『ムービー43』

 前回行ったのが、一体いつだったのかよく思い出せないほどに久しぶりに渋谷の外れにある映画館に行ってみてきました。この映画館のあるビルは以前、ピカソ・ナンチャラと呼ばれていた明治通り沿いのおしゃれなビルですが、今回行ってみると、名称が変わっていました。おまけに副都心線でほぼ目前まで地下道で行けることに驚きました。

 金曜日の夕方の回。仕事終わりで滑り込むには結構無理がありそうな5時少々からの回でしたが、封切後一週間でまだまだ毎日5回の上映が為されている状態です。表示で見ると座席には余裕があると出ていましたが、実際に入ってみると、七割がたは席が埋まっていたように思います。50人ぐらいは観客がいました。老若男女ごちゃ混ぜの客層です。

 私はこの映画や『メリーに首ったけ』などの米国流のセックスネタを下品にまぶしたドタバタギャグ映画が基本的に大嫌いです。最近、日本のAVでも定番化してきてうんざりするフェラチオやイラマチオに、米国人がやたらこだわるのが、まず好きになれない最大の理由です。この性向は宗教観によるものと私は理解していますが、性行為と言えば、性器の結合よりもむしろフェラチオやイラマチオに圧倒的比重が置かれているケースが多く、基本、男の裸を見るのが嫌いで相撲も見ない私からすると、あり得ない性行為観です。アダム徳永などのスローセックス的考え方が好きなので、セックスのプロセスは女性が深い快感を得ることが第一義的であるべきだと一応思っています。その私から見て、フェラチオやイラマチオを男同志でもやりたがるぐらい好きなのに、不思議なことに、クンニリングスは頻度が圧倒的に低いのも、全く共感できない理由です。

 あとは、セックスネタに限らず、また日米、和洋どのような分類にもよらず、何かのグループに属する人々や特定個人を笑い物にするギャグネタが私は大嫌いです。所謂、三大お笑いマスターで言うと、タケシはすごく、タモリは尊敬さえできると思っていますが、さんまは分単位で観ることさえできないぐらい気分が悪くなります。他人をいじらなくては人を笑わせることができない構図は私は嫌悪感が湧きます。大抵の映画で見る米国流セックスギャグはこの手の誰かを笑い物にする形を取ることが多く、うんざりします。この映画でも、『キック・アス』で好演したクロエ・グレース・モリッツが初潮を男どもに大騒ぎされる話が不愉快でした。

 それでも、この映画を見てみようと思った理由は、監督が総勢10名ほどもいると言うオムニバス映画で、名優達が出演しては、全くバカな役を大真面目に演じると言う点でした。見に行ってみて、呆れて、その意味で印象に最も残ったのは、『X?メン』シリーズで好感が持てたハル・ベリーとヒュー・ジャックマンですが、もともとの狙いは、最近全然見かけないナオミ・ワッツです。あとは、ユマ・サーマン、リチャード・ギア、デニス・クエイド辺りが続きます。

 結論から言うと、この中で、ユマ・サーマンは幾つかの映画でコメディエンヌや変な役柄を演じているのを多数知っているので、何だと言うほどのことはありませんでした。しかし、ナオミ・ワッツの、学校に行かせず息子を家で教育することに固執するおかしな母の役は十分見る価値がありました。級友の代わりにチアガール姿で息子と階段ですれ違い、息子が持つ教科書などを叩き落とす意地悪をしたり、息子の部屋に来て、彼女とのファーストキスを経験させるために、母子相姦になだれ込みそうな雰囲気を醸し出しつつ息子にねっとりキスをするなど、なかなかの切れっぷりです。

 私の好きな『ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー』でもコメディエンヌ的な演技はありますが、今回はかなり行っています。親友と言うニコール・キッドマンもかなりふざけた役を平気で引き受けるケースがありますが、その役どころの幅の広さに、ナオミ・ワッツもこの一作で追いついてしまっている感じがします。

 さらに、リチャード・ギアは、iPodにつづく等身大女体モデルのiBabe(つまり、裸体の女性がマネキンのように突っ立っている状態なのが、音楽再生装置と言うことです。)を開発した企業の変人社長で、膣奥に仕込まれた空冷ファンの回転部分に若い男性購入者が(音楽装置としてはそのような操作をする必要が一切ないのに)ペニスを突っ込んで切断されると言うクレームが続出しているのに、抜けた反応しかしない全くおかしな役を飄々と演じています。

 メグ・ライアンと別れてから、憑き物が落ちたように演技の幅が広がっているように見えるデニス・クエイドもこの映画全体の狂言回しの役で、全くくだらない本作の原稿を映画プロデューサーに持ち込んで、映画化を銃を突きつけて迫る、変質的な役柄を全く違和感なく演じています。

 面白いです。しかし、あくまでもこれらの私が結構好きな役者陣がブチ切れた演技をしてくれるという意味においてです。映画ドタバタギャグの在り方は、(予想していた耐えられないほどのひどさではありませんでしたが)全く好感が持てないことに変わりはないので、DVDは全く必要ありません。

 セックスギャグでも、ウィットや婉曲がきっちり効いているウッディ・アレンのものなどは好きなので、何か、後味を直しに、新宿のマンションで彼の作品を見たくなりました。