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経営コラム SOLID AS FAITH 27周年記念特別号
=副業社員雇用の陥穽=
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ご挨拶
第1章:副業の位置づけ
第2章:再考 第641話『盲従の形』
第3章:総労働時間の上限規制上の問題
第4章:労働時間管理の問題
第5章:対策方針
第6章:短期的対策具体案
第7章:中期的対策具体案
あとがき
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☆注意:お読みになる際には、枚数がかさみ恐縮ながら、プリントアウト
の上お読みになることを、心よりお奨め申し上げます。
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☆注意:本メルマガは企画・原稿作成などのどの段階においても、生成AI
を利用しておりません。現実に即したナマの着想・文章表現などお楽しみ
ください。
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ご挨拶
本日2026年10月31日で本メールマガジン『経営コラム SOLID AS FAITH』は
創刊からまる27年を迎えました。何度か繰り返して申しておりますが、創
刊当初は100話ぐらいで終わりにしようかなどと考えていたのが、まるで嘘
のようです。読者のあなたのご愛読に心より御礼申し上げます。
今回の27周年記念特別号のテーマは考えあぐねた末に、過去に類例のない実
務的な内容にしようと決めました。既にそのネタが目の前に存在していたか
らです。通常、周年記念特別号と毎百話発行記念特別号は、経営コラムとし
てのフォーマットを維持した通常号とは異なる「お祭り号」という位置づけ
で、かなり羽目を外した企画もどんどんお届けすることとしています。中に
は『もし浜 ~もしも商店経営者が浜崎あゆみの大ファンだったら~』とい
うタイトルで、浜崎あゆみのヒット曲の中に経営的教訓を見出すなどといっ
たものもありました(11周年記念特別号)。また、普段、通常号であまり細
かく解説することのない各話のタイトルについて取り上げた内容も何度かお
届けしています。
そうした中で今回の27周年記念特別号は、中小零細企業における副業社員の
雇用の実務的な対応について取り上げてみることにしました。従業員の副業
は世の中全体で認めるべしという風潮になってきており、「日常業務に支障
のない限り本人の勝手」というスタンスのオーナー経営者もいらっしゃいま
す。しかし、副業社員の労働時間などの管理には大きな陥穽(落とし穴)が
あります。
この問題について今年前半に全容を認識しましたが、それ以降経営者などと
の会話の機会によく話題にしてみましたが、この陥穽を認識している経営者
はほぼゼロでした。場合によっては労基から指導や警告を受けるだけではな
く、3年遡及した残業代を支払う義務が唐突に発生することになりかねませ
ん。中小零細企業にとってはかなり大きな経営リスクと考えられます。
(実際に、過去のクライアント企業で、顧問の社労士さえ気づいていなかっ
た手当の組み入れをしていなかった残業代に関して、3年遡って修正したケ
ースも見たことがありますし、同様のケースで数十人のトラックドライバー
の残業代の遡及支払が即時に要求された結果倒産した運送会社も見ていま
す。)
そこで、27周年記念特別号では、この副業社員雇用の陥穽について、あなた
にもご一考いただく材料をお届けする号とすることに致しました。普段の通
常号なら「お愉しみください」と締め括ったりすることの多い前口上ですが、
今回はご一読の後、自社には該当するケースがないか、早急にチェックする
ことをお勧め申し上げます。
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○第1章:副業の位置づけ
まず法律的に副業は良いのか悪いのか、そして会社は禁止できるのか否か、
ということを考えてみましょう。法律的に副業(ネットなどでは「副業・兼
業」と表記していることがありますが、煩雑ですので当周年記念特別号では
「副業」に統一します。)を禁止するものは存在していません。よって副業
は一般論では問題ない行為であるということになりますが、高度成長を支え
た企業による従業員を家族のように扱う風潮などと相俟って、副業は長らく
従業員にとっても“何となく後ろめたいもの”であり続け、会社側もその価
