1月24日の封切から1週間余り経った2月最初の日曜日。節分に因んでラムちゃんのものよりも数倍大きく尖った角を付けたガールズバーの呼び込み女子たちが居並ぶサンシャイン通りを彼女達や外国人観光客、その他の日本人などを掻き分けるように進み、この作品のシリーズ第一作と同じ池袋の映画館に赴きました。午後9時20分からの回です。
封切後1週間少々にして既に1日1回の上映しかされていません。上映館は極端に限られていて、関東圏ではこの1館だけ。全国でもあとはなぜか長野に1館と大阪に1館だけです。
閑散とした狭いロビー(とも思えないぐらい狭いのですが)で数少ない座席に掛けていると、上映中の作品が終わり、ワラワラと多数の観客が出て来ました。30人以上はいたように思えます。ほぼ全員が20代前半と言う感じで、全体の8割ぐらいがカップル客のように見えました。シアター入口などにも表示されていなかったので、慌ててスマホで調べてみると、その作品は『グランメゾン・パリ』でした。
テレビシリーズの『グランメゾン東京』の人気がそれだけ大きかったのか、それ以前にキムタクの人気なのか、このような若いファン層がガッチリいることに驚かされました。調べてみると確かに映画.comのアクセスランキングでも7位に食い込んでいます。昨年12月30日の封切から正月休みを超えてまるまる1ヶ月以上経っているにも拘らず、池袋だけでも3館で合計1日7回も上映されていることも発見しました。こんな人気の作品であるとは全く知りませんでした。
シアターに入ると、私以外にたった3人しか観客がいませんでした。全員男性の単独客で、50代以上です。60過ぎの私よりも年上のように見える人物が2人いました。かなり高齢でスーツ姿の人物もいて、夜の9時過ぎまでスーツ姿で一般的には定年後の男性が何をしていたのか気になります。(その人物は映画が終わると同時にエンドロールとその後の短いティーザー映像を待てないぐらいのタイミングでシアターを後にしていました。)2月7日には第三作が封切られることになっていて、この日の後は4日(つまり4回)の上映しかないこの第二作ですが、興行収入の稼ぎ時の日曜ですらこの状態では、お寒い状況と言わざるを得ません。第一作が不評であったということかもしれません。
本シリーズは第一作が映画.comのサイトページに77分と書かれていますが、なぜか第二作の本作と第三作のページには尺が書かれていません。劇場の案内では夜9時20分開始の上映が10時50分に終わることになっているので、トレーラーの放映や注意事項説明などを除くと、概ね80分ぐらいの作品であろうと思われます。トレーラー群は第一作の時とまるまる同じだったように記憶します。
この作品を観に行くことにした動機の一番はやはり三作コンプリートを狙った部分が殆どです。先述のようにそのような動機に駆られた人々はあまり多くはなかったようですが、私は結構そう言う映画鑑賞動機が湧くタイプであると自認しています。
第二作の物語は映画.comの紹介文に以下のように説明されています。
「人気インディーズバンドのボーカルが通り魔事件に巻き込まれた。彼のスマホにインストールされた歌詞生成AIが、事件の一部始終を目撃していた。しかし、曲を聞かせて歌詞を生成させることでしか、証言を聞き出すことができない。気持ちがバラバラになってしまったバンドメンバーは、曲づくりを通じて、米子とともに事件の手がかりを追う。」
観てみると、なかなか面白い作品で、私には面白さにおいて第一作を超えているように思えました。第一作は主人公とデジタルツインの書記官との関係性が始まったばかりのぎこちなさやら、主人公が新たな職場への異動とそこに馴染んでいくプロセスを描写するのに尺を取られ、何か話に盛り上がりを欠くように感じられました。今回はそのようなプロセスがないので、尺全部が本筋のAI系サスペンスに全振りと感じられます。映画.comの本作についてのレビューではバンドの曲演奏の場面が徒に長いと言う意見がありましたが、私にはあまりそのように感じられませんでした。
確かに演奏の場面が高頻度で登場し、その場面の中でバンドの過去の黄金期を振り返る展開も多いものの、それらがバンドメンバーの人間関係やバンドメンバーの役割分担などを描写する内容として一応成立しています。また、今回の歌詞作成アプリはインタラクティブなやり取りができないものであることも演奏場面を増やしてしまう要因となっています。先ずインストゥルメンタルを聞かせると、それに合わせた歌詞を表示し返してくるという機能上、アプリから情報を引き出そうとすると、メンバーが自分達の作成中で歌詞のない曲を演奏して聞かせる必要がその都度発生してしまうのです。そうした設定を理解すると、それほどの冗長さという風には感じませんでした。
観る前に本作の紹介文をネットで読んでずっと疑問に思っていたのも、やはりこの部分です。インタラクティブな会話がない以上、どうやって情報をアプリに出せるのかと思ったら、運に任せて、延々と歌詞ナシの未完成の曲をアプリに聞かせるという作業を続けることによってしか、問題の殺人場面を描写した曲が登場することはなかったのでした。
先述の通り、物語は色々な困難を乗り越え、主人公が職場の先輩オッサン検事から嫌がらせをされたりプレッシャーを掛けられたりする中、真実に辿り着くことものですが、バンドのメンバーの無関心や非協力、メンバー間の不仲なども重なって、なかなか真っ直ぐに進みません。まるで、RPGか何かのように、●●を得るには、その前に◆◆を入手しなくてはならず、そのためには▲▲にその方法を聞かねばならない…といったような進み方です。(パンフのもないので)自分の備忘目的も含めざっと書き留めると以下のようになります。
