『ヴァージン・パンク Clockwork Girl』

 驚くべきことに6月27日封切の私にとっては無名のアニメ短編作品がいまだに上映されていることに気づきました。既に封切からまる3ヶ月を経て、10月最初の木曜日の夕方、新宿の靖国通り沿いの地下に入る映画館で17時丁度の回を観て来ました。と言っても、1日1回の上映なので、この回しかありません。

 短編と書きましたが、たった35分しかない作品です。 映画.comの紹介文は以下のようになっています。

[以下引用↓]

「A KITE」「MEZZO FORTE」など唯一無二の世界観で国内外から注目されてきたアニメーション監督・梅津泰臣と「魔法少女まどか☆マギカ」などのアニメーションスタジオ「シャフト」がタッグを組んだ「ヴァージン・パンク」シリーズの第1弾。梅津監督が自ら企画・原作・キャラクターデザインも手がけ、バウンティハンターとして生きる少女の苦悩と、彼女を取り巻く人々が織りなす欲望と混沌をめぐる物語を描く。

西暦2099年。医療用人工人体技術「ソーマディア」の発達により人類はあらゆる怪我や病気を克服したが、その技術を悪用した犯罪も急増していた。そこで政府はバウンティハンター制度を策定し、バウンティハンターに登録した民間人は違法ソーマディア指名手配犯の殺処分が認められ、その代価として多額の懸賞金を受け取れるようになった。児童養護施設で育てられた神永羽舞は、ある事情からバウンティハンターのMr.エレガンスに嫌悪感を抱いたまま成長する。やがてバウンティハンターとなった羽舞の前にMr.エレガンスが現れたことで、彼女の運命は狂いはじめる。

「LUPIN THE IIIRD」シリーズの高橋悠也が脚本を担当。

[以上引用↑]

 私は全くこの作品の予備知識がありませんでした。(鑑賞したからと言って、その後、特段に知識が膨らんだという自覚が湧きません。)以前、『そらのおとしもの』を唐突に観に行くことにした際と同じぐらいの予備知識ゼロ状態です。ただ、封切からとんでもない長い期間に亘って上映されている事実や、上述のような『魔法少女まどか☆マギカ』テイストや『LUPIN THE IIIRD』テイストへの期待から、観てみようと思い立っただけです。

 シニアなどの設定もなく、35分の尺に対して一律1700円の料金は割高に感じますが、さらに驚いたのは、パンフが4000円もすることです。高めの鑑賞料金の2倍以上です。他にも各種グッズがありましたが、映画館のスタッフが「パンフレットもそうですが、グッズ全体に、この作品は料金設定が高めになっていますね」と恐縮したように言っていました。余程のコアな人気があるということなのだと思いますが、現時点で23区内では新宿と池袋の各一館でしか上映していません。関東に拡大してもこの2館しか上映していず、全国でも10館程度の上映館です。スタッフが「グッズが買えるのは本日までです」とロビー全体に案内していたので確認してみると、どうもこの館での上映はこの日が最後と言うことのようでした。

 強気の値付けの割にこの上映館数・上映回数の状態が最初から続いていて今に至るのか、当初はもう少々(例えば、現在の状態の2倍ぐらいは)上映館があったのか、私は全く知りませんが、料金設定と今に至るまでの上映期間から考えて、かなり強気の読みであることが分かります。

 入場特典と思われるイラスト色紙を一枚もらって、シアターに入ると、私以外に多分11人の観客がいました。そのうち女性は4人だったと思います。年齢層は20代ぐらいの若い層から、歩くのも儘ならないような高齢の男性まで、かなり広がっています。特に偏りもなく、30代、40代の観客もいました。観る限り、全員単独客でした。この広い年齢層の客層がこの作品に感じる魅力は何であるのか、結構気にはなります。

 映画.comの紹介文にある通り、物語の設定そのものは、私が好きな『攻殻機動隊』シリーズの義体が世の中に流通している状態と酷似しています。『攻殻機動隊』と異なるのは、『攻殻機動隊』シリーズにおいては、義体化と共に電脳化もかなり進んでいて、一般の人々も完全に生身の人間はかなりの貧困層のみといった状況で、脳が(その手の技術に長けた犯罪者などの手にかかれば)簡単にハッキングされるような状況であるのに対して、この作品ではそのような描写が少なくとも劇中で観た範囲ではなかったように思います。Mr.エレガンスはバウンティハンターの組織のトップですが、カメラアイと彼が呼ぶ片目の機械化以外は全身ナマ身であると語られています。

 義体化が進んだ犯罪者にしても、かなりの極悪犯でさえ、下半身は生身とかで腕に銃器を埋め込んでいるような形態のみの改造に留まっているケースが多いようです。対して、Mr.エレガンス配下のバウンティハンターは最初に登場するマギーちゃんという女性のバウンティハンターもほぼ全身(脳以外)義体ですし、主人公の羽舞も同様です。

