『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』番外編@イクスピアリ

 前から見ようと思っていながら、期限が迫っている他作を消化するのが精一杯で、延び延びになっていました。行きつけの飲み屋のバイト女子学生にしてクロエ・ファンのおねえちゃんから、「キック・アスは見ましたか」と言われたのをきっかけに、調べてみると、封切から一ヶ月でもう既に都内の上映はすべて終わっていました。関東圏で、千葉二カ所、神奈川一カ所、埼玉一カ所しか残っていません。このうち、埼玉は鴻巣で選択肢から除外で、千葉の蘇我だかも同様です。残るは、桜木町かイクスピアリかしかありません。さらに調べると、桜木町の上映終了時間は11時50分過ぎで、新宿でさえ戻れない可能性の高い時間帯です。それで、実効上唯一の選択肢のイクスピアリに足を運ぶこととなりました。

 京葉線で、渋谷の仕事が終わってからまっすぐ向かいました。月曜日夜9時半からの回です。私は基本的にディズニー嫌いです。作品も好きではありませんし、世界観も好きではありません。いつもへらへら笑っている顔しかないキャラクター設定は基本的に嫌いです。ウルトラマンの顔でさえ、能面を参考にして、場面場面で観る者が表情を解釈できる余地を大きく広げて設定されている発想の方が、数十倍優れていると思っています。ですので、ぬいぐるみなどでも固定した表情(特に笑い一辺倒の表情)のあるものはあまり好きになれません。

 さらにファンタジーの夢の国とか言うのが、私は嫌いです。どこまでファンタジーに染まっていても、必ず夢から醒める時が金の切れ目とともに来ます。それであれば、そんな馬鹿げたぐらいに金のかかる「ハレ」をもとめるより、普段の「ケ」の中に「ハレ」を少しでも見つけられるようになる方が健全ですし、金もかかりません。おかしなものや面白いもの、興味深いものや、人を惹き付けて止まないものは、普通の現実の中に腐るほど存在します。とりあえず、二次元の世界ならまだしも、三次元にわざとらしく作られた張子のファンタジーがあまり好きになれません。

 と言うことで、噂に聞き、仕事の都合で車窓から外塀を眺めることのあったイクスピアリに初めて行きました。舞浜駅のプラットフォームの混雑と、歌舞伎町を午前4時ぐらいに彷徨っている人々の表情に似た、疲弊した表情の人々にうんざりしながら、ライトに煌々と照らされた張子の街に足を踏み入れました。周囲の人の、浮かれているのか疲れているのか、騙されているのかよく分らないような雰囲気にウンザリ来たので、iPodでマリリン・マンソンを大音量で聴きながら、映画館情報にある「舞浜駅より徒歩一分」が明らか誤謬と分かる距離を歩きました。館内の喧しい案内音声とマンソンの呪いの言葉が程よくミックスされます。

 レイトショー扱いなので料金は千円でした。上映終了5日前。一日にたった一回の上映です。上映開始直前にシアターに入ると、広いスペースに20人ほどぱらっと散らばって座っていました。場所柄か若い層が多く、男女は男性がやや多いぐらいの構成比でした。

 飲み屋のバイト女子大生ちゃんの前情報では、それなりに面白く、予告では結構活躍しそうに見えるスターズ・アンド・ストライプス大佐は、意外に早く死んでしまうと、ネタバレ情報も聞いていました。(私はこの手のネタバレを聞いても全然問題ない人間なので、こちらから、どんどん言ってとお願いした結果聞いたのですが…。)久々に見るジム・キャリーはいつ死ぬのかと思いながら見ていて、彼のことだから、それなりに見せ場を作って華々しく終わるのかなどと思っていたら、結構、だらだらと登場した後に、何らの見せ場もなく、あっさり倒され、苦悶の中に足掻いて絶命しました。

 何が面白くないのか面白いのか分かりにくい映画です。ネタバレ情報を聞いたからと言うこと以前に、既に驚きが少なく、印象に残るシーンもあまりありません。クロエ・グレース・モレッツはインタビューで、予算が前作に比べ大きくなって、大作になったと言っていますが、話も、中途半端な学園もの、中途半端なヒーローもの、中途半端な暴力もの、中途半端な恋愛もの、中途半端な…と言う感じのパーツを混ぜてみた感じです。中途半端の掛け算の積は中途半端にしかなりません。おまけに、売りのクロエ・グレース・モレッツ扮するヒット・ガールの戦闘シーンは少なく、あまりエグくもありません。彼女の登場時間の半分ぐらいは、学園ものやら恋愛もの的な展開に使われてしまっていますので、当然の帰結です。エロさを感じるほど成熟していませんが、反面、戦闘シーンが際立つ程に幼くもないので、クロエ・グレース・モレッツ自身の位置づけが中途半端と言えます。

 さらにまずいことに、キック・アスもかなりオタオタすることがなくなり、変にマッチョになっていますし、ヒット・ガールのファーストキスをものにするぐらいの成長ぶりです。これがまた当たり前すぎて面白くないのです。のび太の長期間にわたる成長についての、ドラえもんが全く存在しない物語があって、もし、ジャイアンがかなり狂暴だったら、このようなストーリーになるかもしれません。

 私は同じ素人ヒーローものなら、『キック・アス』よりも『スーパー!』の方が20倍ぐらい好きです。『キック・アス』は“まあ好きだな”と言うレベルの映画と言えます。『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』の印象は、名作『エイリアン』に対する『エイリアン2』のような感じです。『エイリアン2』も悪い映画ではありません。しかし、『エイリアン』の持つ不気味で異様な世界観から染み出るような恐怖感、そして、ストーリー全体に対して湧く不快感や違和感。このようなものが『エイリアン2』では「今度は戦争だ」の掛け声の下に消えてしまい、ただド派手なモンスター映画になってしまっているように思えるのです。

 同様の関係性は『キック・アス』と『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』にも言えるような気がします。ただ、『スーパー!』にも、まして『エイリアン』にも、及ばないレベルの評価のオリジナル作なので、当然、続編の『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』の評価もぎりぎり及第点にしかならないかと言う感じです。

 少ないながらも、ヒット・ガールの戦闘シーンは見せ場として存在し、その一部は、切り抜いて、iPodで繰り返し見る価値は一応ありそうに思えます。ぎりぎり、DVDは買いです。