4月3日の封切から1週間余り経った日曜日の夕方6時25分の回を明治通り沿いのビルに収まったミニシアターで知己と二人で観て来ました。いつものことながら、このビルに2館入っているミニシアターのうち、いずれで何を観ていたかを殆ど記憶していませんが、比較的最近(と言っても過去一年以内ぐらいだと思いますが)、このビルとこの館に来た覚えがぼんやりあります。
封切から1週間余ですが、新宿での上映館はこのミニシアターだけです。上映回数も1日1回だけですので、かなりお寒い状況と言えます。ただパンフは売り切れており、普通に考えれば人気がある証拠でしょうが、上映1週間余りで売り切れるほどの大人気と考えるには少々無理がありそうに思えます。元々印刷部数が少なかったためと考えた方が良いかもしれません。
そもそもこの作品は映画であるのかという疑問を持つべきかもしれません。黄金と黄金を盗み出すことに見入られた主婦の物語で、価格を付けることさえ憚られるような「秀吉の金の茶碗」をこの主婦は盗み出すことに成功する展開なのですが、盗み出されて被害を受ける側の金(きん)を取り扱う実在の会社SGCが劇中にも主たる脇役達が属する組織として普通に登場しています。
金(きん)製品を買うことの理解と普及を狙った企業PR映像とか長編販促動画とか手の込んだステマと見做すこともできるのです。そのように見るとかなり胡散臭い制作・配給構造と言えますが、その割にはストーリーは前述の通り、杜撰な警備体制の中、高価な製品が二度に亘って盗難に遭うものですから、自虐的とも言えますし、そのような物語設定にしたことによる笑いで非難を躱したと言えなくもありません。シアターの入口で鑑賞特典として、森崎ウィンが演じる営業部課長の名刺が貰えるという変なネタまであります。名刺を配るぐらいならパンフを多めに用意していただきたかったと思います。
私がこの映画を観たいと思った理由は、幾つかあります。一つは金(きん)に少額投資をしていて、金(きん)を販売している人々や保有している人々など、そうした人々のありようを観ることができるのではないかと期待したことです。
次に田中麗奈が主演していることも理由の一つです。彼女は今年1月に観た『星と月は天の穴』にも出演していて娼婦の役でしたが、全編着衣のままで、他の女性出演者二人の方がフルヌードになっているのとかなり対照的でした。主人公の小説家を慕い、結果的に風俗から足を洗うことになっても結ばれることがなかった切ない役柄で、渋い演技が光り、ネットでは「新境地を開拓した」との評価もありましたが、何か少々スカした感じに終始したように思えます。
テレビドラマなので私は観ていませんが2015年段階で、彼女は『美しき罠~残花撩乱~』という作品に出演し、「会社の常務と3年に亘る不倫関係にある34歳の地味なOL」という役を務めているようです。ネット記事では「大人になった田中麗奈、ヤバい&エロすぎると話題に ベッドシーン、不倫OLを快演」などというタイトルのモノもありますので、清純派的なイメージはこの段階から破られていたのかもしれませんが、全体的にその手の役どころや濡れ場が登場するような役どころがあまりなかった女優であるのは間違いないかと思えます。今回はコメディですが、実年齢45歳の彼女の退屈な生活に苛まれて、タイトルまんまの黄金泥棒に走る専業主婦の役どころを見てみたいと思えたのでした。映画.comの紹介文章にもその砂を噛むような退屈感が滲み出ています。
[以下引用↓]
人生に退屈していた平凡な主婦が金(きん)の魅力にとりつかれ、100億円相当の金の茶碗を盗み出そうとする姿を描いたクライムコメディ。実在の事件から着想を得た物語で、主人公の主婦・美香子を田中麗奈が演じた。
平凡で味気ない日々に退屈していた専業主婦の美香子は、ある日訪れた百貨店で、ゴールドカンパニーのSGCが販売する、100万円もする「金のおりん」をつい盗んでしまう。普通であることが幸せだと言い聞かされて育った美香子だったが、金の魅力にとりつかれたことをきっかけに、幼いころに抱いていた「特別な人になりたかった」「私にしかできないことをする」という夢がよみがり、無謀にも100億円相当の「秀吉の金の茶碗」を盗み出す計画を立てる。しかし、美香子を利用しようとするSGCの社員・金城との駆け引きや、なし崩し的に泥棒の共犯者となった夫の浮気など、トラブルが連続し……。
金の精錬から製作、販売、買取などすべてを手がけるゴールドカンパニーの株式会社SGCが協力し、総額数百億円にものぼる本物の金工芸品の数々が劇中に登場。美香子と駆け引きを繰り広げる金城役で森崎ウィンが共演。監督・脚本は「断捨離パラダイス」「津田寛治に撮休はない」などのオリジナル作品を手がける萱野孝幸。主題歌を広瀬香美が担当。
