===================================
経営コラム SOLID AS FAITH 第633号
===================================
ご愛読ありがとうございます。第633話をお届けします。
全2回から急遽全3回に増やしたシリーズ『軋む未来』が前回で終了しました。
3話という短さですが、昨年9月から開始された全6回シリーズの『R6メリケン
奇聞』以来の久々のシリーズ構成でした。『軋む未来』では中小零細企業の現
場で散見されそうなAI活用の陥穽を3つのテーマから描いてみました。
AI、取り分け大流行の生成AIはどの程度使えるのか。巷間で言われるほどに
活用の余地が大きくないというのが、中小零細企業の現場の実感ではないかと
思えます。フィジカルAIとまとめ称される人型ロボット群の動画などを見ると、
日常を大きく変えそうな気配を感じずにはいられませんが、できることの範囲
を広げていく道はまだまだ平坦ではないようです。
生活上の実感とはかけ離れた所で株価は上昇を続けています。曰く、AI関係
の企業群の株高が非常に大きな牽引車となっていると解説されています。しか
し、所謂ビッグテック株と呼ばれる銘柄の多くは、以前から株の時価総額が売
上規模に比べてはるかに大きいことが知られています。最近では、ビッグテッ
ク株の企業価値を年間売上高で割った指標の「株価売上高倍率」があからさま
にニュース記事に出回るようになりました。例えば、NVIDIAのそれは約20倍と
報じられています。分かっている人は分かっている事態が、公然の状況になり
つつあります。その先に待つのは、一般的に言って、「バブル崩壊」でしょう。
AI全般を支えるデータセンターも乱立しつつあります。そこで必要になる電
力や水は膨大で、米国では誘致場所の地域の電気・水道料金が跳ね上がって、
地域経済を圧迫しているような事例さえ出ています。単純に建物の景観上の問
題とか、雇用の創出規模とか、そういった議論を超えた所で、物理的な誘致限
界が見え隠れするようになってきています。
生成AIについては、その答えが多少なりともまともな範囲に収まっているの
は、膨大な量の人力によるコンテンツ・モデレーションの結果という話も出回
りつつあります。発展途上国の労働者を時給300円以下で酷使する現代の奴隷
労働とまで書かれている報道もあります。AI以前のインターネット時代の国内
のコンテンツ・モデレーションでも、映画『見知らぬ人の痛み』で見ると精神
的に苛酷な作業です。それが発展途上国に持ち込まれたらどうなるのかは言わ
ずと知れています。
生成AIに持ち込まれた機密情報や個人情報はどんどんダークウェブに流れ出
すという噂話を、先日久々に会ったIT系の知り合いに教えられました。そんな
こんなでビッグテック株が輝きを失えば、そこに大量の半導体を供給している
半導体産業にも翳りが出る可能性が多少はあります。日本にも九州や北海道に
大規模に誘致される半導体製造拠点がどの程度稼ぎ、地方経済にどの程度潤い
を与えてくれるのか、注視が必要であるかもしれません。『軋む未来』が描い
たどころではないほどに未来は軋んでいる雰囲気です。
今回お届けするのは、前号までのシリーズとテーマが打って変わって、優し
い経営者についての内容です。題して『平穏舗装』です。いつもに比べてかな
りストレート・フォワードな主張の文章に仕上がっていると思っています。是
非、ご一読ください。ご意見・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想
などへのお返事の目標納期は5営業日!!
