『ファンタスティック・フォー』

 霧雨が続く金曜日の夜10時の回をバルト9で観て来ました。終わり時間は終電後。封切から約一週間。天候・時間・曜日を考えても、観客10人余りは、少々少なすぎる気がします。観客は若い年齢層に偏っていたように思います。

 この映画を観に行った理由は、やはり、新たなマーベルものであることが大きいのですが、2005年から二作シリーズで作られた旧作『ファンタスティック・フォー』のそれなりのファンなので、それらと今回のものを比較してみたかったという点もかなりあります。

 よくマーベル最古の作品と言われる『ファンタスティック・フォー』ですが、原作のコミックにはあまり良い印象を持っていませんでした。遥か以前、北海道の片田舎の街で育った私の小学校時代の修学旅行の目的地は札幌でした。自由行動時間に初めて行ったテレビ塔そばの紀伊国屋には洋書売場が広がっていて、その脇には日本語訳にしてあるアメコミの売場がありました。他にも山ほど買い込んだ書籍で残りが少なくなった小遣いで私は初めてアメコミを三冊買いました。『アメイジング・スパイダーマン』、『ミズ・マーベル』、そして『ファンタスティック・フォー』でした。この三冊で最も印象が薄く面白さを感じなかったのが、『ファンタスティック・フォー』でした。他の二冊は、50を過ぎて尚、ストーリーが思い出せるほどに何度も読み返しましたが、『ファンタスティック・フォー』のものは、ほとんど思い出せません。

 同じ環境で同じように宇宙船を浴びた四人はなぜバラバラのおかしな能力を身につけたのかと言うのが、妙にご都合主義に子供心に感じられたのが、好きになれなかった最大の理由だと思います。

 その『ファンタスティック・フォー』が映画になると聞いて、外れ覚悟で観に行ってみた、2005年の旧作は私の予想を大きく裏切って面白かったのです。期待を裏切ったことが大きく印象に残って、マーベルのヒーローものの中では、サム・ライミの『スパイダーマン』三部作に次いで(と言っても、結構、1位と2位の差は大きいですが…)気に入りました。

 それを超えるようなものであるのか否かを観ようと思ったのですが、結論を言えば、大外れでした。面白くない最大の理由は、主人公達が変に子供っぽいうえにほとんど活躍しないからだと思われます。宿敵ドクター・ドゥームの登場は、たった100分しかない映画で、ラスト15分ぐらいの所です。それまで間、如何に異次元空間と現空間を往復する装置が作成されたかに物語が費やされていきます。

 子供時代のリードのガレージに、ベンの実家のジャンクヤードからの機械や部品を持ち寄って組み立てた、物質転送装置が小実験に成功し、五年後に科学コンテストのようなものでお披露目をして、異次元空間との往復を成功させると、人間を往復させるプロジェクトにいきなりスカウトされるのですが、この経過がやたらに長く、青春物語として描かれていくのです。

 おまけに青春物語なのに、恋愛もセックスもなく、致命的なハチャメチャをやる訳でもありません。淡々と物質転送装置の開発に纏わる若手開発者の物語を描くだけなのです。これでは、テレビシリーズぐらいの長さにしなくては、盛り上がりを持って来られる訳がありません。100分ではとても無理です。実際に、30分ぐらい経った時点で、ポツリポツリと外に出ていく観客が二名ほどいました。

 この構図は、どこかで観たことがあります。『クロニクル』です。封切前にネットで読んだ映画評で、『クロニクル』と監督が同じであることは知ったのですが、映画館に行った時点では失念していました。しかし、あまりに退屈な展開で、余計なことを考える余裕が頭の中にたっぷりとできたことと、平坦な青春物語がたまさかSFテイストを含んでいるような、中途半端なテレビものSFの出来損ない総集編のような印象から、簡単に同監督の作品であることを思い出しました。

 旧作のジェシカ・アルバや、後に同じマーベル系でキャプテン・アメリカになるクリス・エヴァンスなどの、まあまあの知名度の役者さえいず、さらに言うと、無名でもよく、大根役者でもいいから、せめて私が好きなタヌキ顔の女優でもいたら、とじっくりと考えることができるほどに、有名な役者も見当たらず、退屈な展開をずるずると引きずる映画でした。当然ですが、DVDは必要ありません。

追記:
 ちょっとネタがかっこ悪すぎて観に行きたいとは思えない、現在上映中のもう一本のマーベルものの『アントマン』は、『アベンジャーズ』などの流れの例の「マーベル・シネマティック・ユニバース」の一端に存在するとい噂です。この映画もそうであるのかと思い、だとすれば、エンドロールの後に思わせぶりな他の映画とのつながりを示すシーンが挿入されているはずだと、期待して観ていましたが、全く何もなく、恙なく短い映画は終わりました。最後の最後まで期待を悪い方に裏切る作品です。