以前、ブラック会社がどうしたとか言う映画を観た有楽町の映画館で平日の夜に見てきました。小さな館内に20人ぐらいは人がいました。
この映画を見に行ったたった一つの強力な理由は、永作博美が主演で出ていることです。その意味では大正解でした。益岡徹演じる脇役俳優の主人公がぎこちない恋に落ちて行く新進女優役の永作博美は、可愛らしさ大炸裂です。監督側も十分心得ていらっしゃるのか、永作博美のアップがやたらに多いこと多いこと。
『蛇のひと』の永作博美は、お局OL風のメイクなのか減量結果なのか、やたら頬がこけていて、最近はこんなに痩せてしまったのかと思って心配していたのですが、やはり、あれは役作りだったようです。今回は以前の通りのふっくら顔の年齢不詳の可愛らしさ全開です。年齢不詳は、本当は何歳なのだろうと、パンフを見てみたら、なんと先月10月で40歳でした。到底、そのようには見えません。恐るべき若さです。
私は、25から28までの約二年半、アメリカに留学していて、交際していた20歳の白人女性が、家族から「よりによって中学生に手をつけるなんて」のように言われて、私の方が驚いたことがあります。多分、永作博美が今の時点でアメリカに行ったら、女子中学生ぐらいにしか見えないのではないかと思います。実際、数年前、テレビのトーク番組に出ていた永作博美が、「30過ぎて女子高生の役が回ってくるし、実際にできるって女優はあんまりいないと思いますよ」と苦笑しながらいっていたように思います。むべなるかなです。
永作博美以外にも、名演技が光る人々がこれほどに続出する映画はなかなか珍しいのではないかと思います。主人公以上に目立ち、愛すべきキャラクターで、生き様も格好よく、常に微笑ませてくれる津川雅彦演じる父やら、渋くて苦労人っぽいマネージャーをごく自然に演じる佐藤蛾次郎やら、あちこちの場面に登場するホームレス役なのに、全く台詞がない柄本明やら、飽きさせません。さらに、『非女子図鑑』で温泉好きの女を怪演していて、最近は(残念ながら見ていませんが)『ユリ子のアロマ』で匂いフェチの主人公をきっちり演じた江口のりこがチョイ役のくせに妙に存在感を放っています。あとは、最近、うちの母がDVDを欲しがったので、一緒に見た『ぷりてぃ・ウーマン』のイーデス・ハンソンも、楽しい役どころです。やたら太ってから、あまり好きではなくなりましたが、松阪慶子も安心してみていられます。
これほど、すごい役者陣の映画なのですが、どうにも好きになれないのはストーリー展開と演出です。コメディ、喜劇と言う位置づけで、作品中でも何度も言及されるウッディ・アレンのコメディが意識されているようにも感じるのですが、どうも、笑える所がないのです。ほほえましい物語であるのは間違いないのですが、脇役の主人公が人生の主役は自分であることを見出す物語と言うストーリーが全く刺さってこないのです。
脇役が板につきすぎていて、どこにいても、周囲に勘違いされる人(例えば、店舗の前で倒れた自転車を善意で直していると、店舗の人間に間違えられてセールの日を尋ねられたり、劇場のロビーで立っていると、係員だと思われて迷子の子供を預けられるなどです)と言う設定も、登場人物のそれぞれ(特にイーデス・ハンソン)が微妙な偶然が重なって、相互に接触を繰り返すうちに、ストーリーが収束していく流れなどを始め、随所の細かな演出も明らかに非現実的です。非現実的であることは全然悪くないのですが、非現実的な割には、それがおかしいなり、悲しいなり、悲喜こもごもなり、何かを明確に表現する題材として、そのようになっていて欲しいのですが、どうもその明確な何かが見つかりません。
さらに、主人公の益岡徹は、まさに脇役が板についているのか、全然目立ちません。まわりについ目が行ってしまう俳優陣がやたらにいるからかもしれませんし、(その意味からするととんでもない名脇役なのかもしれませんが、)どうも、あまりにも冴えないのです。あまりにも冴えなくて、この主人公の苦悩の元が何であり、何に拘泥して意固地になっているのかもよく分かりません。永作博美をいつの時点から恋焦がれるようになったのかもよく分かりません。ふと気付くと、知り合って間もない永作博美を「あや」と呼び捨てにするようになっていますし、大体にして、彼が最初になぜ永作博美を父が入院する病院まで引きずり込んだのかもよく分かりません。主人公の言動や心情描写がいまいちで、どうもストーリーのメリハリどころか、ストーリーそのものに判然としない部分が私に多いように思えました。
よく分からないストーリーです。喜劇と言う割には、幸せ感も盛り上がりも、こみ上げるものも、殆どありません。しかし、永作博美が出演するPVか何かだと思ってみたら、魅力は余りあります。DVDは買ってしまうことでしょう。しかし、多分、じっくり見なおすことはなく、BGVとしての利用が精一杯かもしれません。