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変わった上映形態の映画です。6/8から自主上映が始まり、東京では渋谷で2回、新宿で2回と言った感じで、合計5回の上映がされます。私が観に行ったのは、第五回目の上映で、日曜日の午後6時半から新宿の明治通り沿いのミニシアターで行われた回です。
当初、映画紹介サイトにこの映画の情報が普通に載っていたので、通常の映画と思っていましたが、上映館を探した時点で、日程設定が通常の映画と全く異なることに気付き、自主上映と分かりました。念のため、新宿の街で用を足していた際に、ついでに明治通りの劇場に行って、チケットが購入できるかどうかを尋ねたのですが、できないとのことでした。
致し方なくネットで上映の三日前にチケットを購入しようとすると、スマホユーザーを前提とした決済方法は非常に煩雑で、「PCをお使いの方は…」の“迂回方法”はやたらに手間がかかり、面倒なものでした。おまけに決済のシステムにメールアドレスが登録されるので、他のチケットも買えとメルマガが来たりするなどウザいことこの上なしです。
当日劇場に行くと、小さなシアターにほぼ満席に人がいて、老若男女入り乱れている感じでしたが、業界関係者が多いように見えましたし、特に「関係者指定席」に数人いた若い女性は、まさに劇中のAV女優に共通するハデ目カワイイ系ファッションでした。私がネット上でチケット購入した時点で既に、同じ劇場の前日(=東京第四回目上映)の方は満席でしたので、むべなるかなと言う気がします。
この映画を観に行った動機は、やはり、仕事関係と言わざるを得ません。クライアント企業にはアダルト関係の企業があり、最近の政策的意図が非常に感じられる、AV出演強要などの件なども含めて、業界のトレンドは押さえておくべきかと思ったのが最大の理由です。
敢えて、もう一つ、観に行くことにした動機を考えると、葵マリアと言う主人公のAV女優を、紗倉まな、星美りか、板野有紀、武藤つぐみ、丘咲エミリ、長谷川しずく、檸檬.(「れもんどっと」)の合計7人のAV女優が演じると言う実験的映像であることが挙げられます。同様な試みをした映画で思い出すのは、私が海外の女優で一番好きなジェニファー・ジェイソン・リーが出演している『おわらない物語 アビバの場合』です。こちらは妊娠して宗教的慣習から無理矢理堕胎させられてしまう12歳の少女のその後を描いた映画ですが、年齢、体型、人種、性別までも違う8人の俳優が、1人の少女・アビバを演じています。男性までが少女を演じるこの映像でも無理なくストーリー解釈ができるのですから、本作も大きな支障はないのだろうとは思っていました。
実際に観てみると、『…アビバの場合』と異なって、本作では、カットごとに女優が入れ替わる感じです。『…アビバの場合』では、なんとなく全体に服装の感じが8人共通だったと思いますが、マリアの場合は、口元のホクロは全員共通にしてあります。それが共通点にあることが気にならなくなるぐらいに、カットごとにめまぐるしく入れ替わっても、事前にそうであることを知っているせいか、ほとんど違和感は湧きません。
私は『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』と言う自伝まで読んだことがある紗倉まなは顔と名前が一致していましたが、他の女優はなんとなく見覚えが或る程度でした。7人の女優の登場頻度は、私の認識では均等ではなく、紗倉まな、星美りか、板野有紀の三人で、全登場秒数の7割ぐらいを占めるような気がします。何か、AV女優の実績や、事務所の押し、その他の明確な順位付けが裏にあるのかもしれません。
一般論で考えてみると、AV女優は、或る面、劇中でも描かれる通り、一般的には不安定で寿命のある仕事です。誰か一人のAV女優を主役に抜擢すると、その女優のイメージに映画そのものがずっと紐付けられてしまうことのリスクは無視できないものでしょう。その意味でも、画期的な方法論と私には見えました。
親バレ、カレシバレなどの典型的なパターン、さらに弟が学校で受ける仕打ちなど、典型的な話がたくさん登場します。AV女優は一人も来ないグダグダのトークショーでしたが、「AV女優あるある」をまとめたという監督の妥協のないコンセプトには非常に共感できました。2010年に観たAV女優の物語の『名前のない女たち』では、企画女優が主人公で、普段は普通の会社のOLとして働いている主人公の職場バレのシーンがあります。おまけに撮影現場にナイフを持ったオタクファンが乱入し、殺傷事件を起こす展開まであります。その壮絶感は本作にはありません。
映画の物語設定やコンセプトの問題と言うよりは、女優が企画女優であったことと、鳥肌実演じるプロダクション会社の社長のマネジメントがかなり杜撰な体制であることの方が大きな違いと感じられます。単体女優かキカタンまで来ると、これだけの違いになると言うことと考えると、AV女優の世界の広がりと多様性が分かります。
本作では、「なんでこれほど腐った男ばかりが集まるのか…」と観ている私も思い、主人公の親友も「オトコを見る目がないわぁ」と呆れるほどに、ストーカーになるヤンキー系元カレや、最初はAV女優の仕事に理解がある態度で主人公と同棲を始めるものの、自分の仕事が融資を受けられず資金ショートになると、主人公のカネばかりを当てにする、くだらない落第事業家の低能男が、主人公の人生を引っ掻き回します。