◆通り魔は2人を襲っているがどちらも命を取り留めている。
被害者二人の証言から通り魔は傷害罪はほぼ確定している。
◆同じと考えられる凶器を用い、同様のシチュエーションで、
バンドのボーカルで作詞担当のコアメンバーが刺殺される。
◆しかし2人を刺した通り魔はコアメンバーの殺害は否認する。
※ここでアプリを証人にする必要が出てくる。
◆まずアプリから偶然その場面をえがいた曲が出てくる。
◆しかしその歌詞を浅くしか解釈できず、
裁判で証拠として十分ではないと判断される
◆その後、歌詞解釈でその場に「君」と「あなた」と表現される人物がいて、
僕も含めて3人の人物がいたことに気づく
◆一方で傷害犯は薬物中毒者ばかりを襲っていることが判明する。
◆しかし、殺害されたコアメンバーは薬物をやっていない。
◆歌詞の中の表現から、コアメンバーはもう一人を庇って刺されたことが分かる。
◆さらにコアメンバーはボーナストラックのタイトルをinitialsにしていた。
◆そのボーナストラックの入ったアルバムの曲の頭文字をつなぐと
MorseCodeとなり、モールス符号で何かが今までに記録されていることが分かる。
◆過去にコアメンバーが書いた手書きの歌詞はなぜか1行の文字が上下に乱れている。
その表現を歌詞アプリまでがまねて表示するようになっていて
残されたメンバーがその事実に気付く。
◆過去の歌詞を書いたノートは棺に入れられて焼失してしまっていたが、
以前の女性メンバーがそれを打ちこむことをしていて、
彼女のスマホにノートの写真を撮ってあったことが分かる。
◆彼女に会いに行くが協力を拒まれる。
しかし説得の後、バンド関係者として最後の協力として
画像が提供される。
◆文字の乱れをモールス符号におきかえて
(上下のうち上にぶれた文字は短音、下の位置にあるのは長音)
過去の歌詞の手書きメモを読むと、
バンドを中傷していたSNSアカウントがドラマーによるものだと記録していたり
マネージャーの女性がそのアカウントからの
膨大な数の誹謗中傷コメントの削除を重ねて精神を病み
薬物中毒になったことが判明する。
コアメンバーはバンドの運営を優先して言えないことを
メモの中に隠していたということ。
◆コアメンバーは薬物中毒のマネージャーとその問題を話した後、
通り魔に襲われ、マネージャーを庇って刺されて死に
マネージャーはそれをひた隠しにしていたことが判明した。
◆その結果、通り魔は殺人の罪にも問われることになった。
なぜこのコアメンバーはこんな七面倒な謎解きを仕掛けた上で、偶然通り魔に襲われて(正確に言うと同行者が通り魔に襲われたのを庇って)殺されることになったのかなど、少々物語に無理があるように思います。ドラマの『ラストマン-全盲の捜査官-』でも唐突にモールス符号が登場することがありましたが、それを理解できる刑事が物語中に少なくとも二人(=主人公達)いきなり登場して意思疎通を行なっています。実際の警察官がどの程度の割合でモールス符号を理解できるのか分かりませんが、刑事と言う職業柄、まあ、そうなのかと理解できます。(同じ回の中にハンカチに殴り書きされた筆記体の英文を一目ですらすら読み解き翻訳する刑事も登場します。)
しかし今回は(前歴・前職が何なのか分かりませんが)バンドのボーカルがなぜ自分の不満や言えない事柄を譜面にモールス符号で秘密裏に記録しておくことになったのか、相応の不自然感がある物語設定ではあります。
(少なくとも私の周囲にモールス符号を使いこなせる人物を過去20年間で一人も認知したことがありません。私自身は小学校低学年の頃、ほんの短期間入っていたカブスカウトで確か「モールス符号を覚えてみよう」的な資料を渡されたような記憶がありますが、全く身につけることなく終わっています。同時に手旗信号も覚えるよう勧められたような記憶があります。勿論こちらも全くモノになっていません。)
そうした面倒くささはあるものの、それも数歩譲って、謎解きを盛り上げるための設定と解釈すると、先述の通り、それなりによくできた短編の佳作だと思えました。今回はスマホの中の歌詞生成アプリなので、前回の人格を持ったアプリがバリバリ会話をこなす近未来感が殆どなく、可能性としては今でもありそうな事件に見えなくもありません。そういう観点で、前作にも増してリアル感が増したともいえるように思います。
前作ではアプリの殺人(ないしは自殺幇助)罪を問おうとして失敗した主人公が、先輩なのか上司なのか微妙に分からない男性中年検事からハラスメントギリギリ手前ぐらいの嫌がらせを受け続けていますが、漸く本作で一矢報いた感じです。少なくとも私は第一作よりも楽しむことができました。DVDは出るならまあまあ買いと言う感じです。
追記:
エンドロール後の予告的なティーザー映像で、前作鑑賞時に謎に感じていたAIに下す罰がのありかたが分かりました。第一作の着せ替えアプリは着せ替えの本人像を完全に失って錐体の映像しか出せなくなっていたのです。この着せ替えアプリは使用者のデジタルツインで使用者の死亡後に自分がオリジナルになったと自覚していた訳ですので、そのアイデンティティを奪って、新たな活動の場も与えられないスタンド・アローン状態で保存されていたようです。
罰の与え方の一形態は分かりましたが、他の多種多様なアプリでも同様なことが罰になるとは思えませんので、対象のアプリ各々に対して有効性のある罰をいちいち案出して課すということなのかもしれません。