6月下旬の封切から僅か二週間。六本木の遥か昔に『ホームレスが中学生』という映画を観た六本木の映画館に観に行ってきました。全国でたった一館の上映(だったと思います。)。それも一日たった一回の上映です。
封切から二週間で、もし、最初から一日一回の上映だったとすると、全国でたった14回しか上映されないで終わった映画ということになります。このような配給状況になることのメリットがよく分かりません。DVD化を最終着地点として、一応、映画館で上映もしたという箔をつけるためということかもしれませんが、そんなことでよいのか…とは思ってしまいます。ただ、考えてみると、あまりにオリジナル作品からイメージがずれてしまっていて、一作目だけを観て、後続作品を一切見る気が湧かない『攻殻機動隊 ARISE』シリーズも、“二週間限定上映”を端っから謳って、(一館かどうか分かりませんが)非常に数少ない上映館で上映しておしまいという感じです。映画館に“かける”ことの意義がどれほどのものであるのか、いつか業界関係の方にでも教えて頂きたいものだと思います。
そのたった14回と思われる上映の最終回を金曜日の夕方6時少々前から見てきました。観客は10人余り。特にトーク・イベントがある訳でもなく、何か特別な案内がある訳でもなく、上映は普通に始まって普通に終わりました。男性客が多かったように思いますが、仕事関係の電話が直前直後に入ってしまって、ギリギリに入って、さっさと出ることになったので、イマイチ、客層を確認できませんでした。
なぜ、この映画を選んだかと言えば、ここ最近、洋モノを中心に大作系が続いたので、マイナーな映画で、全く知らない分野を見ようと考えたというのが第一義にあります。その中で、4000万越えのダウンロードを誇る携帯マンガサイトの大人気コミックが原作で、さらに、コミックでも13巻まで出て完結したという物語というのが、関心を持った理由。そして、MovieWalkerによれば「部屋の壁の穴を通してお互いの生活を覗き合おうと隣人の女性から持ち掛けられた青年の背徳に満ちた日々を描く」というフェチ的な設定が、アダルト関係のクライアントもいる私には、何か参考になるかもという微妙な期待もあって、最終回に滑り込んで観に行くことにしました。
ただ、この覗き穴の設定は、劇中、あまり活かされているとは思えません。極論すると、アパートの薄い壁で、音でもかなり様子が伝わってしまうということが一つ。それと、主人公の“青年”タツヒコは専門学生なのですが、この隣人の女性えみるも専門学校の同級生です。毎日学校で顔を合わせていて、同じ通学路を行き来していて、おまけに飲み会なども同じ会に参加しているのですから、覗き穴を観なくても、ほとんど生活情報を互いに把握している状態です。なので、覗き穴から得られる情報価値が非常に限られているのです。
映画の冒頭では、妙に意味ありげに、「覗き(云々)…」とか、その後一度も現れない、変に解説チックなナレーションが入って、如何に覗きが抗しがたい魅力を持っている行為かということが語られますが、劇中で、それほど、抗しがたいような誘惑が表現されることがありません。前半に数回出てくるぐらいで、あとは、覗き穴が無くても、壁に耳を当てていれば、大体分かるよう話の展開です。少なくとも、映画を見る限り、遥か昔の『翔んだカップル』の壁ありバージョンと捉えられなくもありません。反対に、とんでもない発見が発生しないバージョンになった奇作『NEW NEIGHBOR』とも言えます。
ウィキで見る限り、タツヒコが交際したりセックスしたりする登場人物が、入れ替わり立ち替わり現れ、覗き穴の存在とそれを介した、えみるとのおかしな関係を知って、どのように態度を変えるかという所が、オリジナル作品の方の魅力のようです。そこに記述される女性登場人物は多く、パンフのイラストに描かれた、コミックのキャラの表情はやけに明るく、「いや~ん」とか吹き出しをつけたくなるような居住いばかりです。想像するに少年ジャンプなどのラブコメのような、男一人に何人もの女の子が好意を嵩じさせてくる展開なのであろうと思います。
残念ながら、映画の方では、二人が隣室同士であることを知って、ひと悶着起きるようなシーンは何度かありますが、覗き穴の存在を知って、何か騒ぎ立てたり、態度を変えるような登場人物はいなかったように記憶します。おまけにタツヒコが劇中で濃い人間関係を持っている女の子はたった二人です。バンバンセックスをする相手で、金持ち中年と二股をかけているのが後にばれる友里と、例の覗きフェチ女のえみるです。