2026年製作/112分/G/日本
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2026年4月3日
[以上引用↑]
もう一つの鑑賞動機は石川恋です。2015年に観た『映画 ビリギャル』の感想には以下のように書いています。
[以下引用↓]
この映画の原作である『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』を私は購入してかなり読み込みました。この手の動機づけモノは仕事に関係が相当あるのですが、あまりにも世の中に溢れすぎていて、ほぼ無条件にスルーするのが当たり前になっています。それでも買うことにしたのは、まずはカバーのみならず、扉ページにまで配された写真のJKのメヂカラによるところが大きいように思います。
勿論、現在は慶應大学を卒業している本人(さやかちゃん)ではなく、石川恋と言うモデルなのですが、現場でイメージ作りに努力したらしく、著者もあとがきで賛辞を贈るほどに当時の「さやかちゃん」にイメージが似ているとのことでした。そして、確かに「こんな子が慶應に受かったら、それは面白いだろうな」と思わせる力が写真から放射されているように感じられるのです。
[以上引用↑]
しかし、あまりに鳴かず飛ばずのモデルの仕事に、これが最後と決めて臨んだビリギャルのモデルが衝撃的な展開になった逸話は有名ですが、その後、石川恋が女優として有名になるような展開が起きた訳ではありません。私が劇場で観た中では、本作を除くと唯一『SCOOP!』の中で撮影中のモデルの役をやっていますが、これは自身の役で役名もそのまま石川恋でした。また、TVerで観たドラマ『ギークス~警察署の変人たち~』で犯人役で登場したのを見たことがありますが、一話だけの登場で、特に印象に残るようなものではありませんでした。そんな石川恋が劇場で観られるというのはレアな事件です。
本作の彼女は、田中麗奈演じる主人公の夫の不倫相手です。ただの不倫相手の役ではなく、SGCの社員でもあり、田中麗奈の脅迫により、不倫相手の夫共々、「秀吉の金の茶碗」の窃盗計画に組織内部に居ながら協力させられます。かなり台詞も多いですし、登場している尺も長く、普段あまり観ることがない劇場の彼女を堪能することができるものと思われました。
シアターに入ると、30人弱の観客がいました。2人連れは私達も含めて4組で女性の2人連れが2組と男女の2人連れが2組です。ネットで確認すると座席数は53でしたので相応の稼働率です。4組の2人連れ以外は全員単独客に見えましたが、混雑でただ隣り合っているだけの単独客と2人連れが微妙に判断できないケースもあったように感じます。年齢はざっくり見渡して、50代以上の中高年・壮年・老年が全体の過半数であったように感じます。
楽しめる作品です。何が一番楽しいポイントかというと、やはり、疲れた可愛げのない専業主婦の田中麗奈の姿です。或る意味典型的な常識的な世界から流れ離れてしまったオバサンという感じです。その冷めた姑が宮崎美子というのがまた懐かしく面白い組み合わせという感じです。パンフで色々読んでみたいと思えましたが、そのパンフが売切れなので、何か情報はないかとネットを見ていたら、映画.comのレビューの中に非常に秀逸なまとめになっていて、パンフに書かれていたのではないかと推察されるSGCの協力状況や、田中麗奈のイカレたオバサンぶりが余すところなく書かれていて、頷く所頻りでした。「ニコさん」という方のレビューです。
[以下引用↓]
『SGCによる、嫌味のない販促映画(※)』
ニコさん
さすが価格高騰中の金を専門に扱うSGC、プロモーションビデオもえらく豪華やなあ……と思うほど惜しみなく金製品が出てくる。
田中麗奈演じる美香子がバーナーで金のおりんを炙るシーンがあるが、あれは本当に金製のおりんを炙ったそうだ。それと、美香子たちが3Dプリンターで作った偽物の秀吉の金茶碗、あれは500gの純金を使ったリアル金茶碗をラッカースプレーで偽物っぽく塗装したものだとのこと。どういうこだわり?(笑)
SGCの役員がエグゼクティブプロデューサーを務めたから出来た英断(?!)だろう。途中でSGCのCMみたいなシーンもあったし、やっぱPVかなこれ……プライベートジェットにスイートルーム、やっぱ金の商売って儲かるのかな……
でもPVにしてはほんのり自虐要素もあって(映画の中のSGC、ちょっと怪しい会社に見えるし)、嫌な宣伝臭は感じなかった(※ PVだという客観的根拠はありません)。金のネックレス、なかなかいいなと思ってしまった。