値観の中で副業を“(極めて)望ましくないもの”として認識してきた時代
が続いてきました。
法律上では副業は禁止されていませんが、就業規則では副業を禁止ないしは
制限しているケースはあります。禁止の場合も、一定の事由によって経営上
の問題が発生することが想定されるからということに拠ります。副業を禁止
し制限できる典型的なケースとしては、副業を認めることにより以下のよう
な事業経営上の支障が生じる場合となります。
▲労務提供上の支障が生じる場合
▲業務上の秘密が漏洩する場合
▲自社の名誉や信用を毀損したり信頼関係が破壊される場合
▲競業により会社の利益が害される場合
実際に就業規則で禁止された副業を行なった従業員の解雇を巡り裁判もいく
つも起きています。
ただ、フリーターなどアルバイトを掛け持ちしたりするなどの正社員になら
ない生き方が広く認知されるようになったり、派遣社員やフリーランサー、
さらには、一時期流行したSOHOやSOHOMOでの仕事、定義がかなり曖昧なノマ
ド、そして最近では、ギグワーカーなど、その相互の定義の相違はさておき、
多様な働き方が意識されるようになりました。価値観の多様化やライフスタ
イルの多様化が働き方にまで及び、副業に対する見方も肯定的に大きく変わ
ったのです。
転機となったのが、2018年の厚生労働省によるモデル就業規則の改定です。
モデル就業規則は、常時10人以上の従業員を使用する中小零細企業経営者が、
労働基準法により就業規則を作成して労働基準監督署に届け出ることになっ
ていますが、その就業規則を理解し作成しやすいよう用意されているもので
す。作成上の解説もかなり詳細に為されています。
厚労省は2017年に公表した「働き方改革実行計画」で多様な働き方の実現を
掲げており、労働者の健康確保に留意しつつ副業・兼業を原則認める方向に
舵を切りました。その結果、2018年にモデル就業規則の内容も改訂され、従
来は「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」となっていた副業禁止
規定が削除されて、「労働者は勤務時間外において他の会社等の業務に従事
することができる」と明記されたのです。
これで、もともと法律で禁止されていず、(それどころか人によっては憲法
の職業選択の自由などを根拠にまでして)行なわれてきた副業が、名実とも
にしてよいものになったのでした。一方でベースはそうなっても、細かな運
用体制は詰められることがあまりありませんでした。たとえば、副業を会社
に知られたくない場合には確定申告はどうするのかといった手続き的な問題
が残るなどと指摘されてきていました。しかし、もっと複雑で重大な労働時
間管理の問題が、中小零細企業側の管理実務上に発生してしまったのです。
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○第2章:再考 第641話『盲従の形』
今月10日に発行した当メルマガ第641話『盲従の形』では、先行して、副業
社員の雇用がどのような問題を生むか、簡単に描写してみました。コラム本
文部分をまるまる下に引用します。
[以下引用]
「ある20代女性のXさんがA社でフルタイムで午前9時から午後5時まで働き、
その後B社のアルバイトで午後6時から午後11時まで働いている状態を、平日
は毎日続けています。この状況で、以下の二点について教えてください。
1.正規の労働時間を超えた残業時間分には25%の割増賃金を支払わなければ
なりませんが、それはA社、B社のいずれが支払うべきでしょうか。
2. Xさんの月間労働時間は残業分も含めて、法律的な総残業時間の上限を超
えている違法状態になっています。残業時間を削減する是正措置を取る場合、
A社、B社いずれの残業時間を削減すべきでしょうか。」
社員の副業についてどうすべきかとクライアント企業から相談をされたの
で、労務系に詳しい知り合いに聞く前に、予習として生成AIさんにお伺いを
立ててみた。生成AIさんの答えは専門家の知人のものと一致していた。答え
は「後から雇った会社が割を食う」というもの。私のクライアントは文中の
A社だが、仮にXさんがB社で先に働き始めていた場合、B社の労働時間5時間
を引いた1日の通常労働時間3時間がA社での通常勤務。A社の中で見れば、労
働時間は8時間に収まっているのに毎日の半分以上の時間が「残業」。
是正措置も専らA社が講じることとなる。さらに、Xさんが時々B社で1時間
など勤務時間を延ばすと、A社ではその時間も含めて、Xさんの総労働時間を
管理する必要性が生まれる。A社はB社でのXさんの毎日の勤務状況をXさんに
