『009ノ1 THE END OF THE BEGINNING』

 金曜日の深夜12時過ぎからの回を、バルト9で観てきました。たった84分の短い作品です。封切から約一週間。既にバルト9ではこの深夜の上映が一日でたった一回の上映になっていました。いまいち人気がないのかと思いきや、シアターは小さくても、40人ぐらいは観客が居ました。殆どは私と同じ年齢層と思われる男性で、唯一、カップルで来ていた一人の女性と言う構成です。

 結論から言うと、Vシネマレベルの作品だと思います。タイトルの雰囲気からして、続編が出るのかもしれませんし、出れば観てしまうと思いますが、本作も含めてDVDを買う動機は湧かないと思います。

 私は、オリジナルのコミックが全6巻の分厚い体裁で販売されているのをほぼリアルタイムで買っていた人間です。(『漫画アクション』の連載を読むには、あまりにも幼すぎましたが、コミック全巻も中学入学前後に読んでいたので、かなり背伸び感がある内容です。)その頃のナインワンの印象は強烈で、当時、『デビルマン』のコミックと並ぶほど、心に刺さり、記憶に残る内容でした。かなり、濃いファンだと思います。

 ですので、この映画のタイトルがバルト9で「ゼロゼロクノイチ」と呼ばれているのを聞いただけでも、(実際にタイトル表記の中にも含まれているので、間違ってはいないのですが)ゲンナリきます。オリジナルのタイトルもそうですし、主人公のコードネームも劇中できちんと呼ばれているのですから、「ナインワン」として欲しかったと思います。

 アニメが出た時にも喜んで入手して何度も見ました。一時期はパソコンで画像を取り込んで、携帯の待ち受け画面にしていたこともあります。セックスシーンはほぼありませんが、原作の世界観を見事に再現した秀作アニメだと思います。

 その延長線上にこの映画が位置づけられるかというと、かなり無理があります。それは、この作品の紹介ページなどのサムネイル画像を見るだけでも、十分分かります。まず、ヒロインのイメージが、全くミレーヌ・ホフマンとは違います。ミレーヌはどちらかというと丸顔で、髪型もボブカット風のショートです。敵基地への潜入などのシーン以外は、基本、通常の服装で行動しています。敵基地への潜入の場合なども地味なウェットスーツのようなものを来ているだけです。映画の主人公は、髪はロングで、面長な顔で、おまけに、ビジンダー連想させるような妙な真っ赤なコスチュームをほぼ常時着ています。

 おまけに、このコスチュームがおかしな構造です。下に深紅のレオタードのようなものがあり、その上に袖付きで胸を覆うレザー的な短いベストのようなものがあります。これが、妙に乳房を強調したようなデザインになっています。ミレーヌの体に仕込まれた最大の武器はバストガンという、乳首から発射されるマシンガンで、それは映画でも見せ場として何度か登場します(しかし、ミレーヌの背後からのカットばかりなので、どのように撃っているのか全く分かりません)。原作のミレーヌは服を貫通して容赦なくバンバン発射するのですが、映画では、いちいち、この革ベストと内側のレオタード状のもののファスナーを下して胸を露出させてから撃つので、やたらに非効率です。

 さらに、下半身はもっと機能性が低いように思われます。レオタードはハイレグになっている筈なのですが、太い革ベルトをした超ミニのスカートをやたらにローライズ状態で履いているのです。そのローライズたるや観たこともないレベルで、恥骨の上ぐらいにベルトのバックルが来ています。よくローライズのジーンズは腰で履くと言いますが、腰もかなり太くなってきている所にギリギリで引っかかっているような状態で、とても、激しい戦闘に向いているとは思えません。

 映画を観たら観たで、それ以上に、原作との違いが際立ちます。何か仮面ライダー的な専用バイクを持っていたりしますし、香港映画かと思うほどに、近接のバトルシーンは多いですし、殆ど諜報的な活動をするシーンはありません。さらに、ミレーヌに比べて、意味深な台詞を語ったりしません。ミレーヌは内面での葛藤は色々とありましたが、それを表に出すことは殆どありませんでしたし、善悪関係なく、ミッションを冷徹にこなします。それに対して、映画の主人公は、やけに正義感ぶったことを言ったり、自分の感情に振り回されたりします。

 アンデッドと言われるゾンビ系の兵士が集団で出てきて、ミレーヌ一人と戦うシーンでは、かなりグロい場面が結構用意されています。使用されている血糊の量もかなりのものです。反面ベッドシーンの方は、大まかに観ると二回ほどありますが、どちらも中途半端で、多分、『さよなら渓谷』の真木よう子の方がセックス描写では数倍エロくねっとりしています。これは寧ろ、『片腕マシンガール』などの系統の作品に、エロさをちょっと加味して、コミカルさを引き算したような作品と位置付けるべきなのだと思います。

 海外の作品と比べると、『イーオン・フラックス』や『ウルトラヴァイオレット』の日本版として観ることもできるかもしれません。それらにはベッドシーンがなかったように思いますが、この作品のベッドシーンもあるとは名ばかりのように感じます。前回、劇場で観た『ガッチャマン』同様に、原作とは全く違うものとして観るべき作品です。この映画は、単に多少のモチーフを使っているので、パクったと言われないように原作の名を冠したと言うだけの、全く別作品としてみたら、とてもよくできたVシネ作品として楽しむことができます。

追記:
 映画を観て分かることは、ドスの利いた変な話し方をする杉本彩は論外として、主人公以外の女優陣の方が、ほぼ一様にショートカットでどちらかと言えば丸顔系です。おまけにオリジナルの巨乳のミレーヌほどではないものの、主人公よりもバストが豊満な女優ばかりです。役をシャッフルしたら、もっとオリジナルのミレーヌのイメージに近くなるのではないかと思えてなりません。

追記2:
『ガッチャマン』の鑑賞の際に、上映前の行われるマナーの警告動画ですが、なんと『おしん』の主人公が劇場で『おしん』を観ている設定のものでした。それで後ろから座席を蹴る人物の所に歩み寄って「うしろがら、座席は、けらないでけろ。おねげーするっす」などと言います。そして、マナーの各々を諭しに行くごとに、「おねげーするっす」を連発するのです。この「おねげーするっす」が妙に耳につき、もう一度観たいと思って、期待していましたが、あっさり裏切られました。