『アメイジング・スパイダーマン』

バルト9の平日の夕方から夜にかけての回を見てきました。公開からちょうど一ヶ月。それでもバルト9では、一日に2D三回・3D三回、合計六回の上映です。この映画の人気の程が窺えます。

バルト9では、「洋画が夏を熱くする」と言う、猛暑と噂される今夏にウンザリしている人々には縁起でもないようなタイトルのキャンペーンが行われているとのことで、既に公開している『ダークナイト』の新作やこのスパイダーマン、さらに公開間近の『アベンジャーズ』・『プロメテウス』・『コロンビアーナ』の五作のうち三作以上を見させるように特別なトレーラーが組まれていました。通常のトレーラーでも今後の公開作は流れているので、折角始まった思わせぶりな『ヱヴァンゲリヲン』新作11月公開のトレーラーも埋没するほどの強烈な露出でした。

ロビーでは各種の販促映像用モニタやタイアップのペプシコーラの画像合成機が設置されて、これまた近日公開予定の『サイボーグ009』劇場版の告知がこれでもかと言うぐらいに実施されています。このシーズンがどれほど映画産業にとって重要であるのかがひしひしと感じられます。

さて、『アメイジング・スパイダーマン』です。あのメガネの重さがウザいので、定番の2Dで見ましたが、シアターの席は8割近く埋まっていて、カップル客がかなりの割合を占めていました。前評判で摩天楼を飛び進むスパイダーマンの画像を指して、「これほど3D表現に適した映画は他にない」と言う話は耳にしていました。取り急ぎ、その評価は認めますが、3Dで見たいとは私は思いません。

私は旧『スパイダーマン』シリーズ三作が結構好きです。かなり悪い評価も聞くキルスティン・ダンストのMJ役も、原作のイメージを踏襲した配役に思えて、好意的に評価しています。特撮も安心して観ていられ、ストーリーも練りこまれていて、流石サム・ライミ思い入れの作品群だと思っています。

その旧『スパイダーマン』シリーズに比べて、今回の作品はリブート版と言う風に呼ばれているとのことですが、色々な意味で原作に忠実であろうとする姿勢が見えます。そのような姿勢が見て取れる最大のポイントは、主人公のピーター・パーカーがパッとしないことです。映画はこのパッとしなさ加減を冗長に描いているように感じます。クモに噛まれて超能力を身に着けた後も、粘つく指でキーボードを押すのに苦心したり、能力を試すのにまずはスケートボードで延々滑ってみたり、地下鉄の中でポールに手がくっついてしまい、ドタバタしているうちにチンピラ的乗客といざこざを起こしたりと、なかなかスパイダーマンの格好になりません。スーツもすぐ縫って作ったりするのではなく、ネットでウェットスーツなどを検索しつくして、やっと製作に漕ぎ着けます。そのスーツ自体も、旧シリーズのコスチュームに比べてまさにゴムっぽい安物感が漂っています。

スパイダーマンになってからも、旧シリーズに比べ、颯爽とビルの谷間を飛んでいくシーンは殆どなく、どちらかと言うとじたばたしながら飛んでいく感じが目立ちます。おまけに、敵のリザードとの戦いでも快勝することは殆どなく、行く手を阻んだり、時間を稼いだりするのが精一杯のような場面ばかりが目立ちます。警官にも追い回され、足を狙撃されてそののちに苦戦することになります。

ヒロインは、格好良いスパイダーマンに憧れて彼女となってから、ピーターとも後で結婚することになるMJと異なり、あまり素晴らしい所のないオタクのはずのピーターに惚れ込む女子グウェン・ステイシーが主人公です。原作を私は読み込んでいませんが、彼女はスパイダーマンの戦いに巻き込まれて死んでいくはずのヒロインです。映画で見る限り、後に戦いに巻き込まれて死んでしまうのであっても疑問が湧かない程に、正体を知ってしまったスパイダーマンに積極的に協力して、危険の中に自ら身を投じています。どちらかと言うと、ピーターをリードする姉さん女房のような状況で、そのような構図からもパッとしない主人公のイメージが強化されています。

正直言って、そのようなパッとしない主人公が超能力を身に着けてもやはりパッとしない物語を、数々のエピソードを重ねて136分もの長さにまとめても、間延び感が強い作品になっていると思えます。物語そのものの面白さと言う観点では、旧シリーズに及びません。ただ、或る種の青春物語としてみると、主人公の上手く行かない人生劇場も悪くはありません。そして、原作のスパイダーマンが、当時のその他のヒーローもののコミックなどに比べて、等身大の高校生の姿を描いていると評判になったポイントそのものをきちんと踏まえているようにも見えます。

サム・ライミ版の旧シリーズも一時期は第四作から第六作まで準備され始めたというニュースも流れ、それがどのようなものなるのか私はかなり期待を膨らませていました。そちらの方が見たいのは事実ですが、全く別の切り口の作品として観る時、この『アメイジング・スパイダーマン』にも十分鑑賞の価値があると思います。DVDは買いです。しかし、場違い感が溢れる日本語テーマ曲が流れるエンディングや、幾つかの蛇足っぽいシーンは飛ばしつつ再生してみることになるのではないかと思います。