いちいち報告させるのだと聞いて、呆れた。これほど余計な労務管理が必要
な社員は雇用に値するのか。本質的な疑問が湧く。
映画では古典的名作『モダン・タイムス』から『未来世紀ブラジル』まで、
労働者の人間疎外はクリシェの表現テーマ。私は『ジョー、満月の島へ行く』
の土気色の顔をして俯いた社員達が印象に残っている。誇張された労働者の
悲哀。しかし、ファスト・ファッションの裏側が暴かれ、フェア・トレード
が叫ばれるようになって、発展途上国の人々は搾取されていると言われ続け
て大分時間が経ったが、今尚それらは続いている。
発展躍進が持て囃されるAI産業では、AIが思いつくありとあらゆるNGをコ
ンテンツ・モデレータと呼ばれる「中の人」が人海戦術で修正し続けてサー
ビスが成立しているらしい。その作業も今や先進国ではコストが合わず発展
途上国に投げ渡されていると聞く。
複数の依頼主から沢山の仕事を自由に受けたいのなら、個人事業主になっ
て働き方も収入も自分で管理したら良かろう。仕事を貰うだけではなく、仕
事量まで他社に管理してもらう先進国にも存在する人々は、私には自律・自
立を自ら投げ出しているかに見える。
[以上引用]
如何でしょう。副業社員を雇用するとどのような問題が起きるかお分かりい
ただけましたか。「問題」というと如何にも副業社員が悪事を働いているか
のように聞こえますが、特に副業社員を糾弾したい訳ではありません。ただ、
副業社員を雇用すると、管理が煩雑になり、それを怠ると、未払い残業代な
どが(そうした意図も認識もないままに)発生するリスクが非常に高まるの
です。
問題の根源は、総労働時間とどの労働を起点にその日の労働時間を算出する
かを、その副業社員本人しかわからないことにあります。(本人も分かって
いないケースも多々あることでしょう。)
上の事例のXさんがB社で最初にアルバイト社員として働き始めて、その後、
並行してA社でフルタイムの社員として働き始めたとします。この場合、B社
の方が優先して通常労働時間となります。B社ではXさんは1日5時間しか働い
ていませんから、通常労働です。しかし、時系列でみてその日B社に来て働
き始める前に働いていたA社においては、1日の総労働時間を8時間と考える
と、3時間しか通常労働ではありません。残りの5時間は残業労働となってい
るので、残業代として割増賃金を支払わなければならないのです。
A社の中だけで見ると、Xさんは8時間しか働いていないので、全く残業して
いないように見えます。しかし、A社の勤務の後に働くB社の通常労働分を見
越すと、後からXさんを雇用したA社は5時間の割増賃金を支払うことになる
のです。
このケースでXさんを先に雇ったのがA社だった場合はやや状況がシンプルで
す。時系列でA社でXさんは8時間ノー残業で働き、B社でその後に働く際には
何時間働こうともスタートからすべて残業です。B社は現れたXさんの働く時
間総てに割増賃金を支払う必要が出るのです。B社からすると、同じシフト
の他のアルバイト社員と同様に5時間働いているだけなのに、Xさんにはまる
まる残業扱いの賃金を支払うということです。
特にこのXさんの労働時間は残業時間も含めた総労働時間の上限を軽く突破
しています。突破の件は次章で考えてみますが、それ以前に、普通の時間外
労働(法定労働時間超過)以外に、月60時間超の時間外労働の部分も発生し
ています。その部分は一般的に知られている25%の割増ではなく、50%など
になるはずです。また毎日夜11時まで働いていますから、午後10時からの深
夜労働にも該当しています。その場合は25%が上乗せされるはずです。
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〇第3章:総労働時間の上限規制上の問題
実は弊社では総労働時間量の上限の一律設定は馬鹿げていると考えています。
老若男女、体質や体力、障害の有無など、いろいろな要因によって、個々人
が働ける時間量は大きく異なることと思います。そしてもちろん、働いてい
る労働の内容によっても、どの程度心身に負荷がかかるかは全く異なります。
そういった事柄を一切無視して誰にも一律の労働時間上限を決めるという発
想が、既に個々人を尊重し個々人の多様性を認めることに逆行しているもの
と考えています。
しかし、ソクラテスの金言にもあるように「悪法も法」ですので、決められ
ているものは最低限守らねばなりません。第641話『盲従の形』にある通り、
こうした労働時間の縛りから解放される手段として弊社では「個人事業主
化」を推奨することもあります。(合法・適法の範囲で行なう必要がありま