 羽舞の場合は、映画.comの紹介文に「ある事情からバウンティハンターのMr.エレガンスに嫌悪感を抱いたまま成長する」とありますが、そんな生易しい関係性ではありません。児童養護施設に羽舞は入っていますが、そこの施設長が実はバウンティハンターに狙われる犯罪者の世を忍ぶ姿であったので、Mr.エレガンスとマギーちゃんが強襲して首を持って帰ります。(どんな義体化をしていても、脳だけは本人と言うことのようなので、頭部を持ちかえるということなのでしょうが、どうも首級を挙げる武士の監修のように感じられてなりません。)結果として施設はなくなってしまい、羽舞は路頭に迷い、10年後、生身のままで、腕の立つバウンティハンターへと成長します。

 Mr.エレガンスはそんな羽舞をスカウトしようとしますが断れ続け、(どうもそのタイミングで羽舞は何者かに狙われていたようですので、それを助けるためという口実もあったかと思いますが、)彼は羽舞を銃殺し、脳だけ取り出して、完全義体へと換装します。脳以外の羽舞の身体は強酸で溶解されたと言われていて、そのシーンの描写まであり、この作品のリアル感の演出の最も強い場面となっています。

 パンフには作画に当たっての細かなマニュアルが監督から用意されていたことが書かれています。例えば、「衣服の素材に関わらず胸の円形カゲは不可とします」などの例を監督が挙げています。同様に「女子キャラのUPは基本、アオリ・レイアウトは、不可とします」もあります。これはアオリにするとキャラクターがかわいく見えないからと説明されています。特に主人公の羽舞は殺害された時点で24歳ですから、脳はそのままに生き残りますが、Mr.エレガンスの趣味でソーマディアは14歳の少女にされています。

 これが外観は幼く可愛い少女なのに、言動は大人と言う、こういったアニメ特有の人気ギャップキャラを生み出しています。例えば、オリジナルTVシリーズのエヴァの綾波レイも一応学校設定上14歳ということになっていますが、恐ろしく死生観が完成していて冷静沈着で、劇場シリーズのウキウキしながら料理に勤しむような綾波レイに魅力を感じることが非常に困難です。こうしたキャラは、現実の学園が舞台では、概ね委員長や生徒会長の役割で登場します。私が比較的好きなキャラで言うと、コミック・アニメの両方が好きな『そらのおとしもの』の生徒会長の五月田根美香子や、コミックで読んで結構楽しめた『めだかボックス』の生徒会長の黒髪めだかなどです。

 それが異世界キャラになると人間の設定限界をいきなり忘れてしまえるので、もっと幅が広がります。(先述の綾波レイも人間ではありませんでしたが…。)私が好きなアニメでは最近第2シーズンのアニメ化が発表された人気アニメ『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』などでは主要異世界女子キャラ3人がほぼほぼ全員、外見と言動、ないしは外見と実年齢に大きなギャップが生じています。その中でも取り分けロゥリィ・マーキュリーは見た目は12~13歳のゴスロリ少女ですが中身は1000歳弱の亜神と言われる神にもうすぐ生まれ変わる存在と言うことになっています。ここ最近ですと、ジャンプで現在連載中の『鵺の陰陽師』では人間の女子も幻妖と呼ばれる非人間である鵺なども見た目とかなりギャップのあるおネエさまキャラが目白押し状態です。そうした観点で見ると、本作の魅力の一つと考えらえるこうしたキャラ設定は、かなり褪色してしまいます。

 物語はそれなりに頷ける面白さですが、絵のタッチ全体で見ると、今時のスタイリッシュなアニメは概ねこんな感じという気もします。さらに前述の通り、物語の舞台となっている社会設定も、それほど印象に残る何かはありませんし、例えば『攻殻機動隊』のような圧倒的なリアル政治劇や組織劇の面白さなども特段ある訳ではありません。面白いですし、たった35分の尺がやはり短過ぎて、もっと話の続きを見せて欲しいと思う間に終わってしまうぐらいですが、だからと言って、とんでもなく印象に残るパンチの効いた何かは存在しません。

 人物、特に羽舞を含む女子のUP描写のタッチが何か以前に観た作品に似ているとずっと考えていて、中盤を越えた辺りで、それがDVDで全巻持っている『女子高生』であることに気がつきました。『女子高生』も本編はギャグタッチもある物語なので、少々絵面が違う気がします。エンディングで丁寧に描写された主人公の女子高生たちのツルテカな顔つきに主人公の見た目が非常に似ているように私には見えました。

 癖になるほどの面白さは感じませんでしたが、秀作であるとは思います。パンフの監督のプロフィールの中には、「国内外でカルト的人気を獲得」とありますし、厚めの装丁のパンフではアニメ制作のマニアックな話やそこに投じられた情熱が窺われるエピソードが満載ですので、コアなファンは間違いなく存在するのでしょう。そしてシアター内で観る限り、その年齢層はかなり広範に広がっているようです。全く完結していない物語で、当然話は今後続けられるという想定と思われますが、次作が出れば観てしまうと思います。DVDは買いです。