===================================
その633:平穏舗装
輸入商社の社長は私を事務所からガラスの壁で仕切られた社長室に招き入れ
て語った。
「外に声が漏れないように小さな声で話しますが、困っているのはある高齢社
員なんですよ。もう定年は過ぎていて、1年契約で雇用を2度既に延長していて、
もう次はないだろうと思っていたんです。営業事務と本社倉庫の在庫管理をし
ている男性なんですが、エクセルが簡単な数字の入力以外できないですし、何
というか、もうついて行けていないのは明らかなんです。それで先週面談をし
て、『今年で終わりになりそうですね』と伝えたら、彼が大泣きし始めて。収
拾がつかないので、またじっくり話しましょうということにしたんです。こう
いう場合、どうすべきだと思いますか」。
その日の午後に行った出版社では、提示した販売予定の書籍の価格に筆者が
難色を示したと報告して、ただ困った困ったと繰り返す編集長をなだめ、そん
な日常茶飯事のような些末な交渉にこれから自ら乗り出すと社長が語る。彼は
本来幹部であろうはずの編集長が全く頼りなく使い物にならないと私に繰り返
し言う。そして「こういうケースで、他社はこうした幹部をどう扱うのでしょ
う」と全く手掛かりなしといった風情で尋ねてきた。
そう言えば、以前世話になったことのある高齢の経営コンサルタントに先日
再会したら「中小企業の経営者が優しくなってしまって」と嘆いていた。帰途、
これら二人の経営者の様子を振り返りながら、ふと「優しい経営者」に思い至
った。
確かに二人とも「長年勤めてきた人物なので、それに報いる形で扱わないと」
や「社内で長くやってきた立場というものがあるので、それを立ててやらない
と」などと宣っていた。これが多分引退間近のコンサルタントの嘆いた経営者
のありようであろう。しかし、それは「優しさ」でもなければ「温情」でさえ
ない。組織内の社員全員が転寝をしているような変化の乏しい安寧の毎日が、
温く楽になってしまったために、それを揺るがすことをしたくない「事なかれ」
や「逃避」というだけのことではないか。
会社は顧客が纏まって形成する市場に尽くすために存在し、社員に尽くすた
めに存在はしていない。社員一人一人が温く日々を変わらず過ごして平穏を享
受しても、顧客の満足が増えることはない。寧ろ、市場や経営環境の変化につ
いて行けない企業に変質が進めば、顧客は憤慨し見下し見放し、企業組織は早
晩淘汰されるだろう。
「地獄への道は善意で舗装されている(The road to hell is paved with good
intentions.)」は私が中小零細企業の幹部や社員の言動を見て思い出す言葉。
最近は経営者も思い起こさせてくれることが多い。その時薄っぺらい善意は大
抵怠惰な安寧に変質している。
===================================
☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
===================================
【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】
■『人生、上出来』 樹木希林 著
https://amzn.to/3PN836t
■『君たちはどの主義で生きるか…』 さくら剛 著
https://amzn.to/4upzalX
■『裸眼思考…』 荒木博行 著
https://amzn.to/4onPPVN
===================================
発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
MSIグループ 市川正人
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
bizcom@msi-group.org
このメールマガジンは、
インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
(http://www.mag2.com/ )
毎月10日・25日発行 盆暮れ年始、一切休まず足掛け27年。
マガジンID:0000019921 (ナント、たった5ケタ)
★弊社代表のコラムが色々満載。
ソリアズのバックナンバーも各号の全文が読める弊社ブログ『MSI-TALES』。
http://tales.msi-group.org/?cat=2
★講読の登録・解除はこちらのURLでお願いします。
http://msi-group.org/msi-profile/saf-index/
===================================
※ ご注意!!
当メルマガは毎月10日・25日に休まず発行しておりますが、当コラムが届
かないというご連絡をいただくことがあります。
まぐまぐでは長期に亘る無料メルマガ読者に講読意思の確認を行なってお
り、その確認を終えるまで配信が停止されることがあるようです。また、サ
ーバなどの不具合でメルマガが不達になると、そのまま読者登録が無効化さ
れることもあるようです。
(さらに、不達にはなりませんが、gmailの翻訳機能により、メルマガの内
容が改変されて表示されるケースもあるようです。その場合は、メール本文
上部に表示される「原文を表示」をクリックすると回復するようです。)
このように各種の不達理由が考えられます。不達の場合は、まず当コラム
の発行状況を上述の弊社ブログ『MSI-TALES』にてご確認ください。発行状
況を確認の上、不達の解消には、まぐまぐ(「magpost@mag2.com」)に、メ
ルマガID(#0000019921)、タイトル(『経営コラム SOLID AS FAITH』)、
購読アドレス、再送希望の旨を記載の上、メールにてご連絡下さい。
===================================
次号予告:
第634話 『リテラシー・レイヤー』 (6月25日発行)
頓智問答のようですが、「分かっていない人間は、自分が分かっていない人
間だと分かっていない」という職場によくあるような話について少々考えてみ
ました。
(完)