すので、会社側が会社の都合だけで、社員を解雇し個人事業主化の上で再契
約するなどといった杜撰な方法論にならないよう十分留意を要します。)
副業社員の問題を考える時、彼らの残業時間はどのように規制されているの
かをざっくりと復習しておく必要があります。
まず、労働時間は3階建てになっています。1階は「法定労働時間」です。労
働基準法で決められている時間枠で、1日8時間、1週40時間以内です。休日
も毎週1日以上ということになっています。
2階は「法定労働時間を超えた時間外労働(通常版)」です。36協定にまつ
わる手続きが必要になりますがここでは割愛します。普通の残業時間で、上
限は月45時間・年360時間です。或る週休二日制の中小零細企業の或る月の
営業日が22日間だった場合、1ヶ月は176時間が法定労働時間です。それに45
時間を加えると221時間で1日約10時間労働でしかありません。それもこの
ペースで月45時間残業を12ヶ月間ブチ抜きで行なうと、年間で540時間に
なってしまいます。これでは年360時間の上限に引っかかってしまいます。
逆に年360時間を12ヶ月で割ると1ヶ月30時間ですから、仮に毎月の営業日が
22日だったとすると、営業日1日あたり約1時間20分の平均残業時間しか認め
られないことになっているのです。
これでは働きたい人々には全く足りません。そこで、臨時的な特別な事情下
であると労使が合意した特別条項を定めると、3階の上限枠が生じます。具
体的には以下の通りです。
▲時間外労働が年720時間以内
▲時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
▲時間外労働と休日労働の合計について、
「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が
全て1ヶ月当たり80時間以内
▲時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
第2章で登場したXさんの場合、(休憩時間など細かい設定は割愛しています
が)A社で毎日平日は8時間、B社で5時間働いていて、仮に勤務日数がA社・
B社共に同じ日程で22日だった場合、1ヶ月に286時間の労働に勤しんでいま
すから、臨時で特別な状況下でのみ許容される3階さえも軽く突破してし
まっています。これは完全に違法状態です。しかし、A社・B社共に一見、自
社内ではXさんは法定労働時間内の勤務になっているように見えるのです。
臨時の三階屋になっても「24時間働けますか」と某CMがテレビの中で謳っ
ていた頃に比べて、信じられないぐらいの時間量の少なさです。こうして残
業が極端に抑制されて、それが収入不足を招くのなら、本来の業務とは離れ
て慣れない副業をするようにオカミに唆されることになります。時給ベース
や生産性でみたら、本業で残業した方が余程望ましいように感じられます。
慣れた仕事でバリバリ働いた方が人材本人にとっても稼ぎやすくキャリアも
きちんと積みあがりそうです。
日本人が本業で働くことができず、ぎこちない副業にあくせくする一方で労
働力は不足して、外国人労働者を大量に呼び寄せなくてはならなくなってい
ます。多くの低賃金外国人労働者を許容せずに、労働市場が逼迫すれば必然
的に賃金は上がります。日本人には働かせず、スキルも上がりにくくしてお
いて、外国人の労働力を安く市場に提供して、結果的に社会全体で賃金が上
がりにくいという全く馬鹿げた経済構造ができ上がっていることが分かりま
す。
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○第4章:労働時間管理の問題
第2章で登場したXさんの事例で引き続き、状況を整理してみましょう。
●Xさんは1日当たりA社8時間、B社5時間働いている。
●XさんはB社でアルバイトで働き始めた後にA社に就職した。
●A社は雇用時にXさんのB社でのアルバイト勤務を認識したが、
特段労働時間管理の問題構造に気づいていなかった。
●B社ではXさんのA社での就職を非公式に店長が認識していたが、
特段労働時間管理の問題構造にも気づかず、何もしていなかった。
●Xさんは営業日22日の月は、1ヶ月に286時間の労働をしている。
ということになります。ここで問題は3点あります。
▲A社はXさんの「見えない残業」を日々認識し
割増手当を支払わなければならない。
▲A社はXさんの過去の割増手当を遡及して
支払わなければならない。
▲A社は完全違法状態のXさんの労働時間を削減して
適法の範囲に収めなければならない。
