『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション』

 久々に訪れたバルト9の15時55分の回を観て来ました。1日2回の上映が為されています。8月1日の封切から1ヶ月と2週間近く経った金曜日ですが、一般的な仕事終わりの時間ではないので、平日のやや空いているパターンが狙えるかとこの時間枠を選びました。

 この作品の上映状況は極めて変則的に感じます。映画の興行ランキングでも、今尚5位ぐらいに食い込んでいる人気作で、封切当初はたくさんある上映館において物凄い上映回数でした。テレビドラマから始まる本シリーズの人気は大人から子供まで幅広く、医療従事者からは最高のエールだと称賛され、医療従事者になろうとしている学生達は自分達の職業選択に確信が生まれ、おまけに、子供達が医療従事者を目指したくなるというぐらいに影響力があると言われています。封切直後1週間から2週間ぐらいは、ネット記事などにもあちこちで開催される関連イベントに出演者達がいちいちリアルに集合している様子が繰り返し紹介されていました。動画やSNS系のプロモーションも異様な規模で、出演者が各々の役で数々のTikTokを挙げているのを、その筋に疎い私でさえ知っています。

 状況は2週間先行して封切られている『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』がやたらの動員を誇っている状態でしたが、重層的なプロモーション展開でこの作品はがっちりTOP3の興行収入を確保しました。(TVerでもテレビシリーズ全話とスペシャル・ドラマが段階的に放送されていました。)

 しかし。6月6日から既に上映されている『国宝』がじわじわと口コミをベースに動員を伸ばし、あれよあれよという間に、実写映画の興行成績ランキングのトップレベルに昇りつめて、映画館も乗り遅れまいと上映回数をどんどん増やしました。

 実際現時点でAIに歴代の劇場興行収入ランキングを邦画について作ってもらうと、実写映画で『国宝』が133.3億円で、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』の173.5億円に次いで2位になっています。(3位が『南極物語』で110.0億円で、4位が『踊る大捜査線 THE MOVIE』です。)テレビ番組の背景がありテレビ制作の人々が作った実写作品ではない、「純粋な邦画」(という風にネット上で表現されていることがあります)という観点で見ると、『国宝』は異例の大ヒット邦画作品であることが分かります。

『…鬼滅の刃…』でさえ、封切当初から数週間にわたって、1日20回と言ったとんでもない回数上映されている状態が大型映画館で展開され続けました。今回の鑑賞当日の段階でもバルト9で8回も上映されています。さらに『国宝』が割り込んで枠を広げ、そこへなぜか地味目のホラーがブームになって来て、『8番出口』が書店やビデオ店・ゲーム店の店頭プロモーションまで広範にやって枠を広げ、この日封切られたばかりの『映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』が瞬間風速ながら12回といった事態になると、ベースの人気がかなり根強くても、本作が映画館で枠を取れなくなってしまいます。

 新宿では歌舞伎町の高額映画館も含めて合計4館で上映されていますが、既に1日2回の上映がこのバルト9と歌舞伎町のゴジラの生首ビルの映画館の2館だけで、残りは1日1回の状態になっています。映画.comに拠れば都内では35館が上映しているようですが、幾つかの映画館の状況を見てみると、やはり、1日1回から2回が圧倒的多数派で、1日3回の館が僅かに見つかる程度です。鳴物入りの人気作ではありますが、先述の通り、上映枠がかなり圧迫されている状況であるのが分かります。

 現実に私はこのバルト9での鑑賞に先立つこと数日、週末に既に2度行った調布の映画館の真昼間の本作の上映に行こうと映画館を訪れたのですが、1日2回の上映は両者満席でした。つまり、需要に対して供給が追い付いていない現象が起きている証左と見ることができそうです。

 私はこの『TOKYO MER 走る緊急救命室』シリーズが結構好きです。元々は、テレビシリーズが放映されて1年ぐらいたったタイミングで、偶然、菜々緒の出ている作品を観たいと思って、検索した際にこのドラマの存在を知り、そこに中条あやみや仲里依紗などの出演も見つけて、では観てみようかとDVDをレンタルしてみたことで、その内容を理解しました。その後、私はシリーズ最高作だと思っているスペシャル・ドラマの『…隅田川ミッション』もDVDで観て、一気にハマりました。テレビシリーズから相も変わらずのご都合主義で、(佐藤栞里演じる主人公の妹の死を重い十字架として演出したことを例外として)死者は一人も出ませんし、努力は必ず報われますし、勧善懲悪ですし、どんなピンチも必ず仲間が駆けつけて来て解決してくれます。ここまで清々しくご都合主義の理想を振り回すドラマはありません。

