『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』

冷たい雨の降る休日、渋谷とは名ばかりの駅からやたら歩かなくては着かない映画館で見てきました。

最近、『ぴあ』で映画の紹介欄を見ても、ドキュメンタリー映画が多く、先日見た『ソーシャル・ネットワーク』でさえドキュメンタリー色が強い映画です。そのようにカウントすると、本当にドキュメンタリー(系)の映画が増えていて、必然的にその手を映画を見る機会が増えてしまいます。気に入ったテーマのドキュメンタリーは、やはり、アタリが多く、今年第一弾に見た『442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍』に匹敵する面白さの映画でした。DVDが出るなら、間違いなく、全くの迷いなく「買い」です。

私は代々木忠と言う監督の作品を遥か以前、一度レンタルビデオか何かでしか見たことがありませんでした。その時の印象は、他のAVに比して、監督が姿を現さないのに話す声が聞こえる変な映像と言うもので、特に感銘を受けた記憶も何もありません。映画に登場する村西とおるの作品も、「駅弁ファック」が話題になった頃にAVを一本見たことがあるように記憶しますが、こちらは声どころか、監督本人が姿を現して男優も兼ねてしまうと言う展開で、これまた、どうも違和感が湧くだけで、特段気に入ったなどの印象はありませんでした。今回、この映画を見に行ったのは、代々木忠が70を過ぎて尚、月に一本のペースで作品を変わらず撮り続けていて、この映画がその半生を描くと言うこと、一点が理由です。

ヤクザの組長にまでなって、カタギになるにあたって小指をつめたと言う代々木忠が監督デビューしたのは34歳でその現業のキャリアはずいぶん遅く始まっています。時はベータとVHSのビデオ二大方式がしのぎを削っていた頃で、代々木忠本人は29歳で日活の下請けでピンク映画制作に関り始めて、34歳で制作担当でしかないのに『女高生芸者』の唯一の関係者としてわいせつ物頒布罪で逮捕された後のことです。

『女高生芸者』の制作は当然、制作会社全部が関ってきたことですが、ヤクザの経歴と逮捕歴のある代々木忠の存在で裁判が不利になると周囲が危ぶむのを聞き、代々木忠本人が自分で罪をすべて被った結果でした。この時の回想場面で、代々木忠を裁判の場に残し、さっさと会社を畳み飲食店経営に転向した会社社長を、「カタギはせいぜいこんなもんだ」と代々木忠が評している場面が印象的です。

代々木忠は、作品もピンク映画からAV、媒体も映画、ビデオ、DVDに、流通形態も劇場からセルビデオ、そしてレンタル(そして多分、ストリーミング販売)へと、およそ、広い意味でのこの業界の全ての流れの中で、様々な意味でのトップランナーであり、コンスタントなヒットメーカーであり続けました。それは、この映画に登場する、愛染恭子、村西とおる、加藤鷹、高橋がなりと言った面々の存在だけでも、十二分に分かります。

代々木忠は、劇中で「『企画力が凄い』と言われるけど、そんなことはない。全ては巡り合いの産物だ」と語っています。彼は常に(多くは)女性の性の持つ可能性を、その都度、学び、発見し続け、それを画像に記録することに没頭してきたことが、トップランナーであり続けられる最大の理由と分かります。ピンク映画時代に6年に及ぶ裁判を通して、逆に、性を映像化することを自分で考え抜き、前バリ付きのロマンポルノの世界から、愛染恭子を擁して本番の世界を作り上げます。

愛染恭子の当時一本一万円もするセルビデオは売れに売れ、それをビデオデッキメーカーが販促品としてデッキにつけることで、デッキが飛ぶように売れ、VHS陣営の優勢が決まったと述べられています。ビデオデッキメーカーは、一万本単位でソフトを販促用に仕入れたと言いますから、驚きです。映像技術やIT技術の社会浸透の多くの場面には性欲が貢献しているのがここでも分かります。

本番がブームになると、今度は男優なしで、カット割りも台本もない、長回しによって、普通の女性がオナニーをしてみせると言う『ザ・オナニー』を世に送り出します。この時も、代々木忠は、自ら女性にバイブを提示してオナニーを促しますが、当初、驚きながら試してみるという程度であろうと思っていたのが、忘我陶酔の自慰のありように打ちのめされたと言っています。この頃から、代々木忠は、オーガズムの持つ可能性に惹きつけられ、それが催眠エクスタシーシリーズやチャネリングFUCKのシリーズを生み出していきます。一方で、うまく行っていないカップルをAV男優女優のカップルとスワッピングさせて、その様子を作品化するなど、性を通じた人間像の原点を描くことにも執着していきます。

その二本の路線が交わり、代々木忠の作品で、女優は自分を曝け出し、プライドや拘りやコンプレックスから解放された状態でのみ可能な内面からの激しいオーガズムで、深い悦楽と充足が得られると言われるようになります。「女の股ぐらで食わせて貰っている商売。出演したことで、女の子をセックスで幸せになって貰えるようにしなきゃ申し訳ない」と劇中彼は言います。借金の山を作った裁判闘争も、バブル期のサイパンの文化施設建設計画も、結果的に代々木忠を「女性の性の可能性を探求する」求道の道に駆り立てることにつながりました。そして、宮崎勤事件などによるバッシングも、女性の人権運動も、独り、代々木忠だけは女性を原点から幸せにするセックスを脇目も振らず追及しているが故に、彼の制作を留めるに至らなかったように見えます。

劇中に代々木忠の浮気に苦しめられたと証言する夫人が登場し、さらにエンディング近く、愛娘までが登場します。彼女は、中学生の時に父から「セックスして、オーガズムに達する時には、決して目を閉じないで、相手の目をまっすぐに見つめろ。そうすれば、自分のことを本当に大切にしている男かどうか分かる」と教わったと回想します。多重人格の女性をも、オーガズムの深淵で救おうと自分が鬱になりつつも挑み続ける代々木忠。アジアで有数のエリート大学の香港大学での講義まで依頼される代々木忠。

笑福亭鶴瓶が「一本筋が通ったヤクザのような任侠の人。ヨヨチュウには“情”がある。芸の世界でも性の世界でも“情”が通ってないとダメなんだ」と言う人物評がすべてを語っています。田口トモロヲのナレーションがまた一つの大きな魅力で、DVD発売が待ち遠しい作品です。

代々木忠のFANZA動画