このように見ると、後からXさんを雇用したA社ばかりが割を食う結果にな
っていることが分かります。(敢えて言うなら理不尽な目にあっていま
す。)ただB社も普通にXさんを雇用し続けて良い訳でもありません。
たとえば、A社がXさんのB社の定時の勤務時間を把握して、それに応じて違
法状態をギリギリ解消する所まで勤務時間を削減して調整していたとします。
B社がそれを知らなければ、B社の都合でXさんに1時間延長勤務を言いつける
かもしれません。
その場合、B社でXさんはもともと1日5時間しか働いていませんから1時間増
えて6時間の勤務になっても、一見、1日8時間の法定時間内に見えます。し
かし、B社の都合でB社が延長勤務をさせたのですから、この場合は、B社の
法定労働時間が定時の5時間分を超えた段階でB社が残業時間の処理をする必
要が出るのです。その残業も既にA社の方で帳尻を合わせてギリギリ合法状
態だった訳ですから、B社がそのバランスを自社の都合で崩し、違法状態を
作り上げたことになります。
煩雑な労働時間管理などの処理が発生するのは、後からXさんを雇用したA
社の方ですが、B社もXさんは他のアルバイト社員と比較して扱いにくい人
材となっていることになります。
また、B社は通常通りXさんに1日5時間働いてもらっていても、実際には総労
働時間限界ギリギリでXさんが勤務していることを認識しつつ、Xさんに対す
る健康配慮義務の確実な履行が求められることにもなるでしょう。
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○第5章:対策方針
ここまでの流れで副業社員がどのような煩雑な管理を要する存在かがお分か
りいただけたことと思います。ここからは第2章の想定をそのままにして、
後からXさんを雇用することになったA社立場で、副業社員管理の実務を考え
てみます。本章ではまず大まかな方針を考えてみます。そして第6章で短期
的な対策、第7章では中期的な対策について検討してみます。
副業社員の問題構造は、自社内の労働時間把握だけでは管理しきれない自社
従業員の総労働時間量が、労働基準法の重大違反のリスクを孕んでいること
です。そのリスクを回避しつつ雇用を維持しようとすると、日々の作業の中
で副業社員の自己申告に基づいて精緻な労働時間の把握と、自社での労働時
間量の柔軟な調整が必要になることでしょう。これが社内に1人だけという
のなら、まだ何とか対応できますから、なぜそこまでして雇う必要があるの
かという問題だけの話です。
しかし(今まで当コラムでは「副業社員」と書いてきましたが)、たとえば
大型店舗などの場合、従業員のほとんどがアルバイト社員で、おまけにその
ほとんどが複数のアルバイトを掛け持ちしているような状況で、かなり頻繁
に退職と就職を重ねているといった状態も珍しくありません。中小零細企業
でもアルバイト社員中心の運用を行なっている店舗経営などでは、20人程度
のアルバイト社員が全員掛け持ちアルバイト状態ということも十分にあり得
ます。
この問題が現実に発生したクライアント企業の経営者やそのほかの数人の経
営者と意見交換をしてみましたが、まず確認すべきはこの副業社員の価値で
す。極論ですが、そうした煩雑な管理をしてでも自社組織に囲い込んでおき
たい“余人をもって代えがたい何か”を持っているような人材であるのかと
いうことです。「そうではないなら、辞めて欲しい」という経営者の本音を
耳にしました。
ですので、まとめると…
●煩雑な管理を行なってでも雇用する価値があれば、
その特別な存在だけを採用する、ないしは雇用し続ける
●一般社員と同様な価値しかないのであれば、
一般社員と同等な管理や対応で事足りる雇用にする。
よって、採用しない、ないしは雇用を止める
ということになります。
尚、この問題は、A社もB社も「雇用」を行なうことが前提になっています。
片方の会社では雇用ではなく、フリーランスで業務請負を行なっていたり、
管理職や取締役として業務を行なったりしているようなケースであれば、問
題になりません。実際に副業社員が先に働き始めた会社がその社員の親戚が
経営する会社で、その副業社員も取締役に名を連ねているというケースを見
たことがあります。この場合は今回説明しているような副業社員の構図が発
生しません。
(ただし、取締役も本来の会社の経営状態を監督する役割を果たしているの
であれば問題ないのですが、役員とは名ばかりで(多くの中小零細企業でそ
うであるように)一般幹部・従業員と肩を並べて同様の仕事をしているので
あれば、取締役として認められないケースがありますので、要注意です。)