 それでも、取り分け主演の鈴木亮平の天才的な演技と「目の前の命を救う」というたった一点の価値観で全編を貫き通し、そして(先述の例外を除き)必ず救って見せるという展開が、私も含め多くの鑑賞者の胸を打ったと言われています。現実にテレビドラマ段階から、この価値観が行政や司法の縦割り組織論を毎度打ち壊していき、結果的に TOKYO MER のシンパをどんどん創り上げて行く結果になっています。

 さらに私は楽曲の効果にも心を躍らせるモノが大きいと思っていて、珍しくドラマ鑑賞を終えた段階でサントラを購入しました。流れる楽曲の効果の大きさで言うなら、私の知り得る中では、テレビシリーズのエヴァ並ではないかと思えます。今回の本作の鑑賞時にも、秒を争う手術シーンの畳み掛ける曲が流れている間、ずっと肩に力を入れて、固唾を飲んでいる自分に気づかされました。

 そんな当シリーズの映画化第一弾は劇場鑑賞リストには入りましたが、イマイチ優先順位が低く、結局劇場ではなくDVDで観ることとしました。優先順位が低くなった理由は、その時点で初めて TOKYO MER が主役ではなくなったことが大きいかと思われます。舞台が横浜ランドマークタワーに移り、YOKOHAMA MER が打ち出されていたからです。実際に作品を観てみると、TOKYO MER のメンツは出ずっぱりで、これならもっと優先度を挙げても良かったと思えました。

 しかしもう一点気になっていた主人公の家族ドラマの過度の持ち込みは、ドラマの段階から、妹の死やそれを齎す主人公の過去の因縁や、離婚と元妻の関係など、やや鼻に付くというか、鬱陶しく感じられる部分がありましたが、今回はまさに大炎上して崩壊寸前のランドマークタワーの上階現場に残されたのが、主人公の妻と胎児という組み合わせになってしまっていて、ドラマ性の盛り上げ方向として私が期待するものではなかったように思えます。

 先述の通り、元々の私のこの物語シリーズへの期待が、菜々緒、中条あやみ、仲里依紗によるものだったので、『…隅田川ミッション』に続き、取り分け中条あやみの医師としての成長が描かれている部分がそれなりに多いが故に、まあまあの満足度であったと思っています。

 劇場版第一作に対する私の評価がそのようなものであったのですが、その世の中一般の人気は凄まじいものであったようで、第二作が登場すると、比較的早い段階から告知されていました。そして、私は第二作目はそれがどのような場面のどんな物語構成になっていようとも劇場で観るようにしようと心に決めていたのでした。ところが、初期の告知で分かったのは、舞台が東京から遠く離れた南海であることでした。おまけに、当初発表の主要キャストの中に、菜々緒は存在しますが、中条あやみも仲里依紗も登場しません。今年5月25日段階の『パリピ孔明 THE MOVIE』鑑賞時の感想に…

[以下引用↓]

例えば先述の『TOKYO MER-走る緊急救命室-』の近く公開される予定の映画化第二弾では、先行して配布が始まったチラシの中に私がキャラとして非常に気に入っていた中条あやみ演じる女医が見当たらなくなっていたり、それ以外にも主要キャストの降板が目立っていて驚かされます。どのように辻褄を合わせるのか分かりませんが、第一作の映画化前にできたスペシャル版では、研修医の立場なのに、「TOKYO MERのセカンド・ドクターをやらせてください。今は全然追いつけませんが。必ず私はやり遂げます」ぐらいのことを言っていたのに降板のようです。この時点で、劇場鑑賞は止める判断をするのに十分な情報だと思われます。DVDも要らないかもしれません。

[以上引用↑]

と書いているように、私はこの点に拘っていましたが、それ以降、ジワジワと展開されるプロモーションで、TOKYO MER の面々も登場することが分かり、劇場鑑賞を決めたのでした。

 シアターに入ると、暗くなってからも続々と観客が入り続け、最終的には50人以上の観客がいたと思います。特に多いのが若い女性の2人連れで、ざっくり7組以上は居たと思います。それ以外にも若い男女カップルと言う感じの2人連れも数組居て、これだけで、全体の3分の1以上です。さらに、3人連れもパッと見で2組居ました。年齢構成は圧倒的に若い世代が多く、6割以上が20代以下ではないかと思われます。何が彼らをしてこの映画を見に来させるのかがよく分かりませんでした。(セーラー服姿の2人連れも居ましたから、20代ではなく、さらにその下の10代の層もかなり混じっていたと思われます。こんなに若者に人気がある作品であると想像していなかったので、シアター内の状況には驚かされました。)男女比は概ね女性7割以上で、男性は非常に限られていて、私のようなシニア枠の客は単独客で数人いるかいないかと言った状況でした。

