報酬を得る道があるとは思えないのです。
事前の情報収集を行ないつつコールドリーディングにも長けたAIが広く遍く詐欺を働く社会。そして、その詐欺電話を失われた人間関係の疑似再現と受け止めて敢えて継続させる人間の姿。それを描いたという点では優れモノではありますが、少なくとも『INTERFACE;…』には遠く及ばない物語設定で、特にコメディとして笑えるほどの作品にもなっていない中途半端な作品です。
この作品の出演者を私は全く知りませんでした。監督を務める香月彩里という人物は、劇中で妹の先輩らしき事業主を演じているようです。主人公の男を演じた大重わたるという人物も映画では『身体を売ったらサヨウナラ』などにも出ているようですが、私は全く見覚えがありません。妹を演じたのは、映画.comの解説に「俳優・振付師として活躍する」と書かれているエリザベス・マリーという女性ですが、検索すると名前の後に検索ワード候補として「かわいい」が登場するのも頷ける愛らしさがあります。ウィキで見ると、主に舞台で活躍しているようですが…
[以下引用↓]
イギリスと日本のハーフであり、タレントのベッキーは従姉妹で父親同士が兄弟である。舞台に出演した弟も1人いる。2013年6月16日にベッキーに自身のTwitterによって「いとこ」と紹介されてから、その容姿が「可愛すぎる」と注目を集めた。
[以上引用↑]
とのことでした。30代後半(実質アラフォー)の年齢よりもかなり若く見えます。とはいうものの、全く見覚えがない役者で、画像を検索すると、舞台作品の方の『幽☆遊☆白書』で幻海を演じているのが、かなり決まっていて目を引きますが、私にはそれだけと言えばそれだけです。
面白い作品ではありますし、社会風刺的なメッセージもないではありませんが、どうも科学技術設定というか物語設定が杜撰過ぎて本来の面白さが発揮されていないように感じます。多分端っから出ないものと想像されますが、DVDは不要です。