しかし、それでも、一般ドラマへの主役出演のチャンスを得るエンディングなど、AV女優全般のサクセスストーリーとしても、数万・数十万人に一人のレア・ケースをアリアリで描くお気楽さには少々驚かされます。『名前のない女たち』と前後して観た『nude』も、みひろの自伝に基づく物語で破滅的なエンディングには至りませんが、それでも、この作品ほど能天気ではありません。「AV女優あるある」をまとめたと監督が言う割には、ラストは業界の要望に従ったファンタジーになってしまっているとも受け止められます。
私は、AV制作会社がクライアントにいたこともあって、AV業界の内情を或る程度は知っています。今となっては、男性に限らず、女性でも、見て楽しんでいる人間が、山ほどいて、中国などの隣国に対しては、(秋葉原などのAV販売店でかごに山盛りに商品を重ねている中国人を一見すれば分かるように)多分最大最強の輸出品目になっているAV。この現実から目をそらして、この作品の中のストーカー男や主人公の家族などのように、「お前は騙されている」とAV女優本人を詰り侮蔑したところで、全くナンセンスとしか思えません。
業界の今の問題として、散々騒がれている出演強要の問題についても、劇中の「騙されてる説」の延長線上にあると思えます。AV女優を登録管理するプロダクションとAV制作会社の業務内容の違いもよく分かっていない人間から、「騙され説」を聞かされると馬鹿らしくて聞く耳を持てなくなります。
今どき、「気持ちいいセックスを体験してみたい」、「キレイな自分を映像にプロの手で残したい」、「自分にできることに挑戦したい」、「自分のことを必要としてくれる場面にいたい」など、ありとあらゆる(主に金以外の)動機付けでAV女優になろうとする女の子は、山ほどいます。仕事を辞めてでも震災ボランティアに行こうとする若者が大量に存在する昨今、仕事はカネのためではなく、承認や帰属感のために行なうものとなっているケースは多々見受けられるのに、その構造を自覚することなく、「カネのためにセックスを見世物にせざるを得ないかわいそうな子たち」と言うレッテルはあまりに単純すぎます。
おまけに、AKBでセンターを務めただかとされている子でさえ、AV女優の中では見劣りするルックスと演技で、妹まで動員してAV出演しましたが、あっという間に消え去りました。かわいい子、演技の上手い子、現場受けする子の供給は過剰な状況になっていて、モノの本に拠れば、プロダクションに登録されているAV女優の合計数は3万人とも4万人とも言われ、そのうち1万人以上が毎年入れ替わると言われています。その計算で多めに見積もると、35歳以下の日本人女性の10人に1人ぐらいがAV出演経験者と言う計算になると言う統計もあるぐらいです。(さすがにそこまで多くはないと思いますが…)
そんな中で、プロダクション側に危険を冒して出演を強要する根拠は非常に薄弱です。直近の出演強要の問題も、数百本ものAVに出演したAV女優が円満に引退した後に、カレシバレして、問い詰められて、「強要されて出演した」と言い訳したら、カレシが「じゃあ、警察に行ってきっちり詰めよう」と言う展開になった結果だと言われています。『名前のない女たち』の主人公のような企画女優の現場など、出演強要が場面として発生する可能性を否定はしませんが、世の中で騒がれているレベルのものを、現実としてとらえるには、構造的に無理があると私は思っています。
最近『東洋経済』にさえ『中学生が売春に走る沖縄の貧困の残酷な現実 〜娘を風俗店に売る母親も珍しくない』などと言った記事が載っています。沖縄の雇用の少なさは目を覆わんばかりで、私も沖縄の大学の就職課を回ってヒアリングしてみた際に痛感しました。就職課には県外から県内分の数倍の求人案件が来ていましたが、「親だけではなく、親族一同が揃って県外への就職に反対するので、仕事が少ない県内での就活だけであきらめるのが普通だと学生たちは思っている」と4校全部の担当者が言っていました。そんな構造の中の、「当たり前の中学生売春」なのであろうと思います。記事を書いている中村敦彦は、文章がいつもヒステリックで、私は半分オオカミ中年ではないかとさえ思っていますが、この記事も、あって不思議のないギリギリの現実感を持っていると思っています。そして、人間の本質的ニーズに関わる問題は、表面だけ取り繕ったような道徳観や正義感で扱うこともできなければ扱うべきでもない問題だと私は思っています。
本作にはAV撮影シーンなども多少ありますが、ハードな場面はなく、AVには必ず登場するフェラチオシーンもありません。撮影の合間によくいる泣き出し取り乱す女の子の姿もありません。(AVに限らず、普通の舞台役者でもモデルでも、真剣勝負の大人の世界に突っ込まれてしまって泣き出す子は、多々います。泣き出すのは業界の悪慣習(だけ)によるものとは私は思っていません。)あまりに唐突で派手なハッピー・エンディングもそうですが、業界のきれいごとにかなり偏っているのは間違いなく、その点では共感できません。
ただ、「騙されている説」を脳タリン的発想として描いてくれていること、さらに7人入れ替え戦の実験的構成など、観るべきものはあると思えるので、DVDは出れば買いです。
紗倉まなのFANZA動画
星美りかのFANZA動画
板野有紀のFANZA動画
武藤つぐみのFANZA動画
丘咲エミリのFANZA動画
檸檬.のFANZA動画