 子供にさえ人気のドラマと聞いてはいましたが、(流石に子連れの観客は見つからなかったものの、)アニメでもなければ、ホラーでもなく、有名な原作がある訳でもなく、ただのテレビドラマから始まった作品に、これほど若年層が自ら観たい映画として映画館に足を運んでいる状況は、繰り返しになりますが驚きです。

 観てみると、冒頭から主人公喜多見と、菜々緒演じる蔵前を引き算した TOKYO MER のメンツが工事現場の事故に出動する場面が登場します。綾瀬はるかと交際と噂のジェシーが新たな新米医師として映画第一弾から加わっていますが、かなり頼れる存在に変わっている様子が描かれています。当然、中条あやみもリーダー格となっていて、登場していてホッとしました。ただ、ほんの僅かな回想のシーン以外に仲里依紗は登場していないようでした。

 離島医療が結構重いテーマとして描かれています。緊急性がなく、寧ろ、島々を船で巡る医療チームの物語という設定になっています。パンフでは医療指導の林医師のコメントで無医村が増加している実態について述べられていて、人口1200人の南大東島に常駐医師ゼロと説明されています。NANKAI MER は、離島医療・地域医療の要にはなりつつあるものの、緊急出動がほぼ全く発生せず、TOKYO MER 以外のMERを管轄する厚労省で半年の試験運用の終了が見えてきた段階で、廃止が検討されているという状況になっています。劇中でも終盤で存続が決定しますが、NANKAI MER のメンバー自身が、「他のMERにない役割がある」と発言していますが、その役割は緊急性とは縁遠いものに見えます。

 劇中では試験運用期間の最後の最後に発生した火山噴火の大災害に対応はしていますから、緊急医療を現場で行なうという場面が当然登場して、MER の物語にはなっているのですが、どうも軸がずれてしまっているように感じられないではありません。それでも、「目の前の命を救う」、「待っているだけでは救えない命がある」のコンセプトは健在で、大ピンチに他の誰かが助けに登場するお約束の展開は何度となく発生して物語を盛り上げています。

 先述の医療指導に当たった林医師はパンフの中で「グッと来て泣いてしまった」場面が2つあると言います。それは「(めるる(生見愛瑠「ぬくみ・める」)演じる看護師の)知花が西部の港から南部に小型フェリー状のNKOを回して溶岩が迫り来て岸壁に追いつめられた島民たちの前に現れるシーンと、最後に屋久島にTO1がC-2輸送機の中から現れ、江口洋介演じる医師の牧志の命を救うシーンで、どちらも大逆転感があると林医師は言います。

 私はこの大逆転のシーン以外にグッと来たシーンがあります。それは重傷で命が危ぶまれる牧志医師が自分への処置よりも島民への処置を優先するように言い、さらに薄れゆく意識の中で、島民たちの持病など処置に必要な情報を的確に喜多見や知花、蔵前らに伝えています。牧志の処置は屋久島に行かなければできないということが分かり、NKOはそこへ向かおうとしますが、定員以上の島民を載せているためスピードが上がりません。その時、いつも世話をしてくれている牧志を救おうと、子供以外の島民たちが無言のうちに次々とライフジャケットを着て海に飛び込んでいくのです。

 当初状況が分からず唖然とする喜多見が、島民たちの意図を知り衝撃を受けているのですが、水温が低く海に飛び込んだ数十人の島民たちを放置する訳にいかないと判断し、「戻ってください」と請いますが、島民は頑として譲りません。「牧志を助けろ」と要求するのでした。ぎりぎりの命の駆け引きの場面です。結局ここでも、東京の対策本部が手配した周辺の島の漁船が大挙して押し寄せ、島民たちを救うことが見えた時点でNKOは屋久島を目指すこととなりました。

 このたくさんの島民の無言の献身は数あるこのシリーズの物語の中で、非常に珍しいものではないかと思えます。劇場版第一弾でも、仲里依紗が一人灼熱地獄に残されている所へ夫である喜多見が戻ってきて、そこで、赤ん坊を帝王切開で取り出して赤ん坊だけ救って逃げるように言う場面などもありますし、それ以前に最初はパニックになって我先にと階下へ降りようとした群衆が、修学旅行生の冷静に負傷者を救おうとする姿を見て、皆で協力し合いながら階段を下りるという展開などもあります。しかし、島民たちが目配せだけで次々と海へ飛び込んでいくシーンは、まるで集団自殺のような異様さで、それが牧志一人を救おうとする彼らの強い意志の表現であることが、見る者の心を揺さぶります。

