313 帰らざる日々

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経営コラム SOLID AS FAITH 第313号
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 ご愛読ありがとうございます。第313話をお届けします。

 東京では何となく春の足音が聞こえつつあります。皆様は如何お過ごしでし
ょうか。前号に登場した自称「オタク気質」の若手社長の話は、このコラムの
テイストに慣れている長年の読者の方々にはかなりのインパクトがあったよう
です。「今時期、こんな経営者が存在し続けられることが、一番の驚き」、
「もし、うちの会社の経営に失敗したら、この会社に幹部として入社したい」
などの数々のご感想を頂戴しました。中には、「フィクションもここまで非現
実的だと、学びも読む価値も見当らない」と言うご批判もありました。

 当コラムの内容は、弊社のそれほど多くないクライアント企業が特定できな
い程度に粉飾はされているものの、総て事実に基づくものです。前号の社長の
言動や価値観は、私が認識したままで、かなり事実に忠実です。新規の引き合
いでお訪ねしたことも大きな理由ですが、普段私が接する経営者とは非常に趣
を異にする経営者像が描けたものと思っています。ご関心を賜りました皆様に
御礼を申し上げます。

 PR欄には、株式会社エンタテインメントビジネス総合研究所様から頂戴し
たお仕事で、来月三月に東京と大阪で予定されているセミナーについてのご案
内を入れました。お申し込みなどを弊社で受ける訳ではありませんので、単に
活動報告の域ではありますが、零細組織ならではホスピタリティ型接客の構築
についてご関心のある方には、参考として戴ける内容と考えます。
 
 さて、今回の号は、事前にドラフトを読んだ方々からは「危険過ぎて、社員
には読ませられない内容」との前評判と、前号の予告にも書いた大問題作です。
自律、自責、経営者視点など、色々なことに想いが至り、非常に重たい内容の
号と言われています。皆様はどのようにお感じになりますでしょうか。ご一考
と共に、経営者の方であれば部下や幹部の方々に共有して戴けると何かのお役
に立てるかと存じます。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしております。
頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その313:帰らざる日々

 整形外科の待合室に入ると、「おう」と言って社長が手を挙げている。アポ
を入れようとしたら、「その日は駄目だ。病院で膝に注射をする日だ」と社長
が言うので、いっそと病院の待合室に迎えに行くことにしたのは半月前。「検
査は終わった。後は処置をして貰うだけだ。あんまり待たせないで済むと思う
ぞ。年を取るとあちこちガタが来て、商売にも差し支えるよな」と言う。「年
を取ってからガタが来たんですか。良いですね。私は中学までに法定伝染病を
二つもやっているので、とっくの昔に廃人一歩手前です」と私が応じると、
「笑えんぞ」と社長はぼそりと言った。
 
 笑える筈もない。愛知県のこの地区にある社長の同業の工場群はほぼ全部操
業が停止しているらしい。元請だのその又元請だの、どこの段階で仕事がない
のかもう分からない。空の上の何処かから落ちてくる筈だった仕事が降ってこ
なくなって久しい。社長の工場は、数ヶ月先までは仕事がパンパンに入ってい
る。元請さんとのゴルフや飲み会で耳にした噂に賭けて、僅かに余裕があるう
ちに、無理して購入した設備がモノを言っている。「あれが無かったら、ウチ
も一巻の終わりだった」と社長は溜息をつく。
 
 社員は10人少々。新たな設備を入れたので元々狭い工場が更に狭くなって、
不平を言う者。新たな機械の操作を億劫がる者。変更になった仕事の流れに慣
れず、それを自分達で段取っておけと言うと、勤務時間に収まらないから残業
をつけてくれと言う。今、取れる仕事をどんどん取って付いていかねば、お先
真っ暗の状況が続いているのに、社員は自分の見える範囲でしか仕事をしてい
ないのが、社員と雑談をした際に私にも十分に感じられた。「元請さんに行く
と皆が深夜まで残って機械の整備やら不良対策やら真剣にやっているんだよな。
危機感と言うよりも焦燥に近付いて来たな」と社長は言う。

 待合室には骨折した子供が床に転がってジタバタしながら泣き叫んでいる。
これ以上待たされるのが嫌だと言い、痛くするのは医者がだめだからだと言い、
外に出ると言い、喉が渇いたと言い、行きつけらしいどこかの店の何かを飲ま
なくては死んでしまうと言っている。幼稚園の年長か小学校低学年か。きっと
家では親が医者の評判をああだこうだ言っているのだろう。母親はその子を叱
る訳でもなく、「うんうん。そうしようねぇ」などと、一緒に床に座り込んで
機嫌を取っている。

「『飲まなきゃ死んでしまう』かぁ」と私が苦々しい顔で言うと、社長は乾い
た声で言った。
「市川。いいんじゃないか。矛盾することや理不尽なことをただ大声で言って
いれば、誰かが助けてくれたり認めてくれたりするのは、こんな頃だけだぞ。
残り少ない時間を楽しませてやれよ。早晩、くだらないことを言ったら、あっ
さり捨てられる時が来る。泣き言を言って、何とかなるうちはそうしたら良い
んじゃないか」。

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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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【MSIグループからのPR】

株式会社エンタテインメント総合研究所様のご依頼で、
3月に2回、セミナー講師を務めさせて戴くこととなりました。

題して『中小規模パチンコ店の切り札「カルテ型接客」』。

勿論、パチンコ店経営者や管理者の方々を対象としたセミナーですが、
内容の…
前半第一部は「中小規模だからこそ考える人による差別化」、
後半第二部は「他業界では常識のカルテ型接客」
といった内容ですので、零細店舗の経営全般に十分応用のできる内容です。

● 3月15日(金)午後 大阪 なんば
● 3月18日(月)午後 東京 秋葉原
です。

弊社サイトでも紹介している内容をさらに平易にコンパクトに解説します。

http://www.msi-group.org/MSI-ServiceStoreConcept-Case.htm

ご関心を賜れましたら幸いです。

タイトルや構成、日程などは変更になることがございますので、
詳細の確認などのご質問は、弊社にお寄せ下さい。
 bizcom@msi-group.org
※参加のお申込は、株式会社エンタテインメントビジネス総合研究所様にて。

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
下のアドレスにご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
 bizcom@msi-group.org
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インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
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次号予告:
 第314話 『その人の分け前』 シリーズ『応急処置』(1) (2月25日発行) 
 死すべき技術としての経営を考えるシリーズ『応急処置』。満を持して登場
です。第一弾は「マネージャーは組織本来の役割を果たしていず、組織の欠陥
故に存在する」と言う言説を考えてみます。

(完)