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経営コラム SOLID AS FAITH 第280号
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ご愛読ありがとうございます。第280話をお届けします。
9月に二回もある連休の最終日です。私が好きな暑い夏も終わりが見えてき
て、朝夕の涼しさが感じられるようになりました。祝祭日も営業しているクラ
イアント企業が仕事を戴くようになり、私はここ10年近く祝祭日関係なく、仕
事があればすると言う、ケとハレがあまり感じられない生活を続けています。
当コラムでは、過去にもタクシーの運転手との会話を題材にした話が幾つか
あります。代表的なものでは、第59話『よほどのこと』があります。耳が不自
由なタクシーの運転手の仕事に向き合う姿勢について書いたものです。今回の
号は、22年のベテラン運転手の仕事のルールについてまとめたものです。
独立して10年を超えるようになって、私もよく尋ねられる同じ仕事を長く続
ける秘訣。明確な秘訣やコツがある訳ではなく、やはり「仕事についての方針」
のようなものに帰着してしまうように思います。PR欄にて告知している、弊
社の仕事のあり方を教える「超実践塾」のコンテンツもそのような事柄が満載
であることに気付かされます。自分の仕事のルールについてお考え戴く時間を、
ひと時ご用意戴ければ幸いです。本文に対するご意見・ご感想をお待ちしてお
ります。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!
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その280:22年間の18時
横浜の旧繁華街のど真ん中。深夜三時近くに関わらず、風俗系店舗やラブホ
テルなどからの照明が道を明るく照らしていて、路上に屯するその類の人々の
表情まではっきり見える。先程まで封鎖されていた道路には人々が何事もな
かったかのように戻って来ている。その日のその場の状況をよく見ておこうと、
周辺を徘徊すること半時間。
その日、大阪日帰り出張から東京に戻ってきて、九時過ぎに東京駅でPHS
をオンにすると、クライアント企業の店舗が炎上しているとのメールが入って
いた。何をするべきかの算段もなく、何が為しえる訳でもないのに、現場に向
かった。道路を封鎖するテープを持ち上げ、私を見つけた幹部が、鎮火後に煤
けただけでギリギリ体を成している事務所に、どうぞと招き入れた。現場検証
を待たねば原因も特定できない。復旧計画も大まかにしか見えない。そんなこ
とを確認し、当面の作業を分担し、打ち合わせは終了した。求められて意見は
少々述べたものの、惨状に何ができるわけでもなかった。
店舗を出たのは二時過ぎ。周囲を見て廻り、タクシーを拾って帰途に着いた。
「あんな場所から、酔ってもいないで、普通にスーツ着て歩き回っている方は
珍しいですよ。お客さん。今まで仕事だったんですか」と運転手が尋ねる。
状況を掻い摘んで話し、「何ができる訳でもないのは分かっているんですが、
贔屓にして頂いている業者として、見なきゃいけないと思えるものは見、居な
きゃいけないと思える場所には居るようにしなきゃと思っているんですよ」と
呟くように言った。
「お客さん。個人で商売なさってるんですね。そう言う自分の決め事って大事
ですよね。誰かが決めてくれる訳でもないし、誰かが指示してくれる訳でもな
いから、自分でルールを作って決めなきゃ、どんどんおかしくなってしまいま
すよね。私も個人だから、そういう風に思っていますよ。不景気で食っていけ
ないとか言って、仲間はどんどん止めていきました。私は自分が商売に向いて
いないと思っていたんで、五つだけ自分のルールを決めたんですよ。あとは何
も考えないで仕事をすることにしたら、22年も続いています。
賭け事をしないで、水揚げの少ない日に備える。仕事が終わったら、お客さ
んを拾った所を地図につける。仕事始めに昨日の地図を見て、必ず午後六時か
っきりに、車を出す。そして、土日は大雪だろうと何だろうと必ず車を出す。
あとは、客待ちをしないで車を走らせるだけですよ。私は商売の勉強とか全然
したことがないし、そういうのは性にあっていなくてできないんです。けれど
も、お蔭様でこれからもやっていけそうですよ。楽勝で」。
目を輝かせて聴いていた私に、皺だらけになった手でクレジットカードを返
し、運転手は、体に気をつけてお仕事を続けてくださいと丁寧に言った。彼の
肩越しにダッシュボード上の文字の大きなデジタル時計が見えた。
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次号予告:
第281話 『潤沢な模範』 (10月10日発行)
待望のDVDが発売になった映画『冷たい熱帯魚』。埼玉愛犬家殺人事件を
ベースに作られたと言うこの映画に登場する二軒の熱帯魚店。悪徳業者の営業
方法の方がまともに見えることについて考えました。ご期待下さい。
(完)