 パンフを見ると、CGで作った噴火シーンは、日本映画どころか、ハリウッド映画でもあまり見ないほどの規模と精度になっているとのことで、見応えがあります。火山弾が降り注ぎ、庇やNKOの屋根などを突き破る破壊力を描いたシーンは、迫力がありますし、溶岩流が建物を飲みこみ、岸壁に押し寄せて海に流れ落ちるシーンもその途上にある浮き(パンフではブイと書かれています)などを飲みこんでジワジワと流れ落ち、非常にリアルです。

 この映画が封切られる約1ヶ月前に、映画の舞台のトカラ列島でリアルの地震が発生し、島民が近隣の島や九州本島などに避難したと報じられています。映画の封切の延期も検討されたりしたようですし、公開前の挨拶などでは実際の島民の方々にお見舞いを申し上げ、且つ、エールを送るための映画であると、「座長」の鈴木亮平が語っている場面もありました。今回のリアルな災害は群発地震でしたが、溶岩に焼かれるリアルさながらの映像はそんな島民の人々にどのように見えたのかと思いますが、(ポスターまで袋詰めにされてセットされている手の込んだ)パンフは既に印刷済みだったのか、特にそんな言及が見当たりませんでした。

 ちなみにパンフを見ると、わざわざ振り仮名が振ってあるページがあり、NKOは「エヌ・ケー・オー」と書かれています。TOKYO MER の場合にはTK1が手術ができるあの大型車両で、TK2が数人乗りの乗用車、TK3がバイクです。こんな風に数字が振られているのですから、手術用車両である小型トラックNK1(「エヌ・ケー・ワン」)を運ぶ小型フェリーは数字を逆算してNK0(「エヌ・ケー・ゼロ」)になるべきであるように思われますが、なぜかそうなっていません。この変なネーミングも今回登場の乗り物2機がイマイチ好きになれない部分ではあります。(さらに言うと、「K」と「O」は、各々「ケイ」・「オウ」と表記した方が発音に忠実です。何かこういった点も安っちく感じられて仕方がありません。)

 第一弾を上回る大人気とネットで騒がれ、封切時のプロモーション活動の中で座長鈴木亮平が、「何度も繰り返し劇場で観てくれている方もいらっしゃる。10回観たという人からメッセージを戴いたことまである」と発言しているぐらいの大人気です。しかし、私にはシリーズの中で、相対的には最も評価の低い作品に思えました。

 理由は幾つか複合的に存在します。

■パニック映画(ディザスタームービーとパンフでは言われている)の色彩が濃い。
 勿論、TOKYO MER の活躍場面さえあるぐらいですから、医療ドラマであるのは間違いありませんし、このシリーズは病院の中の医療処置や手術場面が殆ど存在しないドラマですから、自然災害が舞台になっていてももちろん不思議ないのですが、どうも、火山噴火のインパクトが強すぎて、パニック映画になってしまっている気がします。例えば、火山噴火のパニック映画はハリウッド作品ではまんまのタイトルの『ボルケーノ』や『ダンテズ・ピーク』があり(、邦画には火山噴火そのものによるパニック映画がパッと思いつきません。)ますが、それらより余程本作の方がパニック映画の様相を呈しているように感じられます。それぐらい島民たちの悲壮感が凄いということかと思われます。

■手術場面が少ない。

 最後に屋久島空港の中でTOKYO MER のメンバーによるTK1での緊迫した手術シーンがありますが、如何せん、NK1が小型で緊迫の手術場面が盛り上がらないように感じられます。先述の通り、離島医療がテーマになっている点が災いして、TOKYO MER テイストをあしらった『Dr.コトー診療所』のように見えるのです。

■島民の尽力が大きい

 これも先述の通りですが、どうも NANKAI MER のチームの活躍が少なく、どちらかというと島民たちの自助(=共助)努力が状況を好転させているシーンが非常に目立ちます。実際の離島の生活はまさにそういうものなのであろうと想像はできますが、この MER のテレビドラマから始まる全エピソードで、救われる側の人々がこれほどの大集団で、且つ、自分達でどんどん協力し合いながら活路を切り開こうとする物語はなかったように思われます。