友里は、如何にも、人生の大きな部分が恋愛で占められているようなきゃあきゃあした女の子として描かれていて、原作のイメージではどうであるのかよく分かりませんが、肉感的を越えて、正直、かなりデブに見える体型です。それに対して、野暮ったいファッションでスレンダーと言えば聞こえはいいですが、物憂げで思い詰めたような表情のやせぎす女であるえみるは、基本的にモテない腐女子系的に描かれています。
デブ体型が好きではなく、思い詰め系や微かにメンヘラ系の幼児体型女が好きな私としては、えみるのキャラはかなりストライク・ゾーンで楽しめました。友里と別れて、結局、自分のことをずっと(文字通り)見つめ、好意を抱き、何度も自分を窮地から救ってくれているえみるに対して、映画のラスト四分の一ぐらいで、タツヒコは恋愛感情を抱きます。恋愛というよりも、親愛の延長線上のいとおしい気持ちかもしれません。
夜に外から電話して、えみるの部屋に行き、二人で食事をします。以前から真顔で「私の初めての体験はタツヒコさんとと決めているので、とってあるのですよ」と言われていた、青年タツヒコは、えみると食事後たわいなく話しています。すると、えみるは「今日は私とセックスするために来たんですよね」とぼそりと暗い声で言ったりします。
その後、ベッドで初体験に至ると思いきや、えみるはタツヒコとのセックスを動画に取る準備をしていて、さらに、愛撫を始めたタツヒコに、「愛しているとか、何も言わないんですね。友里さんと別れて、隣に居た女って、お手軽ですよね。それでセックスをすると…」などとぼそぼそ言いだすのです。タツヒコが「そんなこと無いよ!」と激昂すると、えみるはカメラを手に持ち、「困ったタツヒコさんの顔が大好きです」とズームしたりするのです。
この予測不能な感覚的価値観は、なかなか面白いですし、魅力的です。私の大好きな山本直樹の名作『あさってDANCE』で主人公の末吉が奔放な日々野綾に振り回され、「振り回されることに疲れた!」とブチ切れると、「このまんま私の一挙一動にうかれたり、しょんぼりしてよ。わくわくして、どきどきして、がっかりしてよ」と日々野綾はのたまいます。名場面は多数ありますが、多分、最高の場面です。
この映画の主人公えみるの性格は日々野綾よりももっと暗く、ツンデレというよりも、自分のタツヒコに対する愛情の形が、タツヒコが求めているフツーの恋愛とはかけ離れていることを本人も持て余しているように見えます。このように見ると、この作品は覗き穴の設定が面白いのではなく、えみるの奇妙で一途な恋愛表現が面白いのだと分かります。
えみるを演じるのは池田ショコラという、役名とは別のニュアンスで変わった芸名のモデル出身の女優です。今回は映画出演第二作ということで、前作を調べてみたら、『絶対領域』という映画の脇役でした。この映画では、“絶対領域”という三人構成のアイドルユニットのセンターの子の恋愛が描かれますが、池田ショコラは非センターの子です。劇中で、絶対領域は『真夜中の秘めごと』という曲を歌っていて、そのライブシーンが、YouTubeにアップされています。見る限り、そこでの池田ショコラは、えみると違って明るい表情をしていますが、どちらかというと華が無い感じです。先述の通り、思い詰め系や微かにメンヘラ系の幼児体型女が好きな私で、おまけに、『白ゆき姫殺人事件』の井上真央をみて、“新幹線顔”も好きだということを改めて認識した私ですので、えみるの役を演じる(まあまあ“新幹線顔”系の)池田ショコラはかなり好感が持てます。
最近改めて認識した“新幹線顔”系はおいておき、元祖大好き顔つきは、タヌキ顔です。タヌキ顔は無条件に好きなのですが、脇役の一人で、モロその手の顔の子が居ました。タツヒコとえみるのさばけた同級生を演じる新島亜祐弥という女優です。ネットで調べると『ブタカリ。…』とかいうホラー映画と『うわこい』とかいう映画だかテレビだかに出ているということになっていますが、全く見たことがありません。深田梨菜や遥めぐみに似ている雰囲気に劇中では見えます。
ウィキで見ると、彼女の役柄の寺門巻子は原作では同性愛者でえみるに恋をしているのだそうです。同じ配役でえみると寺門巻子の物語が続編で作られたら、最高に好きな作品になる可能性が大ですが、本作でさえも、えみるのキャラやら寺門巻子の存在故に、DVDは買いです。