『東京無国籍少女』

 封切から一週間半の水曜日の午前中の回をバルト9で観てきました。つい最近、バルト9で、『アベンジャーズ…』を観た際に、ロビーに設置されたモニタでPR画像が流れていたのを観て印象に残ったのが、この映画を知ったきっかけです。丁度、『予告犯』、『アベンジャーズ…』、『ターミネーター…』、『進撃の巨人…』など、大作を見る予定が比較的続く中で、マイナー映画側に“振り子”を戻そうと思ったというのが大きな動機です。

 以前に劇場で見逃してDVDで観た『少女は異世界で戦った』に出ていた主演の子は、あまり印象にも残っていず、今回観に行く動機にほとんど貢献していません。敢えて言うと、押井守の監督作品であること、そして、何かその手の映画っぽい魅力ある画像がPR画像にはいくつか見つけることができた、と言ったことが、多少動機になっているかと言う感じです。

 ただ、そんなことを感じる人はあまりいないようで、あの「押井守」最新作であるはずなのに、封切から一週間余しか経っていないのにバルト9では一日一回の上映になっていましたし、全国でも上映館が10に満たない状態であったと思います。平日の昼前に終わる回。観客は10人少々しかいませんでした。

 世の中の押井守人気を私は知っていますが、全く理解はできていません。特に理解したいとも思っていません。彼の作品は、遥か以前に札幌の劇場で観た『紅い眼鏡』とテレビの映画番組で観た『うる星やつら…』ぐらいしか知らず、どちらもストーリーがほとんど思い出せません。『パトレイバー』シリーズは、全く関心が湧かないといった状態です。一つだけ彼の作品で、人に勧められるぐらいに好感を持った記憶があるのは『イノセンス』ぐらいだと思います。私にとっての押井守作品全体の印象には、嫌いと言うような積極的な何かもありませんし、反対に好きと思える何かもないスタンスで、今回も、単純に、どんなもんか観てみるのも悪くないかなと思ったという程度です。

 PR場面を観て想像したのは、まさに『少女は異世界で戦った』よりは学芸会っちくなく、『片腕マシンガール』、『お姉チャンバラ THE MOVIE』よりは荒唐無稽ではなく、園子温の『リアル鬼ごっこ』ほどこれ見よがしではなく、『最終兵器彼女』(映画版)よりは作り込みが相応にされている…と言ったテイストです。これらの比較対象作品は、どれも私にとって及第点以上ですが、何度も見たいと思えるほどに好きな作品でもありません。これらを少しでも越えるような映画であればいいなと思っていました。

 結果は惨憺たるものでした。一時間半もない映画でしたが、レビューでは最後の15分が見せ場で、そこに至るまでの落ち着いたトーンの女子美術高等専門学校とか言う設定の学校の日々の描写が、それに対する伏線になっているなどと書いてありました。観てみると、伏線と言えば伏線なのですが、端的に夢オチで、現実世界の人々が夢の中にも何となくの現実世界のイメージを引きずりつつ、夢の中に登場しているというだけのことでした。

 現実世界は、無国籍な戦場で、少女だろうと何だろうと、迷彩色の服を着て、銃を手にタンクの機上に乗っかって、前線に向かわねばならない世界だったという話です。パンフによれば、それらの戦場の場面で登場する武器の類は、見る人が見れば分かる無国籍状態で、ありとあらゆる国の武器がごちゃ混ぜに登場しているのだそうです。その軍のシンボルマークがまた、ドイツ第三帝国のようでもあり、米軍の鷲だか鷹だかを模したような感じもするような、典型的なミリオタ系の心象風景でした。

 なぜ女子美術高等専門学校がロシア語を話すお面を被った変な連中との激しい白兵戦の舞台になるのかが、ラスト15分で分かるのかと、ずっと期待していたのですが、どこにも答えはありませんでした。単純に白兵戦の最後に目が覚めたら、野戦病院のベッドで、「無意識の世界から戻ってきた」と言う話でした。単なる夢ではなくて無意識の世界だったのだと無理矢理に結論付けているのもよく分かりません。どう見ても、ただの夢オチ無理筋映画です。

 主人公の女の子が、少なくとも私には可愛く見えるタイプではなく、チョイエロ的な何かがある訳でもなく、物凄い世界観がある訳でもなければ、特撮に見せ場がある訳でもありません。女の子のアクションを見るなら『ゼイラム』などの方が低予算でも見せ場がたくさんあるように思います。パンフの押井守本人のインタビューで「映画の真ん中にいるのは、やはり女優」と見出しがついていますが、その女優のどこを見ればよいのか、さっぱり分かりませんでした。

 唯一楽しめたのは、テレビ番組の『仮面ライダーカブト』で意識してから、最近だけでも、がっかり来た『009ノ1 THE END OF THE BEGINNING』や『キカイダー REBOOT』から、まあ良かった『予告犯』、そして観る者を圧倒する『太秦ライムライト』など、あちこちに見つかる本田博太郎という男優の存在でしょうか。それに敢えて付け足すと、『東京難民』、『白ゆき姫殺人事件』に続いて、いけ好かない男を演じると外さない金子ノブアキと言う男優。それぐらいしか見るべきものがありませんでした。

 DVDは勿論不要です。