特別な高い価値がその人材にない場合、対応は四つの象限に分かれます。一
つの軸は、人材を採用する場面であるのか、既に雇用している副業社員につ
いての場面であるのかの違いです。もう一つの軸は、短期的にその人材に対
して行なうことと、中期的に組織の対応策を編んで制度や仕組みにしてしま
うことです。
先述の通り、後者の軸の方の分類で、第6章では短期的な対応策を、第7章
では中期的な対応策を簡単にまとめてみたいと思います。
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〇第6章:短期的対策具体案
【採用の場面】
仮に何かの制度や方針が十分ではない状態で、採用プロセスにある応募者が
アルバイトをしていることが分かった場合を考えてみます。
まずどのようなアルバイトをどれぐらいしているか極力精緻に把握します。
そして…
「入社すると生活のリズムが変わるし、仕事に慣れるのも大変だから、一旦、
アルバイトの方を辞めてみることはできますか。お休みっていう方法もある
かもしれないけれども、人によってこちらの仕事でペースがつかめて来て、
生活のパターンができるのに、掛かる時間はバラバラだから先方に迷惑をか
けてもいけないので」
などとアルバイトの方を辞めてもらうようやんわり働きかけるのが良いでし
ょう。アルバイトの業種が自社と同じまたは近いなどする場合には、競合上
の情報漏洩を根拠にしても良いかもしれません。一旦先方を退職してもらえ
れば、同じ会社に後日再就職しても、自社が先に雇用した状態になりますか
ら、管理が煩雑になることを回避できます。
詰まる所、「後から雇用した立場」を回避することが最低防衛ラインである
ということになります。応募者がどうしても先行する他業を継続したいとい
うことであれば、(その理由を相手に明確に伝える必要もないと思います
が)「厳正に吟味して不採用」ということにせざるを得ません。
【既に雇用している場面】
今度は既に雇用している自社の社員が副業をしていることが判明した場合を
考えてみましょう。こちらも、その副業の状況がどのようなものであるのか
極力細かく聞き出します。仕事の立場を聞き出した結果、フリーランサーと
してや管理職・役員としてというのであれば、取り敢えず、問題はありませ
ん。
これから採用する場面と異なり、いつからその副業を始めたかもきちんと聞
き出します。自社に入社後に始めた副業であれば、取り敢えずこちらが煩雑
な管理をしなくて良いことになるので、その場合も、一旦胸を撫で下ろすこ
とができます。
ただ、副業先よりも自社が後に雇用を始めてしまっている場合は、まず過去
最大3年分の残業代を算出して支払う必要があります。この計算を早急に行
ない、一日も早く支払いを終えることが大事です。
その副業社員に対して副業の労働時間管理の問題を説明した上で、一応最初
に先方の仕事を辞められるか否か尋ねてみても良いでしょう。本人に先方を
辞める意志がなく、且つ自社にとっての人材の価値が低い場合は、議論する
時間さえ惜しいでしょうから、退職勧奨や解雇に打って出ることになるかと
思います。退職勧奨は強要にならないよう留意が必要ですし、解雇の場合は
解雇理由を整える必要がありますから、慎重に事を進めなくてはなりません。
副業の関係で疲労が蓄積して作業効率が落ちたり、注意が散漫になったりす
ることは実際に起こり得ます。また、同じく疲労により遅刻・早退・欠勤と
いったことも起こることがあるでしょう。そういう事実関係もきちんと把握
することが肝要です。
自社にとって平均以上の価値のある人材だった場合は、なんとか雇用の形を
無くすことで対応することになります。具体的には以下のような方法が考え
られます。
●管理職・役員に昇進させる
●自社を退職して個人事業主になってもらう
「雇用」の形を無くすことができなければ、覚悟を決めて煩雑な処理を行な
う体制を用意することになります。
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〇第7章:中期的対策具体案
採用・雇用の両面において、原則として重要なのが仕組み作りです。
【採用の場面】
採用の場面においては、採用に当たる従業員に副業社員が生じさせる煩雑な
管理業務や労働時間管理リスクの問題を理解させておくことが肝心です。採
用面接の場面での水際対策のマニュアルなどもこの問題をカバーするように
作っておく必要があるでしょう。
基本的に応募者にこの問題構造を説明して聞かせる必然性がないように思わ
れますが、不採用とした場合、その理由を知りたがることが想定される人材
