031 執着の表現

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経営コラム SOLID AS FAITH 第31号
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ご愛読ありがとうございます。第31号をお届けします。

前回の号の「投資の話」には、「私も、頑張る中小企業への投資をしたい」
とのご感想を読者の方から頂戴しました。ありがとうございます。誤解・語弊
を覚悟の上で発行した文章でしたので、主旨をご理解頂けて嬉しく思います。

今回の号は、(前号末尾の予告にも書いた通り)ストーカー法成立以前に書
かれたものですが、私が昔体験したマーケティングリサーチの現場作業から、
顧客を知る努力に関してまとめたものです。前号同様、多少誤解を招きやすい
文章かとも思いますが、お楽しみ頂ければ幸いです。ご感想・ご意見はどしど
しお寄せ下さい。(返事確実です。)
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その31:執着の表現

ストーカーと言う言葉で一括りにされる人々による犯罪が増えているらしい。
報道に現れるような傷害や殺人に至ってしまうケースは多分氷山の一角であろ
う。軽犯罪法でも取り締まることができないような犯罪行為ぎりぎりの行動で
留まっているケースはきっと多いに違いない。

家まで尾行する。電話番号を調べる。毎日何時に帰宅するか記録する。家族
・交友関係を調べる。そこここで写真を撮る。電話の声を録音する。旅行につ
いて行く。ごみを漁る。ごみの内容を記録して、本人より早く妊娠に気づいた
りする者もいるという。

私も主婦を追い掛け回したことがある。朝は塀の外から窓を覗き、起床から
定期的に何をしているかを探る。ごみのステーションでごみの写真を撮る。ベ
ランダに乾された洗濯物の種類や数・素材を調べる。当然、車の種類はチェッ
クしてある。スーパーに買い物に行けば、尾行して何を買ったか逐一記録する。

私がしていたのはマーケティングリサーチのアルバイトで、スーパーの出店
予定地域の消費者動向調査である。ストーカーと呼ばれる人々に羨ましさを感
じたのは、無作為抽出で決まった人物ではなく、自分の好みの人物をまさに追
い求めることができる点だ。

相手に決して迷惑をかけない範囲なら、自分が狂うほどに好きな対象を知り
抜こうとする執着自体とその表現である努力は賛美に値すると私は思う。憲法
の保証する「通信の秘密」だとて、知ることではなく漏らすことを違法として
いるのだ。

あるタクシー会社は、自宅の電話番号を告げて街に迎えに来てもらうと、何
も言わなくても自宅まで送り届けてくれるという。よく考えれば、正確な住所、
電話番号、家族構成の概要、好みの帰宅ルート、よく行く場所などがデータベ
ス化されていることが想像される。その苦労と執着は便利さに隠れて、客に
はほとんど意識されない。運転手も敢えて解説はしない。社員教育とあいまっ
た見事なシステムだと思う。

一方、口座を持っている外資系銀行のテレホンバンキングでは、電話に出る
や否や担当者が私の名前を呼び、社交辞令を言う。「ドル転なら、確かに今が
良い時期だと思います」などと受話器の向こうで画面を見ながら誉めそやして
くれる。誉め言葉より利子が欲しい。

私の名前が文面の各所にはめ込まれたDMが、見ず知らずの会社から送られ
てくることがある。フォローの電話も来る。「私のことをどこでどんな風に知
りましたか。まずそれを教えてください」というと受話器の声は口篭もる。

押し付けられる「愛」はやはりどこか居心地が悪い。
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次号予告:分類と理解(2月10日発行)
ちょっとおかしな話になってしまったのですが、「マーケティング」や「人事」
などの経営の領域分類に関して書いてみました。ご期待下さい。
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