主人公の美香子は、なんとも癖つよなキャラクターだ。
親からは大学に行かなくていい、26までに結婚しろと言われながらも進学したが、そこで出会った路範に結婚後は家庭に入るよう言われてしまう。80年代生まれってまだそういう世代だっけ? 萱野監督が大分出身であることも、当時の価値観に対する感覚に反映されているのだろうか。この辺はちょっと彼女に同情した。
冒頭の大黄金展でおりんを万引きするシーンは、実話に基づいている。13年前、札幌三越で開催された大黄金展を訪れた主婦が、約530万円の18金のおりんを盗んだ。8日後に夫に連れられて自首した彼女は、「きれいだなと思って盗んだ」と供述したそうだ。
ここもまだ、美香子の気持ちを想像できなくもなかった。人間、魔が差すということがある。
だが、金城に北海道旅行に招待されたあたりから、美香子は本格的に無軌道な感じになってくる。自分は旅行先で金城に対して下心があったくせに、路範の浮気に対しては「金茶碗を盗むか離婚」という厳しくて意味不明な二択を突きつけるのは、ちょっとおまいう案件だなと思った。まあ、致した路範と未遂の美香子という差はあるのだが。
金茶碗強奪作戦のパートは、半分は信州ゴールデンキャッスル見学ツアーという感じで、なかなか楽しめる。金茶碗泥棒の嫌疑をかけられた後の美香子のふてぶてしさは、SGC関係者の怪しげな雰囲気のせいもあってか、一周回って爽快だ。
地頭はいいが働いたことのない不思議ちゃん主婦という雰囲気の出し方が、田中麗奈は上手い。森崎ウィンも、想像以上に胡散臭い役が似合っていてよかった。
宮崎美子が演じた、路範の母親の言葉が妙に印象に残った。彼女は美香子に対し、ネックレスに飽きたら新しいのを買ってもらえ、あなたにはその権利がある、確かそのように言った。彼女は美香子が本当は働きたいのに路範の意向を受け入れて専業主婦になったことを理解している。母親のこの一言で、路範の父親の夫としての姿まで目に浮かんだ。
最終的に美香子は路範と離婚し、細々と働きながら一人暮らしをしていることが最後に描かれる。一見寂しい終わり方で、萱野監督自身もラストについて「人は何を手に入れても満たされない」と述べている。
(後略)
[以上引用↑]
全くその通りと感じます。田中麗奈のキャラの美香子に関しては、何故かDIY系が強いキャラと設定されているのですが、その点についてはニコさんが言及していないのが少々残念です。主人公は最初に盗んだおりんを溶かしてインゴットにしようかと漠然と思ったようですが、それを自宅の中でキャンプ用に見えるバーナーを何本も使って、滴り落ちる金(きん)を受ける用意までして、おりんをあぶり続けますが、単に大きな穴をあけただけに終わりました。その後も、森崎ウィン演じるSGC課長のパソコンを偽物と差し替えるため、全く同じ外見(傷などの位置まで一緒)のパソコンをやすりで削るなどして作り、動作内容の違いがばれないよう、水没させて故障させてから掏りかえるという用意周到さです。
最後の大仕事の舞台はこれまた実在の信州ゴールデンキャッスルですが、その段取りを考えるため、非常に精巧なモックアップを作り、逃走経路などを再三検討していたりもします。妙にクラフトワーク系が強いのです。映画を観ている限り、劇中には彼女がそのような分野に強くなった経緯や理由が描かれている場面はなかったような気がします。
またニコさんが挙げている実話がベースであるという話も、地元で非常に話題になった記憶があり、この作品を観ている最中に、実話の存在に私も気づきました。
ニコさんが言う胡散臭い森崎ウィンは、これまた全くその通りです。私は森崎ウィンが一番印象に残っているのは、『どうする家康』の徳川秀忠役で、強くなく優れてなく、凡庸なことを最初は悩みつつ、それを強みにすることを周囲から諭されて段々と二代将軍の形になってくる変化がよく描かれた好演だったと思っています。しかし、胡散臭い彼の役で言うなら間違いなく、私が観た劇場作品の中では『レディ加賀』です。自称地域興しプロデューサー(/コンサルタント)といった如何にも胡散臭い役柄を本当に胡散臭く演じていました。
いつも思い至るのは、10歳の時点から来日しているとは言え、彼の日本語の自然さです。顔立ちも日本人と言っても違和感がないぐらいですので、森崎ウィンという芸名でなかったら、日本人俳優として完全に通るのではないかと思えてなりません。ネットで観るとイマーション・メソッド全開という感じの学習法であったようですが、凄い成果であると思います。
