『フィギュアなあなた』

 全国でもたった五館。関東ではたった一館でしか上映していない映画です。その関東でたった一館の映画館、池袋西口の映画館に足を伸ばしました。先日、『君が愛したラストシーン』を観た映画館ですが、シアターが異なり、シアター単位でなら、初めての場所です。封切から半月以上の月曜日、一日に三回ほどやっている上映ですが、夜8時からの回には、たった15人ほどしか客がいませんでした。観客は、たった一人のかなり肥満気味の中年女性を除いて、中年以上の男性でした。

 ネット上の映画評によれば、封切後一週間ぐらいに、日経の夕刊に映画評が載ったらしく、その後はかなりの混雑であったようです。主演の佐々木心音の生写真を先着何名かにプレゼントするという企画もあったようです。この映画のパンフレットは販売されていませんでしたが、売店には佐々木心音ばかりが写ったこの映画の写真集が売られており、その劇場限定特典として生写真プレゼントが為されていました。当初のプレゼントが観客対象であったのか、私が見たように写真集を買った人が対象だったのかは定かではありません。大抵の観客は佐々木心音のヘアヌード目当てであるというのは、ネットの情報でも、実際の観客層を見ても、想定されることではあります。

 私はこの佐々木心音という女優(?)を全く知りませんでした。ウィキに拠れば、グラビア・アイドルで、2012時点で「いま芸能界で一番エロいカラダ」として、DVDの多くはアマゾン売上ランキング一位になっているということですが、そんなことも全く知りませんでした。観に行ったきっかけは二つほどあって、一つは、この映画館でトレーラーを観たことです。マネキンなのかロボットなのか、サイボーグなのか、よく分らない主人公が空中を舞ったりしながら、ノーパンのセーラー服姿でチンピラと戦うような画像構成でした。夜の繁華街の妖しい灯りが闇に滲んで美しい映像が印象に残り、これをバックに、『お姉チャンバラ THE MOVIE 』や『片腕マシンガール』のような展開があれば言うことなしと期待していました。これら二作は外見上エロ要素を持っているようなのですが、特段主人公がセックスなどの行為をするわけではありません。一方で、DVDで見るメイドロボ系の作品(例えば『メイドロイド VS ホストロイド軍団』など)はセックスを売り物にしていますが、ストーリー設定や画像の美しさ、さらには女優の(当たり前で普通の)演技力が大きく欠落しています。その両方が一応満たされていそうである期待がありました。さらにこの作品を調べてみたところ、監督が、私が結構好きな『天使のはらわた』シリーズや『ヌードの夜』などの監督である石井隆と分かり、もう一つの観に行く動機になりました。

 この二つの理由から観に行った訳ですが、結果は及第点に届かない感じでした。佐々木心音のノーパン、セーラー服姿でのチンピラやらやくざ連中との戦いのシーンにおいては、ロボット的な強さが出ていて、『ターミネーター3』の女性版ターミネーターのように武器をバリバリ出すわけではありませんが、殴っても蹴ってもびくともしないコンバット・シーンが確かに中盤に展開します。また、ロボットなのか、心が宿ったマネキンなのか分かりませんが、フィギュアおたくの家に持ち帰られてからは、ほとんどフルタイムに全裸状態が続きます。その間、人形の演技が続くままで四肢を強張らせたままなので、陰毛を全く隠す様子もありません。(コンバット・シーンも含め、女性器そのものは小さな前バリ的なもので隠している様子に見えます。)

 当初マネキン廃棄場所で山積みの中にあった佐々木心音は瞬きもしない苦労の演技をしていますが、その際は体が物言わぬ人形であったので、女性器を調べられて「穴がない」と言われています。しかし、突如動きだし敵を倒し、おたくの家に来てからは、おむつに排尿もしますし、トイレに座らせるとそこでも排尿します。その後、主人公とセックスも何度もします。どこかの段階から何かのきっかけで、ほぼ人間同様になったということのようですが、それがどのようなものだったのか、明確に分かるつくりにはなっていません。

 いずれにせよ、何かすっきりしない展開が続きます。それもそのはずで、オチとしては、おたく会社員はレズの二人の女性のうちのレスラーのような体型のタチの方に追い詰められ、マネキン捨て場に逃げ込んで艶めかしい佐々木心音を見つける訳ですが、結果的に、佐々木心音が彼を救ってくれたところから幻覚の中の話です。家に一体のマネキンを抱きかかえて持ち帰りますが、その間、ただのマネキンを幻想の中で佐々木心音と認識しています。会社をクビになった彼は、就活にことごとく失敗し、最後に得意と言う麻雀で大勝ちしますが、そこで運を使い果たし、道路で轢死するのです。轢死の間に見る幻想の続きはいよいよ現実の束縛を逃れ、佐々木心音は人間らしくなって歌を歌い、ダンスを踊り、これまでの登場人物たちのすべて祝福されて元おたく会社員と結婚までするのです。
 
 瞬きも堪え、人形に扮して体を強張らせ続け、さらに、人形のままに体をまさぐらせ、性器を弄らせている佐々木心音に一見の価値はありますし、『僕の彼女はサイボーグ』などのこの手のヒロインでは見られないぎこちないサイボーグや人形のセックスも、(特撮もののAVでもない限り)珍しい画像ではあります。そして、多分かなりの特訓を経たのではないかと思われるコンバット・シーンも良いできです。

 ただ、そこで、観るべきものは終わってしまい、主人公の幻想が死の微睡に移るにつれて佐々木心音が人間らしくなると、ただの平凡な「夢オチ」・「死亡オチ」の幻想劇に変わってしまうのです。見どころのシーンの幾つかを入手しておきたいが故に、DVDを買う可能性は多少ありますが、全体で観ると、今一感がぬぐえない作品ではあります。