364 バイラルな取組み

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経営コラム SOLID AS FAITH 第364号
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 ご愛読ありがとうございます。第364話をお届けします。

 3月、4月と大型案件一本と小型案件数本がばたばたと始まりました。合法で
事業ドメインの範囲に収まっている限り、業種業態に関係なく案件をお引受す
る弊社では、案件開始と共に、その業種業態の構造や慣習と市場状況などの学
習を開始致します。何本かがほぼ同時に始まると、学習作業のキューが詰まっ
てしまい大変なことになります。

 大型案件は、鮮魚市場に店舗を持つ仲卸企業の組織強化です。魚どころか料
理にさえ関心がなく、「食べ物にこれほど執着と関心がない人間はいない」と
言われる弊社代表の市川には、かなりアウェイ感のある業種業態なので、現場
観察の日々が続いています。

 前回の『ネガティブ・ハッピー・カスタマー・エッジ』は、読者の方から、
「陰謀説のようだ」と言われたりしています。世の中のありとあらゆる出来事
が、受け手の心象風景の中に取り込まれたときに、出来事についての発信情報
とは異なるものとなって定着することでしょう。その構造では陰謀説の発生と
原理は同じだと思います。
 
 今回の号は後継者育成の端緒とバイラル・マーケティングの原理を重ね透か
して見た内容です。登場するエピソードはかなり古いものですが、誰に話して
も面白がられるものだったので、満を持して、当コラムに採用しました。お楽
しみ戴けましたら幸いです。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしておりま
す。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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364:バイラルな取組み

 白河桃子の『跡取り娘の経営学』を手に社長は思案している。工場をやりく
りする三代目の社長はまだ40にならない。彼には小学生の娘が二人いるが、彼
女達は会社を継ぐことがあるのだろうか。まだ時間はあるが、油断していると
遅きに失する。先代社長も子供頃から仕事を手伝うのが当り前の環境の中で育
ち、高校に行くことさえ懇願して許された。今の社長も、バブル期の真っ只中、
寝る間もないほど仕事が溢れかえっていたとき、学校から帰ると先代社長が配
達に行けと、車に荷を積んで待っていたと言う。
 
「そうですよねぇ。私も子供の頃、北海道の田舎町の実家で母が婦人服仕立て
をしていたので、縫い目に剃刀を当てて細心の注意を払って服を解いたり、吹
雪の中できた服を届けに行ったりしましたね。自営業の子供って言うのは、そ
ういう風にして、働くことが当り前に思わされる訳ですよね。いいんじゃない
ですか。お嬢さんに製品の箱詰めとか手伝わせたり、伝票の印刷をさせたりし
たら。まずは当り前の環境を作っておくことが一番大事なのかもしれませんね。
私の仕事を継がせる気は毛頭ないですが、私はうちの小学生の娘に銀行に記帳
に行かせたりしていますし。社会勉強ってことだけでも良いと思います」。
 
 大学新卒の社員を採用する際に、自営業の子供だけ採用する会社を私は知っ
ている。「日常の中に当り前に仕事が入り込んでいる環境で育った人間は、稼
ぐことに疑問を挟まない」とその会社の社長は言っていた。内田樹は『下流志
向』でこのような子供のあり方を「労働主体」と呼んでいる。社員にさえそれ
が望ましいなら、後継者は言うに及ばないだろう。
 
「娘が幼稚園の頃、同じ組の女の子から『死んでしまえ』と言われて落ち込ん
で帰ってきたことがあったんですよ。で、怒鳴り込んでいくようなことでもな
いし、先生に報告しておくと言うのも、如何にも親バカ風で厭ですよね。どう
したものかと考えたのですが、ちょっと調べてみると、その子は寺の一人娘だ
と分かったんですよ。それでふと気づいたんですよ。これは自分の家の商売の
ネタを増やそうとする涙ぐましい家族ぐるみのマーケティング行為なんじゃな
いかと。きっと、寺では、両親とかが、『ああ、檀家の誰かが死んでくれない
かなぁ。どっと儲かるのに』とか言っているのではないかなと」。
 私がニコニコ話すと社長は、「市川さん、それでどうなるのですか」と困惑
して尋ねる。

「で、その寺にいきなり行って、中小企業診断士なのですが、家族ぐるみの見
事な創客活動に感銘を受けたので、是非お話を伺ってみたいと言おうかと思っ
たんですよ。さすがに、うちの家族から止められたので、電話で話すだけにし
ました。それでも、先方には『素晴らしい家族ぐるみのバイラル・マーケティ
ングですね』とは言いましたが」。
 笑っていたが、これぐらいの平然さで家業に子供を巻き込む姿勢があったら、
本当にいいだろうと私は思っている。
 
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次号予告:
 第365話 『三賢者の職掌』 (4月10日発行) 
 歴史上のあちこちに三賢者は登場します。或る三賢者達の姿から、日本の製
造業の強みについて考え至りました。

(完)