月曜日の午後早目の回で見てきました。平日なのに、大学生なのかよくわからない若い人々で新宿ピカデリーはごった返していました。封切から二週間少々。まだ一日四回やっていて、真昼間の私が観に行った回でも、シアター前方の明らかに見難い席以外は、ほぼ満席状態になっていました。
いつもの如く、原作を読んでいません。それでも観に行ってみようと思ったのは、水嶋ヒロの存在です。取り敢えず、ネットなどで見て知った、「悪魔で執事」の設定の主人公にぴたっと来る男優は、パンフレットにも執拗に書かれているように、水嶋ヒロしかいないように私にも思えるからです。パンフレットによれば、最初、彼は出演を拒み続け、映画の制作の担当者の一部として主人公のイメージ作りや脚本作りなどに関与していたのですが、やはり最終的には自分で演じることを了承したとあります。役作りもかなりやり込んだと書かれています。
私は、水嶋ヒロのこうした役作りの結果をかなりよく知っていると思っています。私は彼が主人公を務めていたTV番組『仮面ライダーカブト』を毎週、娘と見ていたからです。私は平成仮面ライダーシリーズなどと呼ばれる一連の仮面ライダー番組をあまりよく知りませんでした。それでも、ふと朝起きて娘が見ていた『仮面ライダーカブト』初めて見たときの衝撃はかなり大きかったように記憶します。
敵の設定やクロック・アップと呼ばれる高速運動(つまり、周囲のものがほぼ止まっているような状態になっている)世界観、いちいちボタンを押して所定の手続きを踏まねば放てないライダー・キックに至るまでの戦闘の様式美、昔のイナズマンを想起させる二段変身などなど。設定が非常に面白く、それを映像化した結果も空中に止まった雨粒や桜吹雪の中で戦闘を行なうクロック・アップの世界など、独特の美観を持っていたように思います。しかし、なんと言っても、『仮面ライダーカブト』のドラマ部分の魅力は主人公のオレサマ性格とスタイリッシュな行動です。主人公「天道総司」の「天の道を行き、総てを司る男」の言動は、端的に格好いいのです。
そのキマる男、水嶋ヒロが自らはまり役だと言っている黒執事こと悪魔セバスチャンがどのようなものか見てみたかったのですが、かなり良い線行っている映画です。パンフレットにも書かれている通り、水嶋ヒロの入れ込み度合いは半端ではありません。テーブルナイフを武器に闘うとんでもなく複雑な殺陣も、常に落ち着いた人間離れした口調も、そして、映像中、一度も瞬きしないなど、なりきっているのがよく分かります。よく聞くと、使い分けられているらしい『御意』・『御意に』も、何か、つい、クライアント先でまねして言ってみたくなる誘惑に駆られます。
原作から設定を大きく変えて、大ヒットし、現在第二作も制作中という『テルマエ・ロマエ』も、原作ファンからすると許せない改竄だったと聞きます。この『黒執事』も原作の舞台は中世ヨーロッパと聞きますし、悪魔の契約者も男の子であるようです。その意味では原作を大きく崩した世界観がオリジナルファンには許容できないものである可能性はあるかと思っています。しかし、私には特に違和感が湧かない作品です。謎解きも大したことはありませんし、そこそこリアルなミイラ化していく人々の映像など、黒い部分も多少ありますが、それも大した気になりません。ゴシックっぽい世界からおちゃらけ路線に走って荒唐無稽になる『笑う大天使』などより、私にはずっと楽しめる映画でした。
そして、同じく極端な原作崩しで世の中的には大不評だった『ガッチャマン』にも、この『黒執事』にも登場する剛力彩芽も、私には特に可もなく不可もなくという程度のことでした。変な蝶ネクタイに、黒眼帯、さらにシルクハットの出で立ちも、まあ、こういうものなのだろうぐらいに、一応受け容れられます。寧ろ、過去ある悪女役の優香やメイド姿でガンアクションを披露する山本美月などの快演がとても印象に残りました。山本美月は初めて見ましたが、近日中に公開される出演作『東京難民』も見てみたくなりました。『ガッチャマン』と並べてみるとき、剛力彩芽は、他の女優を引き立てる負の場のような役割を果たすことが得意なのかもと考えさせられます。
水嶋ヒロと山本美月の華麗なアクションが見たくなる可能性は間違いなくあり、iPodに入れておきたくなるような気もするので、一応DVDは買いです。
追記:
原作者の苗字が、「柩(ひつぎ)とも微妙に違い、枢軸国とかの字だよな」と、ずっと読めなかったのですが、今回パンフを見て初めて、「とぼそ(枢)」と読むことを知りました。
追記2:
パンフによると、海外で有名なジャパニメーションを三つあげさせると、「ワンピース」、「ナルト」、「黒執事」なのだそうです。私は7、8年前に米国オレゴン州を尋ねた時に、その手の店を見て、ジャパニメーションの流布に驚いた覚えがありますが、「ブリーチ」も「エヴァ」もある中で、「黒執事」を見た覚えは一切ありません。「黒執事」の知名度が今一つ実感できないままでいます。