『ちょっとかわいいアイアンメイデン』

封切から2週間半経った木曜日の真昼間に、池袋西口の、そこでしかやっていない映画を時たま観に行く映画館に行ってみてきました。(今回は関東圏では錦糸町でも上映していたようです。)一日三回の上映ですが、それなりの混みようです。多分、30人近くは観客が居ました。夏休みと言うことなのか、高校生か大学生のような層も多く、中年のおっさんも混じっているという変わった客層です。20代から30代前半に見える女性単独客もぽつぽつ居ました。中には、後述する非常に目を引く女性も含んでいます。

R-18という映倫の最初の判定を修正を重ねて何とかR-15に抑えた結果、高校生まで観客層を増やせたと言われています。男女のセックスが出てこないので、或る意味マイルドではありますが、ヘアまで見せたフル・ヌードは再三出てきますし、激しく潮を吹くレズ・シーンは出てきますし、緊縛拷問シーンも執拗に登場し、拷問具の突端がつきたてられたパンティ越しの股間のアップは出てきますし、(R-15指定の割に)かなりの過激作であるのは間違いないと思います。

対面座位でクリトリスを押し付け合わせるレズ・シーンで、高さ1mほどに二人の間から潮が迸って、二人が果てる場面があります。上映が始まってから少々して入ってきた、高校生男子らしい(如何にもチャラく、一見、俺達はワルです風の)三人が、それ以前のシーンから、ゴモゴモと話しながら動揺を見せ始め、問題のシーンでは、「何あれ。濡れてあんな風になんの?」、「潮だろ~がよ」、「けど、あんなにはならねぇべ」、「ネットとかではそうなってんのみたことはあるぞ」などと、ゴモゴモ言いつつ、ドギマギしているのが、なかなか微笑ましく、普段なら「黙って見てろ」と告げてやるような感じでしたが、(少なくとも私は)映画以上に楽しめたので好しとしました。

そんな楽しみ方ができるぐらいに、はっきり言って退屈な映画です。確かに、過激映像は続きますし、アイドルだのなんだのでそこそこには有名な子達が登場してはそういうことになっていくので、ファンなら見たいというのは、よく分かります。彼女達には、かなりやり込んだ役だったということだと思われます。

しかし、その手の映画には、あまり事欠きませんし、AVどころか、FC2やら何やらで、過激映像があふれ返っている時代、それも、AKBなどのアイドルよりも、セクシー・アイドルとも呼ばれるAV女優の平均スタンダードの方が圧倒的に高いような状態で、グラビア・アイドルのおねえちゃんが、脱いだだの、レズ・シーンを演じただのぐらいで、まあまあ話題になるものなのか否か、私にはよく分かりません。少なくとも同時発売で出ている写真集などが(映画のパンフレットが用意されていず)パンフレット代わりに売店で平積みで売られているぐらいなので、多少の話題性があるということなのだと思いはしました。

女子高が舞台で主な登場人物は4人いますが、そのうちの主役級の二人以外の一人が、(一瞬の表情が本仮屋ユイカに見える)間宮夕貴と言う、『甘い鞭』で壇蜜の少女時代を演じ、私が見た『フィギュアなあなた』にもチョイ役で登場していた子です。さらに、映画のポスターでは分かりませんが、劇中で一瞬々々の表情が私にはAKBのサシコにしか見えない、主役級の木嶋のりこと言う子は、私が見た中では『片腕マシンガール』や『ユリ子のアロマ』にもチョイ役で出ている、まあまあ有名なグラビア・アイドルなのだそうです。こうした出演作を見ると、まあ、所謂「カラダを張った演技」とか「体当たりの演技(≒“艶技”)」が求められる子たちなのかなとか思ったりします。

これらの二人より、現時点でウィキのページすら存在しない、元一流企業OLという変わり種グラビア・アイドルで、映画初出演(?)にして主役級の吉住はるなの存在感がかなりイケています。普段はどんな感じなのか分かりませんが、少なくとも劇中の抑制された感じと、若い頃の奥菜恵やチョイ前の香椎由宇などをちょっと連想させる貫通力のある目線に非常に好感が持てました。ちなみに、この吉住はるなは、さきほどのレズ・シーンを演じる一人ですが、ヘアも出さなければ、乳首もギリギリ顕わにしないで(多分)済ましています。なんとなく、売り出し方を心得ている感じにまた好感が持てます。

