『ソルト』

待望の『トルソ』を見たので、「『ソルト』のことを言っているのか」と尋ねてきた数々の人々の期待に応えて(?)『ソルト』も見てみることにしました。当り前のことですが、『トルソ』とは、何の関係もありません。

新宿ピカデリーの零時近くに終わる回は、それなりの人の入りでした。僅か1時間40分しかない、アンジェリーナ・ジョリーの新作です。

見終わって、「え、何これ」と言うような、放り出されたような感覚を覚えました。驚いたことに、どうも、この『ソルト』は、連作ものの第一弾だったようです。予告でも雑誌記事などでも、そのようなことに一切気づいていなかったので(書かれていなかった可能性が高いように思いますが)、その中途半端な終わり方に、あっけに取られました。

「ソルト」と言う変な名字の主人公は、二重スパイです。それも、ロシア側からのアメリカ合衆国を崩壊させるとんでもない大規模な“攻撃”を行なうために、十年以上の以前から、仕込まれている工作員中の工作員というような存在です。ところが、この工作員の女性が、最初はスパイ活動の一環で近づいた一般人の男性と恋に落ち、結婚生活までも送ることになります。それで、十年以上の時を経て、“攻撃”の日が訪れた時に、彼女の(組織側から見てその時点では不確かな)裏切りが、計画の邪魔にならないように、夫は人質に取られ、結果的に彼女の眼前で銃殺されてしまいます。

この仕組まれていた“攻撃”の計画は、なかなか凄いものです。
●訪米中のロシア大統領をロシア側工作員が暗殺し、米露関係を急激に悪化させる。
●核発射の用意をする米大統領を暗殺する。
●核発射の照準をイスラム圏に変更し、イスラム諸国との全面戦争にも突入させる。

といったものです。

どうも、ソルトは、愛ゆえにこんな計画に加担するのは止めようと思うだけでなく、愛する人との生活を守るためにも、この計画を妨害して中止させようと、もともと思っていた様子です。で、計画の妨害には一応成功しますが、最愛の夫を殺されてしまうことになります。

愛ゆえに使命を捨て、愛ゆえに組織を裏切り、愛ゆえに組織と敵対することを選ぶ、そんな典型的「血迷った天才的裏切り者」のストーリーが展開します。展開するのですが、TVアニメの『デビルマン』から始まり、新しくは(マット・デイモンがあまり好きではないので、偶然国際線の飛行機で一時間少々垣間見たことがあるだけの)『ボーン…』シリーズなど非常によくある話です。一応、あまり例がないという観点でみると、主人公が女性と言うことかもしれませんが、敢えて言うと、それだけです。

追跡劇、徒手空拳のような胸のすく反撃、組織側の狼狽などと言った典型的場面の演出には、『ボーン…』シリーズより少々劣るかと言ったぐらいの魅力が一応あります。『トゥームレイダー』や『ウォンテッド』に比べると、人間臭い戦いを展開するアンジェリーナ・ジョリーに好感が持てる人もいるのではないかと思いますが、それでも尚、「まあ、それだけだよなぁ」と思える程度です。

見ているときはそれなりに楽しめますが、あまりにも当たり前の展開に、見終わって記憶に蘇るような場面がありませんでした。ソルトの感情描写が全くもって浅いことであるのかもしれません。何が原因であるのかさえよく分かりませんが、何にせよ、印象の薄い作品です。おまけに、こんな調子の一本目は短い時間でやめておいて、二本目に引っ張るのかと思うと、ゲンナリします。DVDを入手することも、レンタルすることさえ、ないと思います。

追記:
『ディファイアンス』や『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』に出ていた兄貴役の好きな男優がまたここにも登場し、結構いい演技を見せていました。劇中、彼も二重スパイで、ロシアのそのスパイ組織は同志をシスターだのブラザーだの呼び合っています。これほど兄貴役にこだわる男優も珍しいものと思います。