294 もどかしい存在

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経営コラム SOLID AS FAITH 第294号
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 ご愛読ありがとうございます。第294話をお届けします。

 中小零細企業の経営支援事業のノウハウをお教えする連続セミナー『超実践
塾』第三期は、とうとう本日夜開催です。皆様から賜ったご関心とご協力に感
謝申し上げます。4月も終わりに近づき、当コラムの号数は徐々に300に近づ
いて行きます。300話記念特別号は鋭意準備中です。ご期待下さい。

 未曾有の大震災から一年少々が経ち、やっと当時書いた原稿が皆様のお手許
に届けられることとなりました。電力の不必要なまでの使用規制が叫ばれ、不
謹慎との謗りを恐れて多くの人々が自分の行動の「自粛」を検討していたこと
と思います。電力周波数が関東とは異なり、節電の必要性が見えない頃から、
浜松市で恒例のお祭りが中止になっているのを見て、唖然としたのを覚えてい
ます。私のクライアント企業も、その当時の基準で考えると、不要不急と考え
られるジャンルの事業に携わっていることが多く、社員のみならず、経営者ま
で何をすべきか決めかねていたように思います。

 そんな当時の状況を思い起こして頂いて、中小零細事業のあり方、不要不急
と勝手にお客様でもない人々から言われる事業のあり方について、ご一緒にひ
と時お考え戴ければ幸いです。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしており
ます。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その294:もどかしい存在

「市川さんは、同業者に会ったこともないとどこかに書いていましたよね。業
種業界が決まっていない今のお仕事はどうやって始まったのですか」。
 新たに勉強会に参加した社員が、私が今まで何度となく尋ねられた質問をし
た。

「済し崩し的独立」と私が呼ぶ独立の経緯に、ゼロから独立をしてゼロから顧
客開拓をするプロセスは含まれていない。後にお客になって下さる人々との邂
逅があって、自分が何とかできるであろう未知の内容を、相応の対価を提示し
て任せて下さるので、有難くお引き受けして、概ね今に至る。ビジネスの方法
論を指定する特定の元請会社も業界団体もない。ビジネスの趨勢を教える業界
紙誌もない。超零細ビジネスとの自覚から、今までお世話になったことのある
零細事業経営者何人かの言動を反芻しつつ、ランチェスターの「弱者の戦略」
を基準に、日々の時間の使い方から、メール発信のタイミングや相手、内容な
ど、総て勝手に判断することになる。

 東日本大震災の翌週、予定されていたアポが幾つもキャンセルになり、放射
性物質が大量に飛散していると皆が外出さえ自粛している中、私にパチンコ業
界との接点を作って下さった企業経営者との情報交換に赴く。パチンコ業界の
被災地での対応に話が及んで、阪神大震災でもパチンコ店の現場管理者が本部
の指示に逆らって店舗を開けたら、高稼働を記録した上に、来店客から感謝さ
れた事例があると、教えて戴いた。

 被災地のラブホテルや多くの水商売などの逡巡についての記事を週刊誌など
でよく見かけた。多くの娯楽施設のみならず、不要不急と言われる商売を自粛
しようとする人々を私も見てきた。普段「お客様に選ばれ、必要とされている
店舗を目指す」などと言っていて、お客様の顔も反応も見ずに店を閉めようと
する。独立や営業には全く適性がないと適性検査で出るのに、お客の依頼に応
じて独立までしてしまっている私には、全く理解できない。
 
 震災後の初夏の日。BtoCの事業者相手に有名コンサルタントのセミナーが
あると誘われて喜び勇んで会場に行った。記号消費の時代にお客様に未知の価
値を提供することの重要性を、執拗に説明するだけの当り前の内容に驚かされ
た。講演の中に被災地の宝石商の話が登場する。不要不急の商品を扱う商売な
ので、店を開けずボランティアに行こうかと悩んだと言う。店を開けたら、以
前からの交際相手の温かな心遣いを震災で実感したという来店客が、結婚指輪
を求めに来て、この宝石商の優れた対応に感激したという話だった。
 
「宝石商でこんなことで悩んでいたら、震災がなくても元々不謹慎と言われる
商売なんか、火炙りモンだろうに。零細商売なんてお客様が総てだから、自社
にお金を払ってくれる人が喜ぶことだけ、法に触れない限り迷いなく粛々と実
行していれば良いだけなのにねぇ」。
 会場からの帰途、セミナーに招いてくれた社長に告げて、にんまりした。
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次号予告:
 第295話 『幸福の保温箱』 (5月10日発行) 
 現場作業が見直され効率化が果たされると、労力が少なくて済むことになり、
職を失う人が発生してしまうことがあります。生産効率が非常に低いと言われ
る海外工場の事例を見て考えたことをまとめてみました。

(完)