原作では小学部から高等部までの一貫女子校を舞台に、「拷問部」の他に「洗脳部」もあり、色々と話が錯綜するようですが、映画では、拷問部だけです。そして、拷問部は部員間の恋愛禁止で、将来、諜報活動に就いた際に役立つ拷問をする能力と拷問に耐える能力を養うことが目的と言われています。そして、映画の前半で、「SMと混同され易いが、全く違うものだ」のような宣言が為されています。

ところが、あっという間に恋愛感情が主役級の二人の間に発生し、相手に対して愛情表現として「拷問したい!」と互いに言い合うようになります。この辺から、拷問部活ではなく、幼稚レベルのSMチックな変態同性愛行為を楽しむ女子高生二人の物語に変質して、後は、縄だの鞭だの蝋燭だのが動員された、グラビア・アイドルの実質的R-18の映像を楽しむだけしかできない、だらついた動画集に変わってしまいます。原作にもっと忠実に、もっとエロく、且つ、マニアックに面白く作れたのではないかと思えてなりません。

この映画を観に行った動機は、アダルト系のクライアントの仕事に関して何か役立つものがあるかもと言う期待と、ヒットしている4コマ漫画が原作と言うことに関心を抱いたこと、そして、R-18を何とかR-15に抑えた性描写と言うような所です。ウィキで見る原作の世界観はかなり複雑で、それがあっさりしたものに翻案されているのが肩透かしですが、少なくとも、観客を観ることで楽しめたようには思います。

先程の高校生男子達もそうですが、もう一人、特異な女性客が居ました。年齢は10代後半から20代前半。黒の和服に身を固めた、和風ゴスロリの子です。髪はキンキンの茶髪。待合室ではいかついサングラスをかけ、黒手甲に黒ブーツ。おまけに帯らしきものは実は剣道の胴のような構造で、背中は黒紐で締めあげられていました。

『Samurai Drive』のPVに出てくるhitomiの格好と、『やっつけ仕事』のPVの椎名林檎を混ぜ合わせて、黒ゴスをベースにデザインし直したような格好でした。この子は、家からずっとこの格好で来たのかとか、この手の格好は何と言うのかとか、これはもしかして何かのキャラのコスプレか、などなど、至近距離で見ると色々と疑問が湧いてきます。帰りにJR池袋駅の改札付近でも偶然見かけましたが、人ごみの中でもかなり目立ちます。とても関心が湧きました。そして何より一番気になるのは、この映画を見に来た彼女の動機です。百合系の関心なのか、SM系の関心なのか、原作の大ファンであるとか。後の用事で多少急いでいたのもあって、話しかけるには至りませんでしたが、色々インタビューしてみたい衝動にかられたのは事実です。

このように観客で楽しめましたが、映画自体の魅力は今イチと言わざるを得ません。しかし、間違い無く、私の知る限り、最も過激な性描写を持つR-15の映画として、そして、何となく好感のもてる、『週刊SPA!』の「グラビアン魂」でも大絶賛された吉住はるなの動画集として、ギリギリDVDに入手の価値はあるかなと思いました。

追記:
ジャケットのデザインに嫌悪感が湧くので一枚も購入したことがないメタル・バンドのアイアン・メイデンを、『グローバル・メタル』の中のライブで初めて観ました。試しにベスト盤を買い求め、聞いてみると、私の知っているそれより古い幾つかのバンドの名曲のパクリのバンドに思えてしまい、B’zが海外のルックスの悪いバンドに再コピーされて鬱陶しさを50倍にしたような感じに思えました。(B’zは嫌いではありません…)
勿論、そのバンド名と今回の映画に関係がないことは理解していますが、どうも、この映画のタイトルを口にすると、あのバンドへの嫌悪や失望が思い出されて困ります。「アイアンメイデン」と言えば、なかぐろ(「・」)なしの「アイアンメイデン」でこの映画が連想されるように、私の無意識を書きかえるほどのインパクトがある映画であってくれたならと、非常に残念に思えます。
ちなみに、私は「アマゾン」と聞くと、今でも巨大ネット通販サイトよりも『仮面ライダーアマゾン』を思い出します。子供のころに衝撃を以て無意識に書き込まれた語感はなかなか上書きされません。