■喜多見が管理者・監督者になっているのが味気ない。

 喜多見は NANKAI MER 立ち上げの指導医の立場で登場していて、敢えて言うなら管理者的な立ち位置であり、さらに牧志がリーダーとして相応しいかどうかを観察・評価している立場でもあります。なので、自分の判断でバリバリと現場を切り盛りする場面があまりありません。では、牧志がそれをやってくれるかというと、性格的にも(芯は強いという表現はされていますが)鷹揚でキレがある判断や行動をあまりとりません。おまけに緊急出動で人を救うことを期待して志願した他メンバーは常に不満を抱いている上に、島ではグループに分かれて行動する場面ばかりなので、 NANKAI MER はビシッとしたチームワークが後半に至って漸く多少みられる程度です。「空輸」で駆けつけた TOKYO MER の異常なほどに円滑なチーム・オペレーションが際立ちます。

■鹿児島と沖縄の県知事がなんか不甲斐なさすぎる。

 あまり大きなポイントではありませんが、対策本部に居る両知事が厚労省の切れ者で手練れの音羽のやることなすことを受け容れるだけで、本来絶大な権限を持つ都道府県庁知事の立場を全く活かせていません。現実にこういう知事もいるのかもしれませんが、少なくとも私のイメージとは異なります。

■今回の映画から加わったメンツがイマイチパッとしない。

 新メンツは4人いて、江口洋介、高杉真宙、めるる、宮澤エマですが、私はこのうち江口洋介とめるるしか認知できる状態にありませんでした。このうちめるるは今となっては伝説の封印ドラマ『セクシー田中さん』で大活躍していて、初めて認知できるようになりました。キラキラ派遣OLがかなり際立っていました。そのイメージができているせいもあって、火山灰に煤けた薄汚い顔が結構ゲンナリ来ますし、先述のようなくだらない仲間割れのような状況ができている物語展開なども相俟って、どうもめるるがイマイチに見えました。

 江口洋介の方は 公開プロモーション時から冷めていてノリが悪い感じでした。プロデューサーが「江口さんは芯のある人物も、ちょっと軽妙なキャラクターのどちらも演じられる方。牧志は一見頼りなく見えて実は信念があるというところが、イメージにあってぴったりだなと」と評して起用したとパンフに書かれていますが、あまり首肯できません。

 ドラマでは『七人の秘書』や『ネメシス』、映画では『線は、僕を描く』などで確かに芯のある人物と軽妙なキャラクターを混ぜて演技できていますが、それ以外の例えば『るろ剣』シリーズや『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『からかい上手の高木さん』などではどちらかだけを演じているだけです。今回の作品で求められているのは、2つの面がただ混じっているのではなく、ジワリとグラデーションのように移行して行く表現であるように思えますが、それがノリの悪い江口洋介にはできていないように感じられるのです。

 この作品の他の新キャラ3人(めるる、宮澤エマ、高杉真宙)は、MER 一家への参加自体に欣喜雀躍と緊張とがプロモーション活動時のインタビューでも語られていて、それがそのまま立ち上がったばかりの NANKAI MER のぎこちなさの表現に結びついているようには見えますので、余計江口洋介のピンボケ感が悪目立ちします。終盤は意識を失っていくので、キャスティング時に期待された演技があまり求められなくなったのが、救いかもしれません。

 このシリーズの中の他作品に比べると、総じて大スペクタクルを追い求めて、本来のコンセプトの持つ魅力・見せ場をやや損じてしまっているように思える作品です。しかし、それでも、泣かせるところでは泣かされ、固唾を飲ませるところでは飲まされる、よくできた作品で、10回は観たくなくても、少なくとも終わった後すぐに、「また観てみて色々細部が分かったら面白いんだろうな」とは思えました。DVDは買いだと思います。

追記:
 ネットの記述によると9月5日以降の上映だけらしいのですが、後付け映像として劇場版第3作目の超特報が公開されていました。2026年夏公開で、舞台は東京。今度は仲里依紗も出て来そうです。首都直下型地震の物語らしいです。相応の広域で且つあちこちで大量の被災者が発生する事態のようで、道路も寸断されていてTK1の移動も儘ならない様子でした。TOKYO MER 「最後の戦い」との言葉が躍っていましたが、この人気なので、(実写版『キングダム』のように)「終わる終わる詐欺」かもしれません。
(一方で菜々緒が、「この作品の制作は本当に大変で、できれば断りたかった」と繰り返し述べているぐらいなので、第三弾も限界で、それ以降は辛すぎるのかもしれませんが。)

追記2:
 映画館のロビーでまどマギの劇場新作映画『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』のトレーラーを観ました。来年2月に公開される予定のようです。DVDで観て人生の軌道が変わるぐらいの衝撃を受けた作品なので、その作品を是非劇場で観てみたいと思います。