であれば、逆に最初から、副業の問題をきちんと説明してしまうという手も
あるように思えます。その場合には誤解を生んだり、本人に対する何らかの
強要となるような言動を取ったりしないなどのスクリプト用意やロープレの
準備が必要になるでしょう。
【人材活用の場面】
人材を活用した組織運用の観点から考えると、副業が原因となる手間やコス
ト、経営リスクを従業員にきちんと認識させ、軽々に副業を始めないように
理解させることが必要になると思われます。冒頭にも述べた通り、副業は安
易に始めてよく、誰しもがし始めているかの如く喧伝するネットの記事や書
き込みも多数見ます。その風潮の裏側の陥穽もきちんと従業員が理解してい
るようにしましょう。
組織内の従業員にそういった認識ができた後に、最初にすべきは就業規則の
見直しでしょう。副業についての規定を、極力制限をかける内容に変更した
上で、入社後副業を始める従業員は必ず会社に報告することを義務付けるな
どすべきです。そうした就業規則見直しを社内に告知することが、従業員全
体の副業状況の調査を実施しやすくすることでしょう。従業員の副業状況の
把握は、リスク管理の上で重要な一歩です。
副業社員が見つかった場合、余程社内評価の高い能力を持ち合わせているの
でなければ、(そして副業を辞める意志がないのであれば)基本的に組織を
去っていただくことになるでしょう。高い能力を持ち合わせていれば、自社
を主要クライアントとする個人事業主になっても食べて行けるでしょうし、
その方が本人の収入も伸びます。
個人事業主化を採用する場合には、当人が組織からの指揮命令を受けない業
務形態を採用するなどして、9つある雇用・非雇用の見極めポイントを極力
満たす必要があります。先行事例となる会社のこうした制度をよく研究して
実施するのが良いでしょう。
どうしても雇用された状態で副業社員を維持せざるを得ないケースが発生し
てしまったら、煩雑な管理業務をマニュアル化して整備して、何とかやり抜
く覚悟を決めましょう。導入時に制度整備の手間はかかりますが、裁量労働
制などを組み合わせることで、管理の手間を緩和する選択肢も一応存在しま
す。
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あとがき (市川正人)
中小企業診断士の資格を取得してから既に30年余りが過ぎています。中小企
業診断士は何をやる資格であるのか世の中によく知られていないように思い
ます。中小企業診断士の間でも答えは全く一様ではないものと思います。
私は法律に則った取り決めに関わる仕事、システム構築などIT分野が主体と
なる仕事、経理財務などの数字面が主体となる仕事は、その道のプロにお任
せすることにしていますので、中小企業診断士の資格を持った方々が行なう
と多くの人が認識している多くの仕事を自分で手掛けないようにしています。
労働に関わる法律を適切に守ることを指導するようなお仕事もお引受けする
ことが基本的にありません。ですので、今回のテーマも(もちろん、常識レ
ベルの基礎知識はあるものの)門外漢に近い分野のものと感じています。今
回の文中でも、「時間外労働」以外に「休日労働」なども加味しなくては正
確ではありませんし、Xさんのケースでも「深夜労働」を勘案しない話の流
れになってしまったりしています。そうしたことは偏に上述のような素人知
識によって書かれた文章であると、ご容赦いただければ幸いです。
副業社員も「社員」と呼んでいますが、本文の中でも言及している通り、ア
ルバイト社員の方が管理は煩雑を極めることと思います。そうした事例の検
討も文章量の制限や、原理の説明を主眼としたこのメルマガの主旨から割愛
いたしました。
それでも社内の従業員が副業をしている場合の経営リスクについては、その
原理をお伝えし、現場レベルの対策の方向性のありようをご理解いただくこ
とはできる内容になったかと思っております。特にクライアント企業で実際
に発生した事例をベースにした内容ですので、対策案についてはオーナー経
営者の経営感覚に或る程度適合するものではないかと思います。
当コラムを27年書き連ねて来て、初めての実務的色彩の濃いテーマ設定の周
年記念特別号に致しました。本来のお祭り号として、深みに嵌ることなく、
副業のリスクについての読み物にできたと考えています。読者のあなたの大
切な会社の日常に潜在している経営リスクの一つを顕在化する一助になれば
望外の喜びです。
今後も飽くことなくご愛読のほど、平にお願い申し上げます。
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(完)