それともう一つ、この作品には驚きがありました。映画.comのキャスト一覧の中にも登場していないのですが、水崎綾女が出演していました。私は水崎綾女が結構好きです。最初に彼女を見つけたのは、2007年に放映されたテレビドラマ『キューティーハニー THE LIVE』でした。テレビをあまり観る機会のない私がその番組の存在に気づいたのは大分後で、キューティーハニーの何かを調べた際に検索をして偶然その存在を知りました。非常に面白いドラマで、途中からダークファンタジー的なテイストに塗り替わって行き、3人いたハニー(相当のキャラという意味ですが)のうち2人は消滅してしまいます。水崎綾女もその消滅キャラの1人でしたが、深い業を背負っていてかなり歪んだ性格で自らの運命を呪いながら生きているようななかなかいい役柄だったと思います。
ウィキで見て、そんな彼女を時系列は逆ですが、私は劇場鑑賞作品で観ていることが分かりました。『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』です。感想には以下のように書いています。
[以下引用↓]
巨人を描くと共に、青春群像を描くということにも監督は意識したようなことがパンフに書かれています。確かに、劇中でピエール瀧に言わせている“青春像”にあるように、多くの男性キャラは(シキシマと偉ぶった隊長を除いて)妙に幼稚で、私は好きになれませんでした。自分が粋がっていた頃に惚れて、巨人を前に為す術もなく見殺しにした女が眼前に強い戦士として、そしてさらに強い男のものとなって現れて、叫びまわるエレンに対して、子持ち女が「意外に子供だったんだ…」としれっと言うシーンは、私には結構喝采モノでした。
[以上引用↑]
この文章に出てくる「子持ち女」が水崎綾女だったのです。2015年公開の劇場作品です。その後も彼女は多くは端役の出演を重ねていますが、ドラマにせよ映画にせよ、私は観欠ける機会を逸したままになっていたのが、いきなり(映画.comの情報にも載っていなかったのに)登場したことには、ちょっとした感激を覚えました。それも(台詞こそ少なめですが)結構長い尺で登場します。マーケティングではお客様満足はお客様に良い驚きを与えることと言いますが、少なくとも私にとってはこの作品の最大級のお客様満足ポイントは水崎綾女の登場だったかもしれません。
他の出演者では、年を取った勝野洋や母親役が妙に板について来た宮崎美子もなんだか懐かしい配役です。そして、鑑賞動機の一つでもあった石川恋は大活躍で、(田中麗奈の悪目立ちと言えるレベルの奇行の数々の前には少々霞みますが)なかなか見応えがありました。カッチリまとめた髪とシルバーの細フレームの眼鏡のスーツ姿が定番で、到底ビリギャルのイメージはなく(大体にしてビリギャルの際には動かず話もしない書籍の表紙カバーでしたが…)、『ギークス…』の犯人のふてぶてしい開き直りもなく、きっちり役をこなしていたように思えます。
さらに一つ、この作品を観て金に少額の投資をしているものとして学べたことがあります。それは金製の仏具には(本来の仏具として使用され、監禁の意図などの下に購入されていない場合などの条件がありますが)相続税がかからないという事実です。道理で、金製のおりんや仏像などが多々販売されている訳だと、得心しました。劇中ではかなりイケる節税対策として語られていますが、税務署も甘くはないので、なかなか実践が難しいテクニックであるかと思えました。一応AIさんに尋ねてみると…
[以下引用↓]
AIによる回答
金の仏具は原則として「祭祀財産」となり相続税は非課税ですが、投資目的や高額な骨董的価値がある場合は課税対象です。日常的に礼拝されていることが条件であり、相続直前の購入や、換金性の高い純金製品は税務署から「資産」とみなされ課税リスクが高いため、注意が必要です。
(中略)
純金の仏具であっても、その家の供養の形として歴史があれば非課税になる可能性はありますが、相続税対策として安易に購入することは税務リスクが大きいため避けるべきです。
[以上引用↑]
と書かれています。さらに調べると、
1. 換金性が高くない
2. 生前に購入されている
3. 死後に売却予定がない
4. 日常的に宗教的目的で使われていた
などの条件をクリアする必要があるようなので、やはりかなり利用するのが難しいカードですし、過剰に高額すぎるのもダメということの様なので、非課税にできる金額もそれほど大きくなさそうです。ただ、例えば、『マルサの女』の冒頭に登場する当選宝くじをマネーロンダリング手段として売り歩く男の話などのように、非常に刺激のある視点であると思えました。
SGCの杜撰な組織と杜撰なセキュリティ体制など、やや現実離れ感はありますが、ぶっ飛んだオバサンの田中麗奈を中心に観るべきポイントがたくさんあり、楽しめる映画だと思います。DVDは買いです。